演奏

TEXT:鈴木亮介

下町発・日本を代表するギタリスト、白井良明が音楽活動45周年を迎えた。記者は5年前・2013年に行われた40周年記念公演『白井良明 40th Anniversary portrait of a legend 2013 -with ramen-』を取材しているが、世代やジャンルを超えてたくさんの仲間・ファンと一つになった”ワッホッホ!”の大合唱は今でも鮮明に記憶している。あれから5年が経ち、白井良明の周りには若き音楽仲間がさらに増え、for instanceとして新作を発表するなど精力的に活動を続けている。
 
『白井良明 40th&45th 記念 ”良明Wアニヴァーサリー〆升” ~隅田川・打ち出でて見れば半世紀-5~』会場に選ばれたのは新春浅草歌舞伎の舞台としてもお馴染みの台東区立浅草公会堂だ。自身の生まれ育った下町を舞台とし、さらにはムーンライダーズメンバーも久々にステージに揃うということで注目が集まった。

大きな松を背景に、木目が美しい檜舞台。そこにドラムセットが二組設置されていて、期待値は上がる一方だ。一階席には濃紺の法被姿のファンが続々と入場。法被は今回のグッズなのだが、紺色ということも相まって、客席がスタッフ感に包まれる。祭りの日の朝の空気、使命感に燃える男女が法被に袖を通したときの、あのキリッとした空気だ。
 
そして午後五時半を回り、開演のブザーが鳴ると拍手が起こる。暫しの間を置いて拍手が鳴りやむと、一階席の後方から甚句のような声と鈴の音が。木遣りの練り歩きだ。その真ん中には、黄色のテンガロンハットに法被姿の出で立ちをした本日の主役、白井良明の姿が。ゆっくりと舞台に登ると、バンドメンバーも両脇から登場。軽快なピアノから1曲目「Of 8 Minutes 7」がスタート。両サイドのシンバルが軽快に跳ねると、鍵盤の奏でるメインフレーズを白井良明のギターもなぞる。ボーカルはなく、音と音との共鳴、連鎖が楽しいインスト曲。ツインドラムならではの自由さがあり、だからこそ全ての音が揃ったジャーン!が潔い。演奏が終わると白井良明はメンバー一人一人に目を合わせ、サムズアップしてみせる。
 
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このバンドメンバーは2017年秋に結成したfor instanceだ。バンドメンバーはオータコージ(Drums)、柏倉隆史(Drums)、雲丹亀卓人(Bass)、コイチ(Keyboard)、そして白井良明(Guitar & Vocal)という編成。続く2曲目「float’in 40」はダウンタウンのこじゃれたバーよろしく静かなピアノから入る、ジャジー&ブルージーな曲。だんだん速くなるスピードに乗せて、楽器が隙間を埋め、白井良明のリリックが踊る。
 
続いて、”ブルースの基本であるコール&レスポンス”を1000人以上が入る浅草公会堂でも実践!「ここで騒いでください。僕らの演奏に感動した人も、ワオ!とデカい声を出してください」と促し、5人の演奏がピークに達したところで「WAO!」の合唱。これぞライブの醍醐味だ。さらに、この大人数の中から誰かが「WAO!」の後に「1,2,3,4!」のカウントをして演奏再開…を繰り返していく。
 
4曲目「き・つ・ね」も自由を感じるインスト曲。そして最後「intonation 2」では軽快なキーボードの音に合わせて手拍子が起こる。ツインドラムの迫力に、ベースも安定のうねり。宇宙船が進むように、あるいは小型の飛行機か、グングン前に進むインスト曲で一部の幕を閉じた。
 
Photo暫しの休憩中、館内のBGMはすかんちの「恋のマジックポーション」など白井良明プロデュース楽曲が流される。そして、歌舞伎を思わせる萌黄色・柿色・黒色の定式幕が横に開き、二部の開幕。アコギが静かに音を発する。ステージに立つのは斉藤哲夫白井良明だ。「僕の出身はフォーク」と白井良明が語る理由は、立教大学在学中に斉藤哲夫のツアーやレコーディングでサポートし、ギターを弾き続けたこと。2015年に行われた斉藤哲夫45周年記念ライブにはもちろん白井良明も出演しており、3年の時を経て再び祝宴が実現した。
 
息ぴったりの2本のギターで「もう一つの世界」を披露。演奏が終わると斉藤哲夫が一言「生きてて良かったですよ」。続いてもう1曲、「あなたの船」を披露。ブランケットのように優しく包み込む、歌声がホールに染み入る。40年以上の時を重ねて、丁寧に編み込まれた歌声には説得力がある。いつまでも揺れていたい。
 
「徐々に徐々に、人が増えていきます」との宣言通り、ステージには夏秋文尚(Drums)と鈴木博文(Bass & Vocal)が登場。2016年、突如として始動した実験ユニット・ARTPORT PROJECTだ。故・かしぶち哲郎(Drums)と鈴木博文、そして白井良明というムーンライダーズメンバーによるライブ空間における”インスタレーション”を是とし、様々な化学反応を起こしてきたARTPORTが復活!
 
Photo夏秋文尚のドラムが乾いた土に落とされた滴のようにじわーと広がる。その上を、白井良明のギターが夕暮れのような切ない音を奏でる。鈴木博文のベースも織り重なる。そして2人のボーカル「Broken Days~」が深みのあるハーモニーを奏でる。ARTPORT PROJECTの実験室は、1曲だけでは物足りないほどだ。
 
豪華な宴は続く。「1,2,3,4!」4カウントに続いて陽のパワー全開のイントロが奏でられる。「ガカンとリョーメイだ!」高らかに宣言されると、曲のテンポに合わせて一歩一歩、行進するように、踊るように体を揺らせながら武川雅寛(Violin & Trumpet)が登場!跳ねるように軽快に、バイオリンを奏でる。観客も一緒に手拍子で囃す(はやす)。一歩一歩、熱量を込めて足踏みをしながら奏でる白井良明武川雅寛。2人が選んだのはアイルランドの伝統と普遍的なポップスを融合させたThe Corrsの「Toss the Feathers」だ。本家同様の”絆”を感じるステージになる。
 
さらに舞台は豪華に。鈴木慶一(Guitar & Vocal)、岡田徹(Keyboard & Vocal)が登場し、白井良明が客席に向かって宣誓。「We are, moonriders !!」温かい拍手の噴水が上がる。
 
Photoステージに6人揃っての1曲目は鈴木慶一ボーカルによる「グルーピーに気を付けろ」。1979年リリースの4thアルバム『MODERN MUSIC』に収録された鈴木博文作詞、岡田徹作曲のナンバー。続く「インテリア」は1980年リリースの5thアルバム『カメラ=万年筆』収録曲。「Yeah Yeah, WOW を一緒に…」と促し、舞台と客席が一つになると、今度は洒落たピアノに快晴ブルーを思わせる突き抜けるトランペットの音色。白井良明にとっては「この曲で、ムーンライダーズの一員になれたと感じた」という、1982年リリースの6thアルバム『青空百景』収録の「青空のマリー」だ。アルバム発売順に1曲ずつ、歴史の階段をもう一度のぼるように進む舞台。余計な言葉の脚色は要らない、心地よい音の融和。不思議だ、円熟という言葉には当てはまらない、若くも老いてもいない、時空を超えたムーンライダーズの”現在進行形”をひしひしと耳で感じる。
 
「今さらこんな歌、歌えないと思ったら歌えた!」「デジタル配信を始めました!」…40周年を迎えたムーンライダーズ、MCではそれぞれのメンバーの近況が語られるが、今なお最前線で新しい価値観を創造し続けている様が、飄々と語られているのは、よくよく思い返すとすごいことだ。
 
一息ついたら再び演奏再開。鈴木慶一白井良明の歌の掛け合いに、リズム隊、鍵盤、弦楽器のそれぞれ個性がちりばめられた、エバーグリーンな「ヴィデオ・ボーイ」。続いても鈴木慶一作の1996年リリース15thアルバム『Bizarre Music For You』収録の「BEATITUDE」。表題の通り、皆で肩を組んで揺れるような至福の曲だ。間奏では白井良明が舞台前方にせり出して、ギターソロ!その様はギター番長(ばんちょ)、というか限りなくピュアなギター少年そのものだ。そこに鈴木慶一も加わり、六弦疾走!向き合って、幸せな春風が吹く。バイオリンとピアノは隅田川沿いに咲く桜の花びらよろしく、ひらひら舞い散り、きらきら水面を飾る。
 
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幸せな春風はそのままに、ここにいる誰もが待っていたあのリズム、あのイントロへとつながる。「さあ!この曲はあと…何回みんなの前でやれるか?何回だ?何回だ!千回か?オッケー、トンピクレンッ子~!」白井良明の4カウントに続いて馴染みのギターフレーズ!ワホホ! 45周年&40周年は最後まで白井良明の人柄そのままに、仲間で楽しくワホホな舞台となった。
 
アンコールでは伸びやかなサウンドでの「Sweet Bitter Candy」、そしてくじらさん(武川雅寛)のトランペットが静寂を切り裂くと、それは大歓声へと変わる。先に旅立った盟友・かしぶち哲郎に向けた「スカーレットの誓い」。最後まで明るくムーンライダーズの舞台が終わると、一人残る白井良明がこう切り出す。「向島で生まれ育ったボクにとって、浅草は誘惑の場所だったんです。浅草に出て、ここから東京中で仕事をするようになり、日本中に行くようになり、世界中に…ここは魔界の入り口?」
 
そして「このバンドでフェスに出たい」というfor instanceのメンバー、音楽活動の原点となった斉藤哲夫を再び紹介すると、最後は「60歳になった時に作った曲」という「愛の仕事”musician”」を一人弾き語る。明るく優しく、仕事の姿勢そのままにたっぷりの大きな愛で会場を包み込む。そして、再び木遣りの行列に囲まれて舞台を後にした。

「Are you all right? ムーンライダーズは好きですか?」…本編最後、「トンピクレンッ子」の終盤で、白井良明は客席にこう問いかけていた。目に見える形なんてない、次なんて保証もない、儚い仕事。それを半世紀-5年も続けている白井良明に改めて驚くとともに、常に前衛的で実験的であり続けるfor instanceARTPORT PROJECT、そして転がる石であり続けるムーンライダーズの舞台を見て、勇気をもらうことができた。健やかに、前向きで行こう。その原動力となるのは愛。音楽の持つ力の原点がここにある。
 

◆セットリスト
-1部-
M01. Of 8 Minutes 7
M02. float’in 40
M03. Quiet Funk(interactive)
M04. き・つ・ね
M05. intonation 2
-2部-
M06. もう一つの世界
M07. あなたの船
M08. Broken Days(ballad)
M09. Toss The Feathers
M10. グルーピーに気を付けろ
M11. インテリア
M12. 青空のマリー
M13. ヴィデオ・ボーイ
M14. BEATITUDE
M15. トンピクレンッ子
-encore-
M16. Sweet Bitter Candy
M17. スカーレットの誓い
M18. 愛の仕事”musician”
本記事の写真はオフィシャル提供によるものです。photo by 浜野カズシ
 
◆白井良明 公式サイト
http://tonpi.net/
 
◆インフォメーション
最新作『for instance』
・2017年12月13日(水)発売
VSCD3215 ¥2,800+税

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