演奏

TEXT & PHOTO:鈴木亮介

日本のロック・シーンを代表するギタリストの一人で、1975年のムーンライダーズ加入以来、楽曲制作や演奏はもちろんのことプロデューサーとしても活躍を続け、今年もあがた森魚の40周年記念アルバムのプロデュースやツアーなどで精力的に活動している白井良明。1972年のはちみつぱい結成からムーンライダーズを経て、ヴァイオリンの名手としてジャンルを問わず様々なレコーディングやライブにおいて欠かせない存在である武川雅寛。そんな二人のロック音楽家が結成したユニットがガカンとリョウメイだ。

2001年にアルバム『東海道五次』をリリースしたのち、多くのライブやセッションに出演。コメディアンやマジシャン、落語家との競演を果たすなど、その交友の広さは音楽界にとどまらない。
近年では2010年3月に同じくムーンライダーズ鈴木博文に、人間椅子和嶋慎治を加えた「弾き語り四人衆」としてアコースティックライブを開催。その模様は2枚組CDにもなっている。

そんなガカンとリョウメイ、通称「ガカリョウ」によるワンマンライブが年初めの1月28日に高円寺「showboat」にて開催された。この日はムーンライダーズが2011年末に無期限活動停止を発表して以来初めてメンバーが共演するライブとあって、往年のファンを中心に多くの注目を集めた。ライブタイトルは「月朧なれど・・」。「なれど」という逆接が気になる。2人からムーンダイラーズの今後についての発言は出るのか。そんなことも少々気に留めながら、「showboat」の階段を下りる。

 

まず第1部は2人だけのステージ。開演の19時を少し回ったところで、ステージの下手に白井良明(Vocal&Guitar)、上手に武川雅寛(Vocal,Violin&Trumpet)の二人が表れると、わっと拍手の波が押し寄せた。それはさざ波よりは強く、しかし「ワー」「キャー」ではない、穏やかな歓声である。観客が円熟したムードをしっかり演出し、上品なアコースティックギターとヴァイオリンのイントロがその中を自然に、優雅に泳ぐ。

 


 


冒頭に披露されたのはムーンライダーズの最新作にして最後?のリリースとなるかもしれない新譜『ciao!』の1曲目「who’s gonna be reborn first?」。アルバムではメンバー6人のコーラスやアコーディオンやドラムがあって、ジャングルのようなにぎやかさがあるが、今宵はこの曲の作り手である白井良明のアコースティックギターと、武川雅寛のヴァイオリンによる演奏。実にシンプルながら琴線を優しく揺らす音が心地よい。続いて2曲目もニューアルバムより、力強いアコギ音が印象的な「弱気な不良 Part-2」を披露。そして弾き語り四人衆でも披露された「鎌倉大船小唄」や、武川雅寛のソロアルバムより「とにかくここがパラダイス」「恋はプッシュ!プッシュ!プッシュ!」など、二人が代わる代わるボーカルを務め、新旧織り交ぜたラインナップが続く。

 


 


最初のMCで白井良明はこう切り出した。「こんばんは。まだ、ムーンライダーズです。」そして、横では仏のような笑みを浮かべる「クジラさん」こと武川雅寛ムーンライダーズは一体どこへ行ってしまうのか…そんなことはひとまず忘れて、今宵はこの朧な月の下、音に酔おう。日本酒片手に聴きたくなるような妖艶なカバー「cinema show」「birdland」2曲を奏で、最後は特別に「ビデオボーイ」を披露。サビの歌詞を「ブルーレイボーイ」「のろしボーイ」と様々にアレンジし、観客の笑いを誘った。

 


 


つづいて第2部では、壇上にメンバーの姿はなく、エスニックな音楽とともに、顔をペイントした謎の男が登場。この男こそ、今宵のゲスト奏者・吉田ユウスケ(Didgeridoo)だ。オーストラリアの先住民アボリジニにより発明された金管楽器「ディジュリドゥ」を奏でるとともに、独自の舞踊を披露。ステージが一気に摩訶不思議なムードに包まれる。そして、白井良明武川雅寛も壇上に。実はムーンライダーズの最新作『Ciao!』収録の「Masque-Rider」に吉田ユウスケがディジュリドゥで参加しており、今宵競演を果たすこととなったのである。あのどこか懐かしい、夕焼け空が似合う旋律には、武川雅寛のトランペットだけでなく、アボリジニの民族楽器も含まれていたのだ!改めてムーンライダーズという音楽の壮大さを実感する。

 


 


ステージにはフルート奏者であり音楽プロデューサーの国吉静治(Flute)も加わり、いっそう音に厚みが加わる。やはり新譜『Ciao!』より「無垢なままで」を披露し、ゲスト2人はいったんフェードアウト。「ガカリョウ」の二人だけがステージに残る。
MCをはさんで後半は、ダブルハーモニカによる「sweet bitter candy」や、ホイッスルも加わった「むすんでひらいて手を打とう」など一気に明るいナンバーで快走。観客総勢で拳を挙げ、手を開き、叩くその様は圧巻だ。楽しいラインナップが時の過ぎるのを忘れさせる。第2部の締めくくりは再度吉田ユウスケ国吉静治を招き入れて、THE CORRSのカバー「Toss The Feathers」!四者四様の口笛を吹くような早弾きがなんとも愉快痛快で、心躍る。

 


 

アンコールでは「21st century shizoid man」と「大人の悩みに子供の涙」が披露された。改めて振り返ってみるとMCは終始言葉少なめで、決して最後までムーンライダーズの活動について触れられることはなかったが、それでも「言葉少なめ」と感じなかったのは、きっと音で会話をしていたからだろう。今宵、観客は最後尾を除いて全て着席による鑑賞となったが、ステージを食い入るようにじっと見つめ、時に肩を揺らし、時に手を叩き、観客とステージが一体化…というよりそこにあるはずの境界が、ほとんど見えなかった。

 


最後に「ガカリョウ」の二人は、あの満面の笑みで、こう言い残してステージを去った。
白井良明:「熟成したら、また会いましょう!」
武川雅寛:「チャオ!」

 


 

◆白井良明 公式サイト
http://tonpi.net/top.html


◆武川雅寛 公式サイト
http://moonriders.net/takekawa.html


 

◆セットリスト
-第1部-
M01. who’s gonna be reborn first?
M02. 弱気な不良 Part-2
M03. 愛の才能・Johnny
M04. 鎌倉大船小唄
M05. とにかくここがパラダイス
M06. 恋はプッシュ!プッシュ!プッシュ!
M07. cinema show
M08. birdland
-第2部-
M09. mr.yoshida performance
M10. masuque-rider
M11. 無垢なままで
M12. jewerllyの在り処
M13. whisper in the night
M14. 青空のカズ~
M15. sweet bitter candy
M16. むすんでひらいて手を打とう
M17. Toss The Feathers
-encore-
M18. 21st century shizoid man
M19. 大人の悩みに子供の涙

◆武川雅寛ソロ・ライヴ決定!
”30年前の私と今の僕。”
2012/03/31(土)【横浜】試聴室その2
 ゲスト:夏秋文尚
2012/04/30(祝)【京都】cafeザンパノ
http://www.p-hour.com/


【特集】ムーンライダーズ36年の歴史に迫る!
ROCK ATTENTION 14「ムーンライダーズ」公開!
http://www.beeast69.com/feature/14759