特集

TEXT:Kyota Suzuki

国内のロックシーンの最先端を駆け抜け、輝き続けるフロンティアたちの横顔に迫るインタビュー特集「ROCK ATTENTION」。第63回に登場するのは扇田裕太郎。2019年の第57回と、2016年の第45回にも登場している。本特集は3回目の登場となる。
 
今回インタビューを執筆するに当たって、過去のBEEASTの扇田裕太郎(以下扇田)の記事を読み返していたところソロ1stミニアルバム『I AM』(2016)リリース時のインタビューに扇田の「僕は破壊にも救いがあると思っている」というコメントを見付けてハッとさせられた。
 
2ndミニアルバム『I SING』のリリースから2年と8か月。気心の知れたゲスト・ミュージシャンを多数迎えて作られた初のソロ・フル・アルバム『I FEEL』は、紛れもない扇田のキャリア史上ベストといえる傑作。コロナウイルスによって”破壊”された世界を経て生まれた、希望に満ちたロック・ミュージックの新たなスタンダードだ。
 

扇田裕太郎 1st Full Album『I FEEL』
 
http://yagijirushi.com/order/ogidayutaro/
 
M01. 一本道
M02. 宇宙船
M03. Different World
M04. 欠けたムーンライト
M05. 火から生まれて火にかえる
M06. ライブハウスの明かり
M07. ギターの時代 
M08. 永遠
M09. Feel Until You Are Gone
M10. あなたに逢えてよかった
 
2021年12月8日全国流通スタート
URAWA FLOWER RECORDS
UFRC-1003、\3,000(税込)


 
扇田裕太郎 Official Website
http://ogidayutaro.com/
 


Profile
扇田裕太郎プロフィール(シンガーソングライター/ギタリスト)
1970年6月21日生まれ、東京都品川区出身。

 
幼少期をニューヨーク、思春期をロンドンで過ごす。 ロンドン時代、エレキギターの歪んだ音に胸を揺さぶられロックを始める。帰国後はギタリストとしてプロの道へ。さまざまなバンドに参加、いろいろなミュージシャンとセッションを重ねる。遊びで始めた《扇田裕太郎~1人ピンクフロイド~》が関係者の目に留まり、20周年を迎えた《FUJI ROCK FESTIVAL ’16》に出演。震災以降、命と表現についてより深く考えるようになりソロアーティストとして活動開始、2016年ソロミニアルバム『I AM』をリリース、UKロックをベースとしたシンガー・ソング・ライターとしてソロ活動を開始。2019年2ndミニアルバム『I SING』をリリース。日本全国をギター1本でツアーする「巡り逢いの旅」をスタート。コロナ禍は自宅フラワースタジオから100本以上の配信ライブを開催。2021年12月、満を持して初フルアルバム『I FEEL』をリリース。
 
2012年から木暮”shake”武彦 (レッド・ウォーリアーズ)率いるピンクフロイド・トリビュート・バンド原始神母のメンバー(ベース、ギター、ボーカル)としてFUJI ROCK FESTIVAL、プログレッシブ・ロック・フェス、JOIN ALIVE、アラバキ・ロック・フェスなどに次々と出演、2021年には吹奏楽団と合唱団、チェロ奏者を招き「Atom Heart Mother(原子心母)」の完全再現を行い喝采を浴びる。海外からも注目を集める屈指のトリビュートバンドとして認知されている。2019年にはキーボード奏者モーガン・フィッシャー(モット・ザ・フープル、元Queenツアーメンバー)とロックデュオバンド NANKER’S BESTを結成。Queenの映画「ボヘミアン・ラプソディ」の大ヒットもあり話題になる。
 
サポートとしては、大橋隆志(聖飢魔II)のソロバンド、Takashi O’hashi & The Sound Torusのメンバーとして、白浜久(元ARB) プロジェクトのメンバーとしても知られる。2007年氣志團『SIX SENCES』にTommy & The Bonjaskysのメンバーとして参加、2020年にはYouTube 氣志團TV「綾小路 翔 学びの細道ゴイスタ!!~GOING STUDY~」 に綾小路翔 團長のギターと英語の先生として6回に渡り連続出演。音楽活動の他、俳優の宇梶剛士に誘われ2002年に舞台俳優としてもデビュー、その後も主に菅田俊主催の劇団東京倶楽部などで、これまで5本の舞台演劇作品に出演している。

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何かを思い立って軌道に乗せるまでの様々な経験。これは宝です。

—『I FEEL』凄いアルバムになりましたね!各々の曲が独自の世界観を持ちながら、一貫性があって、音のスケールも格段に増しています。

 
扇田:ありがとうございます!最高のアルバムができました!
 

—3rdアルバムは、最初から10曲収録のフルアルバムにすると決めていたのでしょうか?

 
扇田:今回は最初から10曲入りって決めてました。これまで5曲入りを2枚出してるので、10曲くらい入ってないとフルコースの満足感に至らないような気がして。
 

—コロナ禍で、オンラインでのライブが中心になって、扇田さんの生のライブの持ち味である音のダイナミズムや爆発力をどう伝えようとしているのか、いつも興味深く拝見していたのですが、コロナでライフワークであるライブ活動が制限されて大変だったことについて教えてください。

 
扇田:やっぱりライブのダイナミズムにコミットすると、ある種のワイルドさだったりラフ感が伴うことになるので、そういう演奏ってオンラインのライブだと逆に乱暴に聴こえてしまうというか、お茶の間でリラックスして観るにはクオリティー的に厳しいと感じることもあって。だからこれまでライブハウスやライブバーのまとう空気、世界観、テンション感にどれだけ助けられていたのかを思い知ることになりました。なので通常よりちょっと丁寧にシビアな耳で、テンションを失わないようにというのが大変だったことの一つですね。
 
あとはもちろん配信もゼロから始めたので技術的な部分の勉強とかも大変でした。音、映像、照明、配信ソフト、YouTubeスタジオ、プロモーションのやり方、そして遠隔配信の技術、何もかもゼロからのスタートで、しかももの凄い数の配信をやってきたのでレパートリーを増やす必要もあったり、内容を充実させようとソフト面の工夫も大変でした。この大変でしたシリーズだけで本が1冊書けるくらい(笑)興味ある人は僕のメルマガ『僕のブルース・ロック道マガジン』を読んでもらえれば、コロナ禍で僕が取り組んだことの全てが書いてありますので。
 

—逆に、この2年の試行錯誤で得たものも多かったのではないですか?

 
扇田:そうですね。得たものも、多かったと思います。なんといっても自宅フラワースタジオからの配信をとおして日本全国、そして世界中のあちこちにファミリーとも呼べるような常連さんたちとの繋がりができてきたことです。だってコロナは分離の象徴だったはずなのに、その機会にたくさんの人達と繋がることができたのは奇跡的です。世界中どこからでも参加できるのは配信の素晴らしいところだと思います。
 
あとはゼロから何かを始めるノウハウですね。配信もメルマガもYouTubeも、そして遠隔配信にいたっては今でも他でやってる人ほとんど見ないですよね。仕事がなくなってなんとかしなきゃならない状態から、何かを思い立って軌道に乗せるまでの様々な経験。これは宝です。まあまだとても軌道に乗ったとは言えない状況ではありますが、応援してくれる皆さんと一緒に新しい何かを創り上げていく日々はかけがえないものがあります。
 

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今回のアルバムはアイデンティティの無いような世界です。それは「感じる」という世界。

—このコロナと対峙、共存した2年があったからこそたどり着いた音楽の境地が『I FEEL』なのかなと感じました。『I AM』『I SING』と、コンセプチュアルなミニ・アルバム2作で扇田さんのアイデンティティを表現したあと、『I FEEL』に至った理由について教えて下さい。このタイトルに何を込めたのでしょうか?

 
扇田:うーん、なんだろう。ずっとあちこち移動したり人に会ったりしてると、「自分とは?」みたいなアイデンティティを自問自答するような状態になりやすいのかもしれなくて、それがこれまでの2作の核にあったものだと思います。今回コロナで、移動したり人に会ったりできなくなって「自分」なんてどうでもよくなったのかな。今回のアルバムはアイデンティティの無いような世界です。それは「感じる」という世界。「感じる」って外界を閉ざして自分の内側に気づくという、どちらかというと自分本位なアクションだと思うけど、とことん感じきってみるとそこは「自分」からすごく遠くて、むしろ自分は居ないくらい距離がある場所というのがあって。そこは美しいですよ。そこに興味があって。そこにいたい。そこでロックやりたい。だから『I FEEL』です。
 

—ジャケット・デザインのコンセプトについて教えて下さい。『I AM』では砂漠、『I SING』では月面でギターを弾く扇田さんの姿が描かれていましたが、本作では扇田さんは楽器を持っておらず、分身のようにあちこちに扇田さんの姿が見えます。「Feel Until You Are Gone」に<ただフラフラと石になる、空になる>という一節が出てきますが、大きな石に座っている扇田さんはこの一節をイメージしたのかなと思ったのですが?また、下のぽっかり空いた穴からは宇宙の一部?が見えますね

 
扇田:ジャケットは今回は僕のファースト・フルアルバムということで、わかりやすくUKロックのイメージと思って、まずは色調というか色のテイストだけ先にデザイナーさんに伝えて、あとは森島興一さんが撮ってくれたたくさんの写真の中から共同プロデュースの永田”zelly”健志さんと選んで、この写真を使ってUKの風味に好きなように料理して欲しいというようなリクエストでした。あちこちに僕がいたり、影が宇宙になってたりするのはデザイナーさんのアイディアです。歌詞カードのブックレットのデザインは、このアルバムにはいろんな僕が登場するので、その感じをちょっとヒプノシス的というか、メタファーとして表現してる感じだと思います。
 
デザインを担当してくれたBoogie Graphixの高松憲司氏とは大学のバンドサークル時代からの仲間で、今回はありがたいことに仕事の枠を超えてお互いの表現者としての熱をぶつけ合うような最高なやり取りができました。学生時代、毎日のように部室でセッションしたり酒場で話し合ったりした日々が続いているようで楽しかった。ジャケットの石に関しては、グラフィックと音楽って多次元の関わり方をするので、あまり説明してしまうと楽しみを奪ってしまうことになると思うので自由にいろいろ感じてもらえると嬉しいです。
 

—オープニングの「一本道」は、まるで扇田さんの「こういうロックがやりたかったんだ!」という声が聞こえてくるような(笑)、パワフルなハード・ロック・チューンです。

 
扇田:これまでのミニアルバム2作はアコギと歌がメインだったので、今回はバンドサウンドがやりたくて、中でも「一本道」はその筆頭にある曲なので1曲目になりました。コロナ禍、遠隔でアンサンブルしたモーガン・フィッシャーさん、トミー(西園寺 瞳)満園庄太郎氏、森信行氏、このメンバーでバンドアンサンブルやると、一体どうなるんだ?という夢が実現。1曲目にしてハイライトと言えます。
 

—ゲストのMorgan Fisherのキーボードが1音聴こえるだけでブリティッシュ・ロック風味が漂ってきますね。1970年代から現在までの幅広いブリティッシュ・ロックの影響を随所に伺わせながら、扇田さんならではの日本語のセンスが活きた曲になっていると思います。アルバムの方向性のみならず、扇田さんの人間として、ミュージシャンとしての信念がダイレクトに伝わってくる鮮烈なオープニングですね。

 
扇田:そうですね。Morganさんにオルガン入れて欲しいってお願いしたのですが、「歪んだハモンドオルガンが王道だろうけど、敢えてコンボオルガンはどう?」って2種類のオルガンテイク送ってくれました。そういうセンスは創成期からロックシーンのど真ん中にいたMorganさんならではですね。日本語の歌詞はそうですね。僕的な日本語で歌うロックへのアンサーの一つだと思ってます。リフが元気だからこそちょっと気だるいボーカルが良いかなと思って。
 

—自身の音楽について宣誓するような、インパクトのあるオープニング曲という点で、Morgan Fisherが在籍したBritish Lionsの「One More Chance To Run」やOASISの「Rock ‘n’ Roll Star」といった曲を連想しました。ギター・サウンドや歌いまわしからは特にOASISの影響を感じました。

 
扇田:ああ、なるほど。でもこのリフはあんまり何々っぽいとかは意識してなくて、唯一あるとしたらThe Rolling Stonesのリズムアンサンブルの感じは意識しました。すごくシンプルなリフに聴こえると思うのですが、よく聴くとドラムとベースとギターが立体的に絡み合ったこだわりのアンサンブルになってます。特にキックの位置とベースライン。シンプルそうで他にない創作アンサンブルです。森くん(森信行)庄ちゃん(満園庄太郎)にお願いしてこうやってもらいました。こういう工夫はBritish LionsOasisにはなくて、あるとしたらThe Rolling Stonesですね。僕がずっとやりたいと思ってたことの一つです。
 

—西園寺瞳(氣志團)さんのアグレッシブなギター・ソロがカッコいいです!扇田さんから西園寺さんに何か演奏面でディレクションはあったのでしょうか?

 
扇田:トミー(西園寺 瞳)には何もディレクションしてなくて丸投げしました。あの一発目のソロといい、掛け合いパートのフレージングといい、「裕ちゃん、これが欲しいんでしょ」って声が聞こえてくるようなサウンドとプレイ。「One Night Carnival」のフレーズが鳴ったときは王者の風格すら感じましたね。そしてサビの「Across The Universe」的なメロディー。僕が黄色いサブマリンについて歌ってるところにあのメロディーが被ってくるのは楽しいことが大好きなトミーらしいセンスと思いました。さすがです。
 

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やっぱりグラミー賞を獲ろうと思って創った曲なので、そのためにはちゃんとこちらの準備ができた状態で世の中に存在する必要があって、バンドバージョンを創りました。
—共同プロデューサーとしてクレジットされている永田”zelly”健志さんが、ベースとプログラミングを担当した「宇宙船」<宇宙>は扇田さんの音楽を紐解く上でのキーワードのひとつですが、『I SING』の時のインタビューでもあったように、宇宙と人間の本質、根源が結びついた歌詞のテーマになっていますね。

 
扇田:そうですね。自分って一体どこまでが自分なのかなあ?身体の一番外、皮膚の面までが自分ですか?自分の思いや雰囲気が行き届く数メートル先くらいまでが自分なのか?もしくは身体はすでに自分ではなくて、胸や頭のあたりにある考えや信念や思いだけが自分なのか?もしかしたら500メートルくらい先まで自分いけるかも。となると1キロだっていけるはずだし、、てことは地球くらいいける気がしてきて、そうなると誰も彼も、うまくいくこともいかないことも、好きな人も嫌いな人も、自分に内包されることがあるのかも。そんなことも可能かもしれない。みんなで宇宙に浮かぶ宇宙船に乗ってどこかへ向かうイメージで生まれた曲です。サウンド的にはzellyさんが最初からイメージが見えてたみたいで、ミックスまでやってくれました。あのベースラインが決定的ですよね。サイケなパンニングも。この曲だけじゃなくて、このアルバムのzellyさんの貢献、大きいです。
 

—「宇宙船」では更に歌唱力、表現力を増した扇田さんのヴォーカルも聴きどころです。サビの英詞のパートのファルセットが浮遊感のあるバッキングと同調して、まさに宇宙的な高揚感を得られるような…。

 
扇田:『I SING』で「ビートルズになったら」を歌って以降、ファルセットの面白さに気づいたので、いろいろ探検するうちにこうなりました。確かに、グルーヴが重くうねうねいってるので、歌の浮遊する感じが強調されますよね。歌唱力に関しては、自分ではあまりよくわからないけど、毎日のように何かしらに取り組んでいて、もう一歩深く届く表現、もう一歩先へ届く表現、ってやり続けてます。僕の場合、日本語と英語の両方があって、お互い絡み合ったりしてるので研鑽でもあるけれども、発明でもあると思ってて、生涯かけて追求するようなものだと思ってます。
 

—「Different World」は『I SING』に収録されていた曲ですが、単純にリメイクと言いたくないのは、コロナ以降の世界ではそのメッセージが違った意味合いを感じられるからだと思ったんです。今回、バンド編成で再録した、拘りの程についてお聞かせ下さい。

 
扇田:やっぱりグラミー賞を獲ろうと思って創った曲なので、そのためにはちゃんとこちらの準備ができた状態で世の中に存在する必要があって、バンドバージョンを創りました。メッセージや意味は確かに時代と共にいろんなケミストリーが起こると思うのですが、違いを認め合うという普遍的なメッセージがテーマなので色褪せることはないと思います。もし僕と君の間にあるものがコロナであったとしても、それを自分の責任として勇気をもって捉えることができるか?みたいにあらゆる分離に置き換えることができるので。最終的には僕らを分離させようとする全ての壁は神様からのギフトのようなものだと思いたいです。
 

—「欠けたムーンライト」は、コロナ禍における音楽活動で扇田さんが掴んだ人との繋がり、コミュニケーションの真理が込められているように感じました。扇田さんのこれまでのキャリアでも屈指の名曲ではないでしょうか。

 
扇田:「欠けたムーンライト」は実はコロナよりちょっと前に出来た曲ですが、コロナ禍と運命的なハマり方をしたこともあり、今回録音ということになりました。完璧な人なんていないし、完璧な在り方なんてないし、歌えば歌うほど味が染み出してくる曲ですね。名曲と言ってもらえて嬉しいです。
 

—「Different World」のエンディングのTAKASHI O’HASHIさんの叙情的なギター・ソロから、この曲の静かなイントロへの流れがまた絶妙です!

 
扇田:「Different World」の大橋さんのソロすごいですよね。最後にリバーブをどかんとかけてもらって、その余韻の中から”欠けたムーンライト”が聴こえだす感じ、エンジニアの立川眞佐人さんが理解してくれて、狙い通りになりました。
 

—「欠けたムーンライト」は、ソロのライブ演奏を重ねて熟成させてきた曲と思いますが、この『I FEEL』バージョンではブリティッシュ・ロックの影響が反映されたアレンジがアクセントになっていますね?

 
扇田:そうですね。ドラムのちょっと跳ねた8ビートがRingo StarrとかCharlie Wattsっぽくてブリティッシュに聴こえるのかな?あとはソロのスライドもちょっとGeorge Harrisonっぽいかな?なんだろう?歌のディレーはzellyさんのアイディアです。絶対的なウェット感がブリティッシュかもですね。この曲もミックスはzellyさんです。とにかく何もかもいつの間にか自然にブリティッシュになっていきます(笑)
 

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コロナ禍で週イチの配信で新曲を発表し続けていたときがあって、僕はそんなに多作ってわけではないので毎週テンパってて、そんな中で生まれた曲です。

—多田暁さんのトランペットをフィーチュアした「火から生まれて火にかえる」は、多田さんと扇田さんのデュオThe Day Sweetの別バージョンといった趣も感じました。個人的な事ですが、扇田さんから『I FEEL』の音源ファイルが届いたその日の朝に私の両親が亡くなったんです。その時の心情に曲がはまってとても感動したのですが、中でも泣けたのが「火から生まれて火にかえる」でした。この曲はどういった経験から生まれたのでしょうか?

 
扇田:お悔やみ申し上げます。大変なときなのに聴いていただき、なんというか、音楽が人の生活のどんな場面でも役割を与えられるという事実に、尊さを覚えました。この曲は氣志團團長の綾小路翔くんと友人の910ちゃんと一緒にキャンプに行ったときに生まれた曲です。特にサビのコードが面白くて、倍音の揺れが炎の揺れに似てると思ってて、メロディーは日本的な五音階だけどコードは後期ロマン派みたいになってるつもりです。歌詞は後日キャンプの火を思いながら書きました。火ってただ燃えてるだけなのに、同じ形は二度と繰り返されずに、ずっと変化し続けるんですよね。飽きない。ずっと観てられるんですね。そして、ずっと観てるとトリップが始まりました。この曲は立川さんのミックスがヤバいです。本当に火を見ているかのようで強烈。
 

—「一本道」と同じくキーボードにモーガン・フィッシャー、ベースに満園庄太郎、ドラムスに森信行という編成で、レコードでいうとB面1曲めの「ライブハウスの明かり」がスタートします。ライブハウスに対する扇田さんの敬意と愛情だけでなく、ライブの音楽体験が扇田さんの人生にとっていかに大きかったかが歌詞から伝わってきますね。

 
扇田:ライブハウスって本当にすごいですよね。行くだけで魔法がかかっちゃう。どんなに小綺麗なライブハウスでも、なんかアブナイところ来たって感じするじゃないですか。だって爆音とギラギラの照明ですよ。それにお酒。五感を全部持っていかれる。それを1人じゃなくてみんなで楽しむって、ものすごい遊びですよね。人類の大発明だと思います。店員さんも大抵ちょっと癖があるというか(笑)キャラが濃い人が多いような。なんかとにかく非現実というか、日常の嫌なことを忘れさせてくれる唯一無二の場所なんです。
 
僕のソロデビューの場所でもあり、ものすごくお世話になっているライブハウス、神戸チキンジョージが存続の危機と聞いた時に、これはいよいよ何が何でもやれることをやろうと思ってドネーションライブを開催することになったのですが、これはそのために書いたのがこの曲です。初めてチキンジョージに出演した日。PAの正木さんの凛と太いサウンドと大山さん(雷神)の強烈な照明は、ライブハウスの非日常体験の極みだと思ったので、そのイメージで全国のライブハウスに捧げる曲を創ったのがこれです。
 
この曲は目一杯暴れた録音しました。ちょっと暴れすぎたくらい(笑)特にドラムの録音がすごかった。JIMI HENDRIX EXPERIENCEMitch Mitchellみたいに大暴れで叩いて欲しいってくんにリクエストしたのですが、何テイクかやるうちにくんキレてきて、最後に「裕太郎さん、喧嘩のつもりで叩きました」っていうやつをOKテイクにしました。ちゃんも合わせるの苦労したと思うし僕も命がけでギター弾いてみんなでガチャガチャになっていくんですが、日常からはみ出るという意味ではこの乱暴さも一つの正解と思って、そしてMorganさんのオルガンが入ったら不思議とまとまった感じがして、特にこのイントロとか音色のセンスとか本当にすごいなぁって思いました。あと個人的にコーラスの「いぇいいぇいいぇい」ってやつ気に入ってます!ちょっとMott the Hoopleのワルい感じ意識しました。

 

—これまでもロックに拘ってきた扇田さんですが、「ギターの時代」はタイトル通りギター・ロック・アンセムといえる曲ですね。扇田さんのギター、ベースとHAZE/大宮洋介のドラミングのマッチングが素晴らしいです。言葉遊びが面白い歌詞の歌い回しと併せて、とても心地よいグルーヴを生み出しています。

 
扇田:ありがとうございます。コロナ禍で週イチの配信で新曲を発表し続けていたときがあって、僕はそんなに多作ってわけではないので毎週テンパってて、そんな中で生まれた曲です。遊び半分でギター愛を歌ってみたらけっこう面白くて、これが一番好きって言ってくれる人もいたりで、やっぱりこういう遊びゴコロってエネルギーが強いんだなぁって改めて思い知らされました。歌ってて楽しい曲ですね。この曲はベースも僕が弾きました。いつも原始神母で使ってるフジゲンのプレシジョンベース。Roger Watersと同じフラットワウンド弦を張ってるけど、この曲はギンギンのトレブリーなサウンドでファンキーに弾きました。特にサビのベースラインが出たときはテンション上がりました。気に入ってます。
 
あとは左のギター。これはOopeggという最近メインで使ってるエレキギターの音色にインスパイアされてああいうプレイになりました。僕の中ではちょっと珍しいスタイルだけど、やっぱりJimi Hendrix好きだしJack Johnsonみたいなサーフ系のギターも好きなので、その中間くらいなイメージですね。Bメロのパワーコードのところもですが、ギターのカッコいい感じが万華鏡みたいにいろいろ出てくると楽しいと思って。
 

—歌詞の通りに延々と続きそうなギター・ソロが豪快でカッコいい!ライブでの扇田さんの姿が目に浮かぶようです。

 
扇田:そう、ライブではこの曲ハジケますよ。ソロもっと長いです(笑)今どきギターソロかよ~、って呆れる人たちをなぎ倒したいと思ってます(笑)
 

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僕が興味あるのは、その前の状態、何のアイデンティティーも信念もない状態を意図的に創れるかということで、それが<白い部屋>であり、<感じる> 「I FEEL」という状態はそのための最も重要な導入部と思ってます。

—ソロ2作『I Am』『I SING』と『I Feel』の大きな違いは、ドラムスですね。森信行、HAZE/大宮洋介と2人のドラマーを迎えての、バンド編成のレコーディングは如何でしたか?

 
扇田:今回、ドラムは全てHAZE/大宮洋介さん所有のHAZE Recording Studioで録音したのですが、HAZEさんの提案で今回初めてリモートでやってみようということになったんです。リアルタイムで高音質でストリーミングできるサービスを利用して、zoomも繋いでリモートでディレクション。これの良かったことは、なんと言っても客観性ですね。同じ部屋にいると、大きい音でどうしても耳は疲れるし、雰囲気にのめり込んでいってOKの判断が揺らぐことがあるので、自宅スタジオでフラットな気持ちでディレクションがやれて、音楽的な部分は判断しやすかったです。
 
良くなかったことは、やっぱり一緒の空間にいないと気持ちの部分が見えにくいというか、親密度が足りないというか、そういうのってプレイや閃きにも反映されたりするので、どんなにzoomで繋がっててもさすがに一緒にいる感じにはならないですね。あとは、ギターと歌だけのデモ段階でドラムをレコーディングしたので、全体像が見えない中でのプレイはドラマーの2人には負担になったと思います。イマジネーションで叩くという。でも2人ともさすがで、欲しいところに自然にフィルが入るし、上がって欲しいところは自然に上がるし。コロナ禍でテレパシーのようなものは磨かれたかもと思います。今回やってみていろいろと学んだので、次回リモートでやるときはさらに良い感じでやれると思います。
 

—結果的に、リモートとは思えないほどバンドとしての一体感があって、ドラマー2人の各々の個性も活かされた音に仕上がっていますね。

 
扇田:ありがとうございます。ベースもキーボードもギターも生の後乗せという環境のなか、最善を尽くしてもらえて本当にありがたかったし、嬉しかったです。HAZE/大宮洋介さんはシャープでタイト、さんはスイングするタイプで、ドラマーとしてのキャラが違うので、その辺も楽しんで頂けると思います。この2人のドラマーと、角谷仁宜さんとzellyさんのプログラミングとでこのアルバムのリズムはいろんな表情に恵まれました。
 

—「永遠」は扇田さんがメルマガで「時間のことを歌いながら、時間ではないもの。永遠を歌うような逆説的な表現の曲」と書かれていましたが、こういったミニマムな表現のフォーマットの曲を書く上で影響を受けたミュージシャンはいますか?

 
扇田:「永遠」はこのアルバムの中でも最もユニークな曲だと思っていて、なぜなら他にこういう曲を聴いたことがないからです。唯一あるとしたら方向としてはJohn Cageの「4分33秒」とか?でも違うか。この「永遠」という曲は歌詞を聴いているうちに時間の体験というか、それぞれの人生の中のあるシーンに辿り着いたり、それぞれが感じる時間の感覚について気づきがあったり、忘れかけていた過去の出来事にたどり着くキッカケになったり、聴く人みんなそれぞれが異なった体験をすることを最初から想定した曲になってます。質問への答えとしては、このフォーマットの曲を書く上で影響をうけたミュージシャンはいなくて、新発明だと思ってます。
 

—「Feel Until You Are Gone」は、「宇宙船」と逆で歌詞の大半が英詞で、ヴァースの一部のみ日本語詞という構成です。敢えて全て英詞にしなかったのは何故でしょう?

 
扇田:これまで『I AM』『I SING』の2枚で日本語と英語の両方で作詞してきて、中には「Now I Am」のように英語の中にちょっと日本語があったり、その時々のインスピレーションでいろいろ創作してきたのですが、英語から日本語、日本語から英語、って切り替わるときのテイストっていうか質感の変化があって、それが徐々に作詞に自然に生きるようになってきてる気がします。基本的には、もう日本語でも英語でもどっちでも良いし、その状況状況で言いたいことが言いやすい言語、表現したい感じ、特にリズムが合っている方を選んでやってきたのですが、最近はその切替のときに起こるドラマみたいな何か、そういうのを作詞に応用できるようになってきて、英語と日本語を行き来する曲が増えてる気がしますね。僕の中ではどっちでも良いので、ということはどっちもアリというスタンスがより強くなってる感じです。
 

—「Feel Until You Are Gone」は、歌詞の「ただそこに居る」「ありのままを感じる」というテーマが反映されたような扇田さんのリラックスした歌と、メロウなブルース・ハープが印象的です。この曲を書いた経緯と、レコーディングで拘った点があったら教えて下さい。

 
扇田:日常に飲み込まれて、「感じる」ことをいつの間にかできなくなってしまったり。なんて現代人は退化してしまったのだろうって思うことがあって、日頃から感じることにたくさん注意と時間を費やすようにしてて、その真髄は、「自分」がいなくなるまで感じる状態だと教わったことがあって、僕は本当にそのとおりだと思って、だって本当に自分がいなくなるまで感じきったときって、世の中の大変な出来事の全てから離れる感じがするんですね。それって凄いことだと思うんです。だから日々、感じることに貪欲でいようとおもって、そんな状態でいる時間を少しでも増やすために創った曲です。実用性がある(笑)歌もハープも何も考えずに歌詞のままにアイデンティティーのない状態で感じるままに録音しました。ハープは1テイク。歌も多分2テイクくらいしか歌ってないかも。角谷さんが創ってくれたリズムに、ベースはこの曲は僕が弾いたのですが、Bbにステイしてオンコードで響くような感じにしました。
 

—ブルース・ハープで影響を受けたミュージシャンは誰ですか?

 
扇田:特に好きなブルース・ハープ奏者がいるというのではなくて、好きな音楽にブルース・ハープが入ってることが多くて。The BeatlesThe Rolling StonesLed ZeppelinNeil YoungBob DylanU2、どの曲がというのもないです。強いて言うならLed Zeppelinの「You Shook Me」かな。それで辿るうちにLittle WalterとかSonny Boy Williamsonとか王道にもたどり着きましたが、でも特にコピーとかもしてなくて、自由に吹いてるのですごく自分のスタイルになってると思います。歌を歌ったりギター弾く感じで吹いてます。ベンド(音程を曲げる)できるのがギターとフィーリングが近くて好きですね。最初にハープを吹いたのはU2の「Desire」を大学生のときに。東高円寺ロサンゼルスクラブで70’Sというバンドの初ライブでした。ステージが暗くて左右反対にセットしてしまってめちゃくちゃでした(笑)
 

—アルバムを締めくくる「あなたに逢えてよかった」は、扇田さん流「Love」(John Lennon)と言っても良いような究極のラブソングという気がします。歌詞の<白い部屋>についてのエピソードは『I AM』のインタビュー中でも語られていましたが、今ここで<白い部屋>という言葉を入れた理由について教えて下さい。

 
扇田:John Lennonですか。それは初めて言われたけど、なんか嬉しいですね。確かにさらけ出す感じの歌詞はJohnっぽいかも。でもこの曲は恥ずかしながら本当に歌詞のこのまんまでして。ただでさえかなりどん底の状態で全国ツアーを始めたのに、その矢先にコロナでツアーもできなくなって、放心状態だったんですね。そんなときに再起をかけて始めた配信とメルマガが徐々に形になり始めて、応援してくれる人たちが本当にありがたくて。2020年の6月、自分のバースデーライブで、感謝の気持ちを思ったままにみんなに伝えたいと思って創った曲です。
 
<白い部屋>に関しては。「生まれたときのことを思い出した。そこには白い部屋がある。」と歌ってるんですが、僕ら、生まれたときって、何のアイデンティティーも信念(考え、思い込み)もなくて、僕はそういう状態を<白い部屋>と呼んでいて、誕生の瞬間って尊いなと思ってこの言葉を使いました。お母さんの顔見てミルク飲んだ瞬間から、もうアイデンティティーは始まってしまいますから。僕が興味あるのは、その前の状態、何のアイデンティティーも信念もない状態を意図的に創れるかということで、それが<白い部屋>であり、<感じる> 「I FEEL」という状態はそのための最も重要な導入部と思ってます。
 

—最後に、シンガー・ソングライターとして今後の目標について教えてください。先ほど「グラミー賞受賞」というのがひとつ出ましたが…

 
扇田:目標はずっと変わってなくて、音楽を通して非日常体験をしたり、豊かな繋がりを感じたり。人間が感じることのできるいろんなエリアにアクセスして景色を共有したい。そして究極には、宇宙が一つに感じられるような世界をクリエイトできたらいいなぁ。The BeatlesPink Floydにはそんな感じがあって、そこがロックをやる理由とも言えます。あとは、やはりそこを分かち合えるかもしれない、まだ見ぬたくさんの存在に逢いに行くこと。待ってないで僕の方から探しに行く、逢いに行くために全国ツアーやYouTube配信をやってます。
 

Live Information
 
▼扇田裕太郎ライブ情報
2022年04月18日(月)NANKER’S BEST + 満園庄太郎 Vol.23(遠隔配信)
2022年04月21日(木)扇田裕太郎 ROCK TRIO! @フラワースタジオ Vol.90(遠隔配信)

 

 
▼扇田裕太郎『I FEEL / YUTARO OGIDA』リリースツアー!根性の再開!
<やれるかぎり配信にもトライします>

2022年05月10日(火)四日市 GALLIVER(有観客)
2022年05月11日(水)神戸 チキンジョージ(有観客+簡易配信)
2022年05月12日(木)岡山 BUDDHA(有観客+配信)
2022年05月13日(金)大阪 南堀江bigcake(有観客+配信)
2022年05月14日(土)京都 宗円交遊庵 やんたん(有観客+配信)
2022年05月15日(日)名張 Club Rock Up(有観客+配信)
2022年05月16日(月)名古屋 CEDAR’S(有観客+配信)
2022年05月17日(火)飯田 七里屋茶房(有観客+配信)

 

 
2022年6月12日(日) 東京 秋葉原CLUB GOODMAN『扇田裕太郎 ROCK BAND 初ライブ!』(有観客+配信)
2022年06月21日(火)東京 BLUE MOOD『扇田裕太郎バースデーライブ52』(有観客+配信)

 

 
▼TAKASHI O’HASHI & The Sound Torusライブ情報
Birthday Live! “Go! Go! Go! Rock!!+”

(大橋隆志/G,Vo、石川俊介/Ba、扇田裕太郎/G,Vo、森 信行/Drms)
2022年05月05日(木)東京 BLUE MOOD(有観客+簡易配信)
 
Live Tour 2022 “Go! Go! Go! Rock!!+”
(大橋隆志/G,Vo、石川俊介/Ba、扇田裕太郎/G,Vo、田中徹/Drms)

2022年05月07日(土)高槻 MUSIC SQUARE 1624 TENJIN
2022年05月08日(日)京都 都雅都雅
2022年05月21日(土)豊橋 club KNOT
2022年05月22日(日)名古屋 ell.FITS ALL
2022年05月28日(土)東京 秋葉原CLUB GOODMAN
2022年05月29日(日)東京 秋葉原CLUB GOODMAN

 

 

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