特集

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TEXT:Kyota Suzuki

国内のロックシーンの最先端を駆け抜け、輝き続けるフロンティアたちの横顔に迫るインタビュー特集「ROCK ATTENTION」。第45回に登場するのは扇田裕太郎(以下扇田)。扇田は今年のフジロック・フェスティバルでも話題を呼んだPink Floydの曲を弾き語りで再現する「1人ピンクフロイド」、木暮“shake”武彦らとのPink Floydトリビュートバンド「原始神母」、多田暁とのデュオ「The Day Sweet」等、幅広いプロジェクトで活動するオールマイティーなミュージシャン、ギタリストだ。
 
その扇田が、キャリア初のソロ・アルバムをリリースした。アルバム・タイトルは『I AM』、作曲から録音まで全て扇田本人が行っている。そのストレートなアルバム・タイトル、CDジャケット内に散りばめられた、若き日の、そして現在の扇田自身の写真を見て、アルバムのコンセプトについて聞くというのは野暮というものだが、敢えてリスナー視点でキャプションをつけるなら、「扇田裕太郎の人生を通してロック・ミュージックの素晴らしさを語ったアルバム」といえる気がする。
 
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ソロ1stミニアルバム『I AM 』
 
http://yagijirushi.com/order/ogidayutaro/
 
disco_01M01. Rock’n’Rollの星
M02. Primrose Hill
M03. なんにもやる気がおきない
M04. Everything Will Be Destroyed
M05. Now I Am
 
2016年8月3日リリース
URAWA FLOWER RECORDS
UFRC-1001 / ¥1,500(税込)


扇田裕太郎 Official Website
http://ogidayutaro.com/
 


Live Information
 
~扇田裕太郎『I AM』リリースパーティー / Swinging Circuit~
 
▼2016年11月15日(火)@名古屋レイドバック
出演:扇田裕太郎、冨田麗香
時間:OPEN 19:00 / START 19:30 料金:Music charge 2,500円(問)CAFE LAID BACK (052)848-7667
愛知県名古屋市天白区原2-202 びい6植田1F
http://laidback122.jimdo.com/

 
▼2016年11月16日(水)@大阪SOMA
出演:扇田裕太郎、冨田麗香
時間:OPEN 19:00 / START 19:30 料金:前売り2500円、当日3000円(問)THE LIVE HOUSE SOMA 06‐6212‐2253
大阪府大阪市中央区東心斎橋2-1-13
http://www.will-music.net/soma/

 
▼2016年11月18日(金)@岡山Buddah
出演:扇田裕太郎、冨田麗香
時間:OPEN 19:00 / START 19:30 料金:Music charge 2,500円(問)岡山 BUDDAH 086-224-8035
岡山県岡山市北区表町2-4-35元町ビル202

 
「ネガティブナイト」
▼2016年11月19日(土)@高松RUFFHOUSE
出演:扇田裕太郎、柴山一幸、冨田麗香
時間:OPEN 19:00 / START 19:30 料金:前売り2500円、当日3000円(問)Music & Live RUFFHOUSE 087-835-9550
香川県高松市田町2-3岡ビルB1F
http://www.barruffhouse.com/

 
「ネガティブナイト」
▼2016年11月20日(日)@広島KeMBY’S AM
出演:扇田裕太郎、柴山一幸、冨田麗香
時間:OPEN 18:30 / START 19:00 料金:前売り2500円、当日3000円(問)KeMBY’S CAFE (ケンビーズ・カフェ)082-249-6201
広島県広島市中区大手町2-9-13
http://www.kembyshiroshima.com/
http://hitosara.com/0006017922/

 
「ネガティブナイト」
▼2016年11月21日(月)@神戸チキンジョージ
出演:扇田裕太郎、柴山一幸、冨田麗香、前田航
時間:OPEN 19:00 / START 19:30 料金:前売り2500円、当日3000円(問)THE LIVE HOUSE CHICKEN GEORGE 078-332-0146
兵庫県神戸市中央区下山手通2-17-2-B1F
http://www.chicken-george.co.jp/

 
▼2016年11月22日(火)@豊橋 East Orange(イーストオレンジ)
出演:扇田裕太郎、冨田麗香
時間:OPEN 19:00 / START 19:30 投げ銭制
豊橋市新本町63-2F

 
▼2016年12月22日(木)@セミコロン幡ヶ谷
出演:扇田裕太郎、冨田麗香
時間:OPEN 18:30 / START 19:00 料金:前売り2500円、当日3000円
東京都渋谷区幡ヶ谷2-48-4
http://www.semicolon-h.com/

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自分の歌や演奏にOKを出さなければならないのですが、これが難しくて
—遅ればせながら、初のソロアルバムのリリースおめでとうございます。素晴らしい出来映えですね!

 
扇田:ありがとうございます。そう言っていただけて嬉しいです。がんばった甲斐がありました。ソロをやろうと思い立ってから随分時間が経ってしまいましたが、本当につくりたいと思っていたようなものが出来て満足してます。
 

—アルバムの製作期間はどれくらいでしたか?

 
扇田:2011年3月11日に震災があって、その半年後くらいからぼんやりとソロでやりたいことが浮かんできて、作詞作曲に着手したのは3年前くらいかな?実際の録音からマスタリングまでは1ヶ月くらいですが、それまでいろいろ試した時間やメロディーや歌詞やテーマにこだわり続けた時間は膨大です。一方で、今回の作品はフジロックでの先行発売に間に合わせるということがプライマリーだったので、ミックスとマスタリングをお願いした川口聡さんには短期間で大変なお願いをすることになってしまいました。
 

—構想の期間を含めると、相当な時間をかけた力作ということになりますね。作曲、演奏まですべて扇田さんによる、真にソロ・アルバムといえる作品ですが、特に苦労した点はありますか?

 
扇田:1人で自宅スタジオでレコーディングしていると、自分の歌や演奏にOKを出さなければならないのですが、これが難しくて。自分の限界を自分で決めるという(笑)でも言わばスタジオ使用料はただですから、とにかく納得いくまでやりました。あと苦労したのは時間の使い方ですね。セルフマネージメントのソロプロジェクトとしてスタートして、自分で期限を決めてがんばるのですが、つい自分のことだからと後回しにしてしまうことが多くて。それで、やっぱり1人では出来ないと思うようになり、相談役のような形でマネージャーについてもらいました。ミックスエンジニアや通販やHPの更新のお手伝してくれる人を紹介してもらったり。あと人と話してるとそれだけでアイディアが浮かぶもので。そういう意味では実はこの作品の一番の立役者はこのマネージャーですね。大和田さんっていうんですけど。
 

—ジャケット・デザインがインパクトがありますね。砂漠でひとりギターを弾く扇田さんの後ろ姿。表ジャケットは青い空が広がる日中の砂漠のようですが、裏返しにすると月に照らされたオレンジ色の砂漠が表れます。このジャケットのコンセプトについて教えて下さい。

 
扇田:僕が最も信頼する友だちの1人、池崎大輔氏にグラフィックデザインをお願いしました。お酒呑みながらアルバムの内容と僕の思いを伝えただけであとは完全におまかせ、というかほぼ丸投げであそこまでのものを創ってくれました。コンセプトはもちろんアコースティック、そしてサイケデリックです。音楽が個人的要素が強い分、グラフィックで人とコラボレーション出来たのは嬉しかったしこの作品の価値をグンと高めてくれたと思ってます。
 

—扇田さんの、作曲のプロセスについて教えて下さい。

 
扇田:まずはアイディアが浮かんだら鼻歌やギターでiPhoneのボイスメモに入れます。歌詞が先に浮かんだらそれもiPhoneのメモかmacのテキストエディットに打っていく感じですね。”Rock’n Rollの星”はギターのアルペジオリフが最初に降ってきましたし、”Primrose Hill”は歌詞が先でした。”なんにもやる気が起きない”はコードとメロディーと歌詞がいっぺんに出ました。”Everything~”もサビの歌詞とリフが出てきて、あれはその後のコード進行もほぼ同時に出ました。”Now I Am”は最初のリフが出てからずっと進まなくて、何ヶ月も熟成してからああなりました。ボイスメモ聴きながら何度も練り直して、弾き語りで良い感じになってきたらDAWソフトに録音してアレンジします。この段階で歌詞やメロディーの最終調整をするのですが、アレンジやダビングを終えてから、そのインスピレーションに合わせて歌詞を変えることもあります。結局サウンドと歌詞の間に魔法があるかどうかがロックやポップミュージックの決定的に大事なところだと思ってます。
 

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ホーミーのように2つの領域で音が出てるような歌い方を開発(笑)

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—これはサウンドと歌詞のマッチングということでしょうか?「魔法」が起きるまでは扇田さんの曲は完成に至らないということですか?

 
扇田:マッチングといえばマッチングですが、悲しいときに笑う、みたいな簡単にマッチしないマッチングも含めて魔法と言ってます。曲は…うーん、そうですね。僕が十分に魔法を感じない曲は無理に発表する必要ないと思ってます。
 

—全5曲のミニアルバムといえるボリュームのアルバムですが、非常に濃密な内容で、全編通して聴いて扇田さんの思いが伝わる、1秒も無駄のないコンセプトアルバムという気がしました。

 
扇田:そう言っていただけると最高に嬉しいです。やっぱり聴いてくれている人とその時間を共有するわけですから、せっかく割いてくれてる時間を実りあるものにしたいと願っていて、そのためには作曲だけでなく常日頃から自分が密度のある思いのあるライブをやり続けることが大事で、今のこの瞬間に深くコミットした演奏をと思って頑張ってます。そういう意味で、生き方を褒められたみたいで本当に嬉しいです。
 

—何れの曲もアコースティック・ギターをフィーチュアした、叙情的なメロディを備えた曲ですが。全体としてみるとこれは’ロックな’アルバムだな、と感じました。凄く燃えて、魂込めてレコーディングしている扇田さんの姿を想像したのですが?!

 
扇田:魂込めて演奏しました。静かに燃えてたと思います(笑)意図高く、あくまでも無理しないで自然体で演奏しました。僕の自然な熱量がそうやってロックとして伝わったことを嬉しく思います。
 

—扇田さんのヴォーカルは、メロディアスで素晴らしい響きを持っていますね。自身のヴォーカルをどう評価しますか?

 
扇田:声は親から授かったものですが、それが響くようになったのは、小学生の頃から毎週日曜日に教会に通って歌っていたからだと思います。あとやはり幼少から英語圏で長いこと暮らしたことは大きくて、発音だけでなくて、タイミングや感じ方、文化的にもいろいろ影響があると思います。僕としては自分の聴きたいように歌ってくれる世の中でたった一人のシンガーですので、価値のあるボーカルだと評価してます。自分大好きとか言ってるわけでなくて、自分がコントロールできるのは自分だけだということです。とはいえ、自分をコントロールし切れない自分がいるのも事実で、もっともっと自分が聴きたいような歌を毎回歌えるように、楽しんで行こうというところです。ちなみに今回のアルバムでの声の出し方は、試行錯誤の末編み出したレコーディング用の新しい歌い方です。ホーミーのように2つの領域で音が出てるような歌い方を開発(笑)してそれをダブルにしました。息の量を調節して息の領域でもう一つの音楽が鳴るように。その意図を川口さんがわかってくれて魔法のミックスしてくれました。これがサウンド的なことで言うならば今回のアルバムの最も重要なポイントになってると思います。
 

—ヴォーカリストとして影響を受けたミュージシャンがいたら教えて下さい。

 
扇田:ロック、ジャズ、聴いて来た音楽全てから影響があると思いますが、あんなシンガーになりたい!っと思ったことは一度もないです。強いて言うならば、僕は弾き語りやトランペットとのデュオで《流し》みたいなこともやるのですが、ここ数年でいつの間にかレパートリーが300曲くらいに増えていて、それらの曲の感じからはダイレクトに影響を受けていると思います。どんな曲かは…投げ銭でしょっちゅうライブやってるのでいつでも遊びに来て下さい(笑)。
 

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僕の個人的なレベルですがジギー・スターダストへのアンサーアルバムにもなっています
—はい。また今度見に行きます!今回、ギタープレイの面で何かチャレンジしたことはありますか?

 
扇田:ベーシックがアコースティックギターだけだったので、まずそれがそもそもチャレンジでした。ギター1本で成立するように。ギタリストとして野心的で在りたいけど、弾き語りでやれる範囲で、というチャレンジですね。”Rock’n Rollの星”のアルペジオリフは、天国への階段みたいにアルペジオ聴いただけでその曲だとわかるリフを作ろうと思って。”Everything~”はアコギだけでドラムが聴こえるようにと思って。そういうチャレンジが随所にあります。あとエレキで言うならばスライドですね。スライドはずっと大好きだったのに役割的にあんまりやったことがなかったので楽しいチャレンジでした。
 

—オープニングの”Rock’n’Rollの星”は夢に向かって進む若き日の扇田さんの姿を描いているのでしょうか?

 
扇田:それは内緒です(笑)。
 

—何れにしろ、リスナーの想像力を刺激する、映像が目に浮かぶような素敵な曲と思いました。”Primrose Hill”を聴いて、扇田さんのルーツを語る上で欠かせないPink Floydを連想したのですが?

 
扇田:不思議ですね。Pink Floydのイメージじゃなかったのに。でも先日もshakeさんに”San Tropez”っぽいねって言われました。ああ、それはそうかもと思いましたが。僕の中では”雨にぬれても”(B. J. Thomas)みたいなスタンダードナンバーっぽいのを書いてるうちに転調したり壊れたりしました。エレキは僕はJimmy Pageっぽいと後から思いました。やっぱり身体に入ってるんですね。まあでもここのところPink Floydたくさんやってたので(笑)どう考えても影響濃いいはずですし、Pink Floydを連想されたなら僕は光栄だし嬉しいです。
 

—この曲に限らず、アルバム全編ブリティッシュ・ロック的なサウンドが活かされていると感じましたが、やはり扇田さんにとってイギリスの音楽の影響は大きいですか?

 
扇田:そうですね。英国は中3から高3まで、思春期に4年住んでたので。音楽だけじゃなくて文化的にもあらゆる面で影響があると思います。ただ、僕がギター始めたばかりの頃はVan Halenとかアメリカの音楽を聴いたりコピーしたりしてて、決定的に変わったのはロンドン行って4年目、ジェイクっていうサイケデリックパンクのドラマーと仲良くなって、「Yutaro、アメリカの音楽ばかり聴くな」って言われて、HAWKWINDとか、ドイツですがダモ鈴木CANとか、Peter Framptonとか、ダブレゲエとか、有名なところでもPink FloydPoliceLed Zeppelinみたいにヒネった音楽を聴くようになって。だから良くUKって言われるのですが、OasisBlurRadiohead聴きまくってたわけではなくて、同時代に彼らと同じような環境で同じような音楽を聴いてきたってことだと思います。
 

—昨年から、David Bowie、Princeをはじめ偉大なミュージシャンが続けて亡くなりましたが、このアルバムを製作するうえで、彼らの死は影響を与えましたか?

 
扇田:David Bowieが亡くなったときは、青春が丸ごと亡くなったかのような喪失感を覚えました。初めての感覚でした。追悼の気持ちを込めて特に好きだったジギー・スターダストを全曲1人で演奏するライブを今年の2月にやったのですが、改めてジギー・スターダストというアルバムの素晴らしさと自分への影響を再確認し、アンサーアルバムを作りたいと思うようになりました。この『I AM』はジギー、そしてDavid Bowieへのトリビュートの要素もあり、僕の個人的なレベルですがジギー・スターダストへのアンサーアルバムにもなっています。そのくらい大きな影響がありました。
 

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思い通りに行かないと嘆く人生から、自分が創っていく人生への転換点を表現

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—“なんにもやる気がおきない”も昔の扇田さん自身を描いたものですか?最初は絶望を歌った曲なのかと思いましたが、聴き込むうちにラブソングと思えるようになりました。どこか暖かな視線を感じます。

 
扇田:僕かどうかは内緒です(笑)暖かな視線を感じていただけて嬉しく思います。なんにもやる気が起きないその人が尊くて。上から目線のさらに上の上の上くらいにある宇宙から目線で歌ってみました。人間が歌ったらダメな曲かと思って(笑)そういう意味では宇宙人的ラブソングです。
 

—“Everything Will Be Destroyed”はタイトルだけ見るとなんにも~同様救いがないように感じますが、アルバムを通して聴くと光が照らされる前の、ステップの状況であることがわかりますね。

 
扇田:そうですね。”Now I Am”というのは宇宙の誕生、気付きの世界ですから、その前にビッグバンが必要でした。ライブではさらに激しく破壊しまくります。僕は実は破壊には救いがあると思ってるんですよ。こないだもライブでこの曲で破壊しまくったら「MCで破壊と言ってましたが、希望を感じました」という感想をいただいたばかりで。やはり意図というか視点が大事な気がしてます。
 

—アルバムがアコースティックが中心なだけに、エレクトリック・ギターによるギターソロが刺激的で曲をひき立たせていますね。

 
扇田:エレキ楽しかったです。フジゲンのセミアコ(Fシュガー改造)にエフェクターはファズだけ、アンプはアキマ・ツネオさんにつくってもらったAKIMA&NEOSの裕太郎オリジナルです。オーバーダビングやりたい放題楽しみました。ただ、弾き語りでライブやることを前提にしてるので、あんまりやってしまうとライブとレコードがかけ離れすぎてしまうと思って本数は少なめにしました。
 

—“Now I Am”は扇田さんの信念、生きざまが詰め込まれた曲ではないかと思いました。この曲で何を伝えたかったのか教えて下さい。

 
扇田:「全ては破壊される」と前の曲で散々言っておきながら、「一箇所だけ壊れない場所がある」という風にこの曲は始まります。その場所を「白い部屋」と名付けました。もう十何年も前ですが、俳優の宇梶剛士さんに日本一富士山がキレイに見える場所があるから行ってみるようにと勧められ、当時の上九一色村にある風の丘というところを訪ねたのですが、そこには渡辺康さんという思想家がいて、「裕太郎ちゃん、あの富士山を見てごらんよ。何の努力もなく、ただある(在る)だけなのに、たくさんの人を惹きつける、人もまたそうで、あるがままでもう完璧なのにね」という話しを聞き、それがこの曲の出発点になりました。そこから「白い部屋」に辿り着くまでにはあまりにも長いストーリーがあるので、簡単には話せないのですが、あらゆる創造の源が全ての人にあって、自分の中のその部屋(ただある、という気づき、富士山のように)を見つけることができたら、自分の人生をクリエイトできる、という決意と救いの曲になっています。思い通りに行かないと嘆く人生から、自分が創っていく人生への転換点を表現しようと思いました。なので期せずしてこのアルバムの終わりは人生の始まりになりました。始めるために作らなければならなかったアルバムとも言えます。
 

—自分はロック・ミュージックで救われたと思いますか?

 
扇田:ロックがなかったらオレの人生は終わってた、とか言ってみたいですが(笑)実際は人生を豊かにしてもらったっていう感じですね。いろんな景色を見せてもらって、たくさんの時間を楽しませてもらいました。恩返ししなきゃ。
 

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歌詞やメロディーがリスナーの意識の中で初めて意味を持つようになって欲しいです
—太宰、漱石、森鴎外~と歌詞にも出てきますが、この曲をはじめとして、アルバム全編洋楽の影響を強く出しながらも、メロディやアレンジに日本人的な繊細さが活きているような気がします。日本人としてのアイデンティティーを出そうと考えていましたか?

 
扇田:僕は小さい頃から外国に行けば日本人だし、日本に帰ってくれば外人って言われ続けたので、あまり国籍に関してアイデンティティーがありません。でも音階や響きへの感覚とか、ビブラートの表情とか、中島みゆきユーミンを聴いて泣いてしまうようなところはあって、そういう日本の文化特有の何かを盛り込もうという意図は確かにありましたし、そこを大事にしました。感じてもらえて嬉しいです。日本人が聴けば洋楽に聴こえて、外国人が聴けば東洋のエッセンスを感じてもらえれば僕らしいのかなと思って。
 

—収録曲は日本語詩の曲が2曲、英語詩の曲が3曲という構成になっていますが、これは当初から意図したものですか?それとも、製作していく上で自然な流れで日本語詩と英語詩の曲が一緒になったのでしょうか?

 
扇田:英語で歌えば国内のライブでは伝わりづらい、日本語で歌えば世界的に見れば分母が小さくせっかく英語いけるのにこじんまりした活動となってしまう。どっちで歌うかというのは長い間ずっと悩みのタネだったのですが、最近はもう何語なのかということは気にしないことにしました。どっちもありにして、ただひたすら楽しもうと思って。なので日本語でストーリーが始まるのは日本を本拠地としてやっていく上で自然な選択ですし、2曲目でロンドンに行ったら英語になって、深い内省は日本語で。破壊や気付きなどロックの本質的な領域は英語のグルーヴが必要だったり、という感じでフィーリングに任せて創ったらこうなりました。最終的には1曲の中に英語も日本語もデタラメに混在するくらいでも良いかなと思ってます。
 

—扇田さんの技量があれば、楽曲のアレンジも、アルバムの構成ももっと複雑な、テクニカルなものにすることもできたと思うのですが、どの曲もなるべくシンプルな音で感情を伝えよう、という異図が感じられます。John Lennonのソロ・アルバムも連想しました。

 
扇田:僕はそもそもあんまり難解な音楽が好きではなくて、The Rolling StonesLed ZeppelinPink Floydが好きなブルースサイケデリックロックの人なんです。そこにジャズやケルトやアフリカンとの出会いがあってこうなりました。Johnはもちろん影響大きいと思いますし、Johnを連想してくれるお客さん多いです。ただ感情を伝えようというのは、実はあまりなくて、逆に感情的にならないように気をつけてます。これは菅田俊さんの東京倶楽部で舞台役者をやらせてもらったときに教えてもらったことなのですが、台詞言うときに役者の事情を挟むなと。本当にそうだと思って。言葉に感情を乗せずに音楽でドラマを起こす。歌詞やメロディーがリスナーの意識の中で初めて意味を持つようになって欲しいです。観客ではなくて当事者になって欲しいんですね。僕がそうしてもらってきたように。そういえばJohn Lennonミュージアムの最後の部屋は白い部屋でしたね。なぜ白い部屋なのかヨーコさんに聞いてみたいです。
 

—このアルバムのキーワードのひとつに”サイケデリック・ロック”があるようですが、扇田さんにとって”サイケデリック”とは何かしら明確なスタイルのある音楽のジャンルですか?それとも音楽に限定せずファッションや精神性を含んだもの?このアルバムで”サイケデリック”をどう表現しようとしたのでしょうか?

 
扇田:僕にとってサイケデリックとは、一言で言うと意識の拡張。そのときのインスピレーションがサイケデリックです。もっとわかりやすく言うと、当たり前、普通、常識、からの脱却というイメージでしょうか。奇をてらうという意味ではなく、思い込みからの開放です。僕らは自分では気づかないうちに思いもよらなかったような《あたりまえ》にとらわれて人生を自分自身ではない誰かのように過ごしてしまいがちですから、決意をもってそこからの脱却にチャレンジしないとせっかくの人生が台無しになってしまうと思って。だから全ての囚われから逸脱した「I AM」、わたしはある、という状態がサイケデリックの終着点だと思ってます。そういう意味ではこのアルバムはこの5曲で清く完結してるんです。このフレームではもう2作目作れません(笑)。
 

—分かります。これだけのアルバムを作ってしまうと、同様のフレームにするにせよ、しないにせよ扇田さん当分次のソロ・アルバムを考えるのは難しいだろうなと思って「ソロ・アルバム第二弾の構想はありますか?」という質問は止めておきました(笑)

 
扇田:いや、また近いうちに作る予定ですよ。フレームを変えて(笑)実は構想だけはもう第三弾まであるんです。でもその前に今はこのアルバムをなるべくたくさんの人に届けたいと思ってますし、多田暁さんとのThe Day Sweet の作品創りも始まったところなので、これも楽しみにしててください。
 

—今後の活動について教えて下さい

 
扇田:ソロの今後の活動は、まず『I AM』全曲をやる「~扇田裕太郎『I AM』リリースパーティー / Swinging Circuit~」というのが始まります。『I AM』はコンセプトアルバムなので5曲並べる必要があって、ライブだとやはり30分くらいは必要で、ちょっと聴いてもらうっていうわけになかなか行かなくて、ちゃんと全曲やるツアーをやろうと思って。都内もたくさんやるのでツアーというよりはサーキットという言い方にしました。10月は原始神母の『狂気全曲再現』ツアーがあり、それと平行してソロライブやりながら、11月にはサーキットの一環で本格的なツアーもやります。公式サイトでチェックしてもらえればと思います。