特集

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TEXT:Kyota Suzuki

国内のロックシーンの最先端を駆け抜け、輝き続けるフロンティアたちの横顔に迫るインタビュー特集「ROCK ATTENTION」。第53回に登場するのはThe Day Sweet。ソロ、原始神母冨田麗香&ザ・ローリング・ジプシーズ等で活動し、第45回に次いで二度目の登場となるシンガー・ソングライター&ギタリストの扇田裕太郎(以下扇田裕太郎)。S-KEN&HotBomBoms米米CLUBオルケスタ・デ・ラ・ルス等を経てTheThrillへ加入し、数多くのアーティストをサポートしてきたトランペッター・多田“GYO”暁(以下GYO)。
 
これまで、様々なバンド形態で活躍してきた2人によるユニットThe Day Sweetが、結成8年にして初のアルバム『You Need It』をリリースした。全6曲。2人の演奏と歌のみで録音されたこのアルバムは、ミニマムな音数でどれだけ深く多彩な表現が出来るか、どれだけ自分をさらけ出せるかという、ヴェテラン・ミュージシャン2人にとっての新たなチャレンジだったといえる。果たして『You Need It』は、The Day Sweetならではの個性が宿った傑作に仕上がった。
 
楽曲によって様々な表情をみせるツイン・ヴォーカル、ギター、トランペットの組み合わせの妙はここでしか聴けないものだし、叙情的であるが、情緒に流され過ぎないソリッドさも備えたサウンドはまさに”オルタナティブ・ポップ・ロック”といえるもの。収録曲6曲全てが代表曲といっても良い存在感を放っている。
 
扇田GYO、そしてプロデュース(レコーディング、ミックス、マスタリング他)を担当した小嶋隆一(以下、小嶋)に話を聞いた。
 
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JK

 
The Day Sweet『You Need It』
 
M01. She’s So Bad
M02. 扉
M03. カタルーニャの夜
M04. 2つの世界
M05. 雨は涙
M06. Sweet Moon
 
2018年9月26日リリース
Apple Paint Factory Records
¥1,800(税込)
販売:ライブ会場、通販
 


The Day Sweet Official Website
http://thedaysweet.com/
The Day Sweet 1stアルバム『You Need It』
http://yagijirushi.com/order/ogidayutaro/
 


原始神母の扇田裕太郎(ヴォーカル、ギター)、元米米クラブ、現在はTHE THRILLなどで活動中の多田 “GYO”暁によるデュオスタイルのプロジェクト。ロック、フォーク、サイケ、プログレ、ジャズ、ブルース、ファンクなどあらゆる音楽を吸収して来た2人だからこそ確立した唯一無二の音楽がここにある。満を持して作り上げた待望のファースト・アルバム!


 
Live Information
 
The Day Sweet『You Need It』リリースツアー
 
▼2018年08月22日(水)@湘南LemoN
「Squeeze My LemoN vol.1」
出演:The Day Sweet(多田暁、扇田裕太郎)、汗と涙、F-Geno
時間:OPEN 19:00 / START 19:30
料金:Music Charge 2,000円(+1D)

▼2018年08月24日(金)@名古屋レイドバック
「The Day Sweet × 冨田麗香 ツーマンライヴ!」
出演:The Day Sweet(多田暁、扇田裕太郎)、冨田麗香
時間:OPEN 19:00 / START 19:30
料金:前売3,000円 / 当日3,500円(+1D)

▼2018年08月25日(土)@大阪茶屋町ボニーラ
「The Day Sweet × 冨田麗香 ツーマンライヴ!」
出演:The Day Sweet(多田暁、扇田裕太郎)、冨田麗香
時間:OPEN 18:00 / START 19:00
料金:前売3,000円 / 当日3,500円(別途1DRINK+1FOOD)

▼2018年08月26日(日)@三重四日市ガリバー
「The Day Sweet × 冨田麗香 ツーマンライヴ!」
出演:The Day Sweet(多田暁、扇田裕太郎)、冨田麗香
時間:OPEN 18:00 / START 19:00
料金:前売3,000円 / 当日3,500円(+1D)

▼2018年08月27日(月)@豊橋HOUSE of CRAZY
「The Day Sweet × 冨田麗香 ツーマンライヴ!」
出演:The Day Sweet(多田暁、扇田裕太郎)、冨田麗香
時間:OPEN 19:00 / START 19:30
料金:前売3,000円 / 当日3,500円(+1D)
チケットぴあ:0570-02-9999[Pコード:124-035]

▼2018年09月10日(月)@福岡キャバーンビート
The Day Sweet「~ You Need It リリースツアー ~ 福岡初ライブ! with New Friends!!」
出演:The Day Sweet(多田暁、扇田裕太郎)、えとぴりか、図鑑
時間:OPEN 19:00 / START 20:00
料金:前売3,000円 / 当日3,500円(+1D)

▼2018年09月11日(火)@福岡しらいんがた
The Day Sweet「~ You Need It リリースツアー ~ 福岡初ワンマンライブ!」
出演:The Day Sweet(多田暁、扇田裕太郎)
時間:OPEN 19:00 / START 20:00
料金:前売3,000円 / 当日3,500円(+1D)

[前売券お申し込み方法]
予約アドレス(公演日、お名前、人数、連絡先を書いてメールください)
thedaysweet@yahoo.co.jp

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The Day Sweet インタビュー part.1 ~扇田裕太郎、多田”GYO”暁 編~

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—アルバム『You Need It』リリースおめでとうございます。素晴らしい出来映えですね!デュオ結成8年にして初のアルバムになりますが、制作を考えたのはいつですか?

 
扇田:2011年の6月に東日本大震災のためのチャリティーライヴが行われて、The Day Sweetで出演したのですが、その時に久しぶりの再会だった小嶋さんにライヴ良かったから録音しないかって持ちかけていただいたのがこのプロジェクトの最初だと思います。ということはあれからもう7年(笑)。
 
GYO:そう、確かに7年前でした。僕は小嶋さんとは初対面でしたが、でも「僕は社交辞令は嫌いだけど…」と言う前置きの後に言ってくれました。
 

—『You Need It』の収録曲は、全てこのアルバムのために書かれた曲なのでしょうか?そのチャリティーライヴの時に演奏していた曲は収録されていますか?

 
扇田:いや、このアルバムのためにというわけではなくて、ライヴをやっていくうちに書いていった曲たちですね。チャリティーライヴの時は全然違う曲をやりました。その時は節電がテーマだったのでマイクもアンプもなしで、その環境で生きる曲を演奏しようという感じでした。
 
GYO:7年前はライブでは主にカヴァー曲をやっていました。
 

—カヴァー曲はどういったアーティストの曲を演奏されていたのでしょうか?

 
扇田:ジャズスタンダードの「Candy」や、BEE GEESの「Melody Fair」等、トキめくメロディーを持った曲だったら何でもやっていました。
 
GYO:The Beatlesの曲もやっていましたね。
 

—今挙げられたようなアーティスト、曲が扇田さんとGYOさんの共通するフェイバリット・アーティストだったのでしょうか?

 
扇田:僕らの共通のフェイバリットは実はJimi HendrixLed Zeppelinということで始めましたが、やってみるとGYOさんは映画音楽や日本の歌謡曲にも明るくて、僕が知らなかった世界をたくさん教えてもらいました。
 
GYO:ジャンルに関わらず、とにかくメロディーのいい曲をやりたいというのが2人の間の共通項としてありました。
 

—ギターとトランペットの男性デュオで、2人ともにリード・ヴォーカルをとるユニットというのは珍しいですね。資料に”UKオルタナmeetsマイルス・デイビス“とありますが、今BEE GEESThe Beatlesも挙がったように、「You Need It」の楽曲はその様々な音楽ジャンルの影響が反映された独自性を持っていると思いました。このクロスオーバーした個性は、意識して作り上げたものですか?それとも、2人が一緒に演奏すると自然に生まれてくるのでしょうか?

 
GYO:とてもシンプルな編成なので、否応無しにそれぞれの個性は出てしまうわけで、そこを大切にライブを重ねてきた結果、自然とこうなったと思います。
 
扇田:そうですね。まずそもそもアコギとトランペットって音楽的にあんまり相性良くないというところがあって(笑)逆に言えばそこが魅力だと思ってます。音楽的に雑多でノンジャンルでもこの編成だととっ散らかった感じしないし、Kyotaさんの言葉を借りるならば逆に尖った意味でクロスオーバーしやすい編成と言えるかもしれません。だからこの2人で演奏すると独自性は自然に生まれてくるものなんでしょうね。
 

—なるほど。Jimi HendrixLed Zeppelinが共通項ということで、お二人の根底にクラシックな洋楽ロックがあるのがわかりますが、それ以外の音楽の影響も各々たくさんあると思います。8年活動してきてお二人の間でThe Day Sweetの音楽の方向性でぶつかったことはないのでしょうか?

 
扇田:元々、The Day Sweetはアーティスト活動というよりは何でもやろうという感じで活動していたので、あんまりぶつかったこと無い気がするなぁ。GYOさんに教わった、という感覚が大きいかも。
 
GYO:そうだね。でも曲を作って聴かせて、ちょっとこれは違うかなってなった曲はやはりありました。お互いに。
 
扇田:うん。でもそれは音楽の方向性の問題ではないですもんね。力があれば何でもOKな気がする。
 

—音楽性について、制限なく自由というのがThe Day Sweetの基本にあるのですね。

 
扇田:そうそう!The Day Sweetは自由!ジャンル云々じゃなくて、響くか響かないかって感じです。
 
GYO:何せ二人きりだから、その自由は限りなく広く、しかも丸裸な自由なんです。
 
扇田:楽器の編成的に制限があるからこその自由だと思います。
 

—お二人の仰る通り、アルバムの収録曲6曲とも各々全く違った方向性で、その自由さがよく表れていると思います。そして同時に、オルタナティブな感覚をもちながら、同時に年代問わず、様々な音楽のファンにアピールしそうな普遍的なメロディーを持ったポップ/ロック・ミュージックに仕上がっているのが素晴らしいと思いました。

 
GYO:出発点から、二人でまず最初はとにかく良い曲、良いメロディーに拘って、カバー曲もそこに拘って選んでやっていました。オリジナルの曲もその延長線上にあると思います。
 
扇田:うん。僕ら2人はミュージシャンである前に大の音楽ファンですから、あらゆる年代の様々な音楽から影響を受けて、たくさんの感動をもらってきました。オルタナティブって《本道を外れた》っていうような意味合いで使われること多いと思いますが、僕からすれば《もう一つの真実》という風に捉えています。真実には普遍性がありますから。alter な native ですよ。もう一つの母国語です。
 
GYO:新しいことにチャレンジはしますが、その普遍性にはこだわっていますね。
 
扇田:だからをジャズやっていても、ロックやっていても、ブルースをやってても母国語。
 
GYO:しかも自分の言葉で。
 

—これだけ多彩な楽曲を収録しながら、破綻せずアルバムにはしっかりとした整合性を感じます。これは、やはり先ほどGYOさんから出た良いメロディー、美しいメロディーをどの曲も持っているのが大きいのかなと思ったのですが?

 
扇田:良いメロディーの解釈には個人差がありますから、アルバムに整合性があるのは一言で言うと奇跡だと思います。なぜか上手くハマった(笑)テーマや方向性は話し合ってないですし。ただ、このアルバムに統一感や構造的な芸術性があるのは、プロデューサーでありサウンドエンジニアでもある小嶋さんの感性によるところが大きいと思います。こんなにシンプルな編成なのに、僕らが演奏中に意図しきれていなかった小さなドラマの数々に、小嶋さんはミックスの段階でフォーカスを当ててくれました。その当て方、フレーミングにある芸術性がこのアルバムを特別なものにしていると思います。
 
GYO:裕太郎の言うように良いメロディーかどうかは聴いたみなさん次第ですが、そう、小嶋さんが音の背後にある僕らの…なんというか、魂のようなものをしっかり捉えて大事にしてくれたからこそだと思います。
 
扇田:うん。魂ですね。
 

—曲順がとても秀逸で、多彩でありながらスムースな流れを生んでいると思いました。ラスト、インストゥルメンタルの「Sweet Moon」で終わるのが良いですね。

 
GYO:「Sweet Moon」を何曲目にするかは、ちょっと悩みました。まだラフも聞いてない段階で、録った感触だけで決めたのですが、結果オーライだったかも(笑)
 
扇田:「Sweet Moon」ラストで良かったですよね。
 
GYO:はい、恐らくこれで正解だったと!
 

—単独で作曲した、お互いの曲を最初に聴かれた時にどんな印象を持ちましたか?

 
扇田:「扉」はGYOさんがこれまで書いた曲の中で最もロックでプログレッシブなフレイバーを感じると思いました。「雨は涙」は王道ですね。《やがて雨はあがる》というフレーズも王道のリリックといえますが、やっぱりこれもこの編成でやることによって独自性が出ます。GYOさんのヴォーカル、すごく合っていると思います。
 
GYO:曲を作るということはとてもパーソナルな行為です。いろいろな可能性がある中で、これが最高!と言う確信がまず大事だと思うのですが、裕太郎の書く曲はその部分がいつも揺るぎないなあと。「She’s So Bad」も、「カタルーニャの夜」も自分にはない感性で、The Day Sweetの為に、という思いが伝わってくる楽曲でした。「She’s So Bad」は、絶対僕には描けない、品の良い洋楽に聴こえましたし、「カタルーニャの夜」は裕太郎の情熱的な部分がよく表現されていると思います。

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—ここで、各曲について少し突っ込んだ質問をさせて下さい。1曲目の「She’s So Bad」の《So Bad》は、凄くいい!イカしてる!の方の意味ですよね?曲の主人公は実在の人物なのでしょうか?

 
扇田:…それは内緒です(笑)もっと言うならば実在するかどうかはわからないけど存在はします。サンタクロースみたいなものです。
 

—CDの歌詞カードを読みながら聴いていて気付いたのですが、《So Bad》と《蕎麦》をかけて、The Day Sweetのライヴ活動のホームであった某蕎麦屋さんへのトリビュートではないかと思ったのですが…?できたら、ちょっとでいいので曲のテーマについて教えて頂けませんか?

 
扇田:そうですね、「She’s So Bad」は、ある女の子のイメージを歌いながら、sobaのイメージがサブリミナル的にフラッシュするように意図して創った変な曲です。多分シュールレアリズムの影響、特にエッシャーとダリが好きなもので、根っこを掘り下げるとそこに行き着く気がします。僕は変であることは普通であることと同じくらい大事だと思ってますので。
 

—なるほど。解説有難うございます!2曲目はGYOさん作の「扉」です。GYOさんの優しさが伝わるヴォーカルが素晴らしいですね。先ほど扇田さんからロックでプログレッシブという話がありましたが、GYOさんこの曲はどのようなテーマで書かれたのでしょうか?

 
GYO:はい…「扉」は、僕なりの応援歌です。僕もそうなんですが、誰にでもあるけれどまだ見えない、あるいは見ないようにしている《未知の領域へ踏み込もう!》というのがテーマです。頑張ろう!とは決して言わない応援歌です。この曲は、確かメロディーが最初に浮かんで、そのテーマを“扉”と言うイメージで歌詞を膨らませていった感じです。もちろん裕太郎のギターを想像しながら。

 

—GYOさんは、自身のリード・ヴォーカルをフィーチュアしたアルバムをリリースするのは今回はじめてですか?

 
GYO:はい、初めてです。
 

—ご自身で「You Need It」におけるヴォーカル・パフォーマンスをどう評価されますか?

 
GYO:僕がトランペットを吹く時にいつも思っていることは、歌うように、歌っているように吹こうと。歌よりも歌のように。でもついにヴォーカルにもチャレンジしてしまったわけですが、難しく、奥深いです。まだまだこれからさらに精進しないと。と、いう気持ちです。
 

—3曲目は扇田さん作の「カタルーニャの夜」。この曲についてのエピソードを教えてください。

 
扇田:ラテン系の情熱、パッション、が輝いて見える時があって、そんなときにカタルーニャの独立宣言があって、革命前夜のバルセロナのナイトクラブに想いを馳せてみました。みんなが正義や自由を振りかざしてる時にこの男は恋をしてしまうんですよ。情けない男の話です。というか、情けない男への応援歌かも(笑)
 

—4曲目は扇田さん作詞、GYOさん作曲の「2つの世界」この曲は人と人の繋がりという普遍的なテーマについて歌いながら、同時に扇田さんとGYOさんの間に起こるマジック、The Day Sweetというユニットのアイデンティティも表現している2面性を持った曲なのかなと思えたのですが如何でしょうか?

 
扇田:自分のソロ作品『I AM』で、自己実現をテーマにとことん掘り下げたので、次は他者や現実世界との関わりをテーマに今いろいろと探求中で、その一環でこの曲の歌詞が出来ました。しかし、メロディーがずっと浮かばなくてGYOさんに投げてみたらあんな素敵な曲になって返ってきました。作詞作曲でこういうバンドならではのマジックが起こったのは嬉しいことでした。
 
GYO:はい。裕太郎の言うように、これは先ず裕太郎が歌詞を書いて、僕に後はよろしく!と。彼から受け取ったメッセージを、恐らく同じイメージを持ってメロディーとして表現できた奇跡的な曲です。仰る通りThe Day Sweetならではの名曲になったと思います。
 

—5曲目はGYOさん作の「雨は涙」 先ほど、扇田さんからGYOさんは日本の歌謡曲にも明るい、とコメントがありましたが、アルバム中最も日本的であり、また意外性のある曲ではないかと思います。歌詞も素晴らしくて、俳句に通じるような厳選された言葉で情景や思いを伝える美しさを感じます

 
GYO:はい、この曲は僕なりのブルース、酒呑みのブルースなんです。以前はこのような曲は照れくさくて書けませんでしたが、何故か素直に出てきたメロディーと、正直な歌詞が出てきた感じです。メロディーと歌詞がほぼ同時進行で生まれました。以前までは洋楽みたいな曲に憧れがあったのですが、今は、特にThe Day Sweetをやるようになってからは素直に出てきたものを信じれるようになりました。
 
扇田:この曲こそ《ザ・多田暁》でしょ。と僕は思います。
 
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—酒呑みのブルース=The Day Sweetのテーマソングともいえますか?

 
扇田:The Day Sweetは全曲そうなんですよ(笑)だからジャンルや音楽性は自由になれるんです。
 

—扇田さんのボトルネックによるソロや、コーラス・ハーモニーが《この曲にはこれしかない!》といいたくなるほど絶妙なマッチングをみせています。楽曲アレンジはどうやって作るのでしょうか?

 
扇田:この曲は、コーラスのメロディーまで含めて完全にGYOさんのアレンジです。よく聴くとメロディーの節々に暁さんならではのテイストが散りばめられてて、独特の個性を感じます。クリエイティブで僕が貢献したのは、アルペジオのボイシングとボトルネックソロくらいですね。こういう歌謡的なメロディーに、強いブルースのフレイバーが欲しくなるのは僕の本能のようなものだと思います。The Day Sweetのアレンジに一定の決まった流れは無いですよ。強いモチベーションがある人が自分の責任で進めます。進む曲もあれば進まない曲もあります。
 
GYO:裕太郎の言うように決まりは全くなく、この曲もそうですが、ただ歌があり伴奏がありソロがある。というのではなく、二人でできるいろいろな可能性を追求しようというのがThe Day Sweetで。その中のひとつの結果がこの形になったんだと思います。
 

—ラストを飾るのは9分を超える長尺曲「Sweet Moon」 何とも形容しがたい個性的なサウンドを持ちながら、映画のサウンドトラックに使われてもおかしくないようなスタンダード感も備えたインストゥルメンタルですね。Led Zeppelinを想起させるアコースティック・ギターと、トランペットの絡みが面白いです。調和したと思ったらぶつかりあったり…。この曲はどうやって生まれたのでしょうか?

 
扇田:これも基本はGYOさんの曲なのですが、中間部は完全なインプロビゼーションなので2人のクレジットになっています。中間部は、ライブの度に毎回違うので是非ライブに足を運んで頂きたいですね。Led ZeppelinPink Floydはもはや僕の血みたいなものですから、意識しないでも影響が出てきます(笑)
 
GYO:そうですね。この曲は、月が満ち欠けるようなその時によって表情が変わる、まさに二人の共演がそのまま曲になった感じです。
 

—インプロビゼーションのパートがロックしていてカッコいいです!《まだいくらでも演奏続けられるけれど、続きは第2章で》みたいな、静かに余韻を残して終わるのが良いと思いました。

 
扇田:あ、そうですか?(笑)録るときはまだ曲順決まってなかったので(笑)でも、はい。第2章も3章も、どんどん続きますよ。曲の終わり方というのは、そのアーティストのテイストが結構出るところですよね。
 
GYO:もちろん続きます!
 

—レコーディングで、新たにチャレンジしたことは何かありますか?

 
扇田:ギターに関しては、特に新しいチャレンジというものはありませんでしたが、歌に関しては小嶋さんの一言から十を汲み取ろうと貪欲な気持ちでした。僕はそもそも自分の歌のディレクションしてもらったことなくて、これが初めてだったので。でも、世の中からはそこそこのキャリアがあるミュージシャンと見られるわけですから、数分数秒毎に進化しながら帳尻合わせる必要があって(笑)だからレコーディング前と今とではシンガーとして別人になったと思います。僕の関わる全アーティストに小嶋さんのレコーディング経験して欲しいと思うくらい。
 
GYO:僕もテクニック的なチャレンジは特にありませんが、精神的にはかなりのチャレンジでした。
 

—レコーディングは楽しめましたか?それとも、大変さが上回ってましたか?

 
GYO:先ほども触れたのですが、精神的なチャレンジを真剣に楽しみました!マイルスの言葉を引用させてもらえるなら、~「何度も録ればいいってもんじゃない・・・・・・。『愛してる』なんて2回も言えないだろ。そう思うときに言わないと!」~まさに小嶋さんも裕太郎も生半可な「愛してる」では許してくれないので(笑)嘘のない音を出さないと…って。
 
扇田:ギターも歌も好きでやってることだし、いつだって楽しいのですが、特にやっぱり一番楽しかったのはさっきも言ったとおり歌に関する気づきがあったことですね。小嶋さんは、メジャーからアンダーグラウンドまでいろんなアーティストに関わって来た人ですし、音を創るだけでなく音楽の在り方について確立した自分の意見を持っていて、責任を取り切る姿勢がある人なので、学ぶことが多くてそういう拘りに触れるのが音楽家としては大きな楽しみでした。
 

—『You Need It』は、お二人のキャリアにおけるどんな位置付けのアルバムになりましたか?

 
扇田:これは1stアルバムですから、僕ららしさ、僕らのアイデンティティを世に問う1枚といえます。同時にこのアルバムのおかげで、僕らとは何か、僕ら自身ようやく見えてきたところもありますので、世の中的にも僕ら的にも、ようやくの始まりの1枚と言えます。
 
GYO:今までいろいろなバンドで、またアーティストのレコードに参加してきた中で、このアルバムはこれまで自分がやってきたことの再確認であり自己肯定であり、また新たな発見であり、さらには出発点でもある。欲張りですがその全てが凝縮された一枚と言えるんじゃないかなと。もちろん裕太郎と、小嶋さんとの共作ですが、自分にとっては歌うことも含めて未知の世界への第一歩だと思っています。
 

—最後に、The Day Sweetの今後の目標をお聞かせ下さい。

 
GYO:The Day Sweet は欲張りで、音楽には収まらない世界観があります。決して高尚なものではなく、日常の中に、人生の中にあるもの。しかしそれが音となり空気を振動させ、さらには皆さんの心を震わせる。そんなことができたらいいなあと、思っています。
 
扇田:ずっと言い続けてるのは、The Day Sweetの目標はDancyuの表紙という(笑)ポジションとしては吉田類さんとか古典酒場の倉嶋さんとか…あ、するとdancyuではないか(笑)ギターとトランペットで放浪の旅。人生のちょっとしたプラスアルファというか、日々の生活で精一杯な今の世の中に、生の音楽で見たことのない世界へ連れて行くという、そんな夜をお届けしたいですね。音楽家としてのどん欲さを突き詰めつつも、美味しいお酒や料理のように、僕らの音楽も、あなたの生活を豊かにする一要素の仲間入り、させてもらうのが目標と言えるかも(笑)。
 

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The Day Sweet インタビュー part.2 ~プロデューサー・小嶋隆一 編~

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—アルバムジャケットが、イギリスのロック・バンドOASISの代表作『Definitely Maybe』をモチーフにしたようなデザインで面白いですね。これは小嶋さんのアイデアだと聞いています。

 
小嶋:あれは、最初からアイデアがあったわけではありません。OASISのことは念頭にないです。ミックス作業をしている時に急に閃いて、音とジャケットのイメージが繋がって見えたんです。元々はOASISよりは、50年代、60年代のジャズのアルバムのジャケットのイメージがあって…。僕にとってジャズってその原点がパンク精神のイメージなんです。ジャズって楽器が歌ってるでしょ?言葉がないのに言葉を感じる。違う言い方をすれば魂というか生き方を感じる。そういう意味では、ジャズは人生の欠片があってこそだと思うんです。それで、当時はモノクロの写真が多くて、楽器と演者が一体化してるんです。恐らく、それはモノクロの特性だと思います。陰影がモノクロの世界を作っている…。陰影ってカラーと違って嘘がつけないわけです。底の浅い人は浅いまま写ってしまうという…。だからまずそのイメージがありました。The Day Sweetならモノクロの方がいいなって…。
 
あとは、The Day Sweetの音楽の根底にUKロックを感じたんですね。僕もUKロックに多大なる影響を受けているからそれを持っている人の匂いって直ぐに分かります。90年代はギターロックが復権した時代で、その中でも特にThe La’sPrimal ScreamHappy MondaysRadioheadBlurOASISは僕にとって最重要バンドです。50年代、60年代のジャズとUKロックが重なったイメージで見えたことがあのジャケットのイメージです。単純にOASISをモノクロにするとどうなるだろうと…。
 
撮影当日、想像以上にピンと来るものがありました。それはやはりThe Day Sweetのパーソナルな部分が最終的にそのイメージの向こう側にいたことが大きいと思います。つまり、2人はそういうことを意識していたわけではなくありのままでしょ。ありのままの2人がそれとは違う何かを発しているわけだから、ジャズのようでジャズでない。UKロックのようでUKロックでないみたいな。それがあのジャケットのイメージになったと思います。
 

—小嶋さんはThe Day Sweetの音楽の何に惹かれたのでしょう?2011年の6月に行われたチャリティーライブの時に、小嶋さんがライヴを録音しないかと2人に持ちかけたのがこのプロジェクトの始まりだったそうですね?

 
小嶋:音楽というのは人間が生み出したテクノロジーの一つだと思っています。音そのものは記号であってそれだけでは何の価値もない。ただ、上手いだけの演奏ならAIでも出来る時代がそこまで来ています。だけど、テクノロジーとしての音楽を駆使すると作品という形で作り手の心を形而下にすることが出来るんです。それができる数少ないアーティストのひとつがThe Day Sweetだと思います。初めてライヴを見た時、直感的にそれをやっている人たちだと感じました。カヴァー曲なのかオリジナル曲なのかはどうでもよくて、それがあるのかないのかが重要なんです。アルバム完成まで結局7年かかりましたが、『You Need It』でそれを証明出来たかなと思っています。
 

—その、作り手の心を形而下にする状態を生み出すために、プロデューサーに必要なものは何だとお考えですか?

 
小嶋:プロデューサーに必要なものなんてないですよ…。魂とか心みたいなものはそもそも形而上のものなので…。それを形があるかのようにする方法として音楽がある。僕にあるのではなくて、アーティストにそれを形にする才能があるかどうかです。僕はただそれを引っ張り出して「ほら、見つけたよ」って提示するだけのことです。才能がない人のものまで形にすることは出来ないです。
 
哲学的なことは大概、形而上のものです。だから、人は日々いろんな悩みを感じながら人生を生きている。音楽って、楽しむのもそうだけど、僕が関わるタイプのアーティストの音楽は、何か身を削った人生の欠片があるんです。The Day Sweetにはその何かを感じたわけです。
 
形而上、形而下という言葉はすぐには分からなくても、よくよく考えるとこの世界は形としては見えないものの方が圧倒的に多いと思います。例えば、喜怒哀楽とか価値観とか心とかはそうだと思います。僕は音楽を通じてそういう形に出来ないものを提示することがアーティストの役割だと思っています。そういう意味で音楽はアーティストとオーディエンスの間にあるイメージを共有するための共通言語かも知れません。
 

—なるほど。よく分かりました。小嶋さんにとって『You Need It』は、アーティストとオーディエンスを結ぶその言語を最も素晴らしい形で表現できた作品になったといえますか?

 
小嶋:なったと言えます。万能薬ではないです。でもそれを必要としている人にとって特効薬になりました。実際、僕自身一番最初にその効能を確かめる立場にいます。プロデュースをする僕が、ミックス、マスタリングエンジニアでもあることは大きいことだと思います。
 

—アコースティック・サウンドではあるけれど、癒し系でもAORでもないというのもThe Day Sweetの音楽の特徴ではないかと思ったのですが?

 
小嶋:アコースティック系って、一歩間違うと癒し系になるでしょう。聴き手もそれを求めるし。でも、The Day Sweetはやはり単なる癒し系じゃないんです。ジャズと同じで歌以外に魂を込められた楽器が存在する。普通は、ヴォーカルがある演奏だと楽器は歌のバッキングになるわけです。ところが、The Day Sweetは全部が横一線で同じ位置にいるわけです。魂のぶつかり合い、あるいは、人生の欠片があっちからもこっちからも浮遊しているみたいな。それって、ジャズ的だと思うんです。GYOちゃんのトランペットなんか正にそう。普通ならボーカルのラインにぶつからないようにラインを選んで来るんだけど、衝動的に当ててくるから(笑) それって、ロックだと思うんですよ。The Day Sweetってその衝動性が面白いって思うんですよね。
 

—その”衝動性”を活かすために、数テイク、パンチインなしでのレコーディングを行ったのでしょうか?

 
小嶋:そうです。レコーディングをするってなると通常は、それまでやってたことを整理しはじめるんです。ライブでやっていたことはスタジオに入ると影を潜めて、ちゃんとした録音をしようとなるわけです。僕は長年の経験でそういうものはつまらないと思っているから、出来るだけライブの衝動性をそのまま残そうと思ったんです。側から見ればすごくいい加減なレコーディングに見えたと思います。だけど、そこが一番肝だったわけです。衝動性を残すのならその閃きこそが一番大切なものだったわけです。だから、録れたと思った時は、あとは僕が何とかするからって言ってどんどん前に進めたわけです。酷いやつですよね(笑)
 

—音楽を聴いていて感動させられるのは、小嶋さんの仰る「身を削った人生の欠片」に共鳴した時なのではないかと思います。The Day Sweetのシンプルな音と曲からは、自分の人生と日常に照らし合わせて様々な想いを巡らすことのできる多くの共鳴ポイントを見付けることができました。

 
小嶋:ありがとうございます。今回のアルバムで伝えたい部分はそこなんです。だから、究極のシンプルを選んだんです。The Day Sweetの音楽を如何に「身を削った人生の欠片」として形而下に出来るか…。多分、それを感じとれる人にはリアルに目の前にその音楽が広がると思います。スピーカーはもちろん、ヘッドホンでも隅々まで見渡して欲しいと思っています。
 
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