特集

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TEXT:Kyota Suzuki

本誌BEEASTが自信を持ってプッシュする太鼓判アーティストの特集、第42弾は冨田麗香(以下:冨田)をご紹介しよう。新譜リリースを控えた2月某日。初めて冨田の路上ライヴを観に、JR高円寺駅の高架下へ足を運んだ。
 
この日、冨田は雨と強風の為に予定より30分遅らせた19:30から演奏をスタートさせた。行き交う人の波。走り去る車のノイズにもかき消されることなく真っ直ぐ響く澄みきった声と、アコースティック・ギターが彼女の武器だ。中島みゆきのカヴァー「時代」から静かに始まった演奏は、MCを挟むこともなくテンポよく曲が紡がれ、オリジナル「どこまでも続く」まで90分間続いた。何か特別な演出があるわけでもない。しかし寒空のなか、高架下という殺風景なステージで放たれる彼女の凛とした佇まいと美しい声に、心から感動し思わず震えた。これが彼女の日常なのだ。
 
アルバム『夢のかけら』は、肉声とギターによる生演奏をアイデンティティーとしてきた冨田にとって、初のフルアルバム作品であり、今後のキャリアにおいて名刺的存在になるであろう傑作である。弾き語りのシンガー・ソングライターという枠を飛び越えた、各々が際立った個性を持つ曲を10曲収録しながら、通して聴くと人間“冨田麗香”が浮かび上がる秀逸な構成になっている。アルバムを代表する名曲「私を照らす愛のうた」を聴けば、表現の仕方が変わっただけで、ミュージシャン冨田の本質はこれまで通りであることが分かるだろうし、その優しくポジティヴな人生観が反映された曲は、路上ライブ同様に多くの人たちに力を与えてくれるのではないかと思う。
 
アルバムのリリース・ツアーを控えている冨田と、アルバムのプロデューサーであり、冨田のバックバンドThe Rolling Gypsysのギタリストでもある扇田裕太郎(以下:扇田)に話を聞いた。
 

E

1st フルアルバム『夢のかけら』
 
http://www.yagijirushi.com/order/tomitareika/index.html
 
dg_04M01. from
M02. 1143
M03. 君のはやさで
M04. 私を照らす愛の歌
M05. HIMAWARI
M06. あぁ、わたしは誰?
M07. ストロボ
M08. あつい夜
M09. どこまでもつづく
M10. 重ねた時間
 
2017.3.5 Release
冨田麗香 品番:UFRC-2001 \3,000(税込)
 


冨田麗香 Official Website
http://tomitareika.com/
 


 

 


Live Information
 
『冨田麗香~メジャーデビュー5周年記念ワンマンライヴ~』
 
▼5月16日(火)東京・秋葉原CLUB GOODMAN
サポート:ザ・ローリングジプシーズ【Gt.扇田裕太郎、Ba.津田悠佑、Ds.森信行】
会場:CLUB GOODMAN
時間:OPEN 19:00 / START 19:30
料金:前売3,500円(+1DRINK別) / 当日4,000円(+1DRINK別)
予約:http://tomitareika.com/index.html#contact

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聴いてくれるみんながずっと私を照らし続けてくれてるんやなぁ

A

—初のフルアルバムのリリース、おめでとうございます!素晴らしい出来映えに驚かされました。今の気持ちを教えて下さい。

 
冨田:私の夢だけじゃなく、関わって下さった方々みんなの夢がつまった素晴らしいアルバムになったんではないかと思っています。嬉しいとかだけじゃなく今までのたくさんの想いがつまっているので、胸がいっぱいです。
 

—以前から、CDのフルアルバムを作りたいという気持ちがあったのでしょうか?

 
冨田:以前はバンドをやっていたので、定期的にCDを作ったりしていたのですが、ソロになってからは曲が出来てもなかなかCDを作るまではいかなくて。いつかはアルバムを作りたいってずっと思っていたのもあったんですが、何より今この年齢の自分の声をちゃんとCDにして残しておきたいと強く思っていました。
 

—これまでライヴを中心に活動されてきた冨田さんにとって、CDのアルバムとは何を意味するのでしょうか?『夢のかけら』というアルバムは冨田さんにとってどんな存在ですか?

 
冨田:アルバムを作る事は、わたしにとっては簡単ではない作業で。ひとりでは弾き語りをするだけが精一杯なので、自分の名前でアルバムを作るという事は自分の大きな夢のひとつでもありました。なので本当に『夢のかけら』は今までのわたしの想いが詰まった大切な存在になってます。
 

—アルバムのレコーディング開始から、完成までは比較的早かったのではないかと思いますが、レコーディングに入るまでの準備期間が長かったと聞いています。何に特に時間をかけたのでしょうか?

 
冨田:準備はわたしよりも扇田さんの方がすごく大変だったと思うんですが。わたしは扇田さんと会って話す度、どんなアルバムにしたいのか、わたしの歌への想い、自分の嫌なところ、今まで起きた悲しい事、嬉しい事、いろんな事を聞いてくれました。とにかくわたしの想いを大切にして作ろうとしてくれたんだと、わたしは勝手にそう思ってます。
 

—アルバムには冨田さんの古いオリジナル曲から、アルバムの為に書かれた新曲まで、幅広い時期の曲が10曲収録されていますが、レコーディングのために準備した曲で最終的に収録されなかった曲はありますか?それとも、きっちり10曲準備したのでしょうか?

 
冨田:古い曲や今までの曲でアルバムに入れたいのは何曲かあったんですが、そのなかから絶対入れてほしい6曲、「from」「1143」「君のはやさで」「あつい夜」「ストロボ」「どこまでもつづく」を選びました。そして新しく書いた曲、柴山一幸さんの曲、扇田さんの曲が集まりました。
 

—「あつい夜」「from」「どこまでもつづく」「ストロボ」 といった、これまでにレコーディングされたオリジナル曲が、プロデューサーの扇田さんによって編曲されて収録されていますが、新しく生まれ変わったこれらの曲についてどのような感想をお持ちですか?

 
冨田:わたしには作れない音、世界観で、レコーディングしていろんな楽器が重なっていく度、とてもワクワクしてました!
 

—アルバムにおける自分のヴォーカルについてどう評価しますか?レコーディングに特に苦労した曲はありましたか?

 
冨田:レコーディング中は少し苦労したというか、今までと違う部分は少しあって。何より毎日のように路上でうたっていたので、ライヴでうたっている事がほとんどで。今までのレコーディングとも少し違う、リラックスしている時の私の声を録音したいと扇田さんは思ってくれたみたいで、とにかくリラックスしてうたうという事を心掛けました。いつもは立ってうたうレコーディングしかしたことなかったけど、今回は全曲椅子に座ってうたってみたり。自分のヴォーカルへの評価はまだまだすごく低いんですが、今回のアルバムの自分の声は力まずリラックスした、本当の私の声。素の私の声を少し出せたんじゃないかなぁと思ってます
 

—「私を照らす愛のうた」は『夢のかけら』というアルバムの核をなす、“冨田麗香”の人生と、ミュージシャン・“冨田麗香”の生きざまが込められた曲ではないかと想像しました。この曲で何を伝えたかったのか教えて下さい。

 
冨田:そうですね。生きざまみたいなものなんですかね。この曲は本当に歌詞そのままで(笑) なんというか、歌詞をうまく書けないけど、誰かに一生懸命歌をうたって伝えたくて。何もわからず、ただ路上でうたう事しか出来ないわたしがひたすらひたすら毎日うたってきたら、いろんな人に出逢い、東京まで来ていろんな人と音楽をやれていて。でもここにおれるのはわたしの歌を聴いてくれる人、いつもわたしを応援しくれるみんながいて。たくさんの悔しい想いや辛い事、怖い目にあったり、いろんな事があったけど、いちばん大好きな歌をうたい、よろこびを感じてまた誰かに歌を聴いてもらい幸せな気持ちになる、、そんな毎日で。最後の最後ギリギリにタイトルも決まったんですけど、聴いてくれるみんながずっと私を照らし続けてくれてるんやなぁっていう想いから、「私を照らす愛の歌」というタイトルをつけました。そして何より辛い事も悔しい事も涙する事もあるけど、ぜんぶぜんぶ意味があるから、わたしは歌をうたう事でよろこびに変えれていて。みんなもどんな時も明日に夢見て生きてほしいなぁという想いも込めてます。
 

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これが“冨田麗香”の出発点、つまり“from”なのかなと

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—ここで、プロデューサーの扇田さんにも登場して頂こうと思います。扇田さんにとっては、『夢のかけら』が初のプロデュース作品という事になる訳ですが……デビュー作にして、いきなり、凄いアルバムを作ってしまいましたね!

 
扇田:ありがとうございます。自分以外のアーティストをプロデュースするのはこれが初めてで、とても良い経験をさせてもらいました。初めてということで不慣れなこともいろいろありましたが、ベストを尽くしました。凄いアルバムって言ってもらえることがなにより嬉しいです。
 

—扇田さんと冨田さんが出会ったきっかけについて教えて下さい。

 
冨田:2年前に原始神母のライヴを観に行って、その時、ベースもギターも弾いて、歌も上手くて、英語の発音も素晴らしくて、この人は何者なんだ!?と思ってすごくびっくりしたんですよね。そのあと共通の知り合いに紹介してもらって、挨拶した時にその感動を伝えました。
 
扇田:原始神母のキネマ倶楽部公演の打ち上げで初めてお会いして、歌を歌っているということでしたので、その頃月一で蕎麦屋で投げ銭ライブやってたので、気軽にいつでも遊びに来てって言ったら本当にすぐに飛び入りしに来てくれました。そうしたら歌が素晴らしくて。しかもその日の打ち上げでカラオケやったのですが、冨田さんなんと3曲連続で100点出したんですよ。僕は100点なんて見たことなかったので本当にビックリして。しかも3曲目は僕とデュエットで「The Rose」歌って100点でしたからなんだか嬉しくて(笑)もう衝撃の出会いでした。
 

—3曲連続で、しかもデュエットでも100点とは奇跡的!(笑)扇田さんと、冨田さんの相性の良さが伺えます。アルバム制作は、冨田さんから扇田さんにアプローチしたと聞いていますが、扇田さんに依頼した理由は何ですか?

 
冨田:実は普段は洋楽を聴いてる事がほとんどで、いろんな大好きなアーティスト達の大好きな曲に夢を描いて曲を作ろうとしても、わたしがギター1本で作る歌はやっぱりフォークソングというか、J-POPにしかならなくて。扇田さんのライヴをいろいろ観に行ってみて、この人にわたしの曲をプロデュースしてもらったら、もしかしたらわたしの曲達もわたしの描いた夢に近付くんじゃないかと思ったので、扇田さんに依頼してみました。
 

—扇田さんは、冨田さんの一番の魅力は何と考えていらっしゃいますか?『夢のかけら』でその魅力を引き出することはできましたか?

 
扇田:僕にとって冨田さんの一番の魅力は声です。昔流行ったf分の1揺らぎみたいな。謎の周波数成分なのか揺れなのかが出ているのではないかと思ってます。冨田さんの声にはなにか麻薬的な中毒性を感じます。あとは誠実というか真っ直ぐなところが魅力ですね。歌も生き方も、こねくり回したところがなく、凛として自然だなあと感じます。あの声を持っている人が自然体で歌っているのですから、どうしようもなく響いてくるものがあります。『夢のかけら』ではなるべくその声をまるごと記録しようとこだわりました。特にマイクの種類や距離や角度など、何通りも試しました。良い声が録れて説得力のあるミックスになったのではないかと思います
 

—なるほど。確かに『夢のかけら』は冨田さんの人間性がそのまま反映されたような、とてもナチュラルで美しいヴォーカルを全編で聴くことができますね。扇田さんと、冨田さんに共通しているフェイバリット・ミュージシャン、若しくは音楽ジャンルは何でしょうか?

 
冨田:ジャンルで言えばロックではないでしょうか。もともとは父の影響でオフコースチューリップ安全地帯、母の影響でテレサ・テン竹内まりやを聴いてたり、小学生からはブルーハーツJITTERIN’JINNJUN SKY WALKER(S)、中学からJUDY AND MARYとあとはその頃流行ったJ-POP、邦楽ばかり聴いてたんですが、20代前半でジャニス・ジョプリンを好きになり、ローリング・ストーンズレッドツェッペリンBBAクリームヤードバーズジョー・コッカーアレサ・フランクリンキャロル・キングシェリル・クロウアラニス・モリセット、いろんな人を好きになり、なかでも自分がソロで1枚アルバムを出すならシェリル・クロウアラニス・モリセットミシェル・ブランチジャニス・ジョプリンのようなテイストのアルバムを作りたいという憧れはずっと持っていたので、扇田さんには伝えました
 
扇田:僕は洋楽の影響が大きいですが、中島みゆきユーミン聴いて泣いてしまうようなところもあって、ジャズやワールドミュージックもかなり深く聴いていてかなり雑食なんです。そういう意味ではお互い雑食同士かなあと思います。でもそう。このプロジェクトを始めるにあたって、最初のミーティングで出てきた名前はシェリル・クロウミシェル・ブランチアラニス・モリセットジャニス・ジョップリンでしたね。そこから始まりました。もうすっかり過去の懐かしいミーティングですが(笑)
 

—アルバムは1曲1曲が異なる個性を持ち、アメリカン・ロック、ブリティッシュ・ロック、ブルース、フォークetc.と様々な音楽ジャンルを内包した多彩な内容になっています。この方向性は、アルバム製作前から意図していたのでしょうか?それともレコーディングが進むうちに、結果的にこうなったのでしょうか?

 
扇田:ある程度は最初から意図していて、マイルス・デイビスとかもそうなのですが、冨田さんのように確固たるサウンド(声)を持っている人はまわりがカラフルだとより際立つのではないかと思いました。それにこのアルバムの1曲目「from」という曲の歌詞の冒頭にあるのですが「まっさらなノート、色鮮やかに描いた、でも雨で滲んだカラフルな街で」それから「でたらめだらけの街に咲いた小さな花」、これが“冨田麗香”の出発点、つまり“from”なのかなと。ですのでカラフルでいてピントのあったアルバムを作ろうと、そしてしっかりと花を咲かそうと、そういう意図です。あとはそれぞれの曲が求めている未来というか、その曲がどうなりたがっているのかを感じながらゆっくりアレンジしつつ、もちろんレコーディングの過程で起こるマジックもあり、そういうのは無視せずに必然ととらえてその都度方向修正をする形で進めました。
 

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冨田さんがこれまでやってきた弾き語りアーティストとしての音楽の集大成にしたかった

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—これだけ多彩な曲を揃えながら、アルバムには整合感があり、スムースな流れを作っています。どの曲でも冨田さんのヴォーカルがナチュラルな美しさをもって響いていますね。以前扇田さんがインタビューで「言葉に感情を乗せずに、音楽でドラマを起こす」と仰っていました。アレンジをドラマティックにし過ぎず、抑え目にしたところがポイントと思いました。この辺の扇田さんの意図についてお聞かせ下さい

 
扇田:ありがとうございます。整合感に関してはなかなか客観的になれなくて、最後まで悩み抜きましたが、マスタリングが終わって全体を通して聴いたときに、ああ、すごく良いアルバムが出来たなあって込み上げてくるものがありました。仰る通りで、僕は音楽表現にアーティストの「事情」は必要ないと考えていて、“冨田麗香”の歌が、聞き手のみなさんの意識の中で初めて花開いてくれると良いなと、どの曲もそういう方向でディレクションしました。ドラマは極力こちらが起こすのではなく、リスナーの中で自由にドラマが起こっても良いように、切っ掛けだけたくさん用意しました。聞くたびにいろんな切っ掛けに反応して今後10年、20年とその時々のドラマを楽しみながら聴き続けて欲しいというのが僕の意図であり願いです。
 

—冨田さんの持つメロディ・センスや歌声は日本人的な要素が強いと思います。ライヴでも、日本のアーティストのカヴァー曲が多いですよね。このアルバムでは、洋楽的なサウンドが随所で生かされていて、歌メロに日本的な叙情性を残しながら、アメリカン、ブリティッシュ・ロック的なダイナミックなサウンドが聴けます。これは扇田さんのインプットが大きかったのでしょうか?冨田さんは、ロック色の濃い曲を歌うことで何か発見したことはありますか?

 
冨田:路上ではいつもフォークというか邦楽ばかりうたってますが、お店でアメリカンポップスをうたってた事もあったのと、ロックを聴く事が多いので、洋楽的なサウンド、ロック色の濃い曲をうたうのはとても自然でした。でもうたうのはわたしなのですごく自然な気持ちのままうたってます。発見した事はロックだとかジャンルを意識する事なく自分らしくうたう事がいちばん歌も曲もアレンジも生きるんじゃないかなぁって思ってます。
 
扇田:僕は冨田さんのメロディーセンスが日本的だとはあんまり思ってなくて、曲によりますが、逆に浮遊感があって面白いと感じてます。いわゆるAメロ、Bメロ、サビ、みたいな曲があまりないんですよ。そうなるとサウンドで展開していくようになるので自然と洋楽的になっていった気がします。ただ歌い回しに独特なものがあって、あの声と相まって琴線に触れるものですから、日本的な気がしちゃうんですよね。でもメロディーだけ音符並べるとあんまり日本的じゃない部分が多いと思います。そしてさらに言うならば、よく洋楽的と言われる日本語のシンガーでも、僕にはあまり洋楽的と感じないことがあったり、英語っぽいと言われる歌い方も、英語っぽく聴こえて来なかったりすることもあります。その点冨田さんの歌はグローバルな響きがあると感じます。どこの国の人でも感動する何かがあると思います。
 

—曲をアレンジする上で、ライヴで演奏されることはどれだけ意識したのでしょうか?ライヴは別のものと考え、レコーディング作品として完成度を高めることを優先したのでしょうか?

 
扇田:ライブでどう演奏するかあまり考えないで作りました。ヤバいです(笑)
 

—そうだったんですか(笑) 流石、扇田さん大胆ですね!

 
扇田:ただ、一つこだわったのは、どの曲もアコースティックギターが入っていて、アコースティックギターがグルーブしてる、ということです。「from」「1143」「ストロボ」「どこまでも~」のようにちょっと派手なアレンジをした曲でも、実はアコースティックギターが根幹で重要なことをやっています。やっぱり冨田さんがこれまでやってきた弾き語りアーティストとしての音楽の集大成にしたかったのと、今後もやろうと思えばいつでも弾き語りでやれるんだよという意思表示も含めてこうしました。でも僕は元々レコードとライブは別物と考えています。ライブでどう響くかは、お楽しみに!
 

—アルバムのサウンド・プロダクションから様々なミュージシャンを連想しました。まず連想したのがジェフ・リンだったのですが、これは扇田さんのアイディアですか?

 
冨田:そうですね。扇田さんのアイデアです!
 
扇田:今回はマニピュレーターにサザンオールスターズ(以下:サザン)で知られる角谷仁宣さんとミックスエンジニアにミスチルの『深海』に関わった平沼浩司さんが参加してくれて、『深海』はニューヨークにあるジェフ・リンのウォーターフロントスタジオで録ったアルバムなのと、僕も角谷さんもジェフ・リンサウンド大好きなので、そういうことをやれるチャンスかと思い意識しました。それと「HIMAWARI」を書いてくれた柴山一幸さんがジョン・レノン大好きなので、ビートルズというか、ジョージ・ハリソンというか、トラベリング・ウィルベリーズトム・ペティーというか、、まあジェフ・リンですよね(笑)
 

—曲と演奏のクオリティの高さもさることながら、立体感があり洗練された音が素晴らしいですね!その平沼さんと、もう一人のミキサーの川口聡さんは、扇田さんと冨田さんにとって、ドリームチームといえる人選だったと聞いています。

 
扇田:ジェフ・リンのウォーターフロントスタジオで、ミスチルのアルバム『深海』(1996)をレコーディングしながら、そのスタジオの詳細をメモして帰って来たのが今回6曲ミックスしてくれた平沼浩司さんです。サザンKinKi Kidsエレファントカシマシ矢野真紀My Little Loverスキマスイッチなどを手掛けるミックスエンジニアで、今回は「from」「私を照らす愛の歌」「HIMAWARI」「あぁ、わたしは誰?」「あつい夜」「重ねた時間」の6曲を聴いてのとおりのクオリティと僕のイメージを超える素晴らしい色彩感にミックスをしてくれました。川口さんは、ブルーハーツクロマニヨンズOKAMOTO’Sを手がけ、僕のアルバム『I AM』もやってくれた人なのですが「1143」「君のはやさで」「ストロボ」「どこまでもつづく」の4曲でパッション溢れるかっこいいサウンドを創ってくれました。冨田さんはブルーハーツの大ファンでしたので、とても喜んでいました。この2人のこのアルバムへの貢献は深く大きく、プロ中のプロとはこういうものかと思い知らされました。
 

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このアルバムがわたしの生きてきた夢のひとつ、“夢のかけら”なんだという想い

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—The Rolling Gypsysのメンバーをはじめとして、多くのミュージシャンがレコーディングに参加していますね。改めて扇田さんから各ミュージシャンについて紹介して頂けますか?

 
扇田:まずドラムは元くるり森信行です。彼とはダイヤモンド☆ユカイさんの打ち上げで知り合って、去年くらいから急速に仲良くなり、2人でフジロックにも出演したり、とても信頼しているドラマーです。それにくるりの『さよならストレンジャー』というアルバムがずっと好きで、アコースティックとの絡み合い具合も今回のアルバムとかぶるところがあり最適かなと思いました。ビンテージのラディックのドラムセットをスウィングさせて、8ビートも16ビートも気持ちよいグルーブが生まれました。
 
今回は僕が原始神母でベースを担当していることもあって、ベースとギターの弦楽器全てを自分で弾こうと思っていたのですが、途中からあまりにも自分のフィーリングが強すぎると面白くないと思うようになり、KINGで長きにわたり一緒にバンド活動をしている津田悠佑にベース6曲とパーカッションを数曲お願いしました。彼はアフリカ音楽に深く傾倒していて、アフリカンのバンドやったり、劇団四季のライオンキングに長きに渡り出演したりしているミュージシャンです。いつもグルーブの深いところにいてくれます。
 
シンセサウンドは角谷仁宜さんと、この曲はストリングスが欲しい、とかピアノのゴーンって音が欲しい、という形でお願いしました。角谷仁宜さんとは家が近所だったこともあり、以前からいつか一緒に何か創りたいと思っていたので、今回はその願いが成就して嬉しかったです。音はさすがにサザンっぽくなりますね。特に「どこまでも~」のサビのグロッケンが来たときは、ああサザンだ!って思いました(笑)ドラムはキース・ムーンなんですけど(笑)
 
そしてホーンセクションですね。レコーディング後半になって、予算がもう少しだけ使えそうだったので、思い切って贅沢して2曲だけセクションお願いしてみることにしました。The Day Sweetでコンビを組んでいる多田暁さんにお任せで。そうしたら彼とTHE THRILLで活躍中の矢島恵理子がバリトンサックスで来てくれることになり、浦和飲み会でご一緒したことがある甲本奈保美さんがアルトサックスで来てくれることになりました。『夢のかけら』セッションのほぼラストを飾る華やかなレコーディングになりました。
 

—柴山一幸さんから提供された「HIMAWARI」素晴らしい曲ですね。冨田さんの声とスタイルにぴったりマッチしていると思います。柴山一幸さんの曲を収録することになった経緯を教えて下さい。

 
冨田:柴山一幸さんとは、2016年11月に柴山一幸さん、扇田さん、わたしで3ヶ所ツアーを回らせてもらいまして、ライヴをして打ち上げで飲んで翌日は車移動でみたいな3日間を過ごしまして、いろんな話をしてたんです。そんななかで、いつかわたしがある方に言われた事を話しまして。「麗香ちゃんはひまわりみたいな存在やから、悲しい事や元気のない事をブログに書いちゃ駄目!」と言われて。それがとてもショックで。ただ自分の好きなように感じるままの日常を書いてただけなんですけど、ひまわりみたいな存在だから、いつも元気なふりしないと駄目なんやなぁと思って。それからあんまり元気のない感じというか、悲しい時やそんな自分のありのままを見せにくくなったんですよね。そんな話をしたので、柴山一幸さんはタイトルに“HIMAWARI”をつけてくれたんだと思います。何より、言葉やメロディー、曲がわたしには作れない、柴山一幸さんの世界で。それがとても素敵で、このどこか切ない気持ちを柴山一幸さんの世界のなかでわたしがうたうとどうなるのかなぁと思いながらうたわせてもらいました。
 

—収録曲の殆どが希望を感じさせる内容の中、唯一「あぁ、私はだれ?」のみ、歌詞も曲調もまだ答えが出ていないような浮遊感があります。この曲は扇田さんが作詞作曲にクレジットされていますが、何をテーマとした曲なのでしょうか?

 
冨田:この曲はわたしが路上でうたう日々の気持ちを話して出来た歌詞ですね。このままでいいのかなぁとか、いつも小さな事を気にして凹んでる自分がいたりして。それでもその気持ちと戦いながらうたいに行ってた時の事とかが浮かぶようなそんな歌詞になってるなぁとわたしは思ってます。
 
扇田:そうですね。この冨田さんにインタビューする形で書いた歌詞ので共作というクレジットにしました。これはライヴでジャムする感じの曲が欲しくて書いた曲です。みんなで束になってグルーヴで突進したいと思って。レッド・ツェッペリンピンクフロイドみたいな変形ブルースをイメージして書き始めましたが、出来上がってみれば、これまで聴いたことがないちょっとサイケデリックテイストな面白いブルースになりました。ドアーズでもローリングストーンズでもなく、この感じ他に聴いたことありますか?ブルースって嘆きというか、基本的に不満を叫びますよね。それで冨田さんと話しするうちに、根本的な不安、つまり「私」とはなにか?みたいな哲学的な感じになっていってそれが面白くて。何か普遍的なテーマになった気がします。
 

—ライヴでのフェイバリット曲「どこまでもつづく」が終わった後に、8秒のブランクがあって始まるラストの「重ねた時間」は、憂えを帯びながら、これまでの人生への感謝と未来への希望を感じさせます。冨田さんの書く曲は、悲しい雰囲気の曲でもどこか救いがあるように思えますが、曲のテーマで何か拘っている点はありますか?

 
冨田:きっとわたしが歌をうたう事によっていつも救われているからだと思います。作るときもどこかに希望を持てるようなものに自然としてしまいます。音楽を聴くときもどんな辛いときも希望や煌めきをいろんな曲、いろんな人から与えてもらって来たからだと思います。
 

—『夢のかけら』というアルバムタイトルが印象的です。最後に、アーティスト冨田麗香にとっての夢を教えて下さい。

 
冨田:わたしが描いて来た大きな夢のひとつを叶える事が出来た『夢のかけら』。何年後、何十年後を見た時には、もっとCDを出していたり、何か夢を叶えているかもしれないと思ったので、このアルバムがわたしの生きてきた夢のひとつ、“夢のかけら”なんだという想いも込めてこのタイトルに決めました。小さな夢もたくさんあるけど大きな夢も叶えて叶える為に頑張って、また夢のかけらをたくさん作りたいです。アーティストとしての夢は、おばあちゃんになってもずっと大好きな歌をうたっていること。大きなこと言えば、それが世界にもひろがってたらいいなぁ。そしてそのときも路上や、人と人との距離が近いところでも大切に大切にうたっていられる自分でいたいです。