特集

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TEXT:児玉圭一 PHOTO:吾妻仁果

国内のロックシーンの最先端を駆け抜け、輝き続けるフロンティアたちの横顔に迫るインタビュー特集「ROCK ATTENTION」。第35回に登場するのは矢沢洋子だ。
 
ソロデビュー時からコンスタントなペースのCD発売と、精力的なライブ活動を通して自らの表現を追求してきた矢沢洋子。2014年7月23日(水)、彼女の通算5作目となるミニアルバム『Lady No.5』がリリースされる。
 
ロックシンガーとしてのアイディンティを探求した『YOKO YAZWA』(2010年)、『Give Me!!!』(2011年)、そしてTHE PLASMARSとともにバンドサウンドのダイナミズムを確立したミニアルバム『ROUTE 405』(2012年)…というように、作品毎にアーティストとして目ざましい進化を遂げてきた矢沢洋子。その彼女がサウンドプロデューサーに父・矢沢永吉を迎えて2013年11月に発表したミニアルバム『Bad Cat』は、これまでの矢沢洋子が見せなかった、ボーカリストとしての新たな側面をリスナーに呈示した挑戦作だった。
 
それから約8ヶ月を経てドロップされる最新作『Lady No.5』はクリアーでシンプルな80年代風サウンドプロダクションが印象的な、前作の作風の流れを汲んだ、グッドメロディあふれるポップな作品に仕上がっている。そして1曲毎に表情を変えて行く、表現者としての豊かなバリエーションを感じさせる矢沢洋子のハスキーなボーカルは、1曲目からあっさりとリスナーの心をつかんでしまうに違いない。
 
今回のインタビューでは、新作『Lady No.5』の制作過程を始めとして、音楽的なルーツ、ライブにかける情熱、意外な交友関係、そして彼女が抱く不安と希望を、正味1時間に渡って聞くことができた。今後さらなる飛躍が期待されるロックシンガー、矢沢洋子の今の声をここにお届けしたい。
 

yazawayoukoa◆矢沢洋子 プロフィール
11月12日生まれ 東京都出身。
12歳で家族と共にL.A.に移住。日本に帰国後、2008年秋にユニットでデビュー。低音からハイトーンまでの安定した歌唱力は聴く者を魅了する。2010年2月から本名での活動を開始。2011年からは、台湾や中国のロックフェスティバルに呼ばれるなど、アジア進出を開始。2011年9月からは、矢沢洋子&THE PLASMARSでのライブ活動も開始。日本全国を始め、ライブを中心に活動中!現在、FM NACK5 79.5MHzにて、矢沢洋子パーソナリティ番組「generock(ジーンロック)」放送中。

 
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—今回、通算5枚目・ミニアルバムとしては3枚目の『Lady No.5』がリリースされますが、まず矢沢さんがこのアルバムに込めたコンセプトやイメージについてお聞かせください。

 
矢沢:はい、今回5枚目ということで…普段はバンドでライブ活動を全国いろいろな場所でやらせていただいているんですけど、自分の中では3作目の『ROUTE 405』が自分のやりたいスタイルだったんです。アルバムの名義も矢沢洋子&THE PLASMARSで、普段一緒にライブを回っているバンドとのアルバムということで。それと比べると、前作の『Bad Cat』は、もうちょっとバンドとは違った…
 

—ボーカリスト寄りの作品で。

 
矢沢:そうですね。正直、前作のリリースのときは自分の中でも戸惑いがあったというか…やっぱり自分の置き場所はバンドマンだと思っているので、今までライブハウスに来てくれたお客さんがどういう反応をするのか、正直ちょっと分からないなと。あと、前作の楽曲はライブで再現するのが難しいんじゃないかなという風に思っていたんですけど、いざリリースされてフタを開けてみると、意外と今まで矢沢洋子という存在を全く知らなかったような層、例えば10代の人たちにアプローチできたかなっていう感覚があります。それからの今作なので…
 

—前作の延長線上なんですね?

 
矢沢:そうですね。4作目の『Bad Cat』からの流れで、ボーカリストとしての自分が表現できたと思います。今回の『Lady No.5』の推し曲というか、タイトルナンバーにもなっている曲は、私が以前からすごく好きなTHE NEATBEATSのボーカルの真鍋崇さんに楽曲を提供してもらいました。これは本当に前からやりたかったことなので、自分的には単純に嬉しいというのもあり…この曲をアルバムのリリースツアーなど今後ライブをすることによってどんな風に進化させることができるのかな?という所が楽しみでもあるし、頑張らなきゃいけないなという所でもあります。
 

—今作を聴いて、ボーカリストとしての表現力の深さをすごく感じたのですが。

 
矢沢:これまで敢えて自分が避けていたところにも今作では挑戦しています。例えば「東京騒音 スクランブル」や「NAKED LOVE」みたいなとても爽快、ポップで、ラブで…みたいな曲って、私は割と苦手としていたというか…等身大の自分よりもだいぶ若い感じがして。だから歌詞は敢えて(自作ではなく)別の方にお願いして…色んな方に書いてもらいました。その中で選んだりちょっと直したりとかは自分でもやりましたが。歌入れのときはまだ「どうかな?」と不安がありましたが、迷っていても仕方がないなと思って、いざボーカルブースに立ってみたら、割とストーンっと歌の中に入ったんですよね。実際、軽く歌ってみて、自分の声をチェックしたときには、意外と「こういう感じもありなのかな?」って。今回のレコーディングではそういう新しい発見もありましたね。
 

—今作は6曲入りで1曲洋楽のカバーがあって、後の5曲はそれぞれ歌の登場人物のキャラクターが違うし、矢沢さんの歌い方も違いますね。曲毎に5つのストーリーを紡いでいる感じがしました。

 
矢沢:そうですね。
 

—その中で、今回はラスト2曲の歌詞をご自分で書いていらっしゃいますね?

 
矢沢:はい。いつも歌詞を作るときって楽曲ありきで、曲をいただいてから自分の中でイメージを膨らませて書いていくことが多いんですけど、今回「Lady No.5」では初の試みで…
 

—詳しく教えてください。

 
矢沢:真鍋さんとの最初の打ち合わせのときに、「歌詞から書いてみたことある?」って聞かれて、「ないです」って答えたら「じゃあ歌詞から書いてみよう」って言われて。それで、最初はやったことがないので、イメージをどうやって創ったらいいのか分からなくて難しいなーって思ったんですが、「まあ、ちょっと頑張ってみるか、せっかくいただいたお話だし」ということで。
 

—結果的には成功したという。

 
矢沢:そうですね。最初に私が書いた歌詞を見た真鍋さんが曲を書いて、それから例えば譜割りの問題などちょっとした部分を直しはしたのですが、ほぼ最初に作った歌詞のままです。
 

—歌詞を書くことは、今後もガッツリ続けていきたい?

 
矢沢:そうですね。やっぱり、書きたい気持ちはあります。最近は前よりも正直、歌詞を書くのが面白くなってきたんです。だからこそ、自分が納得した歌詞でないと歌いたくないと思うようになり、(自ら作詞を手がけた)曲数が逆に減ってきているのですが(笑)
 

—そぎ落とすというか、推敲を繰り返すというか…

 
矢沢:うーん、なんか昔は自分自身が「歌詞って、こうじゃないといけないんだ」という、変に歌詞のルールにこだわっていたと思うんですね。だけど今は、歌詞に絶対はないし、例えば英語をちょっと使いたいときに、「英語が(文法的に)間違っていたって良いんだよ!」みたいな感じな開き直り感が出てきて(笑)。日本語でも「こういう言い回しはしないけど、こういう言葉があっても良いじゃないか」という感じでやるのが面白くなってきたところです。
 

— 歌詞を書き上げるのに時間がかかる方ですか?

 
矢沢:すごく速いときと、すごく遅いときがあります。1時間半くらいで書いちゃうときもあれば、遅いときは学校の宿題みたいに後回し後回しになっちゃうので、気付いたら、10日くらい経っていて(笑)
 

—そしてサウンド面ですが、これは僕の個人的な印象なのですが、今作は全体的に80年代風のサウンドイメージを打ち出していると感じたのですが。

 
矢沢:そうですね。
 

—とてもブライトで、クリアーで、ポップな感じで。それはサウンドプロデューサーの意向だったのでしょうか?

 
矢沢:サウンドプロデューサーの音というのもありますが、私自身がどちらかと言うと80年代のバンドさんが結構好きなので、自分ではそんなに意識していたつもりはないんですけど、ついつい(80年代風サウンドに)寄りがちというか…割と「今風じゃないね、ちょっと昔風のサウンドだよね?」というのは、『Bad Cat』のときもそうでしたが、前々からいろんな方に言われていましたね。
 

—サウンドプロデューサーは、ロサンゼルス在住のベテランセッションギタリストのTOSHI YANAGIさんですね。今回のレコーディングはどこで行われたのですか?

 
矢沢:楽器の音録りはロサンゼルスで行いました。LINEの電話などでやり取りしつつ進めました。元々TOSHIさんは父のバックでギターを弾かれている方で、私もロスに中学校から高校までいたこともあり、子どもの頃から見知っている仲です。私も割と「こうしてほしい、ああしてほしい」ということは気兼ねなく言えたのではないかなと思っています。
 

—作曲もDavid Filce氏を始めとして、LAの方々が多いようですね。

 
矢沢:そうですね。楽曲を集める作業も、今回はかなりTOSHIさんに協力していただきました。
 

—今回のアルバムに、お父様は関わっていらっしゃらないのですか?

 
矢沢:今回も…そうですね、多少は関わってはいます。
 

—それはプロデューサー的な立場で?

 
矢沢:そうですね。前作の『Bad Cat』のときもそうだったんですけど、TOSHIさんとうちの父親が何らかのやり取りをしていました。前作のときは本当に”がっつり”という感じで、常に父がスタジオにいるので私は「ゲッ」って感じだったんですけど(笑)。今年はツアーが春にあって忙しかったこともあり、去年と比べるとそんなにがっつりではなかったですね。私も父も「ああやりたい、こうやりたい」っていうのがはっきりしているタイプなので、どうしても親子だとぶつかることがあります(笑)
 
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—それでは、収録曲に関してのコメントをいただけますでしょうか?まず、1曲目の「Naked Love」から。

 
矢沢:「Naked Love」は、これは冗談みたいな話ですが、曲を聴いたときもレコーディングのときも「まるでTRFみたいだな」って思って(笑)
 

—ダンサブルで。

 
矢沢:そう、ダンサブルで。最初に楽曲を聴いたときは、もっとシンセの音など「打ち込みがすごい!」っていう感じで。ライブハウスで再現するのも難しそうだし、ちょっと抵抗を感じて…これでもかなり削ったんです。ただ、自分自身子どもの頃はTRFのような音楽ももちろん好きで聴いていましたし、こういう曲は今まで歌っていなかったから面白いですね。「こういう曲も私、歌ってるんだ、今!」みたいな。
 

—サビの部分に開放感がありますね。それでは2曲目の「BLACK SUNSHINE」はいかがでしょうか。エスニックというかエキゾチックな感じですが。

 
矢沢:「BLACK SUNSHINE」は今回の6曲の中で一番歌が難しかったですね。ボーカルのテクニックという点で。高音もそうなんですけど、低音から高音への幅が広くて。あと、この6曲の中では一番曲調が重くて、しかもテンポがスローとミドルの間ぐらいの感じだったので、テンションをそっちに持っていくのに最初は苦労しました。歌詞もなかなか決まらなくて。
 

—抽象的というか、文学的な歌詞ですね。

 
矢沢:うーん…なので、難しかった反面勉強になったというか、「BLACK SUNSHINE」が歌えたことによって、また自分の中の表現力が、少しだけかもしれないですけど、成長できたかなと思えました。
 

—それでは3曲目の「東京騒音 スクランブル」。

 
矢沢:これもすごく爽やかですよね。「Naked Love」とはまた違った爽やかさというか、朝のラジオでかけても問題ないような。これも「Naked Love」と同じ感覚で、新しい自分探しというか、開放感がある曲です。ライブで演奏する際も、多少のアレンジを加えたら意外と小さなハコでも映えたりするのかなっていう。
 

—ギターが効いている感じですね。歌詞は上京した人達を応援する内容で。

 
矢沢:そうですね。私自身は生まれが東京で今も東京に住んでいるので、上京という感覚とはもしかしたら違うのかもしれないですけど…。でも、ツアーで大阪や名古屋、北海道、海外など色んな場所へ行く機会が人よりも多い方だと思っていて、それで、どこへ行っても、東京に帰ってきたときに「東京ってすごく東京にしかない魅力があるなぁ」って思うんですよ。ちょっと怖い部分もあるし、お洒落もあって、何でもある街で。
 

—泥臭い部分もありますし。

 
矢沢:そうですよね。で、やっぱりたぶんニューヨークとか、香港とか…それらの国とは違う東京の面白さがあって、東京の良さというか東京に来たときのワクワク感みたいなのは、たぶん何となく私も分かるなぁって。そう思いながら歌いました。
 

—次の4曲目はBANGLESの「Walk Like An Egyptian」のカバーですが、この曲を取り上げたのは矢沢さんのアイディアですか?

 
矢沢:そうですね。前作も前々作でもカバーをやっていたので、今回もカバーを何かやろうとプロデューサーとも話して、この曲にトライしました。今までのカバーした中で一番、歌詞が詰まっている曲なので、「あ、英語ヤバイ」と思いながら…うん、頑張りましたね。
 

—元々お好きな曲だったのでしょうか?

 
矢沢:元々すごく聴きこんでいたというわけではないんですが、とても有名で、誰もが知っている曲じゃないですか。だから今回チャレンジしたいと思って、実現できて良かったです。
 

—前作にはPretendersの「Don’t get me wrong」とJackie De Shannonの「Breakaway」のカバーが収録されていましたね。これからもカバーをやっていくのでしょうか?

 
矢沢:そうですね。リリースしていない曲でも自分のライブで色んなバンドさん、アーティストさんの曲をやっていますし、将来的にはカバーアルバムみたいなものも作れたら良いなぁと思っています。
 

—続いてはアルバムタイトル曲の「Lady No.5」。

 
矢沢:「Lady No.5」は先程も言った通り、真鍋さんの持っている世界観と自分の歌詞が上手い具合にマッチできたんじゃないかなと思っていいます。この曲のプロモーションビデオにもTHE NEATBEATSに出演してもらいます。どういう風になるのかワクワクです。
 

—この曲は今作の中ではストレートなロックという感じですね。ご自分でもお気に入りでしょうか?

 
矢沢:お気に入りですね、一番。ライブでもやりたいと思っています。
 

—歌詞の中に「この香りに似合う女になりなさいと子供の頃いっつもママに言われてたわ」という一節がありますが、これは実際、お母様に…

 
矢沢:そうですね。この歌詞は本当にうちの母そのものみたいな感じですね。母自身、香水はシャネルの5番をつけていて、私が言うのもなんなんですけど、すごくお洒落で、突き抜けたロックな女性で…。私だけじゃなくて、どんな子でも母親って幾つになっても憧れの対象じゃないですか。そういう思いでこの作品は作りました。
 

—矢沢さんご自身、普段もシャネルの5番を着けているのですか?

 
矢沢:母はつけていますね。私は、やっぱり凄い憧れの香りだからこそ、何となくまだ自分には早いような…。
 

—大人の香りというか。

 
矢沢:んー、大人…私もすごく若いわけじゃないんですけど(笑)。たまに良い所に家族でご飯に行く、みたいなときにはつけてみたりするんですけど、フランクに友達と遊びに行ったり飲みに行ったりするときには、まだ私はシャネルの5番じゃない気がすると思って(笑)
 

—PVの仕上がりが楽しみですね。それでは、ラストナンバーの「ガラクタ」です。こちらは恋人に詰め寄る女性が描かれていますね。

 
矢沢:弱さゼロみたいな感じの、タフな女性ですよね。今までは女性が主人公の曲を書くときに女性ならではの弱さや妖艶な魅力、優しさをかなり濃く書いて来たつもりです。でも今回は、シンプルに強くタフな、「浮気されたらぶん殴る」みたいな強すぎる女性もたまには良いかなと思って書きました。
 

—もしかしてこの歌詞は実体験ですか?

 
矢沢:いや、実体験ではないです(笑)。イマジネーションです。
 

—今作の録音期間はどれくらいでしたか?

 
矢沢:フルアルバムではないので、本来だったらボーカル録りが10日から2週間くらいで録れたらという想定でしたが、ちょうどその時期に私がまさかの体調不良を起こしてしまって…その直後にツアーと、矢沢洋子&THE PLASMARSの女人版、バックバンドが全員女性プレイヤーというガールズバンドでの初ステージを控えていたんですよ。それのスタジオ作業があって、練習をいっぱいしなくてはいけなくて…そんなテンヤワンヤのときだったので、なんだかんだでレコーディングが延びて、結局1ヶ月以上かかりました。
 

—レコーディングの時期自体は、前作から短いスパンですよね。

 
矢沢:前作は昨年11月にリリースしたので、自分の中で今回はかなり早いペースでしたね。
 

—これからも、半年毎にミニアルバムをリリースしていくのですか?

 
矢沢:どうなんだろう?逆にすごく温めて、1年半くらい出さなくても良いのかなという気もするんですが、でもやっぱり、こうやってコンスタントに何かしら活動していると、お客さんも安心してくれるし、ライブハウスに来るきっかけを作りたいという意味でも、そんなに期間を空けすぎずに適度なペースでやっていきたいと思います。今年も9月からリリースツアーを開催予定です。
 

—ライブといえば昨年と今年の2年連続で「NAONのYAON」にご出演されましたが、オーディエンスの反応はどうでしたか?

 
矢沢:「NAONのYAON」って本当に女性だけで、ずっとやっている大先輩たちも立つ場所じゃないですか。そんな中で、去年も今年も私は1曲のみの出演だったので、その1曲だけでどういった形で自分の存在を残していけるか、爪跡を残せるかということを考えました。去年びっくりしたのは、すごいアウェイなんだろうなと勝手に想像していて、そういうときってステージに立った瞬間に「もう、やろう!」という謎の覚醒状態、スパーク状態になるんです。
 

—なるほど。

 
矢沢:だから今年も気付いたら第一声目でもうお客さんを煽っていましたね。そうしたらお客さんがみんなレスポンスを返してくれたので、とっても暖かいなぁ「NAONのYAON」はと思いましたね。普段の自分らしく、のびのびできましたね。
 

—その際に共演アーティストの中で印象深かった方はいらっしゃいますか?

 
矢沢:やっぱり皆さんすごいなーっていう方ばっかりですけど、その中で主催者でもある寺田恵子さん、SHOW-YAの皆さんは印象的でした。寺田さんのハイトーンから出る声は圧巻です。女性ボーカリストって男性ボーカリストと比べると、年齢を重ねるにつれて声が変わりやすいと思うんですよ。どうしても昔のキーが出なかったりとか、声を保つのは難しいことだと思います。けれども寺田さんはもう、ブワーッと声が出るし、やっぱりパフォーマンス力もすごいし。あと、あんなに大人数が出演しているのにオープニングアクトの方から1人1人の名前をしっかり覚えていて。寺田さんがいる限り、日本の女のロックは大丈夫だなと。華奢な方なのに、オーラというか持っているパワーがとてつもなくでっかいお姉さんだなって思いました。
 

—矢沢さんは声や喉の状態を保つために何かやっていらっしゃいますか?

 
矢沢:私はあまりしていなくて…お酒もとても好きだし。最近はちゃんと、ライブの日は喉ケアの吸引器を使うようになりました。発声練習もしています。
 

—ライブ中に飲んだりは?

 
矢沢:ライブ中は飲まないです。ライブ後の打ち上げでは飲みますけど。
 

—ライブ前も飲まないんですか?

 
矢沢:はい。ライブ前に飲める人がうらやましいですね。以前一度だけ、慣れたライブハウスということもあって、調子に乗って「今日は本番前だけど飲んじゃおうかなー」と飲んだら、ライブ直前に頭から歌詞が飛んでしまって…結局、歌い出したら全然大丈夫だったんですけど、もうあのときの恐怖は感じたくないですね。
 
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—それでは、今回BEEASTのインタビューは初登場ということで、これまでの矢沢さんのご経歴をお訊きしたいと思います。まず、小さい頃はどんなお子さんでしたか?

 
矢沢:小学校の頃は、ひょうきんな子でしたね。そこは今でも変わっていないのかもしれませんが。人を笑わせることが好きだったり、歌うことも好きだったし、目立ちたがり家でした。変わった子というか、道端でも大声で歌ったり踊ったりしていましたね。
 

— 一人遊びが得意でしたか?

 
矢沢:でも、私にはすぐ下に弟がいて、さらに下にもいて兄弟が割と多いこともあって…小さい頃にずっと住んでいた家のご近所は同年代の子どもたちが多かったので、学校から帰ってきてみんなで商店街に一輪車で行ったりとか、そういう意味では活発でしたね。学校でも、みんなでドッジボールをしたり、缶蹴りをしたり…そういうことが好きでしたね。
 

—すくすくと育っていったのですね。それから12歳のときにお父様の仕事の都合でロサンゼルスに移り住んだわけですが、LAでの生活はどうでしたか?

 
矢沢:LAのときは、最初は英語が全くできない状態で行ったので、「ああ、嫌だな、日本に戻りたいな」という意識が最初の2年ほどありました。でも、徐々に友達ができて、英語もちょっとずつ分かるようになってきて、そんな中で、中3のときに1年だけ全寮制の学校に入ったのですが、そこでさらにアメリカの文化に慣れることができました。でも日本人の同級生と仲良くすることが多かったせいで、英語はそこまで発達せず、みたいな(笑)。だけど、いまだに頻繁に連絡を取り合っていて、良い仲間と出会えたなと思っています。
 

—LAには高校卒業まで住んでいたそうですね。現地でライブは観ましたか?

 
矢沢:それが、行ったことがなくて…LAでは、向こうではいわゆるライブハウスは21歳以下だと入れないので。いわゆる夏フェスに初めて行ったのが17歳くらいのときだったかな。それも夏休みで日本に一時帰国した際、横浜国際総合競技場で行われた『THE ROCK ODYSSEY』に行って。
 

—お父様もご出演されましたね。あとTHE WHOとか。

 
矢沢:出てましたねー。それで当時好きだったRed Hot Chili Peppersとかを観て。それが初めて行ったフェスです。考えてみると、たぶん父親の以外でちゃんと観たライブはその『THE ROCK ODYSSEY』が人生初だったと思います。
 

—それでLA生活を終えて、進学のために帰国されるわけですね?

 
矢沢:そうです。私が中高生の頃、日本国内の同世代ではヒップホップやラップが流行っていたこともあり、日本のロックバンドについては情報が入ってこなくて、ほとんど知りませんでした。その後18歳で帰国してちょっと経ってから、日本のバンドというか、パンクだったりロックだったりとかを友達に勧められて知るようになりました。「このバンド面白いんだよ」っていう感じでCDを貸してもらって。だから、聴き始めたのは割と遅かったですね。その当時聴いていたのはパンクロックが多かったです。そんな中で、自分もバンドをやるようになって…
 

—その頃は洋楽・邦楽問わず聴いていたのですか?

 
矢沢:洋楽も聴いていましたが、特に私が食いついたのがめんたいロックだったんです。The Roosters。あと、シーナ&ザ・ロケッツTHE MODSとか。そのあたりが面白いなって思って。それから、やっぱり甲本ヒロトさんも好きです。
 

—The Roostersは初期の頃がお好きですか?

 
矢沢:そうですね。The Roosterzも好きですが、やはりThe Roostersの方が好きですね。去年の6月、私がDJをやったイベントに大江さんが弾き語りで出ていて、思いきって話しかけさせていただいたら、大江さんから「実は、今度自分の55歳の誕生日イベントがあるので、出てもらえますか?」って誘っていただきました。そのイベントで私は「Case Of Insanity」と「どうしようもない恋の唄」と「C.M.C」の3曲を歌わせていただきました。
 

—大江さんに曲を書いてもらうというのはいかがでしょう?

 
矢沢:ええーっ、書いてもらいたいですよね!書いていただけたら、そんなに嬉しいことはないです!
 

—矢沢さんにとっての精神的支柱は何でしょう?これがあるからやって行けるっていう。

 
矢沢:私は、やっぱり…ライブをやっているときが本当に楽しい。ライブやライブ後の打ち上げを通して仲良くなれるバンド仲間や先輩、そういう今の自分が置かれている環境が、たまらなく好きですね。
 

—矢沢さんは、上の世代の方々と共演されることが多いようですね。

 
矢沢:多いですね。たぶん、20代の女性ボーカルのバンドだったら私が一番多いとハッキリ言えるくらいに。仲良くしてもらうのは年上の人が多いですね。
 

—かわいがられているんですね。

 
矢沢:かわいがってくれているのかどうかは、さておきなんですけど(笑)。ニューロティカが去年、『ラフィンノーズ×ニューロティカ・ツアー』に呼んでくださって、そこからまたバーンっと(人脈が)広がっていって…よく意外だと言われますが、2014年初ライブで共演したのがロリータ18号で、今年既に2回共演していますが、今後もう2回一緒にやるんです。そうやってどんどん広がっていく感じが楽しいですね。
 

—同世代のミュージシャンで交友の深い人はいますか?

 
矢沢:同世代のミュージシャンだと、このあいだTHE PLASMERSの女人版でギターを弾いてもらったキノコホテルイザベル=ケメ鴨川さんとはすごく仲が良いですね。非常に面白い方なんですが、彼女は歌謡曲とかフォークが好きで、ギターを弾き始めたきっかけが吉田拓郎さんで、中学のときに親にギターを買ってもらって、グループサウンズも好きで…なんか、そういう今時っぽくないところが、私が彼女に惹かれるゆえんですね。
 

—馬が合うんですね。

 
矢沢:馬が合いますね。すごく影響されていますね、彼女に。
 

—今、一番欲しい物はありますか?物理的な物でも精神的な物でも良いんですが。

 
矢沢:欲しい物…コレクションするのが結構好きで、ここ何年かでずっと集めているのが、ブタの貯金箱です。形態は世界共通で、色合いにお国柄が出ているのが面白いんです。例えば、スペインだと色づかいが情熱の黄色と赤色で、フラメンコの女の人が描いてあって。ロンドンは、やっぱりあの長い帽子を被った衛兵が書いてあって…そういう国別の表情があるのが面白いので、トコトン集めようと思っています。だから自分が旅行へ行ったときはもちろん、友人が旅行へ行くときにも「お土産何がいい?」って聞かれたら、「もし、あったらブタの貯金箱を宜しくお願いします!」って頼みますね。このあいだ数えたら、ようやく50個くらい集まりました。床に置ききれなくなって、最近コレクション棚に収めるようにしました。
 

—それが楽しみなんですね。それでは、逆に今一番怖いことって何でしょう?

 
矢沢:怖いこと…怖いことは自分の将来!あはははは!その…何で怖いかっていうと、自分の置かれている環境が子どもの頃から本当に恵まれているな、恵まれ過ぎているくらいに恵まれているなと思っていて…で、今も本当に私、やりたいことしかやっていないなというのを、自信を持って言えるんですね。だって、歌が好きでこの世界にいて、ライブが好きでやらせてもらって、好きな仲間がいて…そうすると「絶対いつか落とし穴があるに違いない」と思っていて(笑)。女なので、将来的にはやっぱり結婚もしたいし、子どもも産みたいし、とか欲張りでもあるから、全部は手に入らないかもしれないと思ったときに…
 

—思い通りにならないという事態に直面したときに…

 
矢沢:だから、これから初めて大きな挫折を経験するとき、自分がそれに耐えられるだけの精神力というか強さをこの数年で、何なら今すぐにでもちゃんと作っていかなきゃいけないなと、ふとしたときに思って震えています。
 

—今までは、それ程に大きな挫折は経験されていないのですか?

 
矢沢:いや、何か「あー!もうっ!うまくいかない!」みたいなことはもちろんあったりするんですけど、ちょっと経てば忘れるというか、あんまり気にしないので。鈍いのかもしれないですけど。
 

—そういうのは自分の力で突破していくというか…

 
矢沢:力…力っていうか、みんなに助けてもらってるんですよね。あとは自分が楽観的だから「何とかなるだろう」って。
 

—なるほど。それでは、ニューアルバム『Lady No.5』がまもなくリリースされるわけですが、改めて、これから矢沢洋子さんを初めて聴く方々と読者の皆さんにメッセージをお願いします。

 
矢沢:私の音源を聴いたことのない人や、ライブを観たことがない人もまだたくさんいると思うので、一度で良いからライブハウスに足を運んでもらいたいなと思います。ライブハウスの魅力や面白さを、例えばイベントだったらいろんなバンドが出るので、自分の好きな音楽の発見の場にもなるし、これからの季節は夏フェスもあるし。そんな中で、自分、矢沢洋子はこういうジャンルで、スタイルでやっていますっていうのも観てもらえたらなって思います。
 

—ありがとうございます。最後に矢沢さんの座右の銘がありましたら、教えてください。

 
矢沢:えっ、座右の銘!?座右の銘……座右の銘と言えば…あっ、そうか、「人生を楽しむ!」楽しみましょう。あと、「やりたいと思ったこと、実現したいと思ったことは、口に出して言いましょう」。意外と叶います(笑)
 
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「歌声に自分の意志とエモーションを注ぎ込めることができるシンガー、矢沢洋子」――それが最新ミニアルバム『Lady No.5』を一聴して、ふと抱いた僕の感想だった。そしてインタビューでの質問に対して、言いよどむことなく饒舌な口調で話す彼女を目の当たりにして「この人は、やっぱり歌を唄うために生まれてきたんじゃないかな」とも思った。
 
誰もが指摘することかもしれないが、矢沢洋子の最大の武器は、明らかにその「声」である。聴き手を自分の世界にあっけなく引き込んでしまう、大いなる情動をたたえたその表情豊かなハスキーボイスの魅力は、今作『Lady No.5』においてもいかんなく発揮されている。このいかなるジャンルにも限定されない広いサウンドの門口を持ったミニアルバムと、彼女のメインミッションである精力的なライブ活動によって、矢沢洋子の音楽世界と新たなファン層はこれからさらに広がるに違いない。
 

◆リリース情報
ニューアルバム『Lady No.5』

2014年7月23日(水)発売
GRRC-20005 1,667円+税
<収録曲>
M01. NAKED LOVE
M02. BLACK SUNSHINE
M03. 東京騒音 スクランブル
M04. Walk Like An Egyptian
M05. Lady No.5
M06. ガラクタ


◆矢沢洋子 公式サイト
http://www.yokoyazawa.com/
 
◆ライブインフォメーション
「The Guitar Crusaders」~2014~
・2014年07月30日(水)【下北沢】CLUB Que
・2014年08月06日(水)【下北沢】CLUB Que
・2014年08月10日(日)【川 崎】CLUB CITTA’
・2014年09月21日(日)【浜 松】MESCALIN DRIVE
・2014年09月23日(祝)【秩 父】ladder ladder
・2014年09月26日(金)【新 潟】GOLDEN PIGS BLACK STAGE
・2014年09月27日(土)【米 沢】LIVE-ARB
・2014年09月28日(日)【仙 台】FLYING SON
・2014年10月13日(祝)【渋 谷】aube
 


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