特集

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TEXT:矢沢隆則

Photoその日、大阪城ホールへ続く城天ストリートは1万人を超える人であふれかえっていた。2013年3月3日、ガールズバンドSCANDALが、結成当時からの夢である大阪城ホールでのワンマンライブを、ついに現実のものにしたのだ。
 
さかのぼること6年前、4人は大阪に拠点を置くダンス&ヴォーカルスクールに通っていた。安室奈実恵SPEEDに憧れるごく普通の中高生だった。そんな彼女たちにある日、スクールの先生が「バンドやってみたら?」と楽器を勧めた。バンドって何?ロックって何?でも、面白そう!疑問符と好奇心からのスタートだった。最初の居場所は大阪城ホール前にある“城天”ストリート。そこで路上ライブを始めた。観客ゼロ。誰ひとり足を止めてくれなかった。それでも夢だけは大きかった。「いつかあの大阪城ホールでワンマンライブをやりたい!」目の前にそびえ立つ巨大な建物を指さしながら彼女たちは言った。
 
怖いもの知らずの4人が初めて持った夢。もちろん根拠も自信もなかった。だが、その夢を言葉にしながら、ひたすら楽器を練習し、詩を書き、曲を作り続けた。振り返ればシングル14枚、オリジナルアルバム4枚。数えきれないメッセージを送り続けていた。そこには先入観にとらわれない強さ、“むき出しのロック”があった。並行してライブもやり続け、共感してくれた人たちとの接点を何よりも大切にした。ライブハウスツアー、ホールツアーと段階を踏みながら、一年前にはガールズバンド史上最速で日本武道館でのワンマンライブも成功させた。
 
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そして迎えたこの日、かつて誰ひとり足を止めてくれなかった路上に1万人を超える人が集まった。城天ストリートから大阪城ホールへ。彼女たちの夢を一緒に叶えるファンが長蛇の列を作った。15時開場。いよいよだ。
 

 
ロビーにはスタンド花がびっしりと並んでいた。その数の多さが特別な日であることを物語っていた。アリーナに入ると遠くに見えるステージが白幕で覆われていた。これまでもイベントや番組収録で何度か大舞台に立っている彼女たち。だが、大阪城ホールだけなぜか縁遠かった。まるでこの日のためにとっておいたかのように…。
 
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開演の16時が近づいてきた。白幕の中でローディが最後のサウンドチェックを始めた。その音に耳を傾けながら、皆が夢舞台の始まりを待ちわびた。すると、堪えきれなくなった誰かが手拍子を始めた。そのリズムはやがて客席全体を巻き込み、彼女たちを迎える呼び水となった。その時だった。場内が暗転しステージを覆っている白幕に映像が映し出された。それはオープニングへの導線。目まぐるしく展開する映像を観客は食い入るように見つめた。もうすぐ始まる…皆の期待が最高潮に達したその時、今宵のライブタイトル「Wonderful Tonight」の文字がスクリーンに大きく映し出された。そして次の瞬間、薄暗い会場に「SCANDAL BABY」のイントロが鳴り響いた。
 


ハーモニクス、ハイハット、ベースの順に各パートが加わっていく。そして「Let’s Go!」の掛け声とともに白幕が落ちライブスタート!まばゆいばかりの照明が演奏する4人を照らし出した。ホール中にこれまで聞いたことのない歓喜の声が響き渡り、1万人がリズムに合わせ腕を振り上げた。ステージ上にはその光景を笑顔で見渡すHARUNA(Vocal & Guitar)、噛みしめるようにカッティングをするMAMI(Guitar & Vocal)、早くも涙目のTOMOMI(Bass & Vocal)、毅然とリズムを刻むRINA(Drums & Vocal)、夢舞台に立つ4人の姿があった。客席では多くのファンが涙していた。中には嗚咽を洩らす人もいた。無理もない。この場にいる全員が彼女たちの夢を一緒に追いかけてきた仲間、そしてこの日のライブを成功させるために集まったSCANDAL第5のメンバーなのだから…。
 
 

2曲目は「スペースレンジャー」。5年前の同日にリリースしたインディーズデビュー曲だ。この時、TOMOMIの目つきが変わった。泣き顔から一転、気持ちを立て直すかのような凛とした表情でステージ下手側に向かって行った。一方、MAMIは上手側に歩みを進めた。まるで今日来てくれたファン一人一人の顔を目に焼きつけんとばかり客席の端々にまで目線を配った。勢いは3曲目でさらに加速。始まった曲は2011年7月リリースのシングル曲「LOVE SURVIVE」。MAMIがステージ中央に移動し、得意のオクターブ奏法でイントロを奏でた。BPM190、バンド史上最速ナンバーで観客を引きつけると早くも汗だくのファン多数。あっという間に冒頭の3曲が終了し、暗転した会場を余韻とともにざわめきが支配した。
 


しばらく間があったのち、HARUNAが「こんばんは、SCANDALです!SCANDAL大阪城ホール2013 『Wonderful Tonight』へ、ようこそ!」と挨拶した。その表情は実に晴れやか。客席からは「おめでとうー!!」と祝福の声がとんだ。そしていつもの決め台詞「ここにいる皆で最高の夜にしようねー!!」で締めると、観客から大歓声が起こった。次の曲は「星の降る夜に」。この曲は5枚目のシングル「瞬間センチメンタル」のカップリング曲でTOMOMIの高速ランニングベースが光る曲。まるで客席を掻き回すかのような挑発的なリズムが特徴だ。曲中、ステージ前方に何本もの火柱が上がり、曲の世界観をあと押しした。
 
 

5曲目はそのシングル曲「瞬間センチメンタル」。畳み掛けるようなイントロと疾走感あふれるこの曲は、アニメの主題歌として制作されたこともあり、海外ファンの間に最も浸透しているナンバー。ライブの定番曲でもあり、これまでセットリストからほとんど洩れたことがない。続いて演奏されたのは2009年6月にリリースされた3枚目のシングル「少女S」。この曲は第51回「輝く!日本レコード大賞」新人賞を受賞した曲で、制服姿でずぶ濡れになるMVが話題になった。7曲目はオレンジレンジNAOTOプロデュースによる「太陽スキャンダラス」。昨年の7月にリリースされた比較的あたらしい曲だが、無条件で盛り上がれることからライブの定番曲になりつつある。
 
7曲目まで演奏が終わるとメンバーがステージから姿を消した。大音量のSEが流れスクリーンの映像と照明が目まぐるしく変化した。一体何が起こるんだ!?固唾をのむ客席。しばらく間があったのち、突然RINAがステージ最上段にせり上がって登場した。アイドル顔負けの衣装に女性ファンからはカワイイー!という声があがり、男性ファンからは笑いが起きた。歌い始めた曲は「恋のはじまりはダイエット」。HARUNARINAによるバンド内ユニット、アーモンドクラッシュの曲をここで初披露した。これまでもライブで必ずアトラクション的なコーナーを用意してきたSCANDAL。でもまさか、この曲をこの場所で披露すると予想した人がいただろうか。こんな意表を突いた展開が隠されているところも、彼女たちのライブの大きな魅力だ。
 
 

歌い終わったRINAがステージから姿を消すと他のメンバーがハンドマイク片手に現れた。先程までのカラフルな衣装とは一転。黒とシルバーというクールな出で立ちだ。HARUNAが「改めて私たちのホームタウン、大阪へようこそー!」と言うとファンは歓声で答えた。ここからはメンバーによるトークタイム。城天で路上ライブをやっていた頃の思い出話に花が咲いた。TOMOMIは雨が降ってライブが中止になった日、屋台で売っている焼きそば1パックをメンバー4人で突きながら食べたこと。MAMIは合宿の際、雑魚寝しているとTOMOMIの寝相が悪くて苦労したこと。そして衣装替えを終え途中から加わったRINAは、この日も城天で路上ライブをやっているバンドがあり、その中に自分たちのコピーバンドがあったらしいと話した。
 


するとここでHARUNAが「私たち昨日から大阪入りしてたんですが、みんなでストリートライブのことを話していたらどうしても“あること”をやりたくなって昨日こんなことをしてました」というと、両サイドのスクリーンにVTRが流れ始めた。そこには彼女たちが“ナース女学院”なるバンド名でライブをやっている模様が。なんと6年越しの大舞台を控えた前夜に、大阪のライブハウスでゲリラライブをやっていたというのだ。その理由は初心を思い出したくなったから。RINAは「機材もライブハウスの物を借りてやって、スタッフさんも誰もおらんでメンバーだけでセッティングして、その感じも懐かしかったし…」と前夜を振り返り、HARUNAは「でも今日はこんなにもたくさんの皆が一緒にこの日を迎えてくれたので、このあともどんどん突っ走って行こうと思います」と続けた。
 


ここからは後半戦。幕開けは最新アルバムに収録されている「Rock’n Roll」。この曲は昨年秋のホールツアーでオープニングを飾った曲で、アレンジ、詩世界ともに90年代前半に流行った歌謡ロックを彷彿させる。世代によって懐かしく感じられる曲が多いこともファン層の広さに繋がる一因だろう。続いてはそのアルバムのタイトルチューン「Queens are trumps」。唯一、HARUNAがハンドマイクで歌う曲だ。ミディアムテンポでヘヴィなこのナンバーはSCANDALに加わった新たな一面。演奏技術の進化が窺える一曲だ。最近の曲が続いたあとに演奏されたのは2008年5月にリリースされたインディーズ時代のシングル曲「カゲロウ」。そして昨年2月にリリースされたシングル曲「HARUKAZE」と続いた。
 
ここで3度目のMC、HARUNAが抑えたトーンで話し始めた。「あらためて皆のことを見渡してみると本当に奥の方までよく見えるんです。初めて見る光景です…。さっきも言ったけど2006年に結成して、バンドというものを何にも知らない状態からスタートして、4人でいきなり合宿生活が始まって…ドラムスティック予備用意してなくて、飛んでいったら歩いて取りに行ったりするし、ギターの弦が切れたら弦買えるのも知らずにギターって使い捨てなんだって勝手に思ったりするし、ギターより弦が少ないからベースは簡単だって思ってベース始めるし…そんなメッチャクチャだった4人が初めて持った夢がここ、大阪城ホールに立つことです」。そう言うと客席から拍手と祝福の声がとんだ。
 
 

「ずっと口では大阪城ホールに立ちたい!絶対大阪城ホールでライブするって言いながら、本当は何の根拠もなかったりして、ただただがむしゃらに楽器を練習して、ライブやるっていう毎日を繰り返してここまで来ました。でも実際に今立っています」。再び拍手。「でも、ここまで来れたのって、本当に4人がそう思っていたからだけじゃなくて、そこには一緒に頑張ってくれているスタッフだったり、今日こうやってね、遊びに来てくれる皆が私たちの曲を聞いてくれて…そして夏に城天で『大阪城ホールでライブやります!』って言った時に、私たちの夢なのに皆のことのように喜んでくれたから…本当にそんな皆がいたからだとも思っています。何度もいうけど心から感謝します。ありがとう!」と言うとメンバー4人が深々とお辞儀。その姿に数多くのファンが涙した。
 


そして「次の曲は少し前に作った曲なんだけど、ここに立って、この景色を見ることを思い浮かべて書いた曲です。聞いてください…one piece」。そう告げて演奏し始めた曲は3枚目のアルバム『BABY ACTION』の最後に収められているスローナンバー。この曲に大阪城ホールへの思いが込められていることを、この時はじめて明かした。HARUNAがそっと歌い始めると、後ろのスクリーンに歌詞が映し出された。客席はそれを目で追いながら、今この時を重ね合わせているかのよう。1年半前に発表されたこの曲は、この日を機に特別な意味を持つ一曲になった。
 
続いて13枚目のシングル「太陽スキャンダラス」のカップリング曲「Welcome home」。彼女たちの地元大阪で聞くこの曲は格別だ。さらに特別なこの日にぴったりな「Very Special」(アルバム『BABY ACTION』収録)、「Shining Sun」(7枚目のシングル「涙のリグレット」のカップリング曲)と、この日を共に祝うかのような賛歌が続いた。曲中、天井からカラフルな風船が大量に落ちてきた。手にしたファンがそれを回し始める。客席がまるで大パーティー会場のように華やかになった。
 
そしてHARUNAが「最後の曲です!」と告げて演奏し始めた曲は2010年6月にリリースされた6枚目のシングル「太陽と君が描くSTORY」。これまで何度もライブの最後に演奏されてきたサマーチューンで本編を締めた。
 
 

もちろんこれで終わらせる訳にはいかない。当然アンコールだ。薄暗い会場に1万人の声が響く。そして5分後、ステージが明るくなり、ライブTシャツに着替えた4人が「アンコールありがとうございまーす!」と現れた。大歓声で迎える客席。その声が収まるのを少し待ち、HARUNAが「夢だ、夢だと言ってきた大阪城ホールが立派な通過点になりました。今日のために活動してきた私たちですが、また今日からのSCANDALになります!」と決意表明。そして、アジアツアー、ライブハウスツアー、新曲のリリースなど、一年先までスケジュールがびっしりであることを明かした。それを横で聞いていたRINAが思わず「たのしいぞー!!」と叫んだ。ところが、TOMOMIはそれとは対照的に、しんみりした表情。HARUNAが話すよう促すと「22年間、生きてきて最高の日になりました。一番の日やった。僭越ながら皆さんにお返しをするなら何かなぁ…って考えたんだけれども、ここ(ステージ)に立って続けることやと思った」と話した。またMAMIは感慨深く「大阪城ホールまで来る道でストリートやっていたとは思えないよね。色んな所で夢は言葉にすれば叶うってね、ずっと言ってたりするんだけど、でもそれって何の根拠もなくて、でも取りあえずやりたいからやるんだ!て言ってたら本当に叶って…だから夢は言い続けていた方がいいよっていうことをこの場で証明できたことがとても嬉しいです」と話した。
 
   

そしてHARUNAが「そんな皆に捧げたい曲があります」といって始めた曲は「サティスファクション」。この曲は10枚目のシングル「ハルカ」のカップリング曲で、Windows8のCMソングに起用されたもの。軽快なリズムが印象的な楽曲だ。その曲が終わると間髪入れずにRINAがビートを刻み始めた。ファンはもう次に何が来るか分かっている。そう、タオル回しが定番のメジャーデビュー曲「DOLL」だ。HARUNAのタイトルコールを合図にMAMIがフィードバック。そして巻弦を荒々しく掻き鳴らした。ヘイ!ヘイ!と拳を振り上げる客席。フロントメンバー3人が揃ってステージサイドへ移動しながら演奏した。そしてラストは「EVERYBODY SAY YEAH!」。この曲はセカンドアルバム『TEMPTATION BOX』の最初に収められている曲で、メンバーがライブの際、ファンとコールアンドレスポンスがやりたいと作られたもの。この曲に限らずだが、彼女たちの楽曲にはファンの掛け声や手拍子が加わって初めて完成するものがたくさんある。つまりファンもアンサンブルの1パートなのだ。そのことを知っている皆は腕を振り上げながらYEAH!の度にジャンプ。サビでそれを何度も繰り返し、2時間10分、全20曲の演奏すべてを終えた。
 



 
やり遂げた…。楽器を下ろす4人の顔は、達成感と安堵の表情に満ちていた。会場には「SCANDAL BABY」が流れ始め、観客はそのリズムに合わせて腕を振り上げた。ここでいつものメンバー紹介。HARUNAが順番に名前を呼んでいくと、それぞれが短く感謝の言葉を口にした。全員の紹介が終わると深々とお辞儀。ところがRINAだけいつになっても顔を上げようとしない。見ると目から大粒の涙がこぼれていた。ここまで気丈にふるまって来た一番年下の彼女が最後の最後で泣き崩れたのだ。その腕を支えるHARUNA。そしてメンバー全員が手を振りながらステージ両サイドまで歩いて回った。ファンの大合唱が響き渡る中、4人が最上段で再び横並びになると、HARUNAが「今日来てくれた全ての人に愛を込めて。これからもSCANDALをよろしくお願いします。これからも突っ走っていくぞー!」と最後の挨拶。感極まったRINAが「大好きー!!」と客席に向かって叫び、やがて4人はステージから姿を消した。
 
ライブ終了後、バックステージでRINAが「大阪城ホールでのライブは夢じゃなくて約束でした」と言っていた。彼女たちが結成当時に掲げた夢は、いつしかファンとの約束事になっていたのだ。そのことはこの日の彼女たちを思い出せば明らかだ。夢が叶ったことに陶酔することなく、常にファンに向き合い演奏していた。そして、その姿を客席から見た時、ロックに対して無垢だったこの4人が、10代後半という多感な年代に他人の勧めでバンドを始め、6年もの間メンバー誰一人欠けることなくバンド活動を継続して来られたこと、これが如何に奇跡的なことなのか、改めて思い知るのだ。だが、その奇跡はファンとの約束を果たした瞬間から軌跡へと替わった。MCでHARUNAが「今日からのSCANDALになります」と言っていたように、この日のライブとて通過点の一つ。夢の途中に過ぎないのだ。3月3日、SCANDAL大阪城ホール2013「Wonderful Tonight」、それは彼女たちの奇跡と軌跡が交差した夜だった。
 

◆セットリスト
M01. SCANDAL BABY
M02. スペースレンジャー
M03. LOVE SURVIVE
M04. 星の降る夜に
M05. 瞬間センチメンタル
M06. 少女S
M07. 太陽スキャンダラス
M08. 恋のはじまりはダイエット
M09. Rock’n Roll
M10. Queens are trumps
M11. カゲロウ
M12. HARUKAZE
M13. one piece
M14. Welcome home
M15. Very Special
M16. Shining Sun
M17. 太陽と君が描くSTORY
-encore-
E01. サティスファクション
E02. DOLL
E03. EVERYBODY SAY YEAH!
◆SCANDAL 公式サイト
http://www.scandal-4.com/
 
◆スペシャルコレクションアルバム「ENCORE SHOW」
2013年2月6日~発売中



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