演奏

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TEXT:鈴木亮介

Photo赤い公園が完全復活だ!8ヶ月ぶりにファンのもとに帰ってきた赤い公園は、”今更”どころか一回りも二回りも進化して帰ってきた。
 
本誌インタビュー特集BEEAST太鼓判シリーズ第6弾アーティストにも登場した、東京・立川出身の平均年齢20歳4人組ガールズバンド、赤い公園。高校の軽音楽部の先輩後輩で結成し、活動当初より独自の音楽性と上質なパフォーマンスで地元立川のライブハウスを中心に注目を集め、2012年2月にメジャーデビュー。同年9月に「のぞき穴」をリリースし、様々なフェスへの出演も決まっていたものの、楽曲制作を手がける津野米咲の体調不良により突如活動休止。ファンを心配させたが、この春活動再開を発表。ニコ生放送などで元気な姿を見せるとともに、新曲のリリースという嬉しいアナウンスも。期待値を高めに高め、自らそのハードルを上げまくったところで、この日8ヶ月ぶりにファンの前に姿を現した。
 
赤い公園 メンバー
佐藤千明(Vocal & Synthesizer)、津野米咲(Guitar)、藤本ひかり(Bass)、歌川菜穂(Drums)
 

Photoそれはそれはもう、すさまじい熱気だ。会場の渋谷CLUB QUATTROは熟練のライブハウススタッフをも戸惑わせるほどの熱気。「一刻も早く赤い公園に、(津野)まいさ~↑に再会したい!」そんな心の声が漏れ聞こえそうなほどの熱気。そんな熱気をさらにあおるのはオープニングアクトの山梨在住アーティスト・中込。気づけば満杯で身動きを取るのもままならない場内。刻一刻と、その時が迫る。
 
午後7時、どこかのテーマパークのようなSEが流れると、どっと歓声と拍手が。タンバリンの音に合わせるように、純白の衣装に身を包んだ歌川菜穂佐藤千明藤本ひかりが続々と入場。様変わりするSEに合わせて観客も手拍子。そしてSEがキラキラ系からしっとり系に変わる。来るか、来るか…来た!津野米咲、ここに復活!会場からは割れんばかりの歓声が上がる!
 
「東京都立川市から来ました、赤い公園です。みんな、ただいま!」パッと明かりが照らされ、4人の音がぶわっと広がる!活動休止直前に発表したシングルであり、赤い公園屈指のダンシングナンバー「のぞき穴」で、大復活祭の幕開けだ。津野米咲の6弦がチュイーンとキュイーンと疾走、ベンベケうなる藤本ひかりのベースに体が自然と揺らされ、歌川菜穂のカウベルがカッカラカッとそこに重なり、そしてゆらゆら揺れるたおやかなボーカル・佐藤千明!そうだ、これが俺達の待っていた赤い公園、「のぞいちゃいな!」
 
Photo続いてもハイテンポなナンバー「はてな」を重ねてきて、ずるい!と心中叫んだのも束の間、”俺達の待っていた”なんて言いながら何か違うな、と気づく。観客を叫ばせる余裕も与えないほど曲間を詰めて、3曲目「ナンバーシックス」をスタート。”何か違う”がだんだんはっきりしてきた。佐藤千明の歌唱が格段とパワーアップしているのだ。伸びる伸びる、このそこそこに広い渋谷QUATTROに、とことん伸びる。そして、歌川菜穂の太さと軽さの「叩き分け」も秀逸。あの小柄でほんわかした表情からは想像がつかないほどの力強さと、機転の速さに驚く。
 
3曲終えてMCでほんの一息つくも、すぐさま次の曲「世紀末」へ。イントロのギターを鳴らしつつメンバー紹介。「…そしてボーカル、佐藤千明。最後にドラム…こいつはいいや!」赤い公園の4人としてのライブは実に8ヶ月ぶりということで、ファン以上スタッフ以上に彼女たち自身もこの4人で音を出したくて仕方がなかったのだろう。ひたすら音で隙間を埋めてくる。5曲目は佐藤千明のボーカルが冴えわたる「血の巡り」。サビの音が大集合してわしゃわしゃする”ジャングル感”を楽しんだところで、6曲目「TOKYO HARBOR」はジャジーなギターの旋律で急に心がキュッとなる。この曲もまた、佐藤千明の綺麗な高音が冴えわたるとともに、メンバーのコーラスもまた美しく調和する。そして7曲目は「よなよな」。音源化され、活動休止中ファンが何度も何度も繰り返し聴いたであろうナンバーを奏で、再び客席を踊らせる!
 
「皆さんのおかげでここに立てた」…ソールドアウトとなり出口付近まで溢れるほど詰まったファンへ向けて、丁寧に感謝を述べる佐藤千明。ケガはしないように…と気遣いを見せつつ「と言ってももう結構落ち着いた曲なので…明るい曲はもうないです。暗い曲やりまーす」笑わせることも忘れない。
 
Photo間髪入れず「かーもめ、かもめ」と津野米咲歌川菜穂が綺麗にコーラスを決め、8曲目「塊」へ。「お前が見てるのは 羽織ものにくるまった 三十六度のKATAMARI」…それはちょうど1年前のことだった。2012年5月6日(参照:Beat Happening!SHIBUYA R&R PANIC!MAX!)、初めて赤い公園を観た時の、歌詞と楽曲との織りなす強烈なインパクトがフラッシュバックする。
 
一転、9曲目「ずっと」は鍵盤の綺麗な音が同じコードを繰り返す、穏やかなインスト曲。ポップでありながら、どこか哀愁も漂う。そう言えば前の「塊」もこの曲もそうだ。何度も繰り返されるリフの面白さが、しばらく残像のように耳に残る。と思っていたら10曲目「透明」が始まった。怪獣が静かに、でもその重さでドスン、ドスンと足音を立てて霧の中を帰宅するような…そんなように津野米咲が六弦を叩く音がバックに響き、藤本ひかりのベースがリードギターのように軽やかに踊り、歌う。こういうバリエーションもあるのがまた、赤い公園の奥深さだ。歌川菜穂がTwitterで「赤い公園のリズム隊は私と米咲なのだ」と書いていたのもうなずける。
 
静寂の中、津野米咲のギター、”トミ子”が泣き、ベース、ドラムが後を追う。11曲目は「副流煙」。「ひとりぼっち」「やだよ」「うすれていく」詞を手がけたのは佐藤千明。その歌声もまた、憂いを帯びている。「人生楽ありゃ苦もあるさ~」続く「娘」は水戸黄門のテーマから入り、大人の階段を上る女子の色っぽい歌詞に佐藤千明の変幻自在な歌い分けが”女優”を感じさせる一曲。赤い公園の新境地を楽しめる。
 
Photo「とっておきの、肩の力が抜けるナンバーやろうか」と続いてはメジャーデビューアルバム白盤のリード曲、「ランドリー」。音をこれでもかと詰め込んできたライブ序盤とは打って変わって”間”を楽しむ余韻もあり、4人のグルーブ感がどんどん高まっていく。14曲目「くい」ではさらにさらに音数が少なくなり、”リードベース”藤本ひかりがゆっくりとメンバーを、観客を、引っ張る。
 
藤本ひかり歌川菜穂がステージから下り、津野米咲はギターを置く。静寂な空間に響く、透明感あふれる鍵盤のメロディ。ミニアルバム『ランドリーで漂白を』の最終トラック「何を言う」を、津野米咲がピアノを可憐に弾き、佐藤千明が感情を込めて声高らかに歌い上げる。そして静かに佐藤千明が退場。津野米咲もアウトロを弾き終えると客席に一礼し、静かに舞台裏へと下がる。
 
白い幕が下ろされ、まさかこれで終わりか?と客席がアンコールの拍手をはじめかけた次の瞬間、幕に映像が映し出される。赤い公園復活を祝うビデオメッセージだ。バンド仲間のTHE★米騒動The SALOVERSハナエピエール中野凛として時雨)、そして最後は「佐藤千明の祖母です!」どっと沸く会場。そして世界最速初公開ということで新曲「今更」のミュージックビデオを公開!一段と熱い拍手が沸き起こる。

幕が下りたまま、渋谷QUATTOROに集まった心臓という心臓をえぐるかのごとく、エレキが泣く。津野米咲の影が映り、また一段と拍手が大きくなる。インスト曲「公園」から、再び4人の演奏が再開。足並みがそろっていないようでそうではない、ものすごく高次元なパズルが組み合わさったような”ばらばらバトル”。グルーブ感という言葉が陳腐に聞こえる、新しい感覚だ。
 
Photo「急げ」、「もんだな」とインディーズ時代からの楽曲の連続。「もんだな」は歌詞が「しつこいな」「うるさいな」と「な」で韻を踏みつつ、次にどの音が鳴らされるのか予想のつかないギターの旋律が楽しい一曲。立川BABELで対バンしていた頃からのファンにはどう映るのだろう。
 
「いやー8ヶ月ぶりですね、皆さん…」待ちに待った津野米咲のMC。一斉に「まいさ~↑(語尾が上がる)」コールがあちこちで沸いたのを「うるさいよ」と制したところで、「皆さんに謝らなきゃいけないことがある…あるんだよ。」と切り出す。「昨年10月より(活動)休止を頂いていたんですけど、その時シングルを3つ出すって言ったと思うけど…休止して出せなくなっちゃって…その代わり7月3日に…両A面シングル出します!」と発表すると、大きな歓声が!シングルには既に配信開始している「今更」と、「交信」という曲が入ること、さらにカップリングとして小田和正の「さよならは言わない」のカバーも収録するとのこと。さらに、フルアルバムを制作中であることも明かすと、一段と盛り上がる会場。思わず津野米咲「あぁ、いい子。」「今日やった曲も何個か入るかもしれないですね」と笑顔を浮かべる。
 
「新曲やりますか。肩の力が抜ける新曲を」(千明)、「びっくりするくらいゆったりとした曲です。NHKを見てる気分で…」(米咲)、「1回目コンビニ行って帰ってきて、まだやってる、みたいな」(千明)そんな掛け合いから披露された新曲「つぶ」。つぶやくように歌う佐藤千明のボーカルにギターも歩調を合わせる。歌川菜穂のドラムが展開しそうでしない”寸止め”的な刻み方で楽しい。
 
Photo続けて「さよならは言わない」も披露。楽器隊の牽引は極力控えめに、特にサビでは演奏を敢えて止めて、伸びやかなボーカルを最大限引き立てる。間奏では津野米咲のギターもボーカルと同じしっとりとしたトーンで響く。
 
さぁいよいよ終盤。強力なロックナンバー「カウンター」をぶち込み、和やかな空気を切り裂くように「盛り上がるまで永遠にやるよ!」とコール&レスポンスを要求。ハイテンポなリズム隊につられて拳を挙げてタテノリする観客。しかし演奏が終わるや否や、納得いかない表情を浮かべる4人。「はい、完全にもう1回(やり直し)ですねー」「サークルモッシュとか全然できると思う。何回もTwitterで言ったもん、サークルモッシュやってって!」…ということでもう1回!
 
高速のギターリフにパワフルなリズム隊がガンガン頭をふらせると、シンバルがシャーンとほんのわずか残っていた客席のタガを外す…というか切り裂く!小田和正どこ行った?と思う余裕もないほど、会場は揺れる揺れる!「千明先生、今のは合格ですか?」(米咲)、「あのね、中込さんがノッてたからよしとしよう!」(千明
 
悲しいかな、もう最後の曲。「活動休止前はお決まりの曲があったんですが、活動休止後は、どうかな」と前置きした上で披露したのは、「ふやける」!ボーカル・佐藤千明の絶叫。歪むギターと交差するシンセサイザーのループ音。ドラムロール。津野米咲歌川菜穂も加勢した心地良いハーモニー。マグマのにじみ出すような爆音を轟かせる藤本ひかりのベース。
 
Photoもうやり残しのないように、この8ヶ月間のブランクを全て埋め尽くす、高まる感情を全てこの1曲にぶつける…そんな、重厚すぎる5分半。最後はノイズを鳴らしっぱなしにしながら、4人はステージを後にする。
 
当然ながらアンコールの嵐が巻き起こる。それに応えるべく、メンバー4人再登場!手には盟友・tricotのタオルが。「アンコールやるって言っても、何もないよね、今さら」「今さらもうやる曲ないよー」というフリから、新曲「今更」を初披露!ドラム、ギター、ベースの三者がハイテンポにじゃかじゃかと階段を駆け上がっていくようなイントロ。前に進むんだという強い意志を感じるパフォーマンスに客席からも最大級の賛辞が送られ、全23曲におよぶ「大復活祭」の幕が下りた。
 
このあと、5月15日には名古屋、翌16日には大阪公演を、いずれもSOLD OUTで見事大盛況に終わらせた赤い公園。そして新曲をひっさげて、彼女たちはこの夏、ファンの予想のさらに一歩先を行く飛躍を見せてくれるだろう。赤い公園の第2章が今宵、華々しくスタートした。
 

◆セットリスト
-1部-
M01. のぞき穴
M02. はてな
M03. ナンバーシックス
M04. 世紀末
M05. 血の巡り
M06. TOKYO HARBOR
M07. よなよな
M08. 塊
M09. ずっと
M10. 透明
M11. 副流煙
M12. 娘
M13. ランドリー
M14. くい
M15. 何を言う
-第2部-
M01. 公園
M02. 急げ
M03. もんだな
M04. つぶ
M05. さよならは言わない(小田和正
M06. カウンター
M07. ふやける
-encore-
E01. 今更
◆赤い公園 公式サイト
http://akaiko-en.com/
 
◆リリースインフォメーション
・シングル「今更/交信/さよならは言わない」
2013年7月3日発売予定

 
・アルバム『公園デビュー』
2013年8月発売予定
 
◆イベントインフォメーション
・2013年06月19日【仙 台】LIVE HOUSE enn 2nd
嘘つきバービー Tour8 「魔法を使った分の頭痛」
・2013年06月22日【渋 谷】O-EAST、O-WESTなど9会場
YATSUI FESTIVAL 2013
・2013年06月23日【渋 谷】タワーレコード渋谷店B1F「CUTUP STUDIO」
TOWER RECORDS × creativeman presents UPPERCUT
・2013年07月06日【日比谷】野外大音楽堂
TRIGGER FES 2013 SUMMER

◆関連記事
【特集】BEEAST太鼓判シリーズ第6弾アーティスト『赤い公園』
http://www.beeast69.com/feature/25973
【レポート】 『Beat Happening! SHIBUYA R&R PANIC! MAX!』
http://www.beeast69.com/report/22145