演奏

TEXT:下村祥子 PHOTO:鈴木亮介

ステージと反対側にある全面ガラス窓の向こうに、通りを行き交う若者の姿がちらほら見える。下北沢にあるオープンカフェ・スタイルの440は、昼はペット同伴OKのランチカフェ、深夜はオシャレなバーとして営業。そして今宵、夜のライブタイムにて行われるのは、ギターの弾き語りライブ。

“弾き語り”というと馴染みがない人には、バンドのライブよりちょっとマニアックな場所に感じて、トビラを開けるのはハードルが高いかもしれない。でも実際はどんなカンジなんだろう?

職場を少し早めに退出して(もしくは学校の授業が終わった後に)下北沢に立ち寄った気分で、一緒にこの日の弾き語りライブをのぞいてみよう。

 


ステージのセンターに置かれたギターの元へ、ふらりと現れたのは1番手のニシイケタカシ(Vocal&A.Guitar)。目を隠すほど長い前髪に、Tシャツとジーパン姿で、譜面台を前にしたイスに腰掛ける。「こんばんは。“Singer Song Riders”にようこそいらっしゃいました。ニシイケと申します、よろしくお願いします」。ブルージーなアコギの音色にのせて、ちょっと気だるいつぶやきのように始まった弾き語り。それまでビールを飲んだり、友達とおしゃべりしたり、静かに本を読んだりして待っていた、今日出演するアーティスト三者それぞれがお目当てのファンが入り混じった客席、その間を縫うように、彼の歌声がじわじわと浸透していく。

 


徐々に存在感を増していく歌声に、あっという間に惹きつけられたオーディエンスから、1曲目にして自然と手拍子が始まった。昨日完成した新曲だという2曲目の「ソングライター」では、1番が終わった間奏ですぐに拍手が起きた。これは「♪だから今夜だけ拍手をおくれ~」という歌詞へのお客さんからのリアクションで、歌のメッセージがしっかり受け止められている証拠。曲が終わると拍手と共に歓声も上がって、会場は早くも一体感のある良い雰囲気に包まれた。

「今日のお客さんは、いいお客さんですね~」とご本人も上機嫌で、トークも絶好調。「今日は高橋研さんに誘っていただきまして、ありがとうございます。この業界ね“また一緒にやろうよ”という話はよくあるんですけど、なかなかまたやった試しがない。なによりも、さんが僕のことを覚えていてくれて、誘ってくれたのが嬉しい。僕はそれだけで胸一杯に思います」とやや腰が低めのMCを展開した。

 


ニシイケタカシは、1993年に大阪で結成し、1998年にメジャーデビューを果たしたロックバンド、セロファン(現在休止中)のギタリスト。現在はタマコウォルズ双六亭のボーカルとしても活躍中。ギター弾き語りでのソロ活動も行っている。

近藤智洋)さんが前にやっていたPEALOUT(ピールアウト)と、僕が前にやっていたセロファンっていうバンドが、わりとデビューが近くて、当時一緒にツアーを回ったことがありまして(※1998年4月に東名阪クアトロをツアーした“BALLOON SONG TOUR”)。PEALOUTはもうその頃から人気のバンドで、まぁ僕らは人気のないバンドで。その頃、僕はギター担当でステージの上手(かみて)におったんですよ。」

「で、僕らがバーっと演って終わると次がPEALOUT。当時、近藤さんはベース&ボーカルで、近藤さんも上手(かみて)やったんですね。で、僕らが終わって道具を片付けるわけです。道具を片付ける時しゃがむじゃないですか。しゃがんでたら、そこの客席におった女の子がね“もう待ち切れないー!”って言ったんですよ。何を待ち切れないかっていうと…お分かりのように、PEALOUTが待ち切れないって。そんなの聴こえてないフリしましたけど、その言った女の子を横目で見ながらけっこう傷ついたんですよ。…まぁ今日もまたこの後、近藤さんがここに来るんですけど…」そこへ間髪入れずに客席から「待ち切れないー!」と男性客の声が。まるで新しいコール&レスポンスみたいだ。そして“待ち切れない!”がこの日の流行語大賞になったのは言うまでもない。

 


朴訥(ぼくとつ)とした話しぶりに見えて、実はおしゃべり上手。関西弁でお客さんを和ませて、また一歩また一歩と、気持ちをステージに歩み寄らせてしまう。誰かとのやりとりのように描き出された歌詞は温かみを帯びて耳に届き、ちょっとジュリー沢田研二)にも似た歌声は最後まで観客の心をとらえ続けた。歌い終えたステージに、たくさんの歓声が飛び、拍手がなかなか鳴り止まなかった。
 

◆セットリスト
M01. しあわせの条件
M02. ソングライター
M03. 手紙(仮)
M04. サンセット
M05. オレは死なない
M06. 名無しの日

◆ニシイケタカシ blog
http://nishiike.tamacowolds.net/
◆ニシイケタカシ Twitter
https://twitter.com/nishiikeee
◆タマコウォルズ ホームページ
http://tamacowolds.net/

◆インフォメーション
・2012年07月19日(木)【赤坂】GRAFFITI
・2012年08月09日(木)【渋谷】gee-ge
双六亭として出演
・2012年08月25日(土)【渋谷】CROSSROADS
ニシイケタカシ 弾き語りワンマン


 


2番手は近藤智洋(Vocal&E.guitar/A.Guitar)。目に鮮やかな赤いチェックのシャツでステージに立つと、ライブ前半は、このイベント唯一のエレキギターでの弾き語り。マイクの位置をスタンディング用に調節し「ニシイケくんのMCで色んなことを思い出しました。PEALOUTセロファンでツアーしたのは、15年前かな。みんなTHE BEATLESが好きでね、よくビートルズの話をしたのを覚えています」としみじみと思い出を語ったかと思うと「1曲目はニシイケくんに捧げます。“待ち切れない”っていう曲を」会場内にはドッと笑いが起きた。

 


リバーブを効かせたフェンダーのテレキャスで、奏で始めたアルペジオの音色。それは重く叙情的な空気感をまとって、会場の雰囲気を一変に塗り替えた。1曲目の「アメリカの夢」では、静かに雨が降り注ぐ見知らぬ風景を思い浮かべ、「『スターウォーズ』で例えると、ダース・ベイダーとルーク・スカイウォーカーの関係、そんな歌です」と難解な曲紹介で始まった2曲目の「沈黙の足音」では、幻想的な響きを持った一音一音にじっと耳を傾け、語りから始まってドラマティックな展開を見せる3曲目の「ひとりぼっちのメロディ」の頃には、輪郭のくっきりした近藤智洋の独特の世界観に、オーディエンスはどっぷりと浸っていった。

 


近藤智洋は、過去に弾き語りでのアルバムも2枚リリースし、百戦錬磨どころかバンドでのライブも含めて年間最高170本のライブを、47都道府県の全国各地で実践してきた強者。1994年に結成し、2005年に解散した3ピースロックバンド、PEALOUT(ピールアウト)でボーカル&ベース、ピアノ、ギターを担当。PEALOUT在籍中の2000年よりソロで弾き語りを始め、2006年に1stアルバム『近藤智洋』、2007年に『二つの鼓動』をリリース。2007年にはGHEEEを結成し、2010年より近藤智洋&ザ・バンディッツ・リベレーション、2012年よりThe Everything Breaksをスタートさせ、同時進行で多忙に音楽活動を行っている。

エレキギターでの最後の曲は、儚く消え入りそうなアルペジオにのせて、あふれる想いを歌い上げる「the forget-you-not」。心がしんとするような間(ま)の静けさが、会場に流れる時間までゆっくりと感じさせる。音源未発表曲で、ライブでしか聴くことができないが、いつか良い形で世の中にリリースされることを願って止まないバラードの名曲。ちなみに、エレキギターでのライブ写真がないのは、実は撮影NGが出てしまったため。こんなにも繊細な空気を大事にした演奏の中、シャッター音やカメラマンの動きが、観ている人の邪魔にならないようにという心配りなのだと思う。

高橋研とは2年前のイベントで出会い、それから何度か共にツアーを回り、リハから本番まで重ねてステージを観るうちに、すっかり大ファンになってしまったとか。自分のライブでも時々「うそつきのロッカー」のカバーを披露。この日また一緒にライブができるのを楽しみにして来たと言う。

 


アルバム『近藤智洋』のジャケットでもお馴染みの、真っ赤なアコギに持ち替えた後半は、The Everything Breaksのセルフカバー「Fall in the starlight」からスタート。会場限定リリースの初音源からの選曲で、バンドはハードコアな激しいロックンロールだが、これをアコギ一本でパフォーマンス!繊細なエレキ弾き語りに対して、力強くかき鳴らされるアコギ弾き語り。普通に考えると逆のイメージがあるが、ライブを観ればその思い込みも簡単に覆されるはず。次第にエキサイトする歌声は、爆発力のあるシャウトへと変わっていく。客席からの手拍子にのせて、ブルースハープを吹き鳴らし、最後の曲は「スーツケースと泥だらけのブーツ」。1コーラス歌い終わるとアンプのスイッチを切って、いきなりステージを降りてきた。生声&生ギターで、オーディエンスの至近距離から叫ぶように歌い出したのだ。そんな近藤智洋の迫力に、観客の嬉しい驚きと熱狂のうちにライブは終了。最後のパフォーマーへとバトンを渡した。
 

◆セットリスト
M01. アメリカの夢
M02. 沈黙の足音
M03. ひとりぼっちのメロディ
M04. the forget-you-not
M05. Fall in the starlight
M06. センチメンタル・ブルース
M07. ディズニーランド
M08. スーツケースと泥だらけのブーツ
◆近藤智洋 公式サイト
http://kondotomohiro.com/

◆インフォメーション
・2012年07月23日(月)【下北沢】CLUB Que
GHEEEとして出演
・2012年07月24日(火)【高円寺】HIGH
The Everything Breaksとして出演
・2012年08月02日(木)【下北沢】lete
近藤智洋・弾き語りワンマン


 


この日のトリはもちろん、本日のイベント『Singer Song Riders』のオーガナイザー、高橋研(Vocal&A.Guitar)。ウエスタンハットを被り、チェックのシャツにスカーフをタイのようにさりげなく結んで登場。ステージにその姿を見せた途端に「さーん!!」とライブ常連とおぼしき男性ファンの熱い声援と、待ってましたの拍手の嵐。「こんばんは、高橋研です。天気がどうなるかと心配でしたが、みごとに晴れました。みなさん、今日の空は見ましたか?雲が気持ち良さそうに流れていく、そんな夜になったらいいなと思います。最後までよろしく」そんな穏やかな語り口調から始まったライブ。ブルースハープを切り裂くようにひと吹きすると、アコースティックギターの音にのせて、そっと歌い出す。まるで一遍一遍の物語を語るように。

 


高橋研は、1979年にシンガー・ソングライターとしてデビュー。この日のライブでも披露し熱唱した、THE ALFEEの大ヒットソング「メリーアン」(1983年)で高見沢俊彦との共同作詞を皮切りに楽曲提供をスタート。中村あゆみの「翼の折れたエンジェル」(1985年)を筆頭に、川村カオリ加藤いづみを始め、80年代アイドルからロックバンドなど、多彩なアーティストを多く手がけるプロデューサーとしても活躍している。

この夜のセットリストは、「メリーアン」と2曲目に歌った「落とし穴しかない場所」(POWDERのカバー)をのぞいて、すべて川村カオリと共同制作した楽曲で構成されていた。歌の登場人物に彼女の面影を感じさせる「奇妙な果実」や「金色のライオン」、そして川村カオリバージョンでは「うそつきのロッカー」である「君」のことを歌っている歌詞を、高橋研が「僕」と置き換えて歌う「うそつきのロッカー」。歌詞を聴き比べてみると、まるで対話しているようだ。わたしのそばに座っていた女性ファンは、終始ハンカチで顔を覆って涙を抑えながら、ステージをみつめていた。

 


曲が終わって拍手も止み、会場が静かになった途端に「静寂が気になるなぁ!」とぼやいて、チューニングしながら笑顔でトークを始めた。近藤智洋との出会いは、新星堂の試聴機に入っていて洋楽だと思い込んで2枚ほど購入したPEALOUTのCDだったこと。ニシイケタカシとの出会いは、2010年6月の代官山・晴れたら空に豆まいてでの弾き語りイベントの共演だったこと。「オジサン、すっかり痺れまして!」なんて戯けたようにわたしたちに話してくれる。かと思うと「GS(グループサウンズ)って知ってる?」とザ・ワイルドワンズが歌う烏龍茶のCMソングを「♪いつでも会うたびに~」とノリノリで1コーラス歌い切ってしまったり。ずっとにこやかな表情を絶やさず、ステージに気軽に話しかける常連さんだけでなく、初めて観たお客さんもみんな含めて巻き込んでいくような、楽しい時間となった。

再び歌い始めれば、魂の叫びのごとく、想いを絞り出すような歌声とその言葉が胸を打つ。「♪愛がなきゃダメさー 夢がなきゃダメさー」と手拍子をおくりながら、たぶんみんなも心の中で歌っていた「見つめていたい」。そして最後に演奏した「君に出会えたこと」。彼にとってファンにとって、深い想いが詰まったこれからもずっと大切な曲であり続ける楽曲から、今夜このライブを共有し出会った観客にも、そのメッセージは伝わったことだろう。

 


アンコールは、再びステージに登場した高橋研のかけ声で、近藤智洋ニシイケタカシも呼び入れ、3人でのセッションとなった。ニシイケタカシの「Big time super lover」、近藤智洋の「Everyday&Every night」、高橋研の「レジスタンス」と順番に持ち歌を演奏するのだが、アコギ3本でかき鳴らされる迫力のサウンドと、息もぴったりの抜群のコーラスワーク、間奏ではお客さんの歓声も加わって大盛り上がりに!

 

 
 


高橋研が、ニシイケタカシのギターの変則チューニングを指差して「Gチューニング!」と囃すと、客席から「キースだ!キース!(THE ROLLING STONESKeith Richardsが使用していたことで有名)」と即座に声がかかり、「…キースの真似ごとです」とニシイケタカシが恐縮する場面も。先に演奏が終わってすでに飲んでいる2人に追いつけとばかりに、ステージ上にビールをオーダーしてグイグイ飲み干した高橋研が「みんな飲んでますか?飲みましょうよ!せっかくの土曜の夜だ」と言ってしまったり!(←木曜です)

この日ラストソングとなった「レジスタンス」では、客席もオールスタンディングとなって、手拍子と簡単なメロディでコール&レスポンス。とてもこの日のリハーサルで合わせただけとは思えない、すでに何ステージもこなしてきたツアーファイナルのような3人のパフォーマンスには圧倒されっぱなし。客席からの歌や手拍子も本当に楽しそうに弾んでいて、もう今夜はサタデーナイトでいいか!と思えてしまうぐらい。ライブが終わっても、しばらくそこに余韻が残るほどの歌声と演奏は、きっと下北沢の街も越えて、空まで気持ちよく流れていったに違いない。

 

 
 


 

◆セットリスト
M01. 奇妙な果実
M02. 落とし穴しかない場所
M03. 金色のライオン
M04. うそつきのロッカー
M05. スーベニール
M06. メリーアン
M07. 見つめていたい
M08. 君に出会えたこと

-encore – SESSION
M01. Big time super lover
M02. Everyday & Every night
M03. レジスタンス

◆高橋研 公式サイト
http://www.fantasista-web.com/ken-t/

◆インフォメーション
・2012年08月05日(日)【高田馬場】Live Cafe mono
<オヤマタクジ×タカハシケン>
アコースティック・2マンライヴ
(出演:小山卓治/高橋研)


 
 

 
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