連載

ロック社会科見学 ステージ4★服飾アーティスト編!

「JAP工房」服飾アーティストに突撃取材!
TEXT & PHOTO:桜坂秋太郎

『ロック社会科見学』第4弾は、服飾アーティストのお仕事をご紹介します!私たちが普段コンサートや映画などで観ている衣装やアクセサリー、すごいなぁと思ったことはありませんか?今回お邪魔するのは吉祥寺を本拠地とする「JAP工房」。THE ALFEE高見沢俊彦や、ビースト読者にも信者が多い聖飢魔IIの衣装をデビューから手がけています。

ロックアーティストだけでなく、映像や舞台関係でも「JAP工房」は多数のコスチュームを手がけています。その他、日本のシルバージュエリーの地盤を確立したり、芸術的アート作品のまさに宝庫といえます。「JAP工房」では“THE PLANET PARAMITA”“BARBARA”“KAZUMA”“B.C.R.P”“NAKED EYE”などのブランドを取り扱ったり、独自の闇のブランド“La vie En Rose”をスタートさせたりと、常にアグレッシブな活動を展開しています。

日差しの強い昼下がり、人通りが絶えない吉祥寺の一等地にある「JAP工房」へ足を運びます。久しぶりに吉祥寺に来ましたが、この雰囲気がとても良いですね。個人的にも住みたいと思う素敵な街です。今回の「社会科見学」は、「JAP工房」のアーティストでもある川上登 社長と、YOU-KO チーフデザイナーにお話をうかがうことになっています。いったいどのようなお話が聞けるのでしょうか。

Photo服飾アーティスト
川上登・YOU-KO プロフィール

1981年リストバンドを皮切りにアクセサリー等の製作・卸し「JAP工房」を川上登が設立。原宿を中心に展開し、1984年法人化。デザイナーYOU-KOが参加後、メジャーバンドの衣装を数多く手がけ、特殊衣装や美術小物の製作にも力を入れる。2008年には映画『デトロイト・メタル・シティ』を担当。Gene Simmons扮するジャック・イル・ダークのコスチュームは逸品。

— それではまず、この道に入ったキッカケを教えてください。

Photo川上:バンドの資金稼ぎですね。当時80年代になったくらいは、バンドマンには仕事があまり無かったんです。具体的なキッカケとしては、一文無しになったことかな。当時住んでたアパートが火事になりまして、着の身着のままベース一本だけを持って。吉祥寺で生活していたのですが、路上でアクセサリーを売ってる連中がたくさんいまして。一文無しになってフラフラしている時に声をかけてもらって。その人は劇団の資金稼ぎにやってたんですが、一ヶ月くらい舞台があるから交代してくれない?って言われてやってみたんです。やったらこれが面白くて。針金まげたブローチとかを最初は作ってましたが、ある時、革の端切れを切って尖った鋲を打ってみました。当時はピースな時代だったので、喧嘩道具を売るななどと言われましたが、これはアクセサリーだ!と主張して(笑)でも、吉祥寺では日に数本しか売れなかったですね。

YOU-KO:私はその当時ミューってバンドをやってまして、そこから“ミュープロジェクト”という形で、バンドの衣装を作ったり、他のバンドの衣装を作ったりしてました。衣装だけじゃなくて、フライヤーや看板まで描いたりしてましたけど。ある時、自分のデザインした服を知り合いの店に置いてもらったのがキッカケですね。当時は少しの量でも布を売ってもらえる問屋さんを探し回って、服を作って売れたらまた布を買いに行くというのを繰り返してました。最初に一反買えた時は本当にうれしかったです。

— その後JAP工房は法人化するわけですね。

Photo川上:吉祥寺ではあまり売れなかったんですが、原宿で火がつきました。当時は原宿が変わりつつある最中で、駅前のテント村ができる前の話ですね。空き地にワゴン車を停めて売ってた時代ですが、そんな原宿で売ってる彼らが声かけてきたのです。僕の作ったやつが欲しいと。試しに原宿へ持っていったら爆発的に売れましたね。バンド仲間も当時は、原宿の店に勤めていたんですが、店長にコレは売れる!って言って仕入れてもらったり。あれよあれよと原宿のほとんどの店に卸していたんじゃないかな。ブラックやスキンヘッズなど、原宿以外のロックショップにも卸すようになりました。

— そのようなスタートだったのですね。拠点としてはずっと吉祥寺ですか?

川上:ずっとこの町が好きですね。JAP工房自体のスタートは、四畳半のアパートですけど(笑)。一文無し状態から、ちょっとお金が入った時に、敷金・礼金無しで家賃1万円って物件を仲間から紹介してもらって、見に行ったら2部屋空いてたんです。そこで2万円払って2部屋借りまして。1部屋をアトリエにしました。その後は三鷹や原宿にも拠点は作ったんですが。

YOU-KO:作業場は三鷹にあって、原宿には「G-UNIT」というショールームを作りました。古いアパートを何年か借りていたのですが、まだ裏原宿とか言われる前の話です。でも、原宿プラザとか竹下通りの店が取引先だったので、原宿でJAP工房が物販するのも違うなと思って、スペシャルな物だけを展示していました。

Photo川上:あとは商品の打ち合わせを仲間とするスペースみたいな感じで使ってましたね。海賊旗を作って、それが出ていれば居るよって印にしてました。時には昼から飲んじゃったりね(笑)。当時でも築50年とかの古いアパートだったけど、大家さんが好きに使っていいよって言ってくれて。すごく面白かった時代です。

— メジャーバンドの衣装を手がけるようになったのも、その頃ですか?

川上:原宿を中心に商品を供給していると、メジャーになっていくバンドが、それぞれひいきにしている店がありまして。その店から別注のオーダーが入るわけです。最初は店が間に入るんですが、だんだんわけわからなくなって、JAP工房と直接やってよという話になったりしました。印象深いのは、ACTIONのデビュー衣装かな。当時はMötley Crüeが流行っていて、それはもう洋服ではなく、ベルトを着ているようなもんです(笑)

YOU-KO:ロックな衣装だけじゃなくて、ストリップのお姉さんなどからも、ビニールやエナメル系の衣装をオーダーもらってましたね。

川上:ロックだけじゃ厳しい部分もあるので、僕もSMショップの物とかを手がけました。今でも僕がデザインした物が流通しているはずです(笑)

— なるほど(笑)では現在のショールームでありショップである「GUILD-UNIT」に来るお客さんについて聞かせてください。

PhotoYOU-KO:結構遠くからも来てくれますね。「GUILD-UNIT」で会おう!みたいな。北海道や九州、関西からもオフ会の集合地にしてくれたり。吉祥寺といったらココだろう、みたいなのはうれしいですね。

川上:「GUILD-UNIT」は、実際に物を見て買ってもらう場なんですけど、それだけじゃなくて、色々なアーティストの発表の場でもあって、さらにお客さん同士もゆっくり過ごしてもらいたいです。カフェ「Rock Star Cafe 吉祥寺」も併設していますので。

— フル回転でお仕事されているようですが、お休みの日はありますか?

川上:一応休みの設定はあります(笑)。ただ土日きっちり休み!ということではなく、一区切りついた時に休んでます。やはりメンタルな部分も含めて切り替えは必要なので。普段僕らは表には出ていないので、「GUILD-UNIT」はスタッフに任せています。僕らは作品を作ってることが多いですね。けっこうカスタムも多いので、お客様の要望に応じてお会いしたり。

— 特別に自分だけの物をオーダーされる方も多いのですね。

川上:そうですね。ただし誰々とまったく同じ物が欲しい!というオーダーはお断りしています。別に規制されているわけでは無いんですが(笑)、例えば聖飢魔IIと同じもが欲しいとか。それはちょっとね。それって例えばウルトラマンのスーツが欲しい!というのと同じだと思うんです。欲しい人は山ほどいるけど、夢がなくなっちゃう。なので、こんなテイストで自分に合ったものが欲しい!というオーダーには極力対応しています。

— ロックバンドのコスチューム以外に、舞台や映画などの芝居系もやられてますよね。何か違いはありますか?

Photo川上:入口と出口がまるで違います。とても大切なところです。バンドなどのアーティストの場合は「オレ用の衣装を作ってくれ!」ということで、アーティストの活動のお手伝いをしている感じです。アーティストがそれを身につけることで、レベルやテンションがアップできるためのアイテム。聖飢魔IIの場合は戦闘服(笑)。それを着ることで自分の中にある才能を発揮できるわけですね。芝居はまったく逆で、役者さんのキャラクター作りです。監督やプロデューサーと話し合って、この役者さんなら、こういう服を着ればこうなる!というような。こうなってください!と渡すので、まるで違いますね(笑)

— どちらが大変ですか?

YOU-KO:どちらも別の意味で大変です。お芝居は、アクションにもアップにも耐えられる衣装をつくっていますが、場合によりアクション用・アップ用など何着もつくらないとならなかったりします。また、撮影する角度からどう見えるかを意識したり。バンドなどのアーティストの場合って、360度どの角度から観ても完成していないとダメなのと、楽器を演奏するという根本があるから、動きやすさという面も大事ですし。

— 実写版「デトロイト・メタル・シティ」のコスチュームを担当されましたが、エピソードがあれば教えてください。

川上:そうですね。やはり原作の持ってるイメージというのもあるし、主役の松山ケンイチという役者は、クラウザーII世と根岸崇一という2つの人格を演じるわけですが、これを着ればクラウザーII世に見える!なれる!という物を作って提供するのが僕らの使命でした。特に原作とは違うジャック・イル・ダークは大変でしたね。ご存じの通りGene Simmonsが演じたのですが、彼は物すごいタイトなスケジュールの中での出演でして。衣装合わせして翌日から撮影という無茶苦茶な状況でした。でも必死にやりましたねぇ。僕は初来日のKISSを観てなければ、ここに今いないと思う(笑)。特に僕はベーシストなので、リスペクトしている彼の服を好きに作れるというのは、またとない機会でした。でもアメリカからくる寸法は超アバウトだし(笑)かなり大変な作業でしたね。

PhotoYOU-KO:どうしても事前に本人を採寸することができないので、具体的に「こことここを計って」と伝えて40ポイントくらい教えてもらいました。できればセンチでと言ったのですが、インチで返ってきました(笑)。似たような長身の人をモデルにしたり、実際にGene Simmonsに会ったことのある人にヒアリングしたり、たぶんこのくらいだろうと推測して進めました。衣装合わせは来日直後にホテルでやったのですが、結果はオーライでバッチリでした(笑)

— さすがですね。キャリアと勘のなせるまさにプロの業です。それではJAP工房のセールスポイントを教えてください。またライバルなどは意識されてますか?

川上:やはり自分自身がプレイヤーでもあるので、ミュージシャン的には竿(弦楽器のネック)の動きとか、楽器を持つとどこが見えるとか、どう動くと良いとか、そういうツボ的なところを理解しているのが強みですね。あと元々JAP工房は特殊なので(笑)。もともとパンクで、ヘヴィメタルもやるし、映画もやるし。そういうところはまず無いですよね。足元から頭までコーディネイトできるところって、探しても無いと思います。そういう意味では“JAP工房”という一つのジャンルを確立できたらいいなと思ってますし、確立しつつあるかなとも思います。だいたいは悪魔とか魔界がテーマの物が多いですけど(笑)。最近手がけているのは雨宮慶太の『牙狼-GARO- 〜RED REQUIEM〜』(今秋公開)をやってますが、ちょっと前は秋山莉奈主演の『ゴスロリ処刑人』(9/4公開)、その前はミュージカルの『黒執事』と、完全に悪魔に食べさせてもらってますね(笑)。でも、JAPに頼めば良いものができる!と名指しで依頼が来るのは、とてもうれしいですね。

— 最後に、ビースト読者に一言お願いします!

Photo川上:「GUILD-UNIT」に併設したアートスーペース「GAS」で、イラスト展『聖飢魔IIイラスト展』をおこなっています(※注:8/3まで開催)。そして次は聖飢魔II公認の『聖飢魔II・ドール発売記念ドールカスタムコンテスト』をおこないます(※開催:8/6~12)。JAP工房で作ったドールは、7/5にフランスのパリで開催された世界最大級のアニメコンベンション「ジャパン・エキスポ」へ、聖飢魔IIメンバーと一緒に渡り、約20万人の方に見てもらいました。このドールはサンプルですが、これをもとに量産されます。それを記念したドールカスタムコンテストを実施します。一般参加型イベントなので、賞を設けようと思っています。力作ぞろいのドールが30体以上集まると思いますので、ぜひ見にきてください!

YOU-KO:さらにアートスーペース「GAS」は、8/13~19の同時開催で、『聖飢魔II歴代戦闘服御開帳D.C.12-Vol.5』と『画龍人 ESHIMASA。龍原画展』をおこないます。こちらもお楽しみに!

 

取材にうかがった日、何と聖飢魔IIの初代ベーシストであるゾッド星島親分が来店!遊びに来たのかと思いきや、アトリエへ直行。『聖飢魔II・ドール発売記念ドールカスタムコンテスト』へ、自らの作品を披露するための制作作業に来たようです!元構成員も参加するドールコンテスト、すごいことになっています!さすが聖飢魔II公認のイベント。

短い時間ではありましたが、今回のインタビューを通じて「JAP工房」のマインドに少し触れることができたと思います。日本で一番、そして唯一のスタイルを貫いていることは、お話から良く伝わってきました。またお仕事という部分を越えたアーティスティックな人生を、川上登社長と高野裕子チーフデザイナーの言葉から感じました。

類が無いことを実行するのは、本当に大変なことです。当然、今まで人に言えない苦労も数多くあったと思われます。しかしネガティブな発想をせず、前向きに熱く取り組む姿勢に、何か揺さぶられるものがありました。吉祥寺へ行ったら、ぜひ「JAP工房」直営の「GUILD-UNIT」をのぞいてみてください。素晴らしい数々の作品に出会えるはずです!

Photo


◆JAP工房
http://jap-inc.com/

◆インフォメーション
聖飢魔II 特別情報サイト:http://jap-inc.com/seikima2/
GUILD-UNIT ART SPACE[GAS]:http://jap-inc.com/gas/
Rock Star Cafe 吉祥寺:http://jap-inc.com/gas/rock_star_cafe.html

★読者プレゼント★
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