特集

TEXT:金井孝介 PHOTO:鈴木亮介

本誌BEEASTが自信を持ってプッシュする太鼓判アーティストの特集、第25弾は3ピースガールズバンド、浮遊スル猫(ふゆうするねこ)をご紹介する。メンバーはさはら(Vocal & Guitar)、やがわいちる(Bass & Vocal)、おみ(Drums)の3名。
 
「見た目とは裏腹」という言葉が、これほど似合うバンドも珍しいのではないだろうか。浮遊スル猫は、そういうバンドだ。本誌BEEASTでも幾度かライブレポにて取り上げてきたので、「名前は知っている」という人も多いだろう。ガールズバンドだが、サイケデリック。歌詞の中には、女性的な心の不安を映し出すかのような世界が広がっている。そして若い世代のみならず、ゴリゴリのロックを好む世代にも求心力を持つであろう爆発的なサウンドを武器にして、幅広いリスナーからの支持を集めている。2012年から活動を開始し地道にライブ活動を続けてきた彼女たちだが、初の全国流通盤となる1stミニアルバム『フカシンリョウイキ』を、1月22日にリリースする。彼女達の世界を、これでもかと詰め込んだ至高の一枚になるであろうことは間違いない。
 
今回『フカシンリョウイキ』の発売に先駆けて、彼女達にインタビューを敢行した。彼女達は、なぜ音楽をやるのか。これからどこへ向かおうとしているのか。彼女たちの「本音」に迫る。
 

 

—まずは『フカシンリョウイキ』リリース決定、おめでとうございます。

 
一同:ありがとうございます!
 

—ミニアルバムを作ろうという話が出たのはいつ頃ですか?

 
さはら:「アルバム作りたいね」って言ってたのは、今年(=2013年)の4月でした。
 
いちる:具体的にエンジニアさんと話をしたのは、5月ですね。「こういうバンドです」っていう、名刺代わりになればと。
 

—特にどのようなところにこだわりましたか?

 
いちる:普段のライブでも曲ごとに音作りはこだわっていますが、レコーディングにあたっては特に、全ての楽器の音を曲ごとに微妙に変えて、微妙な音の違いを作り込んでいきました。
 
さはら:ライブでは出せないシンセなどを使ったり、ボーカルにエフェクトをかけたりと、ライブとはまた違ったボーカルの作り方をしています。フレーズを繰り返す箇所では、声質を微妙に変えてみたり…
 

—歌い方にもこだわっているのですね。

 
さはら:「惰性と憂鬱」の中に「like a virgin you…」というフレーズがあり、8回繰り返すのですが、声質を8回全て「ここはこういうシチュエーションのこういう気持ちで」とイメージして変えています。また、フレーズの歌い出しの部分は、ライブだとやがわいちる)さんが歌っているのですが、アルバムでは私が歌っています。エンジニアさんとも「ここはこうしたい」と話し合って…演奏は当然全て3人でやっているわけですが、このアルバムはそれ以上のものが出せていると思います。普段のライブとの微妙な違いを聞いてもらえるのも、このアルバムの楽しみかもしれません。
 

—選曲は、どのようにして決めていったのですか?

 
いちる:優しすぎる曲ばかり入れるとさみしくなるし…。厳選するのも大変でしたね。結成当時からずっとやっている曲が、あまりないんです。「無関心の過失」と「宇宙猫」くらいで。「惰性と憂鬱」、「深い不快な眠りについて」などは、レコーディング前に少しやっていた曲です。インパクトのある曲を入れたいと思ってはいたのですが…
 
さはら:結局最終的に曲目が決まったのが、5月終わりくらい。ギリギリでした。
 

—改めて、浮遊スル猫の結成について教えてください。

 
いちる:最初は私とさはらWonder Spiritというバンドをやっていたのですが、ドラムメンバーがなかなか固定せず「ちょっとこれでは前に進めないな」ということで、いったんバンドを解散するという結論に至りました。その後、再始動にあたって名前を一新しようと思ったんです。「目につく名前にしたいね」と話し合う中で、さはらが「猫」を入れたいと言いまして。
 

—猫?

 
さはら:猫が好きなんです(笑)
 
いちる:それでずっと考えてたら、とある曲の中に「浮遊する」というフレーズが出てきたんです。「浮遊する」「猫」と並べてみたら、なんだかかっこいいねということになり。そして「する」だと、ちょっとかわいすぎると思ったので「する」はカタカナにしようと。そして「浮遊スル猫」になりました。
 

—そこからどのように活動を始めていったんですか?

 
いちる:ドラムは固定のメンバーが欲しかったので、ネット上で募集したり、Twitterのプロフィールに「ドラム」って書いてる人にはとりあえずメッセージを送ってみたり(笑)。その中でおみに出会いました。
 
おみ:私のとこにもメッセージが来た(笑)
 

—おみさんはなぜこのバンドに入ろうと思ったんですか?

 
おみ:二人が前のバンド時代にやっていたバンドの曲を聴いて「面白そうだな」と思って。そこからやりとりするようになり、一度スタジオに入ることになり、他にも何人かドラム候補者がいた中から、私を選んでもらいました。
 

—おみさんをドラムに選んだ決め手は?

 
さはら:もちろんドラムが良かったってこともあるんですけど、初めて会った時にすごく元気な声で「初めまして!」って言われたので、すごくいい子だ!って思ったんです(笑)。それで、その場でお願いしたら是非やりたいと言ってくれたので、すぐ決まりましたね。それが2012年の2月くらいでした。
 

—それまでおみさんは他にバンドをやってたのですか?

 
おみ:学校の中で組んだバンドでライブに出る程度で、本格的にバンドとして活動したのはここが初めてです。元々9mm Parabellum BulletTHE BACK HORNなどの邦楽ロックを聴くのは好きでしたが、プレイヤーとしては学生時代ずっと吹奏楽部でクラシックだったので(笑)。だからライブもあまりやる機会がなかったのですが、浮遊スル猫でやっていくうちにだんだんと吸収してきたなあという感じです。
 
さはら:うちらより度胸あるよね。
 
いちる:最初の頃はフィルとかもあんまり入れてなかったんですけど、ちょっとやる間にどんどん成長したよね。
 
さはら:おみは努力家です!
 

—さはらさんといちるさんのお二人は、どのように音楽に関わってこられたんですか?

 
いちる:中学3年の頃に、家にあったアコギを弾いてみたらすごくおもしろくて、最初はギターを始めました。その後、知り合いがベースをやっていて「かっこいい!」と思って、高校生の頃に少し習いました。その後、バンドを組みたいと思って、当時はmixi全盛期だったので、暇さえあれば「バンドメンバー募集」のところを見ていました。そこである日、さはらの書き込みを見つけて、出会ったんです。
 
さはら:私も家にアコギがあって、中学の頃から弾いてました。元々は歌手になりたかったのですが、どうすればなれるのか、「なり方」がわからなくて。その後、ELLEGARDENなどを聴いていてバンドというものの存在に気づいたんです。バンドなら、組めばいいから(笑)。初めてバンドを組んだのは高校1年生の時で、私がギターボーカルで3ピースでした。本当はもう一人ギターを入れたかったのですが、見つからなくて。それが理由か、今も同じような編成でバンドをやってます。
 

—浮遊スル猫ではさはらさんといちるさんがそれぞれ作詞・作曲を担当しています。曲作りはどのように行っていますか?

 
さはら:私の場合は、他のバンドのライブを観に行った時に「作りたい!」ってなることが多いですね。もちろん作ろうと思ってパソコンに向かう時もあります。曲の世界観が生まれるのは、時と場合によって様々ですね。他にも、スタジオに入った時に3人で遊びでセッションをすることがあるのですが、それを録音して持ち帰って聴いてみて、自分なりにメロディーを付けて、いい感じになったらメンバーみんなで形にしていく…なんてこともあります。
 
いちる:私は一個ワードを用意します。例えばアルバム1曲目の「好奇の眼」は、「のぞいてみたい」「知ってみたい」っていう言葉をまず一つ置くんです。そこに「インターネットにはいろんなことが載っている」、「テレビでは本当のことは伝えられてない」とか、ちょっとずつワードを足していって、それを歌詞にしています。何日もかけて作ることはないですね。だいたい1日か2日でやっちゃいます。
 

—皆さんにお聞きしたいのですが、曲作りやライブをやる動機は、どういうところから来ているのですか?

 
さはら:私は、切ないものとか弱々しいものが美しいと感じるので、そういうことを曲で表現したいという思いがありますね。「どうやったら切なく聴こえるかな」と思いながら作っています。そうした「切なさ」の中にある「力強さ」を、ただ暑苦しい感じではないように伝えたい。深みのある曲が作りたいと思っています。
 
いちる:私は”くすぐったい曲”が苦手。「君が好きだ」みたいな歌詞を歌うより、それだったら自分の持ってる根暗な部分とかをさらけ出した方が面白いんじゃないかと…。一つのキーワードから広げていって音楽を作ると話しましたが、その広げ方が素直じゃないんです(笑)
 
おみ:私も影響されることが多いですね。あとはいろんな人のライブを観にいって、「このフレーズかっこいいな」と刺激を受けて、実際に自分のドラミングに反映させてみることもあります。
 

—結成からもうすぐ2年。ここまで浮遊スル猫としてバンドをやってきて、変わってきたところや、逆にここは変わらないというようなところがあれば教えてください。

 
いちる:うーん…。自分達の中で、浮遊スル猫が何なのかっていうのが未だにわかってないですね。ジャンルを聞かれても「何だろうね?」って言っているくらいなので。今回のアルバムをレコーディングし始めたあたりから「あ、こういう曲が浮遊スル猫らしいかな」っていうのがようやくつかめてきた感じです。
 
さはら:まだ手探り状態ですね。徐々につかんでいる感じです。
 

—最後に、今回のアルバム『フカシンリョウイキ』のここを特に聴いてほしい、というイチオシポイントを教えてください。

 
おみ:ライブでの熱量を、そのままレコーディングに注ぎ込んだ1枚になっています。アルバムを聴いて、ライブ感を味わってもらえたらと思います。
 
いちる:世代や好きなジャンルを問わず、色んな人に聴いてもらいたいアルバムです。むしろ、全然ジャンルの違う音楽が好きな人にも聴いてほしいですね。。1曲1曲が主役になっているようなアルバムであり、同時に私達の「遊び心」も含めて全て詰め込んだつもりです。一本の映画を観るように聴いていただけたら嬉しいです。
 
さはら:「これが浮遊スル猫です!」と差し出せるようなアルバムに仕上がったと思います。


彼女たちは、まだ道の途中にいるのだろう。素晴らしいパフォーマンスや曲ではあるが、それを3人は「手探りの中で生み出されたもの」と謙遜する。ということは、まだまだ彼女達は進化し続けていく可能性に満ちあふれているのだ。
 
その途中で、どのようなものを得るのか。また、どのようなものを手放していくのか。そしてその先には、どんな「浮遊スル猫」が待っているのだろうか。どのような道を進んでいくにしても、彼女たちが最高のロックを聞かせてくれることは間違いない。
 
 
 
 

◆リリース情報
浮遊スル猫 1stミニアルバム『フカシンリョウイキ』
2014年01月22日 発売
<収録曲>
M01. 好奇の眼
M02. 無関心の過失
M03. 惰性と憂鬱
M04. 深い不快な眠りについて
M05. over
M06. 宇宙猫

※初回特典として「俯瞰」を再録したCD-Rが付きます!なお、特典の有無については各店舗までお問い合わせください。(*Amazonにはつきません。*特典配布店舗につきましては、随時お知らせしていきます。)
 
◆浮遊スル猫 公式サイト
http://fuyusuruneko.web.fc2.com/
 
◆浮遊スル猫 公式Twitterアカウント
https://twitter.com/fuyusuru_neko


 
◆レコ発企画ライブ、開催決定!
~浮遊スル猫 presents~ 「フカシンリョウイキ」ReleaseParty
・2014年02月15日(土)【渋 谷】チェルシーホテル
OPEN / START 未定
ADV / DOOR ¥2000/¥2500 (+1Drink)
w) FOOLA / リリーローズ / +1BAND(1/26解禁)
各バンド40分出演
ライブ会場にてチケット販売中! 会場販売チケットには限定で“浮遊スル猫スタジオライブチケット引換券”がつきます!
 
◆その他ライブインフォメーション
・2014年01月23日(木)【下北沢】BASEMENT BAR
・2014年02月02日(日)【高田馬場】CLUB PHASE

 
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【レポート】TOKYO BOOT UP!2013 プレイベントvol.4
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【PHOTOレポ】浮遊スル猫 @立川BABEL
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