特集

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TEXT&PHOTO:桂伸也

先日、BEEASTにてレポートした『『エフェクターの祭典、EffEXPO(エフェクスポ)』 第二回 (Part1)』(以下、EffEXPO 第二回)。ここではデモプレイとしてエフェクターの試奏をメインとしたステージが行われたが、記事中でもレポートした通り、ラストステージに登場した快進のICHIGEKIは、ライブステージを利用し、ライブレコーディングのデモンストレーションを行うというユニークな企画を実施した。
 
観衆に対して白熱したライブステージを体験してもらった後に、さらに後日レコーディングした音源を公開し、どのような作品ができてくるのかを耳で体感してもらい、ステージを二倍楽しんでもらおうというという実に画期的な試みだ。
 
実際にアーティストがライブレコーディングを行う場合に、どのような作業、考えが必要なのだろうか?また、ライブレコーディングを行う意義、利点とはいったいどのようなものだろうか?近年は技術の発展も目覚ましく、一昔前では考えられないクオリティのライブレコーディングを、ローコストで行えるようになってきた。今回はこのイベントで行われた企画を裏舞台から掘り下げてレポート、手軽に実践できるライブレコーディングの実態を探るとともに、ライブレコーディングを行うことの魅力やメリットを、制作に携わるものへのインタビューを行うことで改めて考察してみた。
 
また、本記事はフリーマガジン『DiGiRECO/ElectricGuitar』との連動した内容を試みている。今回のライブレコーディングというテーマに関してそれぞれの紙面の観点で記事を構成されており、両誌の記事を読むことで今回のテーマをより深く理解することができるだろう。本記事ではライブレコーディングの手始めとして、その作業をアーティストから委託することを想定した場合の視点でイベントを追ってみた。実際のレコーディング技術や使用機器、ミックス作業などの、エンジニアリング作業を深く掘り下げた内容は『DiGiRECO vol.151/ElectricGuitar vol.71』の記事で特集されているため、レコーディングやミックスに興味のあるユーザーたちはそちらも合わせて参照してみてほしい。
 
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1.ライブレコーディング編

 
ここでは、2013年10月27日のEffEXPO 第二回で行われた快進のICHIGEKIのステージで、ライブレコーディングがどのように導入、実施されたかをレポートする。この企画で重要な働きを行ったのが、エンジニアの松金昭治(以下、松金)だ。まず彼に、ライブレコーディングの魅力をたずねてみた。
 

プロフィール:
松金昭治(まつがね しょうじ)
1975年生まれ。茨城県出身。Recording MixEngineerとして(株)Mega Hyper Soundに所属。生楽器の鳴りを大切にしながら、幅広いサウンド作りを行うことを得意とするエンジニア。楽曲の良さを最大に引き出す音作りが信条で、アーティストからの信頼も厚い。
 
これまでに手掛けた主なアーティスト
ABNORMALS、ARTEMA、インリンオブジョイトイ、exist†trace、快進のICHIGEKI、グレート義太夫、岸利至(TwoTribes)、The Collectors、坂本英三(Soloアルバム)、酒井愁(TwoTribes)、シルヴィア、ラック眼力(うみねこのなく頃に~etc)、流田プロジェクト、MAD大内(OverUnder+)、MAD BEAVERS、フレディ波多江solo(GUEEN)

 
松金昭治所属のレコーディングスタジオ:
MHS -Mega Hyper Studio-
http://mhs.ms/

 

松金さんが携わっているライブレコーディングのサービス実績はどのくらいのものでしょうか?

 
松金:10年くらい前から行っていますね。最初はADAT(Alesis社が開発した、デジタルマルチトラックレコーダー)と呼ばれる機材で、もっとトラック数の少ない簡易なシステムでサービスを行っていました。そのころからいろんなライブハウスをまわりましたので、それなりにノウハウもあると自負しています。ホールや1000人規模の場所であればまたシステムも変わりますが、それ以下のクラスであれば、私は得意な領域といえますね。
 

—ライブレコーディングを行う上で注意しなければいけない制限事項などはありますか?例えばライブハウスの環境が合わなくて「ここではできない」、というような場所は、今までありましたでしょうか?

 
松金:基本的にはないですね。大体今まで行ってきたライブレコーディング環境では、電源さえ取れればほぼ問題なくできましたので、その意味では環境での課題はほぼないと考えられます。たとえば今回用意したシステムは、だいたい車一台で積み込めるようなコンパクトな規模のもの。ライブハウス毎でライブレコーディングの実績をうかがった際には、「まだやったことがない」と言われたこともほとんどないし、もし何らか実績が少なそうなところであれば、事前に下見に会場に行って懸念になりそうなところを整理することもありますので、それ程問題になるようなこともない。ほぼ気軽に行えることだと考えていただいていいと思います。
 

—エンジニアという立場から見たライブレコーディングの魅力とは、どんなものがあるとお考えでしょうか?

 
松金:たとえばスタジオ録音は、作り込んで出来上がった「完成形」というところに魅力がありますが、ライブレコーディングは、ミスも含めて生でやっているという感覚があります。どちらにもそれぞれの魅力があると思いますが、ライブレコーディングはスタジオレコーディングに比べると「出来上がるまでどんなものができてくるかがわからない」という面白さはあります。その場の空気感とかサウンド、そういったものがそのまま形として残るわけだし。「どちらがバンドの本当の演奏?」と言えば、実際にはライブレコーディングの方が本当ということになりますから。
 

—ライブレコーディングのほうがスタジオレコーディングよりも「リアルなものを表している」という意味では、作品としては質の高いものと見ることもできるわけですね?

 
松金:確かに。一つ思っていることがあるのですが、スタジオレコーディングと同等のクオリティの作品としてライブレコーディング作品を出していく、つまりライブレコーディング盤を普通のスタジオレコーディング盤リリースと同様に新譜という形で出していくというのもおもしろいんじゃないかな?と思っています。音楽の製作費が限られている現状を考えると、当然、こちらの方がコストも下がりますし。
 

—音楽業界に一石を投じるようなご意見ですね。

 
松金:でも、スタジオレコーディングでは作ったものをいろいろ直せますよね、演奏も含めて。そういう意味では、ライブレコーディングはバンド演奏のクオリティの高さや低さがそのまま見えるので、リスナー的にもバンドの本質を見極める作品として見ることできるし、その方がバンドとしても質の高いものを目指そうという方向も出てくるのではないかと思っているんです。
 

—アマチュアやインディーズのバンドをやられている方が、ライブレコーディングを行う事のメリットを教えていただければと思います。

 
松金:先程の話と重複するかもしれませんが、やはり良くも悪くもバンドの等身大のプレイが収録できるということ。だからそれを作品として作るというだけでなく、その上で自分の反省点や、新たな方向性の見極めなど、バンドの新たな成長につながる要素を見出せる可能性もあるかと思います。なので、そういうところでも「これからどんどん成長したい」という方々に活用していただければより充実したものになると思います。
 

—コストの面ではいかがでしょう?

 
松金:そうですね、一昔前に比べるとコストも低くなっていますのでおススメです。なによりスタジオレコーディングよりもずっと安上がりだし。実際のところ、スタジオレコーディングでは20曲やろうとすると普通に20日かかることもあるのが、ライブレコーディングはどんなにかかっても収録は一日ですから(笑)。
 

 
●ライブレコーディング セッティング
 
この日、快進のICHIGEKIがスタッフ一同で会場入りしたのが朝10:00。ライブはイベントのタイムテーブル上では最後の18:00だったが、ライブレコーディングの準備のために事前に会場側から得られる音声信号の確認を行う必要があったため、早めの会場入りとなった。
 

 
当日用意された機材は、レコーディング用のProTool機材(画像:ラックに搭載されている機材一式)。この構成は録音の信頼性を高めるため二重系構成となっており、片系に障害が発生して録音できなくても、もう一方の系で録音を続行することができるようになっている。「失敗は許されない」という命題に対しての配慮だ。基本的には音声信号は卓の方からステージ上の音声を受ける恰好になる。そのためどのような信号を、どのような形でもらえるのか?事前確認及び当日の確認を経た上で、録音システムへ接続する。
 
ライブレコーディングは、基本的にはマルチレコーディングとして、ベース、ギター、ボーカル、コーラス、その他ドラムの各機材と、それぞれの音を個別の信号として受ける恰好となっている。これにより、例えばプレイ中のミスや不慮のトラブルが発生した場合も、最悪後で修正することができる。また、今回はこのほかにエアマイクを二本、別途用意し信号を入力している。(卓からの信号以外に、フロア側で聴こえるサウンド及び観衆の歓声などの音声を拾うマイク。エアマイクで収録する音は、作品の臨場感を高めるための素材として、ライブレコーディングでは必ず収録すべき素材だ。)
 
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一通りの機器セッティングが完了したら、今度は入力信号確認。この日は時間の都合で、このあとライブステージを行う予定となっていた浮遊スル猫のリハーサルに合わせて、入力信号確認を行うこととなった。対象(レコーディング対象のバンド)は異なるが、卓からの信号出力条件は同じなので、彼女らがプレイした音でも必要な音がレコーディングシステムにちゃんと入力されているかどうか確認をすることが可能というわけだ。
 
サウンドチェック、リハーサルそれぞれの段階で、快進のICHIGEKIのステージを想定しながら入力信号の確認を進めていき、必要に応じて会場側の担当者とのコミュニケーションをとることでレコーディングに対する問題を排除し、準備完了となる。この日搬入からセッティング完了までに要した時間は約2時間。これはリハーサルにかかる時間にもある程度依存するところだ。会場の状況やその他条件に応じて臨機応変に対応できるところが、非常に心強い。あとは、ライブレコーディング開始/終了操作)を行うこと、及び機器障害対応のためにライブが終了するまで録音状況を監視し続けるのが、エンジニアの作業となる。
 
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今回のレコーディングで収録された音(録音されたままの音)はこちら。
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●リレコーディング
 
ステージでのライブレコーディングのほかに、音源の修正としてスタジオで実施するリレコーディングの例を、松金快進のICHIGEKIに行ってもらった。
 

潤、ベースの録り直し例

 
今回はBassののプレイで、一部プレイ中にチューニングが狂った個所を発見、その箇所のみを修正した例。手順としては、ベースのレコーディングトラックで該当の箇所を探すとともに、レコーディングシステムへベース入力を接続、当日のサウンドに近づけるセッティングを確認し、リハーサルを行った上で通常のスタジオレコーディングと同様にプレイを行い音を収録する。レコーディングが成功したら、PCからの操作にて該当部分を元音源に適用するだけ。非常にシンプルな作業だ。
 
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久雄、コーラスの録り直し例

 
久雄のコーラスパートにも音程の狂いが発見されたため、その修正を行った。ボーカルパートに関しても、ベースの録り直しと同様の作業。しかし、ボーカルやコーラスはステージ上の臨場感や抑揚感が大きく出来に影響するため、一概にプレイすればそのまま収録完了というわけにもいかない場合がある。そのため「ステージを想定して」という松金の、何気なくかける一言が実は大きな意味を持つ。
 
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2.ミキシング編

 
収録の完了した音源を、最終的にミックス作業(音質などの微調整を行う作業)を行うことで、仕上がった作品としての音源が完成する。基本的にはエンジニアの行う作業であるため、ミックス作業自体はアーティスト側からはブラックボックス的な位置づけになることが多いが、アーティストとしてはこの作業に対して、完成品を作る上でどのような心構えでいるべきだろうか?エンジニアの松金と、彼に信頼を置くアーティストである快進のICHIGEKIのメンバーに、完成品を作る上での心構えを聞いてみた。なお、今回行われたミックス作業詳細に関しては、『DiGiRECO vol.151/ElectricGuitar vol.71』の記事を参照してみてほしい。また、ライブレコーディング後の素材を完成品とするまでの過程とはどのようなものだろうか?1章に続き松金に、このポイントをたずねてみた。
 

 
—ミックス作業、サウンドを作り上げる上で、松金さんが目標としているような理想像というものはありますでしょうか?

 
松金:あります。たとえばアメリカのヒットチャートに上がるナンバーにあるサウンドが基準ですね。これらは全世界の最前線にあるサウンドとしてやはり素晴らしいものがたくさんありますから。
 
ただ、それぞれアーティストが違うとやりかたも当然変わってくるので、「こういうところは」というところを日々研究しては引っ張ってきてサウンドを作り上げているというように作業にも反映しています。それを重視しながら、自分が深く関わっている「快進のICHIGEKI」サウンドというものと作り上げたいと考えているんです。まだ模倣でしかない、というところもありますけどね。実験的なこともさせてもらいつつ探しているところです。一生探し続けるのかなあ、とも思っているのですが(笑)
 

—例えばスタジオ盤制作においてもそうですが、快進のICHIGEKIのレコーディングの中でもその自分で考えられている「こうだ!」というものを、ミキシングしてメンバーに聴かせるわけですよね?バンド側と意見がかち合ってしまうことはありますか?

 
松金:当然それはあります。作品を作る上で中心に存在するプロデューサーという立場の方は、自信をもって商品として売り出せるものとすることを考えられていますが、私はその範囲の中でかつ唯一無二なものにするということを主張していますので。私の中ではその「唯一無二」というキーワードはかなり重要なキーワードなんです。だから、それを目指してお互いにぶつかりまくっていますね(笑)
 

—快進のICHIGEKIの場合と、他のアーティストを比べるとどうでしょう?

 
松金:快進のICHIGEKIとは付き合いも長いのでメチャクチャにぶつかることはありますね(笑)。プロデューサーの方がいる場合はその方の「作りたい」と思っている音作りが重要なポイントにはなりますが 音楽的なことに関してはバンドメンバーと、とことん意見を交換しながらやりたいと思っています。ミュージシャン、バンドメンバーから学ばせてもらえる事は大変多いですし。
 

—ライブレコーディングにおいて、ミックス、マスタリングというエンジニアが行う作業はどのようなインプットを行った上で行われるのでしょうか?

 
松金:いや、ライブレコーディング作品を作るにあたっては、それほどスタジオレコーディング作品のように事前にいろんな議論を交わすようなものというのは、基本的にはありません。「ライブの空間を再現してあげよう」というのが一番重要なポイントですし。バンドのメンバーは自分のライブが見られないわけですよね?だからそこを自分が見て、視覚からくるサウンドのアプローチというものを考えながら、それを合わせて当日の雰囲気というものを客観的にメンバーに再現してあげるというのが私の仕事だと考えていていますし。
 
なので、こちらから特別に「こんな風にしたらカッコいいんじゃない?」というような提案や指示も行っていないです。本当に当日のライブの演奏をカッコよく聴かせるというところに尽きる。だから時々ミスが入ったプレイを収録しても、メンバーが「そのままでいいんじゃない?」ということがあればそのまま。むしろ直さない方がカッコいい場合もありますので。
 

—ミックス作業としては、「当日の雰囲気を再現する」という点では何らかサウンドに対する修正作業があるかと思うのですが、具体的にはどのような作業を行われているのでしょうか?

 
松金:たとえばワンマンのライブでドラムセットを持ち込み、ギターもベースアンプもすべて持ち込みということであれば、自分たちの作りたい音をライブレコーディングでも自由に作れると思いますが、対バンや会場の機材に依存するような場合は、バンドの意図する音から変わってしまう可能性も出てきます。そういった状況の中でも、「そのバンドが理想とする音に近づける」というアプローチを行っています。必要最低限な修正のみをミックスで行うという。「いや、そうじゃないよ」と言われるのであれば、全く違うものとしてそのような作り方をすることもあります。でも、その場合はそもそもライブレコーディングをする必要はないわけですけどね…
 

—ちなみに、そのわずかな修正という部分を超えて、アーティスト側の意向により大幅な修正を加えた例もありますか?

 
松金:もちろんありますね。歌から何から全部録りなおしとか。ただ、例えば不可抗力による事故があったり、当日ボーカルの人が喉をつぶして本調子が出なかったとか、いろんな状況で本来のバンドのカッコよさが出なかったというのであれば、それはバンド本来のカッコよさを作るという目標に向けて、そういうやり方も十分ありだとは考えています。ただし、そういう意味では、そこまでやってもやはりバンドの等身大のもの以上のことはできないということです。それ以上のものを作ろうとしたら、やはりスタジオレコーディングということになりますよね。

 
快進のICHIGEKIの二人(久雄)に、アーティストとしての立場から見たライブレコーディングの実際と、松金に対する印象を語ってもらった。
 

—たとえば快進のICHIGEKIが松金さんとレコーディングやミックスを行う際に、松金さんとどのような意思の疎通を行われているのでしょうか?

 
潤:いや、それほど意思の疎通というほど議論することはないですね。バンドさんによってどこまでの修正でどういいものにしていくかという考えは違ってくると思いますが、たとえば快進のICHIGEKIとしては、ライブ感を消したくないので敢えてミスでもそのままのせる場合もあります。それがカッコよく聴こえていればね。
 
何をライブレコーディングにおいてそのアーティストが残したいのかが大事だと思う。俺たちとは正反対に、ライブレコーディングでも一つのスタジオクラスのクオリティをライブレコーディングで聴かせるようなやり方も、修正を入れることでいくらでもできちゃうんですよね。その辺は討議して決定するアーティストさんの要望次第かなと思いますけどね。
 
そういう意味では、長くやっているからということもあって、メンバー同士も、松金さんともある程度信頼を置いているということもあるけど、まずはエンジニアさんにお任せして出てきたものを聴いてから「こうしたい」という意向が俺たちに出てくれば、どうしていきたいという議論をするという方向で進めています。知らない人がやる場合でも、まずは同じじゃないかと思いますが。
 

—基本的に最小限の差し替え以外に関して、本来のミックスの部分でバンドの方からエンジニアに「こうしたい」という要望を出すことはあまりないのでしょうか?

 
潤:そうですね。めったにはやらない。本当に明らかなミスで、苦肉の策として差し替えをやるくらい。バンドとしては本当に、できればほとんど修正したくないというのが本音なので。
 
久雄:まあそれもバンドによって両極端だと思いますけどね。ライブレコーディング作品と言いつつ、全部録りなおすようなケースの作品だってありますし。
 
潤:たとえばドラムを丸ごと差し替えたりしてね。ただ会場の空気感が欲しい、というところでそういうことをやるケースもバンドによってはある。ただ、俺たちの考えでは、たとえエアマイクの音を混ぜて演奏分部をまるごと差し替えたところで、どうやってもライブレコーディング一発録りの臨場感にはかなわないですからね。
 
久雄:だから、快進のICHIGEKIのライブレコーディングは、明らかなミスで差し替えが必要と感じている部分以外に関しては、基本的には松金さん任せ。細かく「こうして」みたいな指示は出したりしないです。付き合いが長いから信頼しきっているというのもあるけど。
 
ただ、松金さんは別のバンドでも、それぞれのバンドの良いところはしっかりと理解してくれる人だと思っています。たとえば俺たちみたいな、ライブ感を重視するバンドであれば、少々のミスがあってもそれがいいと理解してくれるし、逆に演奏力重視のバンドであればそれに合わせた見方をしてくれるし。たくさんの経験を経ているので、各バンドの望んでいるポイントを見抜くのがとても速いんです。 
 

—なるほど。そういう意味では、松金さんのエンジニアリングでは、ジャンルに偏らないオールラウンドに対応できるのでしょうか?

 
久雄:そうですね。俺たちみたいな激しいサウンド専用!というわけでもない(笑)。それにアーティスト一人ひとりと、かなり密にやっている印象もあるので、安心感もあります。
 
潤:エンジニアだけど、イメージとしてはディレクションの部分でもとても力がある人だと思っています。「良く録れたな」と自分では思っている音源でも、客観的に「もっとこうだよね?」という意見を言って、ディレクションに大きな力を貸してくれる。かつ、アーティストの感性に大きく抵触しないバランスの良さを持っていると思うし。あと、とにかく仕事が速い!
 
たとえばガチガチに修正してしまうのであれば、極端な話、誰でもいいと思うんですよね。そんなライブレコーディングを行う方やサービスもたくさんいると思うけど、バンドがライブをやったエネルギーというものをしっかり音源として残してくれるんですよ、松金さんは。そんな作品を求めているアーティストには、本当にお勧めできると思います。最新機材をスタジオで使っていても、ものすごくアナログな部分を大事にする人なんですよ。
 

—快進のICHIGEKIは、ライブレコーディング作品はご自身が制作するものの中では、どのような位置づけとお考えなのでしょうか?今までリリースされた快進のICHIGEKIの作品は、わりとライブレコーディング作品が多い方ように見られます。それはやはりライブレコーディング作品を重視する傾向があるからではないかと思うのですが。

 
久雄:枚数が多いのは、環境的には俺たちはライブレコーディングをやり易い状況にあるからというところもあります。でも、割合としてはやっぱりスタジオレコーディング作品をいくつか出した後で「ここぞ!」というところでライブレコーディング作品を出すという感じ、それ程普通のアーティストとは変わらないんじゃないでしょうか。
 
ただ、枚数を重ねることにはこだわっていないけど、内容にはすごくこだわっています。昔のアーティストのアルバムって、まだ録音技術が発達していなかった頃だったから、スタジオレコーディング作品を聴いても結構ショボイ音なのに、ライブレコーディング作品がやたらカッコよかったケースってよくあったと思うんです。そんなケースが現代に持ち込めたらいいな、と考えることもあるし。それに、ライブには「その時だけの」っていう思いなんかもありますしね。
 
潤:『大江戸大決戦』のテイク(会場限定発売分)を聴いていて思ったことがあるんです。アルバムの最後にスタジオテイクの未発表曲「毎度ありMy Life」を入れているんですけど、並べて聴いたときにすごくびっくりしたんです。スタジオテイクが完全にパワー負けしちゃっていて。スタジオテイクも良くできたと自負していたけど、完全に負けていましたね、ライブテイクには。聴いて初めて分かるところもあると思うんだけど、やっぱりあのパワー感はスタジオではできないと思いますし。
 
それとライブテイクだと、気持ちとか、いろんなものが音に入ってきているので、ある意味考え方としては本質じゃないかと思うんですよね。だから例えばそういうニーズが増えていくケースがあれば、それはとてもいい傾向だと思っているし、いろんなもののとらえ方も、いい方向に変わってくるんじゃないかと。
 

—先程、ライブアルバムのリリースに関して、久雄さんが「ここぞというとき」というお話をされましたよね?実はその「ここ」という場所にバンドとしても目標が集約されているという意識はあるのでしょうか?

 
久雄:それはありますね。というか、そういう出し方をしています。ワンマンライブで、いろんなアルバムからかいつまんだステージをドワーッと入れたモノを出すようなこともある。
 
潤:結局、ライブレコーディング作品ってアーティストだけでできるものじゃないじゃないですか?スタジオレコーディング作品は自分たちだけで作っていくものだけど、ライブはアーティストとお客さん、スタッフとで作り上げていくものだから。そこはすごく大きな差かなって。だからお客さんも自分が参加したライブのライブレコーディング作品は当然欲しがりますし(笑)

 

レコーディング後、松金のミックスにより完成した音源はこちら。
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前述のとおり、今回のBEEASTの記事では、ライブレコーディングサービスがあることを前提とし、アーティスト側としてライブ作品を制作する部分に対する興味を示す内容にて構成してある。もしレコーディングなどの知識に習熟されている方や、ライブレコーディングを自分たちで行いたいと考えられている方がいれば、是非『DiGiRECO vol.151/ElectricGuitar vol.71』の記事を参照してみてほしい。EffEXPOで行われたライブレコーディングの詳細、及びミックス作業に関する掘り下げたレポートが行われており、興味深い内容となっていることは間違いない。
 

DR『DiGiRECO vol.151
/ElectricGuitar vol.71』

※右の表紙画像をクリックすると、『レポート 快進のICHIGEKI ライブ・レコーディング@EffEXPO』の記事をダウンロードすることができます。

『DiGiRECO / ElectricGuitar – ミュージックネットワーク』 公式サイト
http://www.musicnetwork.co.jp/work/digireco-electricguitar/

 
ライブレコーディング盤というと、近年ではアーティストの活動節目の記念や、特に重要なライブ公演などにターゲットを絞ってリリースされる例が多く、案外その内容に関して言及されることは少ないのではないだろうか?しかし、インタビューで松金が答えた「ライブレコーディングの方が本物の演奏」という意見は的を射ており、本来ライブレコーディングこそアーティストの本当の姿を知る手がかりであり、もっとその作品作りを重視する傾向があってもいいのではないかと思われる。
 
以前、BEEASTの特集記事『ROCK ATTENTION 28 ~外道~』でも紹介したロックバンドの外道が過去に発表した作品は、殆どがライブアルバムだったという。彼らの代表曲である「ビュン・ビュン」「香り」が、先日リリースされた活動30周年記念アルバムで初めてスタジオレコーディングを行われたという事実は、スタジオレコーディング作品が主と考える現在の音楽業界の流れでは驚くべき事実だ。しかしそれでも外道が今なおロックの世界で確固たる位置にあるのは、本質の演奏力の高さがあるからこそであり、それ故にライブアルバムがメインの作品となり得たことも、非常に自然な流れと見ることもできる。その観点から見れば、快進のICHIGEKIには近年の流れを汲みながら外道のような本質を極める方向も追うという志の高い思いも見られる。ライブレコーディング作品を作ることは、その意味でアーティスト活動のステップアップの一つと考えてよいだろう。
 
また、質の高い作品を目指すにあたっては、厄介な作業量と費用面の懸念も考えられる人もいるかもしれないが、今回のデモンストレーションで思っている以上に簡単な作業、調整とコストによりライブレコーディングが可能であることがお分かりいただけたことだろう。ミックスされた完成作品の質は、サンプルでも一目瞭然だ。松金の所属するスタジオでは、アーティスト本位のライブレコーディングサービスを行っているため、興味のあるアーティストたちは是非一度、気軽に連絡を取ってみてもらいたい。何よりのセールスポイントとしては、バンドの本質と考えを理解し作業を進めてくれる松金が担当であることだろう。きっと、アーティスト活動を一歩前進させる鍵となってくれるに違いない。
 

MHS -Mega Hyper Studio-
http://mhs.ms/
住所:
〒201-0004 
東京都狛江市岩戸北1-10-6 甲武ビルB1F
 
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