連載

JOEDOWN STUDIO 河野武史 エンジニアに突撃取材!
TEXT & PHOTO:鈴木亮介

連載「ロック社会科見学」第16回は、札幌からお届けします。北海道のミュージックシーンを牽引するJOEDONW STUDIOにお邪魔し、河野武史レコーディングエンジニアに話を聞きたいと思います。当連載では「ステージ3★レコーディングエンジニア編」で一度東京のバズーカスタジオにてそのお仕事紹介をしていますが、今回は札幌のレコスタということで、東京と比較しながら読んでいただければと思います。

移転リニューアルしてちょうど1年という新設スタジオの隅々を案内していただきながら、現在のお仕事、また道内の若手ミュージシャンを取り巻く現状についても、話を聞くことができました。

河野武史 プロフィール
1979年北海道札幌市生まれ。ベーシストとして中高とバンド活動に情熱を注ぎ、レコーディングにも関心を持ち始める。
専門学校卒業後、JOEDOWN入社。
現在、レコーディングエンジニアとしてロックからジャズ、演歌や民謡まで幅広く手がける。
「個人的にはロックが大好きなので、ロックバンドの仕事を増やしたいです!」
 

— とても綺麗なスタジオですね!

河野:このスタジオは2011年8月にできたので、完成してちょうど1年になります。JOEDOWNという会社自体は創業から25年になります。eastern youthとか、怒髪天がインディーズの頃や、KEMURI平谷庄至が以前所属していたバンドなどは、ずっとうちで録ってました。

— こちらのスタジオの設立経緯を教えてください。

河野::「広いスタジオを作りたい」というのが移転したきっかけです。移転の際重視したことは、居心地が良いことですね。”スタジオ、スタジオ、してない”というか。ミュージシャンがリラックスして作業できるということを一番に考えました。機材はあとでどうにでもなるけど、ハコは作ってしまったらそれで終わりですから。とにかくハコの鳴りにお金をかけようかな、と。ここのコントロールルームの鳴りは優秀で、音場を測定したらどこでもほぼフラット。ここで聴いていてもそこで聴いていても印象が変わらな い。喋ってる声もデッドなスタジオとちょっと違いますよね?敢えてライブにしてどうできるか、という所に焦点を当てて作っています。

— 入った瞬間の木の香りもいいですね。

河野:最近はタバコを嫌うミュージシャンも多いので、機材にも良くないし、タバコの煙でモクモク…という状況ではないですね。このスタジオは、アコースティックエンジニアリングさんという会社に設計をお願いしたのですが、予想以上に良く出来たと自画自賛してました(笑)

— 設計はスムーズにいったのでしょうか?

河野:ここだけの話、「こうしてくれ」「いや、それはだめだ」と、すんごいけんかしました(笑)エンジニア一人が作業する場所ではなく、プロデューサーやディレクター、クライアント等の関係者にも居心地よく滞在してもらいたいので、居住空間と音とどっちをとるか、という所のせめぎ合いですね(笑)本当はもう少し奥行きを広くしたかったんですけど「音のことを考えたら、この高さでこの横幅だったら絶対これ以上広げない方がいい」って言われたり。

— 特にこだわったことはありますか?

河野:やはり「居住空間」と「音の鳴り」ですね。北海道のスタジオでこれほどコントロールルームの音場が良いスタジオはうちくらいだ、という自負があります。移転する前のスタジオは狭かったので、バンドはパート別に撮って、ドラムを撮って、ベースを重ねて…と、ダビング、ダビング、という感じでしたが、ここは広いので3ピースバンドなら同時に撮れます。スタジオで撮ってるのにライブハウスでライブしているような感覚で演奏できるというのが魅力だと思います。

— ピアノもあるのですね。

河野:そうです。生ピアノがあるのは札幌市内のスタジオでも珍しいのではないかと思います。あのピアノは鹿児島のメーカーから購入したのですが、見た目はアップライトだけどグランドの機構が入っていて、タッチとかニュアンスはグランドピアノなんですよ。ちなみに北海道第1号だそうです。

— 現在はどういうジャンルの受注が多いですか?

河野:何でも屋なんですよ(笑)今朝は演歌のマスタリングをして、今マンションのPVのナレーションを撮っていて、あとは…バンドは古めかしいロックのバンドをずっと撮ってるんですが、その前はジャズや、MAVERICKのようなヘヴィメタルも撮ってますし…様々です。

— 正直、頭の切り替えが大変じゃないですか?

河野:いやぁ、大変です(笑)

— 一日の仕事のスケジュールを教えてください。

河野:午前中に出勤して、夜は何もなければ早く終わるし、あれば遅いし…不規則です。大なり小なり毎日収録はあります。1時間で終わるようなCMの収録もあったり、それが何本もありつつ間に音楽の収録があったり…という日もあります。朝イチでCM1本やって、そのまんま夕方まで何もなくて、夕方から夜中までレコーディング、という日もあります。

— 時間の使い方が大変ですね!

河野:でも自分一人でやらなきゃいけない作業がたくさんあるので、空いた時間はそういう作業をこもってやることが多いです。最近はあっという間に(夜が明けて)明るくなりますからね(笑)気づいたらこんな時間だ!って。

— これだけこだわりの詰まったスタジオなので、働いている方もこだわりが強いのかな、と想像します。

河野:うちの社長含め、業界の先輩たちはみなさん厳しいので…10年以上この仕事をやっていて、まともに褒められたことないですから(笑)

— 河野さんご自身、この業界は長いのですか?

河野:今年で13年目になります。

— この仕事を始めたきっかけを教えてください。

河野:元々自分はは中学から高校の前半までバンドをやっていて、ベースを弾いていました。そこから音楽がどんどん好きになって…ある日、バンドでコピーやオリジナルをやって練習風景を撮ることになって、当時ギターやってるやつがカセットの4トラックのMTRを持っていて、「これよく使い方分からない」「どれ、貸してみろ」って…そこからですよね。録音ハマったの(笑)その4チャンのMTRから、僕のレコーディング人生は始まりましたね。

— 高校卒業後はどのような進路に進んだのですか?

河野:とりあえず専門学校に入りました。専門学校で勉強なんてしないですから。楽しい誘惑がいっぱいあるじゃないですか(笑)ただ僕の場合は運が良くて、ここの会社に来たのも卒業する1週間前なんです。「やべぇ来週卒業式だ、何もやってない」って(笑)そうしたら、たまたま「一週間来てみる?」と話をいただいて…

— 卒業直前に滑り込んだ感じですね(笑)

河野:それで1週間経って、何も言われてないから「じゃあ明日もまた勝手に来ようかな」みたいな感じで、勝手に来てたんです。1ヶ月くらい(笑)そうしたら「うちでバイトやる?」って言われて、3ヶ月間のバイトを経て、社員に。

— 1ヶ月間も!

河野:最初の1ヶ月間はトイレ掃除とお茶くみと…朝まで雑用やってノーギャラですからね。勝手に行ってたんで。来るなって言われなかったし(笑)その後の3ヶ月も、(朝から晩までではなく)朝から朝までがむしゃらにやってましたね。 そのくらい昔は情熱があったんでしょうね。この仕事に就きたい!っていう。こんな事言ったら今は情熱がないみたいですが今でも情熱はありますよ!(笑)

— そんな河野さんから見て、今音楽をやっている若い世代はどう映りますか?ご自身がバンドをやっていた頃と変わってきているのでしょうか。

河野:そうですね…うらやましいですよね(笑)CDも簡単に焼けて、インターネットで簡単に音楽配信が出来て、世界中の人たちと簡単にコミュニケーションが取れて。そして何よりも携帯電話があるし(笑)
でも、僕らの時はそんな便利な物がなくても、なんというか…叱ってくれる先輩がたくさんいました(笑)叱ってくれながらもいろいろ教えてくれる先輩が多かったような気がします。ライブハウスとか楽器屋とか、なんかよくわかんないけど怖い人っていっぱいいたような気がするんです(笑)調子に乗ったらすぐ怒られるみたいな(笑)でもそこでいろんな事を学んだような気もします。「この音はこう作るんだよ」とか「あの楽器屋行ったらあれ安いぜ」とか。「先輩バンドにあったら知らない人でも挨拶しろ!」なんていうのもあったような気が…いまどきそんなのないでしょうけどね(笑)
あと、今は「イベンターがハコ代とか全部持つから安いノルマでライブしない?」というのが増えた気がします。場合によってはノルマなしとか。それでチケットを売らないバンドも結構いますよね。ケースバイケースでしょうけど、個人的には死ぬ気でチケット売って頑張ってほしいですよね。自分たちのライブを観てもらうんですから。それとライブ終了後に掃除をしない(手伝わない)とか。過去にスタジオでもありますよ。ジュース飲んでお菓子食べて散らかしっぱなしで帰るとか。あなたたち大御所ミュージシャンですか??みたいな(笑)それでちょっと否定的な事を言うと敬遠されることが多いですよね。

— もどかしいですね…。

河野:札幌の若いバンドは、演奏能力は高い方だと思うんですが、そうした状況なかで、パフォーマンス能力だったり音源の質だったり、あと一歩、惜しい、というバンドが多いですね。

— 音源もある程度知識があれば自分たちで作れちゃう時代ですしね。

河野:そうですね。今はある程度自分たちで作れてしまうので。メンバーの誰かが機材を持っていて、練習スタジオでリズム隊を収録して、そこに宅録でボーカルを重ねて…と。そうすると、自分たちの世界だけで仕上がっちゃうんですよね。インディーズのシーンを見ていても、「もうちょっとこうすれば良かったのに」「誰か口出すやついなかったのかなぁ」という思いを持つことが多々あります。エンジニアなど第三者の意見でもっともっと良くなるという作品が多いのです。

— 視野も広がらないし、もったいないですね。

河野:もちろん、宅録には宅録の素晴らしい所はたくさんあるんですが、スタジオで作業をするという、ものづくり自体の楽しさがあると思うんです。エンジニアやディレクターと、ああでもないこうでもないと意見を出し合うのも楽しいし、たまに別のバンドマン同士が鉢合わせることもあってお互いの情報交換をする事があったりするのも楽しいと思うし。だから、うちみたいなスタジオはどんどん若い子に使ってもらいたいですね。高校生も大歓迎だし、若いバンドにこのスタジオで色んな経験をしてほしいです。

— 若い人にももっとレコスタを使ってほしい、と。

河野:そうですね。予算も相談に乗りますし(笑)普段は、北海道のミュージシャンの仕事が当然多いのですが、これから東京でメジャーデビューするというミュージシャンのデモを録るのに使ってもらうこともよくあります。宅録の質も上がって来てますが、作品を作る時はレコスタを使ってほしいですね。うち以外にも札幌にレコスタはたくさんありますし。スタジオを借りるにはお金もかかるし時間も限られてるけど、その中でどれだけ集中してよい物を作れるか、どれだけ情熱を持って追求出来るか、そういう能力を引き出していきたいといつも思っています。

— 最後に、若いミュージシャンに向けたメッセージをお願いします!

河野:とにかく情熱を持ってやってほしいですね。「音楽で飯を食いたいのか、趣味でもいいから自分の好きな音楽をやりたいのか」人それぞれだと思いますが、とにかく情熱を注ぎ込んでほしいと思います。そういうミュージシャンは自然と応援したくなるんですよね。

今後は道外からも積極的にミュージシャンを誘致したいという河野さん。「気持ちに余裕のない中で作品を作っても良いものは作れない。いかにアーティストの創作意欲を引き出せるか、リラックスして作業してもらえるか、を重視している」と熱く語ってくれました。JOEDONWスタジオの休憩室の窓からは、大通公園や植物園、道庁などの綺麗な緑を見下ろすことができます。海の幸も山の幸も豊富な北海道に美味しいものを食べて、良い空気、良い環境で…。本州から北海道に観光も兼ねたレコーディングツアー、というのも素晴らしいですね。
 
一口坂スタジオを筆頭に、いわゆる大箱と言われる大きなスタジオがどんどん閉鎖され、マンションの一室でやるようなスタジオが溢れるほどある現状ですが、「いいものを作るために、とことんこだわる」ということを、是非若いミュージシャンにも経験してほしいと思います!

JOEDOWN STUDIO
所在地:
〒060-0001
北海道札幌市中央区北1条西10丁目1番4号
北一条サンマウンテンビル5F & 7F
TEL : 011-261-4442(代)
FAX : 011-261-0367
公式サイト:
http://www.joedown.co.jp/

北海道札幌市中央区北1条西10丁目 北一条サンマウンテンビル



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