ティーナ・カリーナ『あかん』

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ティーナ・カリーナ「あかん」

TEXT：鈴木亮介

「あかん、あかん」…聴けば聴くほどしっくりくるのが不思議だ。こんな関西弁ソング、聴いたことがない。

ティーナ・カリーナ。初めて彼女の歌を聴いたのは2月のバレンタイン・スペシャルライブでのこと。「あんたがおれへんから独り言も多なるし…」圧倒的な声量で、しかも品のある歌い方でありながら、コテコテの関西弁。そのギャップが強烈なインパクトとして今も記憶に残っている。いわゆる「ちゃきちゃきの浪速っ子」「大阪のおばはん」みたいな先入観を打ち崩す、しかしその対極というわけではない、関西要素も残している、一言では形容するのが難しい感じ、ただ一つ言えるのは愛嬌があってどんな世代、性別からも愛されそうなキャラクター、と言ったら良いだろうか。

元阪急百貨店サービス優秀販売員（金バッチ受賞）という異色の経歴を持つ、27歳のシンガーソングライター。「本名が田中里奈。普通じゃだめだと思って、何かインパクトを…」と考えあぐね、「たなか、たなっか、てぃなっか、てぃーなっか…」と英語みたいに読んでみたところ妙にしっくりきて、無国籍かつインパクト大な「ティーナ・カリーナ」が誕生。そんな愛らしいエピソードや、昨年の第54回輝く！日本レコード大賞・新人賞受賞、有線放送2012年間リクエストランキング2位といった華やかな経歴が目立つが、意外と苦労人だ。

2011年3月初旬、デパート販売員を務めながら地道な音楽活動を続けていた彼女も、25歳に。ラストチャンスという強い想いを込めて、DEMO音源を50社のオーディションへ応募した。送付より1ヶ月以上が経っても、残念ながら1社として彼女の元に連絡を入れた会社はなかった。しかし、諦めかけていた2011年5月中旬、意外な場所から彼女の元に1本の電話が入る。その電話は仙台を拠点とする音楽事務所、エドワードエンターテインメントグループ（株）だった。

2ヶ月も経って連絡が来た理由は、3.11東日本大震災だ。震災の影響で資料が2ヶ月近く遅れて到着。震災で社屋が全壊し、仮オフィスで復旧作業に奔走する中、同社の音楽プロデューサーが何気なく音源を聴いたところ、その真っ直ぐな歌声に感銘を受け、直ちにティーナ・カリーナへ連絡。震災後間もない仙台という地で、奇しくも阪神大震災を経験していたティーナ・カリーナの歌声が、プロデューサーの琴線を揺らしたのだ。

こうして彼女は大阪を後にし、1000キロ以上も離れた仙台へ移住。2012年9月、Epicレコードよりデビューミニアルバム『ティーナ・カリーナ』をリリースし、メジャーデビューを果たす。

そんな彼女の心のふるさとはやはり、生まれ育った大阪。29日リリースのニューシングル「あんた」も自身が作詞作曲を手がけた全編関西弁ラブソング。それも、歌い出しから「なんやろこの気持ち熱でもあるんかな」と、切ない恋心がストレートに描かれている。音は敢えて奇をてらったメロディを避け、至極シンプルなバラードナンバーとなっている。だからこそ、サビの「あかん　あかん」連呼が違和感あるのでは？と思うのだが、聴けば聴くほど、不思議と融合していくのだ。

「普通なら」そう言うのは野暮かもしれないが、「関西弁と言えば」「バラードと言えば」…そうした先入観に対して、そこにティーナ・カリーナはあくまで自分の信じる音で、真っ向勝負する。それでいて、尖った姿勢ではなく、「優秀販売員」に象徴される優しい人柄、聴き手へのおもてなしの心を持っていて、それが音楽になっている。だから、支持されるのだろう。これはティーナ・カリーナにしか出せない世界観だ。

もちろん、関西弁だけが彼女の売りではない。カップリングの2曲目「夏の魔法」は関西弁を封じて、これからの季節にふさわしい直球の爽やかナンバー。3曲目「最後のラブソング」はこれを前面に出してもおかしくないであろう、これまた直球ど真ん中のしっとりラブソングとなっている。

「あかん」は読売テレビ開局55年記念ドラマ『泣いたらアカンで通天閣』（木南晴夏、大杉蓮主演）の主題歌にも抜擢された。そして4月からは自身がパーソナリティを務める全国JFN系列ラジオ番組「ティーナ・カリーナのしゃべリーナ！かたリーナ！聞いてミーナ！」もスタートと、メディアに露出する機会も増えてきた。この圧倒的な声量をもって、ゴリゴリのロックナンバーにも挑んでほしい（笑）ますます活動の幅を広げるティーナ・カリーナに、今後も要注目だ。