連載

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TEXT:河南太郎 PHOTO:鈴木亮介

音楽に正面からぶつかり、真剣に楽しく音楽活動をする…そんなバンドを組んで間もないティーンエイジャーを数々紹介してきた連載「ロック1年生」。今回は、バンド単位で曲を作ってライブをしたり大会に出たりする、いわゆる”普通の軽音楽部”とはちょっと違う「全員1人1人が作詞・作曲をできるようになることを目標にする」高校生たちの部活動を紹介したい。
 
photo今回スポットを当てるのは、都立立川高校のMUSIC CREATE CLUB(以下:MCC)だ。MCCは2011年秋に「楽曲研究、制作、演奏技術習得、表現力育成」を目的に同好会として設立された。2012年には軽音楽連盟の夏大会決勝戦に進出し優秀賞を受賞。高校生大会「東京ハイスクールロック」に選出され、都の高校軽音楽部連盟秋大会では準グランプリ獲得。多摩地区の高校生バンドが集まった「Tバンドバトル」でも1年生バンドが準グランプリを獲得するなど輝かしい成績を残し、翌2012年に部活として正式に昇格した。
 
発足3年目を迎える今年も、着実に部員たちは力をつけてきた。「代表」バンドが5月に全国高校生アマチュアバンド選手権「TEENS ROCK IN HITACHINAKA」決勝に出場。7~8月開催の都連盟夏大会では3バンドが準決勝まで進出した。
 
MCCの最大の特徴は、バンド単位での活動が主ではなく、個人として実力のあるプレイヤーを目指すことを目標にしていることである。入部後、まずはメロディーを奏でることができるギターかキーボードを用意し、弾き語りの練習をする。その習得により、2年生以降はオリジナル楽曲の制作を行う。それにより「伝えたい、言いたいこと」を表現する力を部員1人1人が培うことができるのである。さらに、大会や文化祭ではその都度バンドを組んで出場する。
 
かつて連載「ロック社会科見学 ステージ5★高校軽音楽部顧問編!」でご紹介した尾澤聡先生が顧問を務め、コーチには尾澤先生の小川高校時代の教え子であり今も現役でバンド活動を続ける大学生2名が就任。日曜などに顔を出し、熱心に後輩たちを指導している。
 
部員たちはそれぞれ、どのような理由で入部を決めたのか。また、MCCの活動の醍醐味は。話を聞いた。

---まずは、高校生から楽器を始めたという人に話を伺います。楽器を始めた理由を教えてください。

 
photo藤井祐吏(1年):昔からSlipknotFACTに憧れがあって始めました。
 
村田雄一朗(1年):小さい頃から父親がDef LeppardNight Rangerを聴いていて、その影響で僕も洋楽が好きになりました。12~13歳の時にVan Halenを聴いて「こういうバンドやってみたいな」と思い、中3の時にギターを買いました。
 
神山遥紀(1年):僕も昔から音楽が好きで、やってみたいなと思っていたのですけれど、なかなかやれる環境、時間がなくて…。立川高校は自主自律の精神で、自己が納得いくような音楽がやれる環境なので始めてみようと思いました。
 
福田光里(1年):中学生の頃から音楽が楽しいと思うようになり、高校に入ったら自分でやってみたいと思いました。ステージに立って人前で何かをやることで、あがり症を克服したかったことも理由です。
 
photo小野崎笑(2年):中学生の頃にバンドに誘われたことがきっかけでベースを買いました。でも練習する時間や場所がないまま高校生になり、この部活に入ってからちゃんと練習するようになりました。そして高校からはキーボードも始めました。MCCでは全員弾き語りをするため、キーボードかギターを選ばないといけないのですけれど、ギターは以前挫折していて…それでキーボードを選びました。
 

---皆さんが影響を受けたバンド、プレイヤーはいますか?

 
松藤晶子(2年):王道ですがThe Beatlesを親が聴いていました。シンプルな洋楽が好きです。最近のバンドだとParamoreが好きです。
 
photo原田寛太(2年):最初に好きになった音楽は、小学1~2年の時に聴いたスガシカオです。親が好きなバンドに影響を受けて、Nothing’s Carved In Stoneなどもよく聴きました。高校受験後、Perfumeをきっかけにエレクトロ、電子音楽の方向にハマってきました。最近のエレクトロだとSkrillexDavid Guettaが好きで、Kraftwerkなどの昔の電子音楽にも興味を持っています。
 
笠原彬永(2年):音楽にはまったきっかけは小学6年の時に聴いたGReeeeNの「キセキ」でした。また、中学生の時にレミオロメンにハマってバンドに興味を持ち始めました。今はBUMP OF CHICKENサカナクションが好きです。
 
大沼清柔(1年):母がピアノの教師なので、小さい頃からピアノに触れていました。バンド音楽だと、小学3年生の時にミュージックステーションでポルノグラフィティを観て好きになりました。また、兄が洋楽をよく聴く影響で小6の時にMichael Jacksonを聴いてとても感動して、私も洋楽ばかり聴くようになりました。最近は邦楽ロックも聴こうと思って、友達からCDを借りています。
 
photo村田:最初にはまったバンドは小4の時に聴いたJourneyです。そのあとVan Halenを聴いてから「もっとハードな音楽を聴こう!」と思って、最近はDokkenとかNight Rangerとか、日本ではLOUDNESSも好きです。
 
藤井:小学生の時にELLEGARDENが好きでした。その後中学生になってからFACTを聴いてかっこいいなぁと思い、それからずっと邦楽ロックが好きです。Slipknotの影響で洋楽ロックも好きです。ジャンルを問わず、自分がかっこいいと思ったら何でも好きなので、アニソンも聴くし、ボーカロイド系も聴きます。
 

---MUSIC CREATE CLUBの環境についてどう考えていますか?

 
村田:別の高校に通っている友達にMCCのことを話すと、「恵まれているな~」って言われますね。
 
photo大沼:私は先月からこの部活に入りましたが、とても目標の高い部活だなと思います。本気で音楽をやろうと思っている人たちの中でやれるのは本当にありがたいなと思います。
 
小野崎:私は元々作詞をしたかったんです。それができるっていうこともあってすぐこの部活に入ることに決めました。でも、どちらかというと(自分から積極的にというより)友人に誘われて音楽を始めたので、最初はどうしても周りとの温度差を感じてしまいました。一時期音楽はもうやりたくないって思ったこともありましたが、それでもオリジナル曲を作ってみんなで演奏するのは楽しいですし、うまく演奏できるまで付き合ってくれる仲間がいるっていうのは良いなって思います。練習して発表して評価やアドバイスがもらえる場があるのも良いと思います。
 
原田:この部活の環境は、音楽をやるのには最適だと思います。曲を作ることがこの部活の前提なので、作ってから発表したり、面倒をみてくれる先生とコーチがいるのは良いですね。他校とも合同で練習したり、発表ができて、様々な人に評価やコメントを頂けるのも魅力です。校外の人たちと開けた関係が持てることによって、刺激などを受けることができることがこの部活の一番の魅力だと思います。
 
photo藤井:そうですね…ちゃんと練習できるのが良いですね。先輩方が色々知っているので、教えてもらえるのはありがたいです。
 

---エフェクターなど機材マニアだ、という人はいますか?

 
原田:一応エフェクターを自作しています。でもそんなに大それたものじゃないです。回路図とか設計図は雑誌で見たものを模倣しています。
 

---皆さんの部活の肝である作曲、作詞について伺いたいと思います。題材やフレーズはどういうところからアイデアを出しますか?

 
photo笠原:作曲は適当にフレーズを弾いて、これだ!と思うものをチョイスしていきます。歌詞は生活している中でずっと考えていることや、例えば自分のこういう所がだめだな、と思うところを反映させています。
 
小野崎:最初に作った曲は失恋の歌で、実体験です。基本的に自分自身のエピソードから作ることが多いです。バンドを組む時には、予めできあがっているメロディがあって、「こういう題材で歌詞を書いて」と言われるので、それに合った言葉を選んで歌詞を書きます。普段からボーッとしてる時にふと浮かんだ言葉をメモするようにしています。
 
原田:基本的に自分が聴きたい音楽を作るということを意識しています。演奏するのは自分だから、自分が聴きたくない音楽を作ってもつまらないですし。バンドの曲ならギターのコード、ドラムパターンから考えます。サビはとにかくキャッチーになるように作っています。歌詞は、意味が後づけになるようなものが多く、言葉の響きとかスピードとかを意識しています。
 
photo松藤:雰囲気としてまずこういう曲をやりたいという所から考えます。歌詞の内容は、誰かに向けてのメッセージじゃないと私は書きにくいんですよね。今まで作ったものは、親とか卒業してしまった先輩とか友達に向けて書いてきました。でも直接ストレートに表すのではなくて、何かに例えるんです。例えば悲しい気持ちって私の中では水が連想できるので、海を題材にします。言葉の雰囲気が残るようにコードを見つけていって、アレンジをしています。
 

---これからオリジナル曲に挑戦する1年生の皆さんに質問します。どんな曲をこれから作っていきたいですか?

 
藤井:まずはギターで弾き語りができるようになりたいです。歌詞については普段自分が嫌だと思っていることをたくさん書きたいです。
 
photo村田:僕は今組んでいるバンドのオリジナル曲のアレンジに関わっていますが、あまり細かいことを考えず、好きな曲を聴いていて「あっ!これ良い」と思った所に似せて作ります。歌詞はストーリー性のあるものを書いています。最近は、「主人公の女の子が誰かに追われている」という設定で書きました。
 
神山:聴いた人の中に何か音色やメロディーが残るようにしたいです。趣味で作ったインスト曲も、そういうところを意識して作りました。
 
福田:高校から楽器を始めたということもあってまだ具体的には考えていませんが、弾き語りをやるならバンドにはできないことや、音色や歌詞を作りたいです。
 
大沼:最近THE BLUE HEARTSなど聴いていてグッとくるものがあるので、参考にできたらと思っています。メロディーは1回聴いたら忘れないものが作れたら良いと思います。

この後、部員たちはそれぞれのバンドおよび個人に分かれて練習を開始。大会に向けてバンドとして練習をするメンバーや、個人練習を行うメンバーなど様々だ。この日は大学生コーチを招いてのクリニックスタイルで、それぞれのバンドが演奏を披露した。
 
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練習しているバンドは2組。原田寛太(Vocal & Guitar & Synthesizer)、小野崎笑(Vocal & Synthesizer)、福田光里(Bass)、神山遥紀(Drums)の4人によるCryin’ Dummiezと、松藤晶子(Drums)、村田雄一朗(Vocal & Guitar)、藤井祐吏(Bass)によるMotor City’s Crashである。
 
進学校なので平日は講習等の邪魔にならないよう音を下げる。休日も片方のバンドが食堂でコーチの前で演奏する間、もう片方のバンドと個人練習する部員たちは多目的室で演奏。そこではミニアンプにつないだギター、ベースに電子ドラムの即席セット。さらに個人練習メンバーはヘッドフォンを装着しての演奏である。それでも、限られた場所と時間を有効に使いながら、一意専心、真面目にかつ楽しそうに、練習に励んでいた。
 
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Cryin’ Dummiezはヴォコーダーを使ったり女声と男声のツインボーカルにすることにより、曲の構成が面白い。何よりこのような変則的な構成にしても曲として成立させている彼らの演奏は高校生の演奏とは思えなかった。Motor City’s Crashの曲は、一本芯が通っていてパワーのあるバンドであった。ベースとドラムのしっかりとしたリズムがボーカルの歌声をさらに盛り上げているのも印象的であった。
 
内部審査の結果、Cryin’ Dummiezが立川高校MCCとしての秋の都大会バンドフェスティバル出場の切符を勝ち取った。
 
バンドスタイルにこだわらず、個々の音楽を制作する力を伸ばすことに重きをおいているMCCは、全国的に見ても珍しい部活動と言えよう。しかしこのスタイルだからこそ一人一人が本当の意味で音楽人になり、バンドとして集まっても力を発揮することができるのだと思う。この部活から有名なバンド、シンガーソングライターが出てくることを私は強く願いたいと思った。頑張れ!立川高校MUSIC CREATE CLUB!
 
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立川高校 MUSIC CREATE CLUB
http://musiccreateclub.blogspot.jp/

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【取材協力】
東京都立立川高等学校
http://www.tachikawa-h.metro.tokyo.jp/
 

 
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