連載

ロック一年生 エントリーNo.26 おてもやんズ

TEXT & PHOTO:鈴木亮介

PhotoJohn Lennonの代表作の一つに「Starting Over…」という曲があります。直訳すると「再出発」という意味になりますが、今回の連載「ロック1年生」では、バンドとして大きな過渡期を迎え、新たな一歩を踏み出したバンド、まさに「Starting Over」を目指すバンドにスポットを当てます。

登場するのは、都立小川高校軽音楽部の2年生で結成された、おてもやんズ。メンバーはあかぬん(Bass)、つばきてぃん(Drums)、のんたん(Guitar)の3名。4月のJYOJI-ROCK 2012春大会でベスト・プレイヤー賞を受賞したゲリラ楽隊が前身。実は最初に取材の打診をした際、ギターは別のメンバーでした。その後、ギターが脱退しバンドの活動はいったんストップ。残った2名に話を聞くつもりでアポイントを取り、いざ取材へ。学校を訪れてみると、1週間前にメンバー入りしたばかりという、新たなギタリストがちょこんと座っていました。できたてほやほやのバンドへの”初取材”が、始まりました。

---まずは皆さんが音楽を始めたきっかけを教えてください。

あかぬん:きっかけは「歌が下手過ぎる」と父(52)に言われたことです(笑)何かで直せと言われ、父がギターをやっていたのでそれを私も弾こうと思い、小5の頃からギターを始めて、それから音楽に興味を持つようになりました。最初の頃は父に弾き方を習って家で一人でアコギを弾いていましたが、そのうちバンドを組みたいと思うようになり、軽音楽部が有名だと知って小川高校に入って、軽音楽部に入部しました。小川高校の軽音楽部に入るためにはオーディションで合格しなければなりません。私は元々はギター志望でしたが、予め楽器パートの定員が決まっていて、高校から楽器をギターを始めたいという人もいたのでその人達に枠を譲ろうと思って、ベースに転向することにしました。実際にやってみたら面白くて、ベースに変えて良かったなと思っています。

Photoつばきてぃん:私は高校に入ってから楽器を始めました。中学の時は陸上部でしたが、徐々にロック系の音楽を聴いて音楽が好きになり、自分でもやりたいと思うようになりました。そこで、私も小川高校の軽音楽部が強いと知って、軽音に入るためにここを受験しました。最初はベース志望だったのですが、バンドメンバーを組む時にあかぬんとパートがかぶってしまうことになり、ドラムも興味がないことはなかったのでドラムに転向しました。

のんたん:小さい頃から歌うことが好きで、小中学生の頃からよくカラオケに行っていました。バンドにも興味を持つようになり、最初はベースをやろうと思ったのですが、周りにバンドを組める人がいなくて。ベースを一人でやっても面白くないと思い、楽器屋さんの勧めもあり中2の時ギターを買いました。そして中3になって進路を考える時に、家の近くに小川高校という軽音がさかんな学校があるということを知って、じゃあ本格的に音楽をやってみようかなと思い受験しました。ギターは中学生の頃は受験勉強もあって全然触ることができなくて、高校で軽音楽部に入ってから本格的に練習を始めました。

---幼いころから歌が好きだったのは、ご両親の影響もあるのでしょうか?

のんたん:そうですね。親が音楽好きで、よくGLAYサザンオールスターズが流れていて、それに合わせて口ずさんでいました。

---そして、最初にあかぬん、つばきてぃん、もう1名で「ゲリラ楽隊」というバンドを結成するのですよね。その辺りの経緯を教えてください。

あかぬん:結成したのは1年前、高校1年生の春です。私とギターの子が同じクラスで、徐々に話して仲良くなり、「バンド組みたいね」と話しました。そこでドラムを探すことに。私たちの学年はドラム志望者が1名だけで、既に他の子達と組んでしまっていたので、誰かいないかなぁと周りを見たら、一人ぼっちで、余ってるちょっと雰囲気ヤバいやつがいるなと思って(笑)

Photoつばきてぃん:ヤバくはないよ~

あかぬん:で、誘って、それから仲良くなって、ね。

---で、「あいつにドラムやらせよう」と(笑)

あかぬん:(笑)そうですね…やらせよう…と。悪く言ったらそうなるね!

つばきてぃん:それで3人で結成したのが去年の7月。ちょうど一年前です。

---バンドの方向性などはどのように決めていったのですか?

あかぬん:3人とも聴く音楽がバラバラで、「これ」と固めたものはありませんでした。でも、新しいものを作っていきたいよねということは3人で話していました。あとは、自分達は爽やか向きではないな、とも(笑)

---そうなんですか?ちなみに、どういう音楽が好きですか?

あかぬん:私は銀杏BOYZマキシマム ザ ホルモンが好きで、あとは気持ち悪い音楽が好きですね。楳図かずおさんの曲とか(笑)

つばきてぃん:私はHAPPY BIRTHDAYとかアーバンギャルドとかが好きです。もう一人いたギターの子は、毛皮のマリーズゆらゆら帝国キノコホテルが好きでした。課題曲以外のものをやっていいと言われて最初にコピーしたのが銀杏BOYZロリータ18号でしたね。

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---なるほど。確かに女子高生が初めてコピーするバンドとしては異色ですね。オリジナルもやっていたのでしょうか。

あかぬん:オリジナルは10月頃から作り始めました。作詞が私、作曲は前メンバーのギターの子です。ずっとオリジナル曲を作りたいと思っていましたがなかなか決まらなくて、まずはテーマ曲を決めよう!と話しました。自分達のバンドのテーマ曲を作るバンドはあまりいないから、自分達の歌を作ろう!ということで、私がいろんなワードを出して、そこから「ゲリラ俳句」を作って、あとは作曲よろしく!って(笑)

---一方、のんたんの方では別のバンドを組んでいたのですよね。

のんたん:はい。部活に入ったメンバーでバンドを組むということになって、試験の時などに仲良くなった4人で結成することになりました。

---結成当初は別のバンドだったのんたんから見て、その当時のあかぬん、つばきてぃんの2人はどのように映っていましたか?

のんたん:この二人は最初から個性が飛び抜けていて、ライブは楽しいし、ライブに合っているというか、「楽しませる」という感じがすごく伝わってきて…もう本当に一ファンとして、楽しいなぁと思いながら聴いていました(笑)

---それぞれ順調なスタートだったように思いますが、2年生になって転機がおとずれます。

あかぬん:そうですね。ギターの子が辞めてしまって。

---元々、意見が対立していたりうまくいかない部分があったりしたのでしょうか?

Photoあかぬん:それまでに意見対立や活動の上での苦労というのはありませんでした。お互い素を出せていて、他の子とじゃできないこともこの3人ならできる!というのがありました。強いて言うなら私たちは3人編成だったのに対してもう片方(=のんたんの前所属バンド)は4人編成だったので、一緒にライブをやると「うちらの音、薄っ!」って感じることはありましたが。

つばきてぃん:トイレの壁に登ったり、休み時間にレジャーシートを広げてご飯を食べたり、バンドで映画を撮ったりね(笑)

あかぬん:何の前触れもなく、突然でしたね。ギターの子が「部活を辞めたい」と言って。廊下で3時間くらい話したかな。強い思いは聞いたので、じゃあ仕方ないねと納得して、ギターの子は脱退することになりました。

---その後、残った二人はどんな話し合いをしたのですか?

つばきてぃん:最初はあかぬんと2人でやろうかとも言ったのですが、でもやっぱりバンドがしたいねということで、「ゲリラ楽隊」は解散することになりました。

あかぬん:ちょうどその頃、私たちのバンドも変化がありました。私一人がバンドの中で何となく違和感を持っていて、実は1年生の時に一度バンドを辞めたいと相談したこともありました。その後2年生まで続けることにして、大会に出たりもしたのですが、大会で他の色んなバンドを見ると、やっぱり自分自身がカッチリ合って、納得してできる環境でやりたいという思いや、もっと成長したいという思いが強まり、改めて脱退を申し出ました。

---そして、のんたんが加入する形でこの3人が一つになるわけですが…どちらから誘ったのですか?

Photoのんたん:私自身、1年生の時に脱退をとどまったのは、抜けてしまったら部内で他に組めるバンドがいないのでソロでやっていかなければいけない、という事情もありました。そして2年生になって、ゲリラ楽隊のギターの子が退部して、それがきっかけと言うと悪いのですが…その子のように私もちゃんと自分の気持ちを正直に伝えないといけないなと思い、前のバンドを抜けました。それで…

あかぬん:あ、じゃあ、入る?

のんたん:あ?え?いいなら…

あかぬん:やる?

のんたん:じゃあよろしくお願いいたしまーす。…そんな感じです(笑)それが、つい先々週のことです。

つばきてぃん:でもその前から私はのんたんから「所属しているバンドを辞めたい」と相談を受けていて、去年の冬頃、軽音楽部の先輩にも相談しました。この子が本気で悩んでいたのを心配して、先輩も「それならこの3人で幹部バンドとして組むこともできるし、やってみたら?」と助言してくださいました。その後2年生になり同じクラスにもなったことで、さらに距離が縮まって、今回の決断に至っています。

---決して軽いノリでということでなく、それぞれが悩んだ末の選択だったのですね。ちなみに「幹部バンド」というのは?

あかぬん:私が部長で、つばきてぃんが副部長なんです。

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---新たなメンバーと組んで2週間、のんたんから見て2人の印象はどうですか?

のんたん:元々、外から見ていて「ベースうまいなぁ」「ドラムうまいなぁ」と思っていて、そしてゲリラ楽隊の時のギターの子もうまかったので、この中で自分は技術面でついていけるかなぁと不安だったのですが、それ以上に楽しんでやれているので。

あかぬん:良かったぁ…つまんないって言われたらどうしようかと(笑)

---逆に、そんなのんたんの印象は二人から見てどうですか?

つばきてぃん:いやぁ…血色悪いなぁあって(笑)

のんたん:そこ?

あかぬん:いやぁ結構こいつもやりよるので(笑)技術的にも。

のんたん:前のバンドでは隠れてたね。

---それは楽しみですね!これからこの3人で、どんなバンドにしていきたいですか?

Photoつばきてぃん:ライブハウスでライブやりたいね!

あかぬん:前のバンド(ゲリラ楽隊)である程度方向性は確立されたというか…私たちは「夢!希望!頑張る!(キラキラ)」みたいなバンドではないので(笑)、都大会みたいな公式のものには向いてないと思いますが、しっかり実力を蓄えて、ライブハウスで評価されるバンドになりたいですね。

のんたん:編成的な面で言うと、私は前のバンドから引き続きギターボーカルとして参加し、あかぬんとツインボーカルでやっていきます。

つばきてぃん:まだ本当に結成して2週間なので、コピーが1曲できる程度ですが、これからしっかり曲を作っていきたいです。

---最後に、個々のこれからの目標を教えてください。

つばきてぃん:最近高校卒業後の進路を考えるようになり、候補も挙がってきました。軽音に全然関係ないのですが宗教や世界史といった分野に関心があります。大学で音楽を続けるかというのは正直なところまだ分かりません。だからこそ、高校で行ける所まで行きたいし、自分のやれるところまでやりたいと思っています。

Photoのんたん:今は文学や史学に興味があって、本を読むのが好きなので、そっちの道に行きたいな思いつつ、バンドの活動も楽しいので、やっぱり音楽もやりたいなぁとも思っています。今、高校生という年齢でバンドができる時間があと一年半しかないので、その時間を全部、力尽きるくらいまで打ち込んで、卒業した時にこれからも続けようか?となったらまたこの3人で組んでやりたいです。

あかぬん:私も「あれやりたい」「これやりたい」より、今できることをやりたいと考えています。将来も考えていないこともないのですが、今はこのバンドを一番大事にしていきたいと思います。今全力でやって、一年後には音楽の道に進みたいと思うかもしれないし、うちはお父さんがシェフで店を出しているので、店を継ぐこともできるし、勉強の分野では国際関係や、海外の人と話すことに興味があるので英会話教室の先生もやりたいなぁと思うし…色々考えています。

ちなみに、あかぬんのお父様の店は町田のターミナルプラザにある「Bistro Chez Riki(ビストロシェリキ)」という洋食店で、「オリジナルが一曲出来たらご馳走する!」と、バンドメンバーを連れていくこともあるそうです。料理の世界では「隠し味」「スパイス」が勝負。たくさん涙を流した分、その涙がスパイスとなって、さらに進化した、楽しい音楽になることでしょう。新生・おてもやんズの活躍を期待しています!

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◆おてもやんズ
 
 
 
 

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【取材協力】
都立小川高校
http://www.ogawa-h.metro.tokyo.jp/

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【共同取材】
オーディションサイトgemmyとコラボレーション!
魅力あふれるおてもやんズのインタビューの続きはこちらへ!
http://www.gemmy.co.jp/

 
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