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※この記事は取材した2014年のアーカイブです。最新情報ではありません。

セレクション28(東京都)「らーめん酒場 味音 azito」 判治大介 大将
TEXT:鈴木亮介 PHOTO:吾妻仁果

Photo大人気連載「ロック酒場探訪記」。28回目となる今回は東京・港区西麻布にある「らーめん酒場 味音 azito」をご紹介します。六本木から外苑西通りを広尾方面に少し下って一本路地を入ったところ、小洒落た飲食店が連なる中に、味音(あじと)の看板が見えてきました。
 
昼間はラーメン専門店として近隣のビジネスパーソンで店内が一杯になります。一方夜は、焼酎を中心とした幅広いラインナップに、三河名物「どて煮」、「大あさりの網焼き」などの料理、そして〆のラーメンが大人気。着席20名~スタンディング30名強が入る店内では、プロアマ問わず様々なジャンルのミュージシャンによる弾き語りライブなども定期的に開催されています。
 
「味音」の大将を務めるのは、三河出身のミュージシャン・ハンサム判治判治大介。自身の震災復興イベント「レレチャリ」もここで定期開催しています。「味音」のTwitterアカウントによれば「甲殻類と魚介の旨味が効いたスープに愛知県のタマリ醤油や岩塩を使った無化調(=化学調味料を不使用)大人らーめんが売り」とのこと。どのようなこだわりがあるのでしょうか。
 

Photo判治大介 大将 プロフィール
 
“バンドで唄ったり、芝居したり、ロングテールバイクにギターやウクレレを積んでライブしながら日本中を旅したりする人。”
 
2000年、アングラの帝王「ハンサム兄弟」のボーカルとしてデビュー。椎名林檎との歌舞伎町タイマン対決やグリコカフェオーレのCMソングや雪印WAVEのCMソングを手がける。
 
2006年「smiles davis」のボーカル、トランペットとしてデビュー。「女魂」のテーマ曲「サクラ」を手がける。NYに進出しCBGB等に出演。
 
メンバー全員100キロ以上の「デブパレード」のボーカルとしてSonyMusic(DefSTAR)より2008年メジャーデビュー。ビートたけし出演、ヴェネチア国際映画祭招待作品「ギララの逆襲 洞爺湖サミット危機一発」のメインテーマや「NARUTO~疾風伝」のテーマ曲「バッチコイ!!!」で世界進出!オリコン5位をゲット。
 
ドラマ「おせん」「スクラップ・ティーチャー」、映画「お墓に泊まろう!」等で俳優としても活動中。
 
東日本大震災後はウクレレ大使として被災地にデッカい唄とちっちゃいウクレレで元気を届け続ける。

 
Photo—「味音」を開店されたのはいつ頃ですか?
 
判治:2012年8月に共同経営に加わって、オープンは10月です。
 
—元々は違うお店があったのでしょうか?
 
判治:そうです。今僕ともう1人の経営者と2人でやっているのですが、その方の違うラーメン屋がありました。
 
—「味音」になった経緯を教えてください。
 
判治:前身のラーメン屋の時、気仙沼で僕のイベントをやった時に炊き出しをやってもらっていたんですよ。2012年のゴールデンウィークに開催した「唐桑音楽祭」なんですが、当時のラーメン職人が僕の後輩だったこともあり、そこでラーメン100食を提供してもらったのが最初です。そのその時に現在味音を一緒に経営しとる人と出会い、地元が一緒ということで盛り上がって。後にその職人が事情があって東京を離れることになってしまい、誰か共同経営のパートナーを探しているということで相談を受けました。僕自身その当時の味を作れたので、厨房に入って手伝うようになりました。そこから、じゃあ一緒にやりますか?と話が進み、「ゼロから始めて、儲かったら山分け」という海賊スタイルで(共同経営に加わり)始めました。
 
—被災地での復興イベントがきっかけだったのですね。
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判治:普段はBOND & JUSTICE(ボンドアンドジャスティス)という南相馬出身のヒップホップクルーがやっている炊き出しチームがあって、数人で累計3万食以上、毎回炊き出しをやっています。僕自身も元々料理ができるということもあって「炊き出しと音楽を一緒に」ということで、お祭りの屋台のようにやっていました。それを2011年の4月頃から始めて、ずっとやっていました。
 
—これまでに被災地100か所以上を回ったということですが…
 
判治:もう200か所以上になるかもしれませんね。同じ町を何度も訪れているので「のべ」で言えば200以上。最初の頃は数えていたんですけど、もうそんなことはね。ウクレレ(=「ウクレレ大使」として被災地の子どもたちにウクレレを贈る活動)も、200本までは数えていたのですが、それ以上はもういいや!って(笑)
 
—ブログにも書かれていましたが、「音楽と食」というコンセプトは、実際に被災地を巡る中で確立されていったものなのでしょうか。
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判治:それももちろんありますが、元々ハンサム兄弟でずっと全国ツアーをやっていて…ツアーって人に会って、その土地その土地でご飯を食べる機会が多いですよね。音楽と食べ物やお酒は元々近い存在だと思っています。
 
—料理を作ることは子どもの頃から好きだったのですか?
 
判治:そうですね。うちは妹が小さくて、妹のご飯を僕がよく作ってたんですよ。実家がお好み焼屋だったこともあり、小さい頃から鉄板の上で何か作れる環境があったので。それで、20歳くらいの頃にバンドを始めた時に、アルバイトはずっと厨房におったので、オムライス屋のナンバーワンシェフとか、バイトなのに料理長みたいな(笑)。あとは焼鳥屋の大将をやったり、お魚ダイニング、イタリアンも…ずっと音楽で食えていた時以外は料理の仕事ですね。
 
Photo—ジャンルを問わず料理がお好きなのですね。
 
判治:好きですね!食うことも好きだし、おいしいものを作ることが昔から好きで。ラーメンも趣味なんですよ。ラーメン屋だけは今までやったことがなくて、「味音」が初めてなんです。焼鳥屋時代に余った具材を使って遊びで作ったり、和食屋の頃に和食の具材でラーメンを作った、ということはありましたが、ラーメン店でちゃんと修行をしたことはなかったので、それまでの知識を総動員して(笑)
 
—裏を返すと、様々なジャンルの料理人としての経験が「味音」のラーメンには詰まっている、と。
 
判治:出ますよね。料理はキャッチボールと同じで、どれだけ豪速球を投げても相手が受け取ってくれなかったら意味がないじゃないですか。うちはいわゆるコッテコテのラーメンじゃないので、物足りんという人もいるかもしれないし、好きな人は好きだと思うし、受け取る側によって決まりますよね。音楽もそうですよね。フリージャズの素晴らしいピアニストも、静かな曲が好きな人には雑音になるし。「素材の味だけで勝負しよう」ってこだわってる食事にケチャップぶわ~ってかける人だったらそれで終わっちゃうし。
 
Photo—そういうのよくありますね!
 
判治:ただ、ラーメン屋は売れなきゃいけないので、自分がアーティストとしてやらないことも、ギリギリ楽しいからやってみようかな、と。そこは音楽と近いですよね。それにラーメンはそばなどと比べて評論がしやすいので…
 
—「売れなきゃいけない」という所で、どのような戦略を考えたのですか?
 
判治:この西麻布界隈は「ラーメン屋」というだけじゃ勝負できないんですよ。昼間はビジネス街なので純粋なラーメン屋、夜は酒場として、お酒を飲めてシメにおいしいラーメンを食べられるというコンセプトでやっていて、メニューも開店当初からたくさん用意しています。これでも減った方で、自信のあるものだけをそろえています。
 
—お店で出しているラーメンにはどのようなこだわりがありますか?
 
Photo判治:「無化調」で行こう、化学調味料には頼らない、ということは最初に決めました。今「ナントカエキス」って業者に頼めば何でもあるんですよ。「鶏白湯スープの素」とか(笑)。それを使っている店もいっぱいあるけど、それじゃつまらないし…それはアーティストとしてのエゴの部分ですね。実際化学調味料使った方が楽ですもん。
 
—それでも「無化調」なのはなぜですか?
 
判治:味が違うんですよ。旨味の数値で見たら全く同じなんでしょうけど…カラオケの点数みたいなものです。点数は高いかもしれないけど、感動する歌かどうかというのはまた別問題、というような。自分にとっての価値は全く異なるので、そこだけはこだわっています。醤油も、うちの「三河たまりらーめん」はこだわっています。
 
—判治さんの出身である愛知・豊橋の醤油を使用されているのですよね。
 
Photo判治:東京で買うたまり醤油や味噌は大体アミノ酸が入ってるんですよ。
 
—「たまり」は普通の醤油とどの辺が違うのでしょうか。
 
判治:根本的にたまり醤油とこいくち醤油の違いってわかりますか?「醤油は大豆で作っている」と言いますが、実際の所こいくち醤油は麦と大豆を大体半分ずつくらいで作っています。たまり醤油は大豆がほぼ9割から100%。大豆の旨味成分はたまりの方が多く含まれています。「無化調」にこだわるので、化学調味料が入っていないためにコクがもしかしたら足りないかもしれないという所を、たまり醤油や八丁味噌で補うというのがこの店のスタイルです。
 
—こだわりの味を追求して、試行錯誤を繰り返してきたのでしょうか。
 
Photo判治:今はさすがに季節や気温によるお湯の調整くらいで、食材や醤油の銘柄を変えたりはしていないですね。たまり醤油もこの1年半で5種類くらい変わっています。最終的にたどり着いたのは、やっぱり自分が小さい頃に食べていたイチビキのたまり醤油なんですよね。
 
—幼少期に嗜んだ食がルーツになっているのですね。
 
判治:そうですね。核の部分ではこだわります。でも塩分濃度や味付けの所では、「自分が100%美味いと思う味はこれだけど、一般の好みと比べたら薄いから、もう少し濃度を上げよう」といったことはします。
 
—そこは先ほど仰っていた「商売をやる以上売れないといけない」という部分ですね。
 
Photo判治:ギリギリ自分の納得できる範囲で、大衆に合わせるというか。音楽もそうです。ノーマルだとさらに絶叫になって、ちょっとやりすぎかなと思って半音下げて歌うくらいがちょうどいいかな、と。でも今年から元に戻したんですけどね。「絶叫、フルで行こう!」って。
 
—ラーメン以外のオススメメニューはありますか?
 
判治:「どて煮」は愛知のソウルフードなので是非食べてほしいですね。あと、いかにここでしか食べられない「角煮」を作るか、にこだわっていますね。最近やっと「味音」でしか食べられない食感にたどり着きました。ほとんど遊びですよね(笑)
 
—今は西麻布だけですが、今後支店を出す予定などはありますか?
 
判治:支店はぜひ出したいですね!そしてライブイベントも、屋外でも使っている簡易のPAで様々な人を招いて開催しています。このくらいの規模で楽しくやっているので、若いミュージシャンにもどんどん使ってもらえると嬉しいです。

インタビュー終了後「三河たまりらーめん」を実際にいただいたのですが、あっさり系でありながら一本芯の通った、「また食べたい」と強く思える美味しいラーメンでした。普段はこってり系を好む私が、物足りなさを全く感じなかったのですから、全てのラーメン好きに自信を持ってオススメしたいと思います。お酒を楽しんだ後のシメの一杯にも、とても優しい味です。
 
近くの西麻布停留所から渋谷駅まで都バスが深夜まで走っていて、終電が気になるという人も安心。オシャレタウン・六本木でライブや夜遊びの後、ふらっと立ち寄ってみてはいかがでしょうか。
 

らーめん酒場 味音 azito
 
営業:昼 11:30~14:00, 夜 18:00~夜中まで
休日:不定休
住所:東京都港区西麻布4-4-12
(東京メトロ日比谷線「広尾駅」徒歩6分/「六本木」駅徒歩13分)
TEL:03-3406-5406

公式サイト:http://ameblo.jp/azito2012/
 
Photo
東京都港区西麻布4-4-12



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