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Let The Music Do The Talking 〜テイク8「ハンサム判治」インタビュー

TEXT:桜坂秋太郎

21世紀を迎える少し前、時代は世紀末な話題で持ちきりだった。その頃、サブカルチャーシーンで話題のバンドのライヴに、仕事仲間と足を運んだ。そのバンドはハンサム兄弟。フロントマンであるハンサム判治(Vocal)の印象が強く残るライヴだった。当時私はマスコミに在籍していたが、同業者に強く勧められた理由がよくわかった。パワフルで面白く、そのハイクオリティなステージは、まさに誌面作りに直結するマインドだったからだ。
 
ハンサム兄弟は、優れたライヴパフォーマンスや楽しいMCだけでなく、楽曲がハートに心地よかった。知名度もテレビ出演などを機に広まったものの、活動の主体はインディーズに置いたまま現在に至っている。ハンサム判治ハンサム兄弟と平行して、アコースティックユニットのsmiles davisを2005年にスタート。アメリカでのツアーやレコーディングを展開した。
 
さらに2006年には、メンバー全員100キロ以上のアイドルロックバンド、デブパレードを結成。一度見たら絶対に忘れられない強烈なインパクトで、2008年にメジャーデブュー。昨年は大人気アニメ『NARUTO -ナルト- 疾風伝』のエンディングテーマも担当!3つのバンド活動を同時に進めるハンサム判治に直撃インタビュー!その才能に触れてみたい。
 

【デブパレード】
デブパレード
デブパレード
デブパレード
—今回インタビューをするにあたり、デブパレードのライヴを拝見しました。エンターテイメントとして完成形に近い素晴らしさでした。音楽性もさることながら、やはり100キロ以上の“ロックアイドル”という設定が実に素晴らしく、感動的でした。前例が無いことへのチャレンジだったと思いますが、メジャーデブューまでの道のりは険しかったですか?

 
ハンサム判治:メジャーデブューまでは簡単でした(笑)デブパレードは、別バンドでギターのugazinと対バンした時に、ちょうどお互い100キロ越えしたばかりで、話が盛り上がって半分以上冗談で結成したバンドなんです。いい意味でのワルノリが新たなワルノリを次から次に生み出して、一気にメジャーデビュー出来ちゃった感じですね。初ライブから数ヶ月でメジャー契約が決まって、予想以上に華々しくデビューできたのですが、2枚目を出すまでは大変でメジャーの洗礼を受けました。
 

—デブパレードの公式サイトにある『DEV語録』が大好きなのです。
ロックな人ならツボにハマってしまう発想ですね。こういう奇抜な発想は、常日頃から考えているのですか?

【デフレパード:イギリスの、ヘビーメタルなロックバンド。】
【デブパレード:日本の、ヘビーメタボリックなアイドルバンド。】

 
ハンサム判治:単なる駄洒落に陥らないように、シュールな目も光らせています(笑)
 

—私が個人的にハマッたのは、【痛風:メンバー3人が装着している、チョイ悪でかっこいいオプション。】です。これにはやられました。私も装着していますが、まさかチョイ悪でかっこいいオプションだったとは。これから自信を持ってネタに出来ます(笑)自虐的なネタはblogにも書かれていますが、サービス精神の一つの表れですか?

 
ハンサム判治:サービス精神というか完全に麻痺です(笑)100キロ以上のDEVが5人集まっちゃっているので、自虐的なネタに対して抵抗がなくなっているのかもしれんですね。ちなみに最近メタボ判定の基準が変わったらしく新基準によるとワシはメタボじゃないらしいです。デブパレード失格です!モー娘。ならマジで脱退問題です(笑)
 

—メジャーデブューのニュースは、当時雑誌などでかなり目にしましたが、映画『ギララの逆襲 洞爺湖サミット危機一発』のテーマソングや、人気アニメの主題歌「バッチコイ!!!」をリリースしたことで、ファンの層に変化はありましたか?

 
ハンサム判治:「バッチコイ!!!」の反響は凄かったですね。楽曲が一人歩きしていく様子を、動画サイト等で見る事が出来て変な感じでした。特に海外での反響が凄くて、黒人のコピーバンドが出現したり、金髪の少女がバッチコイで踊っている動画が大量にアップされたり。あと子供への影響力も実感しました。小学生がいっぱい居る場所で何気なく「バッチコイ!!!」を唄ったら子供に囲まれて大変なことになったり。
 

—テレビ東京で『男(デブ)はつらいYo!』というアニメ化がありました。デブパレードをアニメにするというのは、つまりそれだけキャラクターが際立っているという証拠。このようなアイデアを大きくしていくと、チビッ子からお年寄りまでが楽しめるバンドになりそうです。お茶の間戦略のようなものがあれば教えてください。

 
ハンサム判治:今まではライブハウスを主戦場として闘ってきましたが、今はもうライブハウスで待ち構えていればシーンが盛り上がるって時代じゃないと思うんです。お茶の間に近いメディアの仕事のおかげで、ライブハウスに足を運んでくれるファン層以外にも知ってもらえていると思うので、今年はライブハウス以外の場所にも進出していきたいです。ストリートで生唄を聴いてもらったり、全国のショッピングモールや大型家電屋さんをまわったりもしたいですね。生で音楽にふれる事の楽しさを広めていって、結果的にライブシーンが盛り上がってくれたら嬉しいです。
 

【ハンサム兄弟】
ハンサム兄弟
ハンサム兄弟
ハンサム兄弟
—デブパレードはメジャー志向を公言されていますが、ハンサム兄弟はJAZZ的なアプローチがあったり、音楽性の面から逆にコアなところを狙っているのかと思います。それぞれベクトルが違うバンドですが、創作のアプローチやプリプロ方法に違いはありますか?

 
ハンサム判治:全く逆のベクトルでやっとるつもりです。デブパレードは最初にまず完成形を想定して、その100点満点に向かってパズルを埋めて行く感覚なんですが、ハンサム兄弟では完成形を全く考えずに、とにかく突き進んでみるのが楽しいんです。100点満点なんか関係ない感じですね。結果的に0点でもかまわんしもしかしたら1000点とっちゃうかもしれんという楽しさというか。作詞面でもデブパレードでは何かテーマみたいなものを最初に考えて多くの人に分かるような「ちゃんとした言葉」をつないでいくことが多いんですが、ハンサム兄弟の時はつじつまとか関係ないです。4次元ポケットみたいなもんですね。デブパレードはプリプロをたっぷりやりますが、ハンサム兄弟ではプリプロは一切やらないんです。
 

—デブパレードとハンサム兄弟は、過程からしてまったく違うのが良く分かります。逆にオーディエンスはどうでしょうか?それぞれのバンドのファンは、楽しみ方に違いはありますか?

 
ハンサム判治:ハンサム兄弟は、音楽的にも存在的にもマニアックなバンドなので、ファンもマニアックな人が多いですね。いわゆる純粋なバンドのファンだけじゃなく、バンドマンや他の分野のアーティストさんから支持してもらう事が多い気がします。毎回毎回ライブに来てくれるというファンよりも、ハンサム成分が足りなくなった時だけ急にフラッと顔を出してくれるファンが多いですね。逆にデブパレードは、とにかくハッピーなライブを好んでくれるファンが多いです。圧倒的にハッピーなライブに、一瞬だけセンチメンタルが顔を出すってバランスが好まれるみたいです。
 

—なるほど、わかりやすい説明ありがとうございます。

 
ハンサム判治:昨年はハンサム兄弟のライブ活動を実質的に休止していたので、無意識のうちにデブパレードハンサム兄弟的な熱さやエグさが出てしまった反省もあって、今年はどっちもバリバリ活動するつもりです。デブパレードでのポップなハンサム判治も、ハンサム兄弟でのエグい判治大介も、どっちもワシなので両方見て楽しんでもらえたら嬉しいですね。ハンサム兄弟のコアすぎるファンは、未だにあまりデブパレードのライブに来てくれていないのでちょっと淋しい気持ちもあります(笑)
 

【smiles davis】
smiles davis
smiles davis
smiles davis
—もう一つ、アコースティックなsmiles davisをやられていますが、こちらはビジュアル面もクールな感じで、これまたちょっと方向が違うのかなと。smiles davisというネーミングもカッコいいですし、アプローチとしてどんなイメージなのか、教えてください。

 
ハンサム判治:海外のライブハウスは、ドラムが常設されとらんことが多いので、バンドでの海外ツアーはいろいろ面倒じゃないですか。ハンサム兄弟のPVを撮影してくれた映像作家のkeiki yokokawaとそんな話で盛り上がって、ドラムとかアンプが必要ないフットワークの軽いゲリラ部隊をやろうってなったんです。トランペットは子供の頃から吹奏楽部で吹いとった訳では全然なくてsmiles davisというユニット名を背負うなら、ラッパぐらい吹かんとなってぐらいの気持ちで急に始めました。
 

—言わずもがなですが、Miles Davisがお好きなんですよね。

 
ハンサム判治:もともとMiles DavisサッチモLouis Armstrong)が死ぬほど大好きなので、吹きたいラッパのイメージだけは明確にあったこともあって、意外にすんなり音が出てくれてラッキーでした。未だにドレミも分からずにテンションだけで吹いとりますが(笑)実際にニューヨークにもアポなしで行って、“ヴィレッジ・バンガード(ジャズの中心地ニューヨークの中で最も歴史が古いジャズクラブ)”に乱入してRoy Hargroveに笑ってもらったり、満員のAトレイン(ニューヨークの地下鉄)の車両で、ゲリラライブやって喝采を受けたり、CBGB(ニューヨークの老舗ライヴハウス)でライブして地元紙に取り上げられたり、アポロシアターの支配人と友達になってきたりと好き放題やってきました。
 

—その時の様子が、前編・後編でムービー化されているのを、YouTubeで拝見しました。

 
ハンサム判治:別の視点から言うと、smiles davisというユニットは音楽と映像のコラボユニットなんです。音楽には映像がつきものだし、逆に映像には音楽がつきもの、だったら別々に考えないで一緒にやっちゃおうって考えが形になったのがsmiles davisなんです。音楽家としてのワシと、映像作家のkeiki yokokawaが一緒にやる時にsmiles davisという名前を名乗っています。smiles davisという遊びのユニットが“soybeans”という映像と音楽のコラボ会社に発展して、映画の制作(土屋アンナが初監督した『フィッシュ・ボーン』等)をやったり、テレビでレギュラー番組を制作したりするまでになりました。でも原点であるゲリラ部隊というスタンスは忘れずに、会社の会長として好き勝手やらせてもらっとります。
 

—ちょっと脱線しまして、音楽活動以外について。俳優などにもチャレンジされているようですが、それらは音楽活動へどのようなプラス作用があると思いますか?

 
ハンサム判治:バンドだと、どうしてもボーカルが主役にならざるをえんと思うので、だいたいいつも自分中心に考えてしまうんです。でも役者の仕事の時は、脇役も脇役なので主役さんの動きを邪魔しないようにしながら自分の存在感を出す事を考えんといかんので面白いですね。つい先日、ドラマで共演してから、いろいろ可愛がってもらっとる八嶋智人さんの舞台を観に行ったんですが、八嶋智人さんって一見出しゃばっているように見せて、実はまわりの役者さんの良さを引き出すのがメチャメチャ上手い人なんだって気づいて、勉強になりましたね。バンドでも、他のメンバーの良さをもっと引き出せるボーカルにならんと、もっと上には行けんって事を教えてもらった気がします。
 
 

【ビッグダミー】
ビッグダミー
ビッグダミー
—さらに脱線しまして(笑)音楽活動を離れたところで、趣味やマイブームな話を聞かせてください。

 
ハンサム判治:マイブームはもう自転車にどっぷりです。雨さえ降っとらんければ、都内の移動はどこでも自転車です。仕事に自転車で出掛けると、1日で30キロ〜50キロぐらい走るので、1週間に仕事の移動だけで200キロ近く自転車で走っています。それ以外にもオフの日には多摩川沿いを上流まで走りにいったりして、1日に100キロ以上走ったりもしています。が、体重は全然減っとらんのでご心配なく(笑)最近ロードバイク以外に“ビッグダミー”という普通の自転車の1.5倍ぐらい長いロングテールバイクを手に入れたので、ギターでも何でも自転車で運べるようになったんです。アコギとか衣装とか物販のグッズとか、全部ビッグダミーに積んでライブに行けちゃうので最高ですね。自転車にギターを積んで日本中を旅したいです。
 

—日々、ロードバイクで都内移動しているだけでも運動量は凄いと思いますが、体重が減らないこともある意味凄いですね(笑)“ビッグダミー”というロングテールな自転車は、積載量を考えると、バンドマンにうれしい自転車かもしれません。アンプやドラムを持ち込むわけじゃないなら、“ビッグダミー”があれば、都内近郊のライヴはOK!みたいな。とはいえ、あまり見た事が無いのですが、珍しい特殊な自転車ですか?

 
ハンサム判治:ロングテールバイクというのは、アメリカのXtracycle社が90年代半ばに第3世界の人たちの為に、より多くの荷物を運べる有益な自転車を作ろうとして、普通の自転車をロングテールに改造するキットを開発したことから始まったらしいんです。その理念に賛同した「Surly」という自転車のブランドが、Xtracycle社とコラボして、フレームから長い特殊な自転車“ビッグダミー”を開発したんです。車に頼らない豊かな生活を提案するムーブメントの核になり得る力を持っていると思うので、日本でも是非普及して欲しいですね。というかワシが普及させてみせます(笑)
 

—なるほど。コンセプトとしては、実に素晴らしい乗り物ですね。

 
ハンサム判治:実際ビッグダミーを組んでから、車に乗る機会が激減して思わぬところで「エコ」な人になりつつあります。でもその分、食料を大量に消費しとるのでプラマイゼロですが(笑)ロングテールバイク自体まだまだ日本では滅多に見かける事はないので、恐らく真っ赤なビッグダミーは日本で1台だと思います。真っ赤に塗装してもらう時に、『人類皆ハンサム兄弟』のロゴも入れてもらったので、盗難されてもすぐ足がつくと思います。その前にデカイので盗むのも大変だと思いますが(笑)
 

—“ビッグダミー”が普及して、日本中をそれでツアーするようなアーティストが出てくると、面白い世の中になりますね。プロだけでなく、ストリートミュージシャンなんかも、電池式アンプとギターを積んで。もしかすると“ビッグダミー”の効果で、日本の音楽文化が一歩深まるような気もします。

 
ハンサム判治:電車移動だと駅の周りの小さな街が別々に点在する感じですが、自転車だと街全体というか日本全体がひとつのデカイ街になるので、いろんな発見があって面白いんです。駅から遠い場所に旨いラーメン屋を発見したり、素敵な公園に出会ったりするので毎日がアドベンチャーですね。バンドマンはもっとフットワークが軽くないとこれからの時代は生き残れないと思います。まだロングテールバイクに乗っとるバンドマンに出会った事はないですが、友達のドラマーが興味をもってくれたりと、徐々に存在が広まりつつあります。実はギターだけじゃなく、マーシャルぐらい楽勝で運べちゃうので可能性は無限だと思います。
 

—マーシャルもいけちゃうって、かなり凄いことですね。

 
ハンサム判治:渋谷とか下北沢を“ビッグダミー”でのんびり走るだけで、メチャメチャ注目されるので、バンドの宣伝にもなって一石二鳥でもあります。ロングテールバイクが、低迷気味な音楽シーンの起爆剤になれば面白いですね。勝手にバンドマン自転車名人を名乗ったろうと企んどります。まだ妄想段階ですが、まずは自分一人でもいいので“ビッグダミー”にアコギを積んで、日本中をライブしながら旅するつもりです。
 

—最後に、ビーストの読者へ一言ください。今後のハンサム判治のココに注目!みたいな話をお願いします!

 
ハンサム判治:音楽業界が低迷しとると言われがちな時代だけど、ワシにとっては逆にチャンスだと思っとります。デブパレードでメジャーシーンを大暴れして、ハンサム兄弟ではアングラ道をとことん突き進んで、両方から音楽シーンを盛り上げたいですね。ワシみたいなアングラなバンドマンが、オリコンとか賑わしちゃったら笑えると思うんですよ(笑)

インタビューを通じて、ハンサム判治というアーティストの人間性を知ることができた。音楽を愛する気持ちと表現力、それらがとても自然な形でバンド活動に結びついている。ハンサム兄弟デブパレード、ベクトルの違うバンドを楽しんでやる・・・言葉にすると簡単だが、実際にそれができるアーティストは少ないと思う。本当にカッコよい音楽活動というのは、ハンサム判治のようなアーティスト活動だ。
 
メジャーだけでなく、インディーズだけでなく、両方やってしまえ!そんな表現者は絶対的に素敵だ。私も若い頃、音楽活動中心の生活をしていた頃があるが、その結果は何も残らなかった。いま思えば・・・ということは誰しも自分史の中に持っていると思うが、音楽活動については、絶対的な何かが必要だと肌で理解している。ハンサム判治の得体の知れないパワー感、それは絶対的な表現者の発するオーラなのかもしれない。
 
音楽だけでなく、他分野にも置き換えて考えてみることで、ハンサム判治の生き方を少しは応用できるはず。「こうじゃなきゃダメ!」みたいな価値観というのは、隣の畑から見ていると、どうでもいいことだったりするものだ。そして自分達だけが!ということではなく、シーンを盛り上げていく先駆者になる意識、これはとても大切なマインドだろう。私も“ビッグダミー”に乗ってみたいと思った。そしてその先にあるのは「低迷気味な音楽シーンの起爆剤」に他ならない。

Photo
【ハンサム判治 公式ブログ】
http://ameblo.jp/hanzi/

【ハンサム兄弟 公式サイト】
http://www.hand-some.com/

【デブパレード 公式サイト】
http://www.devparade.com/

【インフォメーション】
ハンサム兄弟
2010年3月08日(月)【渋 谷】CYCLONE
2010年3月13日(土)【池 袋】BlackHole
2010年4月11日(日)【池 袋】アダム

デブパレード
2010年3月19日(金)【下北沢】CLUB Que
2010年4月17日(土)【渋 谷】サイクロン
※デブパレード企画「ハッピー☆ランデブー」

※問合せは各会場まで