連載

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※この記事は取材した2013年のアーカイブです。最新情報ではありません。

セレクション27(東京都)「Crawdaddy Club」 宮本幹也 代表
TEXT & PHOTO:桂伸也

大人気連載「ロック酒場探訪記」。27回目となる今回は東京・新宿区にあるロックバー「Crawdaddy Club」をご紹介します。Crawdaddy Clubは「東洋一の歓楽街」、歌舞伎町のド真ん中に位置し、周りにはライブハウスもある一方で、飲み屋など雑然としたにぎやかな通りにあります。建物の地下に下りると、木造のシックなドアが現れ、そこを抜けると同じ歌舞伎町と思えないリラックスした空間が現れます。
 
カウンター後ろの棚には多くのお酒とロックのCD、そしていかにもいい音を出してもらえそうなスピーカーが整然と並べられ、バーという雰囲気のある作り。そしてフロアの壁にはしっかりとしたガラスケースに入ったギターが並び、ロック好きには興味をそそられるところがあちこちに見られます。ロックバーはわりと手狭な敷地の中で経営されているケースも少なくありませんが、Crawdaddy Clubはカウンターにフロア、そしてステージと余裕のある空間作りが行われており、気楽に居場所を見つけられそうな場所だという印象を受けました。どのようなコンセプトでこのCrawdaddy Clubは作られたのか?代表の宮本幹也さんにお話をうかがいました。
 

Photo宮本幹也 代表 プロフィール
 
Led Zeppelinに明け暮れた青春からドイツレストランやオートバイ屋の店長を経て、渋谷にてバーの店長となったあとに、「自らの店を持ちたい」と奮起し、2003年にロックバー「Crawdaddy Club」を開店。ロックバーという敷居の高さを取り払い、かつ本格的なミュージシャンが出演するライブ、そしてセッション大会と多彩なカラーを持つコンセプトで多くのロックファンに支持を得ている。
 

 
—このお店を始められたきっかけはどのようなものだったのでしょうか?
 
宮本:お店ばかりを若いころからやっていて、20くらいから自分の店をやるようになっていました。このお店をやる前は渋谷で雇われ店長という恰好で小さい店をやっていました。でもそこはオーナーと意見が合わなくてやめちゃったんです。それで「じゃあ、やっぱり自分で店を出そう」と思って奮起したのがきっかけですね。僕は音楽が好きで、ロックバーをやりたいという気持ちは以前からありました。だから僕の世代の音楽である70年代の音楽を聴かせる店、できれば小さくても構わないので、ちょっとしたライブスペースが欲しいということを、最初の段階から考えていましたね。
 
—音楽的な趣向としては、やはり70年代が主体なのでしょうか?
 
宮本:いや、80年代、90年代もあります。ただ、僕がまあ一番知っているほうなのが70年代ということで(笑)。でもお店を始めて10年にもなると、お客さんの中には「こんなのもあるよ」って教えてくれることもありました。おかげで成長させてもらったような感じでもあります。
 
—特にヘヴィローテーションはありますか?
 
宮本:Deep Purpleとか、メインストリームのほうが多いですね。僕はLed Zeppelinが好きなんですけど、それはみんなお客さんも知っているので、逆に掛けないようにしています(笑)。あとはリクエストも受け付けているので、お客さんの好きな曲があればそれを掛けさせていただいてますね。
 
Photo—歌舞伎町という場所に対する思い入れは何かあったのでしょうか?
 
宮本:いや、最初に新宿でやりたいと思っていて、その上でもともと3丁目あたりを探していたんです。実は歌舞伎町の2丁目っていうのは絶対にやりたくなかったんです(笑)。オシャレな3丁目に比べると、何か泥臭い感じというか(笑)。
 
—なるほど(笑)。では、この場所を選んだのは、何か他の理由があってのことですか?
 
宮本:そうです。お店をやる上でこだわりたかったのが音で、「やるからにはいい音で音楽が流せるようにしたい」と考えました。それでJBL(アメリカのスピーカーメーカー)製の4344 mkIIというスピーカーを置きたいと思ったんです。このスピーカーを買ったのは店を始めるちょっと前くらいだったかな?でもこれが3丁目の物件だと狭くてなかなか下ろせない物件ばかり。それでも探していたらたまたま近くでライブハウスをやっている知り合いがいて、そいつがこの物件を見つけてくれたんです。
 
「歌舞伎町の2丁目だけど、どう?」って。で、見にきたら実は二部屋で、ちょうどその先(カウンターとフロアの間)に壁がありました。こっち(カウンター側)だけ借りようと思っていたら、オーナーが「音を出すんだったら、隣も借りてくれないか」と打診されたんですよ。で、見てみたら良かったし、値段もかなり下げてくれたから、壁をぶち抜いて一部屋にしようと決心しました。だから「ここで」というよりは偶然。この物件に決める前にもう半年くらい探していたけど、この物件を紹介してもらったときに「あっ、もうここだな!」って思いました。まあ実際10年もこの店をやって居ついてみると、町の印象は良いほうに変わってきていますし。
 
—音に対するこだわりですか。スピーカーに対しては相当強いこだわりが感じられますね。
 
宮本:そうですね。高校くらいのときによく行っていた喫茶店で、このスピーカーを置いてロックを流してくれた店があったのですが、それが自分の中でイメージにあって、「いつかは俺も」と思っていたんです。4344 mkIIは70年代後半に出たスピーカーで、殆どの仕様を変えずに2000年くらいまで売られていたモデル。いまどきのスピーカーみたいに周波数帯が広いものではないですけど、結構中域に特徴があって、JazzやROCKを聴くにはちょうどいい感じのものなんです。
 
—ロックに浸るにはピッタリの環境ですね。「Crawdaddy Club」というお店の名前の由来はどのようなものなのでしょうか?
 
宮本:「Crawdaddy Blues Club」という名前のお店が、昔ロンドンにあったんです。 The YardbirdsThe Rolling Stonesが売れる前に出ていたハコで、70年代にそのお店はなくなったのですが、僕もJimmy PageThe Yardbirdsが好きだったのでそのお店の名前をもらったんです。そのころの空気をここで再現したい、という意図で。当時とは音楽臭は違いますけど、あのころの感じを出せたらなと思って。「Crawdaddy Blues Club」は僕の憧れのお店だったから、行けなかったけどその名前はずっと頭の中にありました。ちなみに、今現地では「New Crawdaddy Blues Club」という名前で復活したらしいですけどね(笑)
 
—思い出の場所、ということですね。
 
宮本:そうですね。crawdaddyってザリガニのことなんですけど、僕はそれを知らずにロゴに猫のマークを勝手につけてしまい(編尾のロゴマーク参照)、今に至っているんですけど(笑)
 
Photo—このお店のコンセプトとはどのようなものでしょうか?
 
宮本:ロックバーという前提がありながらも、演奏がしっかり聴かせられるというか、生演奏をやったときに、このハコの環境で最大限満足できるような音でプレイできるシステムを組みたいというところと、あとは音ですね。CDで流した音を、ある程度キッチリ聴けるようにしたい、というところを考えています。
 
お客さんと会話をするのが好きなので、一人で来られたお客さんとカウンターで話しているのが多いんですけど、それが結構楽しいのでそういう雰囲気も大切にしています。ステージも一応開店のころから作ってはありました。ただ、ステージのシステムは開店のころから少しずつ変わってきて。最初はもっと全然ショボかったですね。
 
—しっかり聴かせようという部分でのこだわりとしてどのようなものを導入されているのでしょうか?
 
宮本:70年代の音が好きなので、ステージにある機材関係は、ある程度僕の好きなところを無理やり入れています(笑)。たとえばギターアンプは、Marshallの1959っていう古いやつの3段積み。こんなところで3段積みなんて必要ないけど、一応見た目としてもインパクトもありますし。

あとはキーボードのレスリースピーカーですね。これはこだわりでModel 122(ハモンドB-3オルガン専用のモデル)の古いやつ。メンテをしながら使っています。ドラムセットはLudwig、通常は22インチのバスドラでセットを組んでいるんですけど、僕はLed Zeppelinが好きで、John Bonhamも好きなので、26インチのシステム一式を年に1回行う、Led Zeppelinセッションの日だけ、出して使うんです(笑)。普段は隅に積んであるんですけどね。
 
—スゴイこだわりですね、「そこまでやるか!」っていう(笑)。客層の対象というのは、やはり40~50代くらいの方がメインということでしょうか?
 
宮本:そうですね。40代が一番多いんじゃないかな。ときどき若い人もいますけど、20代はあまりいないですね。だいたい30代から。そういう人が若い子を連れてきてくれて、そのまま居ついてくれたということもありますが。
 
—お店の告知や宣伝などは、どのように行われているのでしょうか?アーティストさんとかを呼ばれると宣伝も色々大変かと思いますが…
 
宮本:たとえば森川さん(森川之雄『UTA-DAMMASY SING A SONG NIGHT』参照のこと。)も最初うちでやり初めてもらったときには、多分誰かから口コミで聞いてきていただいたか、別のライブをやったときに見に来ていただいたんだと思います。そういうところから音を聴いてもらって「ここどういうシステムなの?」と問い合わせを頂いてから、ライブに結びつくパターンが多いですね。そういう意味で、インターネットで告知なんかをすることはありますけど、うちからあまり発信するようなことは正直あまりないんです。発信しなきゃな、とは思っていますが(笑)、なかなか…僕の根がのんびり屋なので(笑)
 
まあ、ライブのほうはそうなんですけど、ロックバーとして力を入れていきたいというところはあります。うちは料理も結構多くて、カミさんが作ってくれるんですけど、手作りで毎日お通しとかもちゃんと。チャージ以上と思ってもらえる量のお通しもありますし(笑)、おなかをすかせてこられた方も十分飲んで食べてもらえると思います。「もっと」と言われれば定食の恰好で食事も出していますしね。
 
Photo—よく出るメニューはありますか?
 
宮本:ナポリタンがよく出ますね。鉄板ナポリタン。名古屋っぽい感じのタイプなんですけど、下に玉子焼きがあって、その上にナポリタンが乗っかるパスタなんです。あとはオムライスなんかも。
 
—それはおいしそうですね!ボリューム感がたっぷりで。お店のキャパシティはどれくらいでしょう?
 
宮本:全部で約50席ですね。フロア側が40でカウンターが10くらい。もちろん立ちも入れたらもっと入りますが、基本的にうちは、スタンディングはやらないんです。ただ、昔X JAPAN沢田泰司さんがプレイされたことがあって、そのときはスタンディングにしましたね。結構いろんな人が来ていて、昨年11月にはPaul Gilbertなんかも。おおっぴらには言えなかったので、口コミでいえる人だけに伝えてやりましたけどね(笑)。あとはHOUND DOGのブッチャー(橋本ブッチャー章司)さんなんかはよく来られてやっていただけていますし。
 
—お店の内装的なところとしては、やはりロックバーのイメージというところをご自身でこういうものという感じを固めておられるのでしょうか?とてもスタンダードな感じを受けました。
 
宮本:そうですね。やっぱりこう古めといいますかね…今はどちらかというとかなり小奇麗なお店が多いですよね。それよりももっとウッディな感じにしたいなと思っていて、借りたときに外装はスケルトン(骨組みが露出した外装)にして、カウンターだけにしてもらって、あとはあまりお金もなかったので全部自分達でやったんです。だからそれほどお金は掛かっていないし、塗装用のハケとかメチャメチャ詳しくなりましたね(笑)。
 
ちょっと野暮ったい感じも出しつつ、女の子でも気軽に来られるようなイメージを出したかったんです。だからトイレも気を遣っていますね。ライブハウスではわりと汚いところも多いけど(笑)、そういうところはちゃんとしつつ、雰囲気のイメージは「古めのイギリス」といった感じを出しています。
 
—店に飾っているギターはどのようないきさつで置かれているものでしょうか?
 
宮本:これは僕が昔使っていたやつです。高校や大学時代に、バイトしまくって買ったもので。ギブソンレスポール(Custom)は高そうに見えますが(笑)、高校のときにバイトして買った中古のものですけど、56年製です。当時は新品のレスポールが30万円くらいでしたが、これが中古で40万だったんですよ。新品を手に入れようとしてバイト代30万を持ってお店に行ったら、これに一目ぼれしちゃって(笑)。音も出さずに3ヶ月予約で取り置きしておいてもらって買っちゃったんです。
 
Photo—買って音を出したときの印象はどんな感じだったのですか?
 
宮本:実は、「あれっ!?」って思いました(笑)。僕はLed Zeppelinが好きだったので、ギタリストといえばJimmy Page、ギターもレスポールといえばStandardなんですけど、カスタムはシングルコイル。音はいいけど自分のイメージした音と全然違う音がして(笑)。でも意地で弾き続けましたけどね。あとSGのダブルネックは、昔Led Zeppelinのカバーバンドをやっていたので手に入れまして。
 
—サインが入っているのは、誰のサインでしょうか?
 
宮本:あれはJohn Lawtonという、元URIAH HEEPのメンバーのサインなんです。第二期のボーカリスト。僕の知り合いでURIAH HEEPのファンの方が呼び屋になって彼をこの店に呼んでくれて、ここで演奏してもらったことがありました。そのときにサインをもらったんです。URIAH HEEPも大好きなので、感動しましたね。
 
—基本的にお店のライフサイクルとしては、どのように営業されていますか?
 
宮本:平日は19:00にオープンし、翌日の2:00にクローズします。ただ最近は終電で帰られる方も多いので、暇になると早めに閉める場合もあります。週末や祝日のライブ時は18:30か19:00くらいに開けて、24:00に店を閉めます。
 
—終わったあとに、また飲みに行かれることも?(笑)
 
宮本:いや~昔はよく行っていたけど、最近は体力がなくて(笑)
 
—自分の店をやるぞ、と決めたあとに今迄10年やってきたことで、どんな思いを現在持たれていますか?
 
宮本:ロックバーをやる前と今は比較にならないくらいに人とのつながりが広がったと思います。やっぱり音楽という一つのものがあるので、それを通じていろんな人と知り合って、ライブを見に行ったり僕がやったり、そういった中でドンドン中学校くらいに戻ったような(笑)。そんな感覚がありますね。いろんな人と知り合えることがとても面白いなと思っています。毎日違う人と新しい出会いがあるじゃないですか?誰かが誰かを連れてきて、話してみると意外なつながりがあったり、お互いの音楽を教えあったり、本当に面白いと思います。
 
Photo—では「10年突っ走ってきて、よくやったよなあ」と振り返っているというよりは、結構現在進行形で新鮮な空気を毎日感じられている感じでしょうか?
 
宮本:そうですね。ただ体力的には弱ってきていて、なかなか酒飲んだ翌日は復活できないとかありますが(笑)。お客さんとの間での楽しさは、まだその度に、本当に新鮮に感じています。
 
—最後にお店のアピール的なところを教えていただければと思います。
 
宮本:ロックバーって行き慣れている人はそれほど問題ないと思いますが、行ったことがない人にとっては気後れするようなところってあると思うんです。バーというところも特殊だし、行くと髪の毛が長い奴ばっかりいて、にらまれたりとか、チャランポランな奴もいて嫌だ、とか(笑)思う人もいますが、そんな人たちと話をしてみるとお互いのことがよく分かることがあるんです。うちではわりとそんなきっかけから仲良しになる人も多い。
 
だから、まずは一度気軽に来てみて欲しいですね。うちのスタッフも「僕とカミさん以外は」若くて(笑)、本当にフランクに話をするし。一度来て誰かと話をしてもらったら、絶対に楽しいと思うんです。あとは、ライブができるというところも特に楽しいと思います。普通のライブハウスほどお金も掛からないし。
 

Crawdaddy Clubというお店が10年以上も存続している理由は、宮本さんの物腰の中にも感じられたような気もします。「ロックを楽しむこと」を生きる糧にしているロックキッズのような雰囲気を持ち続け、ロックバーを営んでいることを本当に楽しまれているように見えました。反してスピーカーやステージ機材の話では、マニアックな部分にもかなり精通した様子も見え、ロックバーを通して自らを成長させているかのようでした。そんなオーナーの思いがこもった、ロックを通してくつろげる空間だけに、ロック好きがここで落ち着けないわけがない、そんな雰囲気すら見えました。
 
Jazzバーやロックバーにある存在感十分のスピーカーはときおり威圧感すら感じられるときもありますが、「70年代のイギリスのロックシーンを意識した」というその店の中では変な威圧感もなく店の雰囲気に溶け込んでおり、かつ良質なロックサウンドを流す原動力として活躍しております。ロックバーにありがちな騒々しさを感じさせないところも宮本さんのこだわりの部分でもあり、ロックをそれほど知らないお客さんでも落ち着いて居場所を見つけられる楽しめる場所なのではないでしょうか。ロック初心者から上級者まで共存できる素晴らしい空間であることは間違いありません。特にロックライフを満喫したいと考えているロック初心者は是非一度足を運んでみられることをおススメします。
 

Crawdaddy Club

営業:火曜日~金曜日19:00~翌2:00
   土日・祝19:00~0:00
休日:月曜日・イベントのない日曜・祝日
住所:〒160-0021
   東京都新宿区歌舞伎町2-28-15
   KビルB1F
TEL:03-5155-5253
FAX:03-3205-6205

公式サイト:http://sound.jp/crawdaddy/

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東京都新宿区歌舞伎町2-28-15



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