2011.3.11 東日本大震災。本誌BEEASTもこの震災によりスタッフを失い、休刊を余儀なくされました。
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それからまもなく2年。寒いこの季節になると、当時のことが感覚とともに蘇ります。でも悲しい気持ちなるばかりというわけでもなく、多少の悲哀とともに希望が生まれてくるのもまた事実です。”生かされている”というと、重たい言葉になってしまいますが、そういう感覚です。
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“生かされて”、わずか8ヶ月で復刊を遂げることが出来たBEEASTが、「震災復興支援」を実際のアクションとして考えていったのは、極自然な流れでした。その中で生まれた「39LIVE」。「ロックと生きる…ライフスタイル応援マガジン」を掲げるBEEASTとして、ミュージシャンと音楽ファンの絆を深めるライブを開催。2012年2月25日の森若香織を皮切りに、全7回を開催することができました。
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試行錯誤の中で乗り越えるべき課題が生じ、「39lIVE」はいったん第7回の2012年12月23日をもって休止することが決まりましたが、これでおしまいということではなく、引き続き復興支援のあり方を探究しながら、BEEASTとしてすべきことを確実に遂行していきたいと考えています。
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さて、本誌コラムニスト、いわばBEEASTの顔である森若香織からスタートした「39LIVE」。ファイナルもやはり、本誌の顔、コラム「浪漫派宣言」や人間椅子はじめ様々なライブレポでもおなじみ、和嶋慎治が登場します!
今回、和嶋慎治はこれまでにほとんど行ってこなかったソロ弾き語りによる出演。ワンマンとしては自身初とのこと。そうしたまさに”プレミアム”感も手伝い、事前応募は過去最多!急遽、立見観覧も導入し、多くのファンが今宵のライブに参加します。この日の2日後(=12月25日)が和嶋慎治の誕生日ということもあり、花束など差し入れが溢れんばかりの量に!
そんな花束の量に比例して熱気がグングン高まる会場、まずは編集長桜坂、副編集長鈴木のオッサン2名が登壇。39LIVEの趣旨を説明させていただきました。「今日はめったに見られないものが見られます」と煽る桜坂編集長。実は内心私たちBEEASTスタッフもこの日をずっとずっと楽しみにしていました!
そして午後7時半を少し回り、ついに開演!人間椅子のライブでは和装が定番の和嶋慎治、今宵はカジュアルな黒ジャージーとチノパン、そして中に召していらっしゃるのは、パンクTシャツ?その真相は後ほど明らかになるとして、そんな服装と同様に演奏スタイルも普段とは異なるためか、固唾を飲んで見守る観客。そこへ和嶋慎治は開口一番、「めったに見られないものが見られるという…珍しい動物みたいですね!天然記念物!」と半ば自虐的に語り、笑いを誘います。アコギのチューニングから始まるという、これまた普段のライブではまず見られない光景を経て、「赤と黒」からライブはスタート!5月の筋肉少女帯との対バン(地獄の決定打!筋肉少女帯VS人間椅子VS人間筋肉少女椅子帯)ではギラギラ真っ赤な太陽のようなナカジマノブのボーカルが印象的でしたが、今宵は和嶋慎治のジリジリ熱する黒い太陽のようなボーカル、腹の底からメラメラ湧き出てくる低音に、早くも心躍ります!
「静かめな曲を…」と日なたでハープを弾くようなイントロリフから続いて披露されたのは「甲状腺上のマリア」。包み込む優しいボーカルと、背筋が震えるような歌詞との対比!そして、ここの所毎朝4時に起きて、この日のために練習したり、コラムの原稿を書いたりしていた、という和嶋慎治から、ここで新しく導入した機材の紹介に。一発ジャラーンと弾いただけで6本の弦の中の狂いを一発で見つけられるというチューナーや、足元の機材たちのことを嬉嬉とした表情で語ります。「ルーパーというのがあるんですよ。音を繰り返してやってくれる。例えば…」と即興実演!観客の目を丸くさせます。
そのルーパーを駆使して披露するのが、3曲目「白日夢」。タイトルの通り霞が立ち込めるようなぼんやりとした世界観を、アコースティックギター1本で創出!飽くなきエフェクターへの探究心やストイックな日々の練習ということもあるのでしょうが、それ以上に、どうやったらこういう世界観を頭の中で創れるのだろうか、そしてそれを音楽にできるのだろうか…と、唸らずにはいられません。最後はアナログディレイをひねってフィードバック(自己発振)、セスナ機が遥か彼方へ飛んでいく!
「自分のことのように嬉しい」…そう語るのは、11月リリースの「黒い週末」にギターソロで参加した、ももクロ(=ももいろクローバーZ)が紅白歌合戦出場を決めたこと。その流れから、今年一年間を振り返り、39LIVE出演を決めた経緯、そして震災当時について語ります。「あの地震の時…ちょうど(アルバム『此岸礼讃』の)曲作りの時だったんですよね。曲作りを始めた次の次の日くらいに地震があって、でも、その状況だからこそレコード作らなければ何がアーティストだと」…まさに余震が続くスタジオで完成した曲が、続いて披露する「春の匂いは涅槃の薫り」!
確かに、初めて音源を聴いた日、真っ先にこれは震災のさなかで沸騰し煮こぼれる思いを詰め込んだ曲なのだなということは直感していました。「野や山を祝福して 僕たちは生まれ変わる」…今宵アコースティックver.によって一つ一つの音の作り、輪郭が明確になることで、改めてこの曲が単にコード的なことに限らず、ものすごくたくさん”詰め込まれた”楽曲なのだなと実感します。
「この服、かっこいいでしょ?ニューヨークのCBGBだったかな。パンクロックのライブハウスの…ジャージーなんですよ!」「ワジーかっこいいね!でも、ワジーのじゃないでしょ!ってよく言われるんですよ。その通りで(笑)」突如、衣装について語り始める和嶋慎治。実は人間椅子ファンクラブの会報をデザインしてくれている”カッサイくん”が忘れていったものを返そうと思いながら着続けていたら自分のものになったという…そんなストーリーに、客席からは笑いが止みません。
さてここからは音楽青年・和嶋慎治のルーツに迫る、題して「蛍雪時代」!曲を作り出した高校生当時の制作ノートを持参、58ページにもおよぶ貴重な「恥ずかしい曲シリーズ」の数々をこの場で披露!「最近ネットの方では中二病っていう言葉があるでしょ?まさに中二病ですから、これ(笑)」まずはその中でも記念すべき第1ページ。「多分中学3年生の時に作った」というその曲のタイトルは…「女なんて」!ミュージシャン・和嶋慎治の処女作が、まさかのタイトルです。そしてその内容も、当時ハマっていたLed Zeppelinの「天国への階段(Stairway to Heaven)」などのコードを模して、「2人ではしゃいだのは あれは偽り」「ヤケ酒なんて飲んでも 悲しみは消えない」「所詮愛なんて あるわきゃないのさ」…背伸びしすぎてアキレス腱が切れてしまいそうな失恋ソング!先ほどとは打って変わって、終始クスクス笑いの絶えない異様なステージが展開されます。さらにフォーク色溢れる「銭湯へ行こう」や「既に今の片鱗がある、夜叉ヶ池みたい」という「赤い月」、人間椅子の曲とは違うNHK「みんなのうた」のような「いもむし」など…高校生当時にしてその引き出しは豊富!
その勢いはとどまらず、「ある時から女性の名前で曲を作り始めたんですね~。まさに中二病!」と自嘲しつつ、「女の名前シリーズ」!最初に作った「久美子」は諸般の事情で割愛。「佳子(よしこ)に決定」の後半からSimon & Garfunkelのような曲調の「瑞子(みずこ)も捨て難い」のメドレー、さらに「あるいは伸子も」、そして「美・美・美・美・美・美・美・美佐子」!当時、周りの音楽仲間にとどまらず他校にまで「女性の名前をつけて曲を作る」というブームを巻き起こしたというこのシリーズに続き、甘酸っぱいメロディの「夢みる二人」、さらに「裸のバカンス」、そして最後は「御伽姫」で、青春プレイバックの第1部が終了!
さて休憩を挟んで第2部。クリスマスの近いこの日、参加者には特別にクリスマスプレゼントが用意されました。衣装替えし、赤いチェックのシャツを羽織って登場の和嶋慎治サンタから、プレゼント内容が紹介されます。クリスマスカラーのかわいらしいデザインの袋を開くと、甘い香りが漂います。ご実家・青森から自ら購入し取り寄せたという林檎に、富士山のふもとで撮影した「宙に浮くワジーポストカード」、そして「道程/高村光太郎」など3編の詩の朗読を収録したこの日限定のオリジナルCDR!これはライブの記憶とともに忘れられないクリスマスプレゼントになりますね。ちなみにこの衣装は免許書き換えの度に必ず着ている”正装”なのだとか。
そして後半は「暗い日曜日」からスタート!先述のルーパーも再び仕事をし、正月の琴にも似たアルペジオで、穏やかな、しかしどこか陰のある楽曲の世界観を奏でます。そして、落語家・和嶋慎治師匠降臨!「これを一人でやれるのか?」と自問自答しつつ、「品川心中」を披露。アコギが三味線に変身!たった一人で、アコギ1本で、ここまでできるのか!と驚きの連続です。そして変身と言えば、THE BEATLESの「Dear Prudence」はDのメジャーコードだけど、それをDのマイナーコードにすると、人間椅子ファンには聴き覚えのある曲に…ということで、そのアルペジオを弾きながら、続いての曲「恐山」に!
「King Crimsonの『21世紀の精神異常者』って曲、途中に変なパートがあって、どう聴いても変拍子に聞こえるでしょ。あれ実は4分の4なんですよ」そう語り、フレーズを弾き始める和嶋慎治。メトロノームを使って弾いてみせたのち、「お客さんとセッションしたい」と、観客の手拍子とコラボレーションし実演!
そして、話題はこれまでのコラムでも語られてきた、色々なアルバイトを経験してきたという話に。バイト生活に居心地の良さを感じる半面、やはり社会的ステータスから来る負け犬根性、ルサンチマンがそこに勤めている人達の中にはあり、「どうせ俺なんか…の気持ちのままではだめだ」と、そのルサンチマンから抜けることが大事だと強く自覚したという。音楽のためのバイトのはずが、逆転する瞬間…でも、「楽しいことをやらなくて、何のために人生があるんだ」という思いから、その「楽しいこと」、すなわち音楽を生活の中心にしようと決心、すると経済的なことも含めて、徐々に生活全てが再びうまく回っていくようになったのだという。そんな「抜け出したい」気持ちが芽生え出した頃に作られたという曲、「孤立無援の思想」を続いて披露。さらに、最近のアルバム『此岸礼讃』から「愚者の楽園」「悪魔と接吻」の2曲をギターソロも激しくアコースティックで披露!
ここまでこのレポート記事を読んでいただいてお分かりのように、予定時間を大幅に超える、3時間超の大ボリュームで本編が終了!それでも鳴り止まぬアンコールの拍手に応えて、最後は「胡蝶蘭」を全力でプレイ!「禁煙したお蔭かな」と言いつつ、それ以上に強い強い情熱がなければここまでできなかったであろう、全22曲(蛍雪時代コーナーを含む)のアコギソロ弾き語りワンマンがこうして幕を閉じました。
ワジーからBEEAST読者への、お年玉だ!!
1月14日(月祝)夜に吉祥寺ROCK JOINT GBにてアンコール公演の開催決定!
[BEEAST presents 39LIVEアンコール
~和嶋慎治~]
【日付】2013年1月14日(月・祝)
【会場】吉祥寺ROCK JOINT GB
http://www.rock-gb.com/
【出演】和嶋慎治(人間椅子)
【時間】
19:00OPEN/19:30START
【料金】
前売¥3900(1drink込)
詳細・チケット予約はこちらのページへ↓
http://www.beeast69.com/news/beeastinfo/50468
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◆セットリスト
-第1部-
M01. 赤と黒
M02. 甲状腺上のマリア
M03. 白日夢
M04. 春の匂いは涅槃の薫り
M05. ~蛍雪時代~
女なんて
銭湯へ行こう
赤い月
いもむし
瑞子も捨て難い
あるいは伸子も
美・美・美・美・美・美・美・美佐子
夢みる二人
裸のバカンス
御伽姫
-第2部-
M06. 暗い日曜日
M07. 品川心中
M08. 恐山
~21世紀の精神異常者~
M09. 孤立無援の思想
M10. 愚者の楽園
M11. 悪魔と接吻
-encore-
E01. 胡蝶蘭
◆人間椅子 公式サイト
http://ningen-isu.com/
◆和嶋慎治コラム「浪漫派宣言」
http://www.beeast69.com/column/wajima
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さて、今回の第7回39LIVEでは、終演後に設置させていただいた募金箱への寄付金も含めた合計31,943円を東日本大震災の復興支援として、沿岸部の被災者の命の見守り支援を行う岩手県看護短大の鈴木るり子先生、岩手医科大学の秋冨慎司先生の活動を支援するために寄付することができました。
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震災発生からまもなく二年を経過しようとする被災地で人手もお金も不足する中、両先生方は岩手県内で災害時救援情報共有のiシステムの構築に尽力しています。秋冨先生はこのほど、岩手県内の関係者で被災地の人たちが復興への足がかりを作れる環境整備のための社団法人「東日本絆コーディネーションセンター(http://www.ekcc.or.jp/index.html)」を立ち上げ、副理事に就任。行政と連携しながら、被災者支援に入る医師や介護福祉士、栄養士などが各々持つ能力を集約し、支援を必要とする人の情報を瞬時に共有することで、少人数・低予算で効率的な支援ができるネットワークを構築しようとしています。
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行政や大組織に依存せず、有志が集まって本当に有意義な被災者支援に努める姿勢は、まさにロック!そんな鈴木先生、秋冨先生の活動をBEEASTは支援していきたいと考えています。
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【連載】39LIVE バックナンバーはこちら
http://www.beeast69.com/category/serial/39live