演奏

TEXT & PHOTO:文鳥ヨシト

約20年ぶりにオリジナルメンバーで、パール兄弟再結成!本番を45分前に控えた慌しい時間であるにも関わらずサエキけんぞうは熱っぽく筆者に語った。「パール兄弟の楽曲はとても難しい。ようやくバンド編成でライヴが出来ることになったんです。」ステージではどこかひょうきんに振舞っていてコワモテ系ロックミュージシャンのような熱さは感じない人物である。それは1986年に1stアルバム『世界はパール』でデビューした時に「テクノユニット」として紹介されてしまったことも多分に影響しているのかもしれないが、むしろサエキけんぞう本人は音楽業界内でも「ロック談義を始めると熱い男」として有名である。この日のパール兄弟サエキけんぞうが宣言した通り「ロックバンド」としての真価と進化を証明するために用意されたステージである。
 
パール兄弟 メンバー:
サエキけんぞう(Vocal)、窪田晴男(Guitar)、バカボン鈴木(Bass)、松永俊弥(Drums)、矢代恒彦(Keyboard)

Photo Photo

Photo Photo

あたかも70年代のハードロック系バンドのように4台のキーボードによってお城のように構築された矢代恒彦の鍵盤類がステージ上手に陣取る。その後方にはエレキベースとスティックベースの2本体勢でバカボン鈴木が立つ。そのバカボン鈴木と強力なリズムユニットを結成するのはドラムの松永俊弥である。今では人気声優で歌姫として人気・実力ともにトップを誇る水樹奈々のバンドにも参加し、アニメファンの間でも親しまれ単にバックバンドのドラマーでは済まされない人気者になっている。今回のライヴでもパール兄弟の正式メンバーでありながら参加が危ぶまれた人物の一人でもある。そしてステージの下手側にサエキけんぞうとともにパール兄弟を支えてきた窪田晴男がフェンダー・ストラトキャスターを携えて登場。筆者が日頃見るロックバンドはギタリストが上手側、ベーシスト、キーボードプレーヤーが下手側に陣取るセッティングになっていることが多いが、パール兄弟はその逆並びの立ち位置を取っている。
 
Photo Photo

Photo Photo

200人以上の観客が集まり文字通り立錐の余地もなくなった高円寺ShowBoat。5人編成のパール兄弟は力まず自然体の姿でステージに現れると「バカヤロウは愛の言葉」「少女マヌカン」と初期のナンバー2曲からスタート。ファンキーなリズムセクションに縦横無尽なギターとキーボードが色を添える。その上にシリアスさとコミカルさが不思議な同居に成功したようなサエキけんぞうのボーカルが乗る。上手い、熱い、楽しいの三拍子が揃った日本でも屈指のロックバンドの姿を目の当たりにした観客は最高潮に盛り上がっている。
 
Photo Photo Photo Photo

4曲目の「ヨーコ分解」でバカボン鈴木がスティックベース(=両手タッピングによる演奏を前提として設計された特殊なベース。Tony Levinのプレイでも知られる)を披露。MCでサエキけんぞうが「ウィキペディアで紹介されている」と紹介した通り、バカボン鈴木は日本を代表するスティックベース奏者である。ベースのゲージを両手でフレットに叩きつけるタッピング奏法が始まると、跳ね上るようなリズムはさらにうねりを上げてグルーヴ感を増す。満員の観客は一斉に身体を動かすと同時に、神業のようなバカボン鈴木のスティックベース奏法を凝視する。
 
Photo Photo

Photo Photo

続いて5曲目の「江戸時代の恋人達」に入る前に、サエキけんぞうは懐かしい1stアルバム『世界はパール』のLP版ジャケットを差し出す。ちなみにこのアルバムのジャケット写真は「先ごろ世界遺産に登録された三保の松原で撮影された」とのこと。三保の松原が世界遺産に登録された裏にはパール兄弟の功績がある…と断言しては大袈裟だが、曲と曲の間に入るサエキけんぞうのユニークなMCはパール兄弟のライヴの1つの魅力であることは確か。決してコミックバンドではないのだが、サエキけんぞうはシニカルな笑いを常に意識したステージを心がける。一見おねえキャラのようなダンスも、”カッコいい”と”可笑しい”が不思議に同居しているのである。
 
そんなサエキけんぞうのセンスが爆発するのが前半最後の曲となった「フェラチオ娘」だ。そのフレーズだけ聴くとお下劣なコミックソングのように感じられるが、サエキけんぞうの詩の世界にはプラトニックなだけでは耐えられない男性ならではの繊細な愛情が込められている。パール兄弟およびサエキけんぞうソロ活動のライヴでも外されないナンバーだけに最高潮の盛り上がりを見せた。
 
Photo Photo

Photo Photo

15分ほどのインターバルを置いて第2部がスタート。第1部のYシャツにネクタイという姿から一転してラフなTシャツと短パン姿で登場した5人のメンバーに場内は爆笑が起こる。なにせこの日は気温35度を超える熱帯夜。「熱中症に気をつけましょう」と呼びかけながら「焼きソバ老人」「ゴム男」と乗りのいいナンバーで暑気払いが始まった。身軽な衣装に着替えた効果か?第1部を軽々と超えるノリのいい演奏が気持ちいい。
 
Photo Photo Photo Photo

第2部の4曲目では「酔ってらっしゃい魅てらっしゃい」という新曲を披露。「デビュー当時のパール兄弟は、どんなに大変でも必ずライヴの度に1曲は新曲を披露しました。結成から30年目になっても、それだけは続けていきます」とサエキけんぞうは宣言。シンプルなロックンロール調の曲ではあるが、中盤に変則的なリズムが入っていて、パール兄弟らしい変化球ロックである。
 
Photo Photo

Photo Photo

懐かしい曲、新しい曲を織り交ぜ、まさに究極のベスト盤をライヴで楽しむような時間が過ぎていく。7曲目の「世界はゴー・ネクスト」、8曲目の「快楽の季節」、そしてアンコールの「AMのPARK」でライヴは終了。トータル18曲。最後にサエキけんぞうが言った「もう曲がありません!」という言葉は、この日のライヴのために、この5人が全力で突っ走った結果であろう。すでにベテランプレイヤーの域に達し高い演奏技術を要求されるパール兄弟の楽曲を完璧な形でライヴハウスで再現させるという試みは大成功に終わったのである。
 
Photo Photo

Photo

筆者の脳裏にはライヴ前にサエキけんぞうから聞いた「パール兄弟の曲は難しいんです」という言葉が改めて思い出された。実力、パフォーマンス、どこか可笑しいMCのやり取り。高度なテクニックを披露するバンドの中には面白味に欠けるように映るバンドもあるが、ことパール兄弟に関しては面白味の部分でも最高レベルを誇っていた。
 
今後、このメンバーによるライブ「盆、暮のパール兄弟」も復活するという。伝説になろうとしている結成30年目のバンドの活きた姿をこれからも見つめていたいと思った。
 

◆セットリスト
第一部
M01.バカヤロウは愛の言葉
M02.少女マヌカン
M03.メカニックにいちゃん
M04.ヨーコ分解
M05.江戸時代の恋人達
M06.ケンタッキーの白い女
M07.しがらみクラブ
M08.イノセント・グレイ
M09.フェラチオ娘
 
第二部
M01.焼きソバ老人
M02.ゴム男
M03.終電ガール
M04.酔ってらっしゃい魅てらっしゃい(新曲)
M05.タンポポの微笑み
M06.LIFE=事務
M07.世界はゴー・ネクスト
M08..快楽の季節
 
-encore-
M09.AMのPARK
◆サエキけんぞう 公式サイト
http://saekingdom.com/
◆窪田晴男 公式サイト
http://www.co-aza.net/kubota/
◆バカボン鈴木 公式サイト
http://www.vagabond-suzuki.net/
◆松永俊弥 公式サイト
http://www.htmg.com/artist/56.html
◆矢代恒彦 公式サイト
http://www.i2i-music.com/musicians/yassy.html
 
Photo

 

★読者プレゼント★
パール兄弟のサイン色紙を、抽選で3名様にプレゼント!
 
qz99ご応募方法は“BEEASTファンクラブ”の方にお届けする「週刊ビースト瓦版(無料メルマガ)」にて記載いたします。
 
BEEASTファンクラブ”はコチラの『BEEASTファンクラブ』ページより簡単登録(完全無料)可能!
※『ファンクラブ』ページにある登録内容を送信してください。携帯からアクセスされている方はコチラに空メールを送信していただくか、ページ上のQRコードを読み込みの上メールしてください。仮登録の登録画面のメールが届きます。
【重要】携帯電話のドメイン指定受信を設定されている方は、prius-pro.jpのメールを事前に受信できるよう設定してください。

◆関連記事
【レポート】AZUMA HITOMI「春のひとりじっけんしつ」
http://www.beeast69.com/report/68232