演奏

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TEXT & PHOTO:鈴木亮介

Photo先日、本誌連載「宅録百景 スポット1」でもご紹介した、マシンポップミュージックのニューカマー、AZUMA HITOMI。”宅録女子”を掲げる彼女は常に新しい音への挑戦、すなわち”実験”を続けている。毎週木曜夜に自宅からのUst放送「じっけんじゅんびしつ」、その成果を披露する「じっけんしつ」と称したライブには理科実験のようなドキドキ、ワクワクが詰まっている。
 
そんなAZUMA HITOMIの「じっけんしつ」、それも1stアルバム『フォトン』のリリースを記念して盛大に行われた「春のひとりじっけんしつ」の模様をレポートしたい。「じっけんしつ」には彼女の音楽を高く評価するサエキけんぞう山本寛(アニメ「フラクタル」監督)、1stアルバムの初回生産限定盤でカバー参加したユウチリヌルヲワカ/ex:GO!GO!7188)、さらにはAZUMA HITOMIの同級生”竹森さん”も登場!?

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会場は渋谷パルコpart1内にあり、ライブスタジオでありストリーミング配信を行うソーシャルテレビ局「2.5D」。ステージには所狭しと機材が並べられ、本当に”じっけんしつ”の様相。オープンからほどなくして、会場は満杯に。複数のUst用カメラがステージに向けられる中、まずはDJいぬがステージ前にお皿を広げ、ZIMAの瓶片手に心地良い音を次々と放出。「Hotel California」(The Eagles)や、「じっけんしつ」というテーマに合わせてThomas Dolbyの「She Blinded Me With Science(彼女はサイエンス)」で会場を温める。
 
そしていよいよ本日の主役、AZUMA HITOMIが白衣に身を包み登場!メディアに素顔を明かさない彼女、実際にインタビューやこうした場で対面した印象として、漫画家・西島大介のあのイラストの雰囲気そのままのふわっとした女の子、という感じだ。イラストから「どんな子?」とイメージを浮かべるのは難しいかもしれないが、本人を見た後イラストを改めて見ると、「あぁ、このまんま!」と思ってしまうから不思議だ。
 
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さてそんなAZUMA HITOMI、今宵は”じっけんしつ”ということで白衣なのかと思いきや、「今日はこの消しゴムとシャーペンの芯を使って実験したいと思うんですけど」なんと、本当に理科実験を始めるのだという。1stアルバムのタイトル『フォトン』とは光の粒子のこと。そして、実験の相方に登場したのは物理学の研究者・竹森さん!AZUMA HITOMIの友人であり高校の同級生である彼女が今日は物理の先生として参加。光の性質を説明し、実験をサポート。
 
光の粒子は”波”と”粒”の二重性を持っているということで、消しゴムとシャーペンの芯、レーザーポインターを使って二重スリットの実験。シャーペンの芯が折れてしまうなどのハプニングもありつつ、何とか背景のスクリーンに縞模様が映り、実験成功!
 
AZUMA HITOMIからの質問に答える形で、竹森さんから、フォトンは質量がなくどんな粒子よりも小さいことや、ニュートリノが光速を超えたというのは間違いでフォトン(光)は何よりも速いことなどが説明され、AZUMA HITOMIも「光は物質から物質へエネルギーを運ぶ役割をする…そういうアルバムができました。エネルギーを運びます!」と、1stアルバムのタイトルの由来を明かす。
 
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さてフォトンの知識を深めたところで、トークセッションに。アニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」のシリーズ演出や「らき☆すた」などの監督で知られる山本寛と、サエキけんぞうの2名が新たに登壇。山本寛監督はアニメ「フラクタル」制作の際、当時無名だったAZUMA HITOMIの声に聞き惚れ、主題歌に彼女の楽曲を起用。それが、1stシングル「ハリネズミ」(OP「ハリネズミ」、ED「Down By The Salley Gardens」ともに収録)だ。
 
トークはアニメ「フラクタル」の制作秘話、そして進行役のAZUMA HITOMIから「私のライブの印象、感想は?」と質問。「褒めろ、と?」と返すサエキけんぞうに思わず「そうそう」と答えてしまうAZUMA HITOMI。こうした自然体な(天然?)トークも彼女の持ち味。和やかにトークセッションは進む。
 
「ハリネズミ」を初めて聴いた時に「こんな透明感のある声でU2(のような曲)を歌ってるなんて!ギャップ萌えというか…素敵だな」と感銘を受けたと語る山本寛監督。サエキけんぞうも「(AZUMA HITOMIというミュージシャンは)手作りでおいっしいお弁当を作り出しているイメージ。アナログの手触り感がすごくて」「初めてUstを見た時驚いたのは、スリッパでペダル・シンセ(足鍵盤ベース)を弾きまくっているという…曲芸のようなことをして、しかもファンクにビートがきちんと出ていて画期的。世界でもHITOMIちゃんくらい」と絶賛。
 
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それに対して「昔のロックバンドでオルガンを使っていた人が足でも使っているっていうのが見ていて面白いんですよねー」とほんわか調で語るAZUMA HITOMI。この辺りにも彼女の持って生まれた才能の片鱗が垣間見える。そこにサエキけんぞうが「The Doorsっていうグループがあって、Raymond Manzarekが…でもほとんどレコーディングではスタジオミュージシャンが弾いてるし、ライブでやっているとは言っても全然、HITOMIちゃんの方がうまい」と続け、造詣の深いトークが展開されていく。
 
足踏みベースや手弾きのベースを大絶賛されるも、AZUMA HITOMIは「それはいわゆる”弾き語り”スタイルから逃げるため」と謙遜する。つまり、シンガーソングライターの定番であるピアノやアコースティックギターなどの弾き語りは、他に上手いプレイヤーがたくさんいるので、そうした所との差別化という意味合いもあるのだという。「本当にすごい人はいっぱいいるから、私がそれやらなくてもいいじゃん、ってなっちゃう」と。そんな彼女にサエキけんぞうは「ダメだ、逃げちゃ。色々と混ぜてやればいいと思うよ」と優しく背中を押す。
 
さらに、サエキけんぞうも理系出身ということで、竹森さんと意気投合。トークは「研究室の男女比は9対1。理系女子はモテる」「理系の人はよく飲む。マグカップにウイスキーついで飲んでる人とかいましたねぇ」といった理系あるあるに発展。山本寛監督も「昔の声優さんはガンガン飲んでた」と参戦。話を「フォトン」に戻すと思いきや、進行役のAZUMA HITOMIも「ロックの人ってよくサイゼリア行きませんか?安いワインを…」と乗っかる!
 
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トークはこのほか、ダウンロード時代の音楽産業の話をサエキけんぞうが熱弁。さらには、山本寛監督も正義と悪の二項対立で描かれることが多いアニメのストーリーへの違和感など「フラクタル」というタイトルに込められた思いを語る。トークだけでもぎっしり中身の詰まったじっけんしつ、惜しまれながらも終了の時間。いったん全員退場し、暗転。
 
さぁいよいよ演奏の時間だ!AZUMA HITOMIが1人で再登場。まずは1stアルバム『フォトン』の1曲目「にちよう陽」。確かに彼女自身がアルバム収録のライナーノーツで「晴れた日の午後の陽射しのぽかぽかを」と言うように、ゆったりとした休日の時間が流れているが、シンセの飾りつけでそう単純な曲調に落ち着かせないのも秀逸。この曲調とタイトルでありながら「君に会いたい」というフレーズが連呼され詞の軸になっているのも、人の心はそう単純じゃないよと言っているようで、面白い。
 
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アルバム2曲目「東京」、アルバム8曲目「太陽を見ていた」と伸びやかなボーカルが魅力な2曲に続いては、アルバム9曲目の「無人島」。ここでAZUMA HITOMIは抽選BOXを取り出し「くじ引きします!お手元の番号を…」ステージ両サイドに設置された太鼓はスイッチを押すと自動でスティックが動いて叩ける仕組みになっているということで、抽選で選ばれた2人の観客が登壇し、リズムに合わせてスイッチを押す係に!タイトルを知らずとも真夏の海辺で一人バカンス!のような風景が浮かぶ、ポップでフュージョンなこの曲、バックにはヤシの木のイラストが登場!この日はコバルト爆弾αΩ + daaharaによるVJもじっけんしつを効果的に彩った。
 
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ここで、「ずっとずっと憧れていた人」がゲストに登場。ユウ(Guitar & Vocal/チリヌルヲワカ、ex:GO!GO!7188)だ!「今日は服が被らなかったですね~」「ユウさん、服どこで買うんですか?」とのっけからゆるふわなやり取りだが、実はAZUMA HITOMIのデビュー前から音楽の相談相手としてユウが関わってきたということで、先輩後輩としての関係に加え、同じミュージシャンとしての互いのリスペクトがあることが、何気ない表情やしぐさから伝わってくる。
 
演奏するのは、『フォトン』の初回生産限定盤でチリヌルヲワカがカバーしている「かさぶたとチェリー」。ユウAZUMA HITOMIが交互にボーカルをとり、”和ロック”テイストなかっこいいサウンドとともに観客を踊らす。続く「破壊者アート」では「この曲にギターが入ったらどうなるのか…と思っただけで大興奮!」「GO!GO!7188の影響を受けていて」と選曲理由を語り、AZUMA HITOMIもベースを持つ。この「破壊者アート」という曲、彼女が中3の夏休みに作った曲で、「利己的遺伝子」や「ロックや歌謡曲でテーマになる暴力的な愛情」などが詰まった宇宙のビッグバンみたいな世界観のナンバー。その打ちこみサウンドにAZUMA HITOMIのベースとユウのギターが交互に点滅するサイレンのように加わって、ますます生々しさというのだろうか、おどろおどろしいまでの躍動感が伝わってくる。
 
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ユウとの夢のような時間に浸りつつも「ここで止まらないですよ」と宣言するAZUMA HITOMI。1stシングル「ハリネズミ」、そして今回のアルバム『フォトン』の中でも全国ラジオ局などでパワープッシュされている「情けない顔で」と、キラーチューンを2曲続ける。その澄んだ歌声はそのままに、曲に合わせて激しく頭を振り、アクティブに鍵盤を叩くと、観客もしきりに体を揺らす。VJの動きも効果的。確実に音の波動が共鳴している。
 
惜しまれながらもついに最後の曲、ここで持ってきたのは2ndシングル「きらきら」。これでもかというほどの、音による光の表現。ポップで、キュンとくる旋律。それはもう「きらきら」としか形容しようがない最高なナンバー!きらきらはやがて、観客の大きな拍手へと変わる。
 
アンコールに応えてAZUMA HITOMI再登場。「大事な曲、聴いてください」と紹介し弾き始めたのはアルバム『フォトン』の最終トラック「ドライブ」。特段饒舌に語ることなく、シンプルな言葉で「大事な曲…」と語る彼女は、今日のじっけんしつで今自分がやるべきことを全てやりきったという表情。決して予定調和なアンコールではない、純粋に観客への御礼を込めた”もう一曲”を、情感たっぷりに歌い上げる。楽しい化学反応の連続で、こんなに時が経っていたのか!と驚くほど入り込めるステージの連続であった。
 
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トークセッションの中でAZUMA HITOMIはこう語った。
「私は自分の曲の中にメッセージを込めるという表現が苦手。歌っていて伝えようとすること自体がメッセージだから、伝えているのはエネルギー。それってフォトンの物質から物質へエネルギーを運ぶという所につながると思う」
 
確かに彼女の”じっけんしつ”は、1つのメッセージを発信する場というより、受け取る側が個々に共鳴し、化学反応を起こしている、そんな印象だ。「一体感」とはまた違った居心地の良さ。またここに来たい、と純粋に思える”じっけんしつ”であった。
 

◆セットリスト
M01. にちよう陽
M02. 東京
M03. 太陽を見ていた
M04. 無人島
M05. かさぶたとチェリー
M06. 破壊者アート
M07. ハリネズミ
M08. 情けない顔で
M09. きらきら
-encore-
M10. ドライブ
 
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◆AZUMA HITOMI 公式サイト
http://azumahitomi.com/
 
◆インフォメーション
「青空のニューウェイヴ」
~春のニューウェイヴ祭、その3!~

2013年5月29日(水)【高円寺】HIGH
w/サエキけんぞう泉水敏郎白井良明ムーンライダーズ)ほか
 
・1stアルバム『フォトン』 発売中

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【連載】宅録百景 スポット1 AZUMA HITOMI
http://www.beeast69.com/serial/takuroku/64219