演奏

lead_asiankungfu2012

TEXT:菅野美咲


「おかえりなさい」が幾重にも凝縮された夜だった。ASIAN KUNG-FU GENERATIONのツアー2012「ランドマーク」が神奈川県からスタートし、ニューアルバム「ランドマーク」が横浜ランドマークタワー内のスタジオで収録され、さらにはこの地でASIAN KUNG-FU GENERATIONというバンドが結成されるという、そんな縁とゆかりがフルに詰まった特別なセミファイナルであった。
 
ASIAN KUNG-FU GENERATION メンバー:
山田貴洋(Bass & Vocal)、後藤正文(Vocal & Guitar)、喜多建介(Guitar & Vocal)、伊地知潔(Drums)

喜多建介が一足先にステージに登場し、アンニュイなギターサウンドを弾(はじ)けば、続いて伊地知潔山田貴洋に加え、三原重夫(Percussion)、上田禎(keyboard & Guitar)、岩崎愛(chorus)というスペシャルなメンバーがステージ上へ。客席の拍手がハンズクラップへと変化するとフロントマン、後藤正文が登場し、歓声が一層大きくなる。マイクを右手に持つと、アメリカのミュージシャン、BECKの「Loser」を日本語でカバーし、セミファイナルの幕を開けた。
 
 

2012年に対するリアリティを意味深く象徴するようで、オーディエンスは発信されたメッセージを噛みしめながら、ハンズクラップで後押しする。伊地知潔のドラムカウントからポジティブなライトニングで一変、岩崎愛のはにかむようなコーラスの「All right part2」でホールを揺らせば、三原重夫のパーカッションとハンズクラップが効いたフィジカルでミステリアスな「N2」がただいまのあいさつをする。
 
続く「新世紀のラブソング」でこぼれ落ちる軽やかなサウンドを奏でると、後藤正文によるメンバー紹介が行われ、鮮やかなメロディが際立つ「大洋航路」へ。そして「ブルートレイン」のコードが鳴れば思わず漏れてしまったかのような歓声があがる。加速していくイントロと意志の強さはいつだってオーディエンスの期待と興奮を駆り立ててきた。駆け込み乗車のようなオーディエンスの手拍子で会場と一体になれば、「Re:Re:」でさらに沸点を目指す。息を整える間もなく「君という花」が畳み掛けるようにスタートすれば、間奏では恒例の「ラッセイ!ラッセイ!」という掛け声が全力で横浜に響いた。
 
 

メンバーの名前を呼ぶ声が飛び交う中、後藤正文が「どうもありがとうございます。最初に1つだけ告知をさせてください」と、自立支援プロジェクトの紹介をした。東日本大震災被災地の人々による手作りのミサンガが物販の隣で販売しており、直接的な被災地支援を呼び掛ける。そして喜多建介の地元ということもあり、後藤正文が「建さんがはりきっててむかつきますけどね(笑)」とやじった所で、横浜で結成されたアジカンのヒストリーを振り返った。
「関内のちっちゃいライブハウスでやり始めたんだけど、みんな京急線も品川まで行くじゃない、東急東横線も渋谷の辺りを向いてて、相鉄線は横浜に向かって一直線ですけども、田園都市線も渋谷の方を向いてるでしょ。横須賀線も千葉の方に気持ちが行ってて、湘南新宿ラインも新宿に向かってて……誰も関内のライブに見に来ないだろうといじけてたわけ。それで下北沢行ってみたら全然俺ら田舎もんでごめんなさいって空気で。いつしか下北系なんて言われたけど俺ら横浜系だよ」というアットホームな宣言に、神奈川県民ホールが沸く。そして、「今日は最後まで楽しんで帰ってください」と続け、「それではまた明日」へ。山田貴洋のベースに掻き立てられるようなハンズクラップで空間が埋め尽くされれば、バックにメンバーのシルエットがめくるめくように展開されていき、他人事のような現実への葛藤と正面から向き合う。そして間髪入れずに「アフターダーク」「ラストダンスは悲しみを乗せて」と未来を指さすようなエールを交わす。
 
 

MCになると後藤正文が「前のツアーが震災で中止になってしまった横須賀から始まったのは本当に嬉しかったです」と振り返る。震災当時、これからどうすればいいのかとメンバー内でもかなり揉めたという。しかし彼らは音を鳴らすことを選び、ランドマークスタジオで曲を作り続けた。そしてこれが立ち直っていく目印になれば、という理由から「ランドマーク」という名前をつけたという。「どきどきはらはらしたり、おろおろしたり、困ったり、そういうことをずっと演奏しながら思い出したりしたけど、こうやってまた神奈川で鳴らせて嬉しいです。次の曲は、横浜生まれ、横浜育ち、そんな建ちゃんが考えてくれたリフの曲をやります。」そんな導入の「レールロード」ではたくさんの感情と強さを持った「夢」というワードをしっかりと胸に刻み、前を向く。そして「ノーネーム」、「踵で愛を打ち鳴らせ」、「バイシクルレース」と、寄り添うような希望と感謝を共有して本編は終了する。
 
アンコールを求める拍手がホールに溢れると7人が再登場し、光の向こう側のような「マーチングバンド」が空間を埋め尽くす。「ちょっとここらでヒット曲をやりますよ」という後藤正文の宣言からの「リライト」は7人の化学反応が全開。岩崎愛が先陣を切ってハンズクラップを促せば、喜多建介上田禎がギターで掛け合う。スーパービートタイムといわんばかりの伊地知潔三原重夫のハイライトには喜多建介もギターを降ろし、エアドラムで参加して煽っていく。そして制作時に仲が悪かったという後藤正文山田貴洋が正面から向き合って高みを目指していく「リライト」のエネルギーは半端なかった。エネルギーそのままに「ループ&ループ」、そして「アネモネの咲く春に」のイントロを弾きながら後藤正文は「いろんな事があるけど、思いを込めてやっていることは届くところには絶対届くと思うから。俺も諦めないし、皆も日々の中でのほんのちょっとの何かを捨てないで、また会いましょう」と約束をし、アンコールラストとなる「アネモネの咲く春に」を歌い上げた。
 
 

約束はまだ終わらない。ダブルアンコールの拍手の中、再び後藤正文がステージにあがる。そして「1人呼びこみます、岩崎愛!」という後藤正文の呼びこみでひょこひょこと登場する岩崎愛。ひだまりのようなあたたかさと震えあがるような優しさで溢れた歌声を響かせ、自身の曲「東京LIFE」を後藤正文のギターとコーラス、伊地知潔のカホンという3人編成で披露した。そしてステージにはアジカンの4人。伊地知潔選曲の「惑星」をホールに放ち、後藤正文が「本当にありがとう、もう一度メンバーを呼びこみます」と言って再び7人編成となって披露したのは新曲「今を生きて」。雨上がりのようなきらきらとしたサウンドと心地よく力強い「イエイイエイ」というリフレインは1歩踏みだす勇気そのもので、心の柔らかい所にダイレクトに響く。結成地である横浜市の金沢八景を勝手に「横浜のリヴァプール」なんて呼んでいたらしいが、あながち間違っていない気がする。原点と確かな約束をかわし、明日への希望を確信したセミファイナルだった。
 

◆セットリスト
M01. Loser
M02. All right part2
M03. N2
M04. 1.2.3.4.5.6. Baby
M05. AとZ
M06. 新世紀のラブソング
M07. 大洋航路
M08. ブルートレイン
M09. Re:Re:
M10. 君という花
M11. それでは、また明日
M12. アフターダーク
M13. ラストダンスは悲しみを乗せて
M14. 1980
M15. マシンガンと形容詞
M16. センスレス
M17. レールロード
M18. ノーネーム
M19. 踵で愛を打ち鳴らせ
M20. バイシクルレース
-encore-
en1. マーチングバンド
en2. リライト
en3. ループ&ループ
en4. アネモネの咲く春に
-encore 2 –
en2-1. 東京LIFE(岩崎愛
en2-2. 惑星
en3-3. 今を生きて(新曲)
 
◆ASIAN KUNG-FU GENERATION 公式サイト
http://www.asiankung-fu.com/
 
◆インフォメーション
「弱虫のロック論 -平山雄一
第二音楽評論集リリース・パーティ-」

・2013年02月27日(水)【東京】Zepp Tokyo
出演:奥田民生 / ASIAN KUNG-FU GENERATION
 

ニューシングル『今を生きて』
2013年2月20日発売予定

 
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