演奏

TEXT & PHOTO :桜坂秋太郎

師走に入り、街が慌ただしくなった2011年12月10日。沼袋SANCTUARYへと車を走らせる。いくつもの街を通り抜け、クリスマスや年末に向けた商戦を繰り広げる人々に目をやる。いつもと同じ12月の風景がそこにはある。2011年は未曾有の大災害により、日本という国について、深く考えさせられる年となった。

残された我々は、進歩的に生きなければならない…。そんな事を考えながら沼袋に到着。今夜はGERARDのワンマンライヴ。日本が誇るプログレッシブロックのスペシャリスト、永川トシオの魂を込めたバンドだ。すでに開場時間を過ぎているため、入口には長蛇の列ができている。期待に胸を膨らませた列からは、待ちきれない様子がうかがえる。

 


 


会場に入ると、すでに多くのオーディエンスが着席している。客席の前半分には椅子が用意されているようだ。後半分は立ち見だが、このバランスは素晴らしい。これならどこに居てもステージが良く観える。椅子を譲り合う姿が目に入る。GERARDのオーディエンスは大人の方が多く、楽しみ方も良く心得ているのだろう。

ワンマンだから覚悟はしていたが、オーディエンスの数がもの凄い。あっと言う間に会場は満員御礼。会場の後方で取材用セッティングをしている私は、少しでもオーディエンスの邪魔にならないよう、会場の仕切外にあるゴミ箱の隙間に脚立を立ててスタンバイ。会場は超満員の状態で開演を待つ。

 


 


オーディエンスよりも高い位置から見渡していると、新譜『Visionary Dream』の先行発売がされている物販ブースが大盛況。CDやDVDなどが飛ぶように売れている。開演時刻ジャストに、メンバーがステージに登場。時間ちょうどのスタートは珍しく、さすがGERARDと思いきや、メンバーの姿が私服だ。いや、私服というより、完全に部屋着だ。

何が起こったのだろうか。わからないままに、永川トシオのMCが入る。「前座バンド“ギャップ萌え”です!僕たちはオリジナルが無いのでコピーをやりたいと思います!」ニクイGERARDの演出で、ASIAの「Heat Of The Moment」と「Don’t Cry」が始まる。突然のプレゼントに、オーディエンスは大喜び!サビのハーモニーを大合唱。

 


 


部屋着のまま超ハイテクニカルな演奏を繰り広げるギャップ萌えは、RAINBOWの「Spotlight Kid」を最後にステージを去る。私の脳裏に、2010年9月30日に取材したイベント『The Voices of Rainbow』が蘇る。バンド演奏力の高さは素晴らしいの一言だが、驚いたのはギタリストの上手さが際立っている。ギターソロになると、会場から歓声が起こる。

現在のGERARDメンバーは、永川トシオ(Keyboards)・長谷川淳(Bass)・藤本健一(Drums)・佐々井康雄(Vocal) の4人。2009年に新メンバーとなったヴォーカリスト佐々井康雄は、ARK STORMSHY BLUEでの力強い歌唱の印象が強いが、ギターテクニックも抜群だ。リズムやフレーズの安定感に目が点になる。

 


 


しばらくのインターバルの間も、物販ブースが盛況だ。大人が買いをする若いファン達の姿を見かける。GERARDは次世代へのアピールもバッチリできているようだ。それも一つの進歩的なバンドのあり方と言える。衣装に着替えたメンバーが登場し、「Into The Dark」でGERARDのステージがスタート。会場は一気にGERARDワールドへ。

「Evidence Of True Love」が始まると、佐々井康雄の伸びやかな歌声に魅了される。楽曲が進み転調が続く中、長谷川淳藤本健一のリズム隊の上手さに空いた口がふさがらない。鉄壁のリズムを味方にして、永川トシオのフレーズがライヴハウスの中を、まるで妖精のように飛び回る。凄い!そうこれがGERARDなのだ!

 


 


続いて「For Piano」。ステージには永川トシオだけが残る。曲が始まり、永川トシオの音色を聴いていると、2011年に起こった数々のことを思い出す。それはまるで映画の回想シーンのように。佐々井康雄がステージに入り、そのまま「The Memorable Morody Of The Song」。心を癒してくれるメロディを、佐々井康雄が抑揚をつけて歌う。

バンドスタイルになって「Keyboard Trio」「Don’t Leave Me Now」。オーディエンスは肩を揺らしてリズムを取る。GERARDのファンは、じっくりとステージを観ることに喜びを感じているようだ。アップテンポな曲でも、頭を振ったり拳を激しく振り上げたりはしない。歌詞を口ずさみ、心のビートをメンバーに重ねる。

 


 


幻想的な「Save Knight By The Night」。永川トシオの音色に、佐々井康雄のギターが絶妙なコントラストを描く。ステージの終わりが近いことを知ったオーディエンスは、身を乗り出して「Heaven」「Visionary Dream」を観ている。最後の曲は、藤本健一のフィルインから「Wall」。泣きのキーボードソロを聴いていると、このまま永遠に聴いていたいような錯覚に陥る。

アンコールは「Warning Warning」。にこやかな笑顔で、もの凄い変拍子をキメるGERARD。生演奏で聴くと本当に鳥肌物だ。アンコール2曲目の「Hopeless Blue Star」は、佐々井康雄のパワフルな歌と長谷川淳のスラップ奏法が強い印象に残る。さらに2回目のアンコールの呼び声が続き、本当の最後「Freedom」でステージは終了。

 


 


客席に電気が点くと、わずかな隙間も無いほどに超満員となった会場の姿が現れる。会場後方の仕切外、ゴミ箱と同化している私の真横にも、何とオーディエンスが立っていた。機材の片づけをしていると、GERARD最高!という会話が、いくつも耳に入ってくる。日本には、素晴らしいプログレッシブロックを奏でるバンドがある、それを証明した夜だ。

取材帰りの車内で、新譜『Visionary Dream』をヘヴィローテーションしてみる。出口の見えないトンネルを歩くかのような時代に、GERARDの音楽は心強きアイテムだ。永川トシオ長谷川淳藤本健一佐々井康雄の4人が生み出す進歩的なサウンドは、時代を超越して、すべてのロックファンに何かを伝えてくれることは間違いない。次のライヴも決まっているので、是非足を運んでもらいたいと思う。

 


 

◆GERARD 公式サイト
http://sound.jp/gerard/







◆GERARDインフォメーション
2012年02月19日(日)
【沼 袋】SANCTUARY

◆第1部セットリスト
M01. Heat Of The Moment(ASIA)
M02. Don’t Cry(ASIA
M03. Spotlight Kid(RAINBOW


◆第2部セットリスト
M01. Into The Dark
M02. Evidence Of True Love
M03. For Piano
M04. The Memorable Morody Of The Song
M05. Keyboard Trio
M06. Don’t Leave Me Now
M07. Save Knight By The Night
M08. Heaven
M09. Visionary Dream
M10. Wall
-encore1-
M11. Warning Warning
M12. Hopeless Blue Star
-encore2-
M13. Freedom