演奏

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TEXT & PHOTO:タカシ ミッシェル

 

the 30th VDC~Thanks For All VDC Mania~
2019/6/23@大阪 南堀江Knave

Valentine D.C.生誕の地、大阪での30周年記念ライブは、オリジナルメンバーならはでの全盛期を思わせる完成度の高いパフォーマンス!懐かしさに始まり、ドラマティックなサプライズでラストを迎える公演はまさにアニバーサリーにふさわしいものだった!

Valentine D.C.(以下VDC)とはどんなバンドであるか……。個人的には「青春」「反骨心」「強烈な個性」「駄曲がない」そういった印象が強くある。1995年には、Ritchie Blackmore’s Rainbowのオープニングアクトを務めたバンドという事で記憶にある人もいるだろうか?
 
1989年に大阪で結成され、ヴィジュアル系的なルックスでありつつ、LAメタル、パンク、ハードロックなど様々な音楽の影響を受けつつも、ヴォーカルのKen-ichiが「誰にも似てない自信がある」というぐらい、〇〇系と簡単に例えられない独自の音楽性を確立していた4人組のロックバンドである。
 
そういったオリジナリティに加え、アルバム1枚を通して聴ける楽曲完成度・歌唱力・演奏力の高さで特に10代~20代のロックファンに強い支持をされたバンドである。この日のライヴ会場の壁面にディスプレイされた応援旗ほどある寄せ書きは、ファンが直接アーティストを当たってお祝いのメッセージを集めた大変貴重なものだ。ファンからアーティストへの寄せ書きは良く聞く事であるが、ファンがアーティストに直接メモリアルの為に依頼して回った寄せ書きなど聞いた事すらない!
 
VDCのファンの熱量の高さ、そして彼らが残してきた音楽に対してアーティストからもリスペクトされているという事が分かっていただけるだろう。筆者も大学生の頃、一番ライヴを観に行ったバンドである。当時は若い女性ファンが多かったと記憶しているが、黒ずくめの服を着た人達が集まる、新参者が入りにくいような感じはなく、音楽が好きでしょうがない人達が「とにかくVDCの音楽を思い切り楽しみにきている」といった雰囲気であったという記憶が残っている。
 
今日のライヴ会場は音質と照明の美しさに定評のある大阪の南堀江KNAVE。開演時間の10分ぐらい前には満員。開演時間を1分ほど過ぎた頃、客電が光を失いお馴染みのオープニングSEが聴こえてくる。“結成の地大阪でオリジナルメンバーのVDCが観られる”そんな緊張感がフロアから伝わってくる。そしてついに正真正銘4人編成のオリジナルVDCが登場する。

 
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ファンの大歓声は、「この日が来ることを待ち望んでいた」「念願が叶った!」そんな喜びに満ちているように思えた。奇抜な事は行わず、キックオフチューンの「炎と宝石」からライヴはスタートする。日本のロック名盤などと言う企画があれば必ず入れたい名作「炎と宝石」に収録されたタイトルチューンだ。Ken-ichiのキーが上がっても決して細くならないワイルドなヴォーカル、JunTakeshiのタイトなリズム、Naoのテクニカルなギター……。
 
正にこれが90年代の全盛期のVDCだ!メンバーは 50代になっても、高い演奏力・歌唱力に微塵も衰えは感じない。彼らの音楽に往年のファンは懐かしさを、初めて観るファンは逞しさを感じたに違いない。そしてTakeshiのパンチの利いたドラムイントロから「つぎはぎアンティックドール」へ。ブンブンうねるベースが曲を引っ張り、少しエフェクトを掛けたKen-ichiのヴォーカルには更に野性味が加わる。ドライヴ感あふれる名曲に早くも1回目のハイライトが訪れたかのような盛り上がりようだ。
 
唯一無二のドライヴィンなこの曲は、ファンならずとも是非とも一度聴いていただきたいと思ってしまう。更にパンキッシュな「春雷」で畳みかけ、すでにフロアの温度が二度三度上がったかのようだ。「こんばんはValentine D.C.です!」Yeah!!と応えるオーディエンス。「オリジナルメンバー揃うとこんなに入っちゃうんだね…」何かを噛みしめるかのようにKen-ichiは満員のフロアを見渡す。
 
Valentine D.C.は1989年春に結成されてから30周年という事でオリジナルメンバーとして大阪で20年振りのライヴとなります!」そう高らかに宣言したKen-ichiのMCを聴くと、否応なしに忘れかかっていた色んな光景がフラッシュバックする。ファンの人達は過ぎ去ったはずの20数年前の青春の続きが、現実という名のスクリーンに映し出されたかもしれない。
 
MCもそこそこに「Monochrome Sexuality」へ移行する。ダークで重たいサウンドに骨太なKen-ichiのヴォーカルが強烈なインパクトを与える。サビの「吠えろ 吠えろ!」のがなりの入った歌唱など、声に筋金が入ってるんじゃないか?というような胸にバシバシ刺さるワイルドさだ。「人がやらない事をやろうとしていた」と語ったKen-ichiの言葉を象徴するかのような唯一無二の楽曲だと改めて思う。

 
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地響きのようなドラミングが印象的な「下弦の月」に続いて、大きくうねるベースが引っ張るグルーヴィーでパンキッシュな「ダストシュート」へと続く。少しギターのチューニングを下げるようなアレンジをしていれば、もしかすると今風のオルタナティブの様になっていたかもしれないと今更ながら思う。
 
そして、当時3曲入りマキシシングルのA面曲としてもリリースされた「道に座って~go all the way~」で爽やかなアメリカンハードロックの様な風を吹き込む。Ken-ichiのブルースハープも相まって、VDCの「青春」という側面が表現された曲だと感じた。このマキシシングルの他の2曲も秀逸で、「VDCは決して駄曲をリリースしない」そんな音楽に対する情熱を感じずにはいられないのだ。個人的には3曲目の「DIGEST」など、じわじわと押し寄せてくる独特のグルーヴ感は今聴いても非常に新鮮で、隠れた名曲ではないかと思っている。
 
「Thank you!」とKen-ichi。チューニングに入るバンドメンバーにフロアから上がる歓声、実に音楽ライヴらしい光景だ。そして「I can see you」「EASY ANGEL」とミドルテンポの曲が続く。音楽経験のある人には解ると思うが、ミドルテンポの曲はノリが出しつらいのだ。VDCは若いバンドにはノリが出し辛いミドルテンポを数多くこなしていたのだと気付く。
 
Takeshiの4つ打ちのリズムに合わせオーディエンスがハンドクラップ。「こっから先はみんなの元気だけが頼りです。あとね俺達ができる事は、最後のブロックで全部出し切るだけなんで、それまではみんなが盛り上げてくれないと……ダメだと思う。例えば今日のセットリストの曲、俺ギター弾けるよって人がいたら“お医者さんいますか?”みたいな感じで用意しておいた方がいいと思う」Ken-ichiに軽くイジられたギターのNaoに歓声が飛ぶ。

 
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淡々と難しいフレーズをこなすNaoは心なしかこの状況に嬉しさを感じているように思えた。Takeshiのパワフルなドラムロールからの「Kissの真最中」でショーはリスタートする。Ken-ichiはサビのトップ音までキッチリ表声で歌い切る。「ここでMCだと思えると声が出る出る!今日は一番高いところが全部出たと思う。昨日(のイベントライヴ)があったからかもね」と自分で自分を褒めるKen-ichi。ヴォーカルトレーナーでもあるKen-ichiの面目躍如というところだろうか。
 
「1989年に関西人は自分一人で、東京、名古屋、広島のメンツが集まって大阪で始まったValentine D.C.ですが、大阪での活動は5~6年です。東京での活動の方が長いです。東京人です。おかえりとかいいです」笑いがおきたフロア。ただ、短かった大阪での活動の5~6年間は濃度が濃く、バンドにとって一番の青春だったようだ。「誰かがしゃべると(その時の状況を)すべて思い出せるような、そんな濃密な日々で、仕事とかお金とかの事を全く考えずにただガムシャラに、好きな音楽をやろうとして、ど金髪にしたり、どメイクしたりしてましたね」時折ユーモアを交えながら語るKen-ichiだが、MCの面白さもVDCの魅力である。
 
Junは「僕が客席を見る限り、30周年ライヴを楽しんでもらえているかなと思います」そして今日の為に駆けつけてくれたオリジナルメンバーのTakeshiNaoが紹介された。「前回の大阪のライヴは久しぶり過ぎる大阪だったので、20曲ぐらい用意したのに、15曲目ぐらいにようやく盛り上がってきた、今日もそんな感じだったらどうしようかと思ったら、最初からいい感じで盛り上がってよかった」とJun。広島から駆け付けたTakeshiも「今日は楽しんでいます」とひと言。「2019年またこのメンツで東京でやる可能性あるかな?インディーズ時代は毎月バハマで2daysやっていて、先輩バンドもみんなやっていたから、当時はそれが当たり前と思っていたけど、それで実力が付いたと思う。」というKen-ichi。大阪時代を知る人は懐かしく、知らない人はそんなにライブをやっていたのか?と驚いた人もいただろう。

 
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Junと俺(Ken-ichi)しか残っていないValentine D.C.で、これだけ今日集まってくれたということは、俺たちのやってきたことは間違えでなかった!大阪時代の人にはチョー懐かしいこの曲を聴いてください」というコールを導火線に「BRAND NEW NIGHT」が披露される。そしてアルバムParody収録の「The parody」「Push it away」と続く。2曲ともカラッとしたLAメタル的な雰囲気の楽曲だが、Ken-ichiの骨太なヴォーカルが乗るとパンク的な爆発力が加わる。
 
「Push it away」は音源ではキーボードや女性コーラスも入り、Push Push!のコールもフロアから発生し、ファンもいよいよテンションがトップギアに入ってきたか?というところでKen-ichiからメンバー紹介だ。3人のバンドメンバーの名前を呼ぶのだが、みなバランスを崩さないような控えめなアピールは全体の完成度を重視するVDCらしい。 
 
Ken-ichiが「Naoya!」と力強くコール、インディーズ時代のシングルB面曲「Nasty rose」のヘヴィロックンロール間満載のリフが響き、レアなセットリストに大歓声が上がる。改めてライヴで聴くと、「これ新曲です」といっても分からないぐらい旧さを感じさせないカッコよさだ。「まだまだイケますか!余すことなく今日は存分にこの時間を楽しみましょう」とJun
 
そしてファンなら一瞬にしてそれとわかるドラムイントロ……「My generation」だ。VDCのライヴでは絶対に欠かせない曲にしてファンが一番跳んだ曲。当時の記憶で「跳べ 跳べ!」といった煽りと共にみんなが跳んでフロアを揺らした神曲だ。キャッチ―でスピード感・ドライヴ感抜群の同曲はファンとの一体感も高める。昔のように跳びまくるという訳にはいかないが、ファンも「Generation my generation」の全力コールで応える。間髪入れず「カセットケース」へ。VDCの楽曲の中でも青春を強く感じさせてくれる“歌い続けよう Just for my self 約束の日まで振り返らない もらった夢を 信じたままに……”自分の青春時代にシンクロさせるかのようにファンもサビを熱唱。
 
「本当に申し訳ないです!トコトン付き合ってもらうぜ~!」とKen-ichiがアジテーション。今日のハイライトを迎えたかのような雰囲気となり放たれた曲は、異彩を放つハードロックナンバー「DANCEマテリアル」だ。オリジナルよりやや速いテンポは温暖化したファンのテンションにマッチしている。Junの高速ベースラインが実にいいアクセントになっている。「まだいけるんだ?まだいけるんだ、ハハハ!」と不敵な笑みを浮かべるKen-ichi。ドラムのヘッドが破れるんではないかと思うほどのパンキッシュなエネルギーが爆発する「世界を狙い撃て」、そしてラストはスピード感に溢れるヘヴィロックンロール「HUSH DOLL」だ。

 

◆Valentine D.C.
Ken-ichi(Vocal)
Nao(guitar)
Jun(bass)
Takeshi(drums)
 
◆Official Website
http://www.valentine-dc.net/
 
 
◆Setlist
M01. 炎と宝石
M02. つぎはぎアンティックドール
M03. 春雷
M04. Monochrome Sexuality
M05. 下弦の月
M06. ダストシュート
M07. 道に座って -go all the way-
M08. I can see you
M09. EASY ANGEL
M10. Kissの真最中
M11. BRAND-NEW NIGHT
M12. The Parody
M13. PUSH IT AWAY
M14. NASTY ROSE
M15. MY GENERATION
M16. カセットケース
M17. DANCEマテリアル
M18. 世界を狙い撃て
M19. HUSH DOLL
M20. ペンキ爆弾(encore)
M21. 追い風(encore)

 

開演から2時間を既に越えているKen-ichiは全くバテることのなく、50代となったとは思えないタフネスを見せつけ「お前ら最高だぜ!!」とファンに盛大なTHANKSを告げる。4人の猛者たちはいつまでも聴いていたいであろう大歓声を惜しみながら、一度舞台を去った。そしてVDCは“アンコールをやらないバンド”として知られている。しかし、今日は違った。「まだまだ聴き足りない、帰ってたまるか!」と言わんばかりに大アンコールが沸き起こる。
 
そしてついに新発売となったTシャツやパーカーに袖を通したVDCが今日一番の歓声を背に再び舞台に舞い戻る。今日は特別な日なのだ!「アンコールをValentine D.C.はやらないバンドなんですけど、今日は記念日なんでやろうかと。ライヴってのはしんどくて楽しいものですけど大阪で気持ち的にリフレッシュできてよかったです。大阪は正直東京からの新幹線が高いんでね」とユーモアを混じえながら大阪にまた帰ってきたい想いを伝えたKen-ichi
 
続いてJunは「ライヴみんな暑いでしょ?でもご飯食べに行こう、飲みに行こう…最近ではライヴハウスでも、年々温度下げすぎやろ!だからいつ何時でも羽織物をもっています。そんな時にパーカー。さっき移動費なんて現実的な話があったんですけど、宿泊費もかかるわけです」(場内笑)「じゃあ物販作ります、みんなに協力してもらおうって感じで費用を捻出してここまでやってきました!」と言いつつ、2種の写真セット東京の公演でも前の方で観ていた人が買おうと思った時には完売になっていたようだ。(大阪でも完売)
 
「写真が売り切れて寒くなった心を暖めてくれるのがパーカー」と物販を饒舌にアピール。曲に移ろうかという時に、ファンからリクエストがあった「Under my will」を急遽イントロだけやろうということになる。短い時間だがリクエストした曲の演奏に歓声が上がる。「こっから1時間ぐらい(イントロだけ)やる?」とKen-ichiJunが「イントロシリーズやるぜ!」と即興コーナーが始まる。かなりうまくいった曲も、そうでなかった曲もあったが、1日のライヴで全曲を聴けるわけでない。メドレーとは違うリアルな即興演奏は新鮮で、笑いあり、ファンが歌ってアシストしたり、心温まるコラボレーションとなった。

 
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アンコール1曲目は「ペンキ爆弾」。ポップで奇抜で楽しい気分になれる、1度聴いたら忘れられないインパクトを持った曲で「さあ爆弾かかえて トンガリ帽子かぶって Far away訳なんていらない」初めて聴いた時は何とも言えないインパクトを受けたが、もしRamonesがハードロックバンドだったらこんな曲をやっていたかもしれない?なんて連想させてくれる超個性的な曲だ。もちろんフロアは楽しすぎて仕方がない雰囲気で満ち溢れていた。Ken-ichiは曲のラストをロングトーンでしっかり曲を締め「愛してるぜ、ありがとう!」でアンコールを終える。
 
惜しみない歓声を浴びながら舞台を再び去るVDCの4人。VDCはいつもアンコールをやらないバンドで、今日は特別なアンコールがあった。しかし半分くらいの熱烈なファンが再びアンコールを要求する。さすがにWアンコールはないだろうと既に物販に向かう人もいる中、諦めないファンはアンコールを要求し続ける。開演から157分ほど経過しバンドも現れる雰囲気はない。再アンコールから10分ほど経過し、さすがに再登場はないかと思っていたその時……VDCは舞台に舞い戻ってきた!必死のアンコールの想いが伝わりWアンコールだ!
 
Wアンコールに選ばれた曲は「追い風」。別の曲も検討していたようだが、会場の雰囲気を見て急遽変更したようだ。“舞い上がる風 Fly me away”のサビが印象的で、青春の青い風が吹き抜けるようなパワフルかつ爽やかな曲だ。ラストは渾身のロングトーンを決めたKen-ichi「大阪ありがとうな、また来るよ!」と本当に本当のラストを迎えた。30周年の特別なライヴは、ファンの晴れやかな表情からも大成功であったという事は明らかだ。VDCをきっかけとした同窓会の様に、20数年振りに再会したファンも少なくなかったようだ。長年ファンであるにも関わらずその音楽は色褪せることなく、新たに気付いた部分も随所に見受けられた。ぜひとも再評価されてほしいと思う、最強メンバーのVDCは、何度でも我々の青春時代を呼び覚ましてくれるはずだ。

 
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◆関連記事
【レポート】Valentine D.C.『Last gig in 2009』
http://www.beeast69.com/gig/152