演奏

Valentine D.C.『Last gig in 2009』

TEXT:ワタナベヨーコ PHOTO:ヨコマキミヨ

風や光を感じ、海や月を見て、波の音が聞こえる。そんな印象を受けたライブは初めてだった。ライブがスタートしてから、一瞬目の前に深くて青い空と真夏のキラキラとした光がイメージとして浮かび上がって、ここが12月の新宿のライブハウスであることを忘れてしまった。そこから後は次から次に海や空の映像が浮かんでは消え、バンドのプレイと観客の後ろ姿と重なって、本当にどこかオアシスと呼ばれるようなところに連れて行ってもらったように感じた。印象的なギターとベースにさわやかなトーンのヴォーカルが合わさり、冬なのに夏のあのすがすがしい気持ちよさを感じさせてくれた。そして一気に違う世界に連れて行かれてしまった。

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2009年12月23日、新宿Marbleにて開催されたValentine D.C.ワンマンライブ。彼らは二度目のBEEAST登場。前回は『DER ZIBET presents ”LIVE MANIA” act2』をレポートしている。メンバーは、Ken-ichi(Vocal)・Jun(Bass)・Tsuki(Drums)。今夜もEiji(Support Guitar)を迎えて、2009年最後のライブ。当日は動くのもやっとというくらいのたくさんのファンが詰めかけ、開場してからすぐにライブハウスはいっぱいに。会場が暗転になると、暗闇の中にTsukiEijiJunが入場、そのたびに歓声が上がる。しばらくした後Ken-ichiが登場したところで突然激しいドラムの音とともにライトオン、ステージに浮かび上がったメンバー。センターでKen-ichiが大きく腕を上げると、「つぎはぎアンティックドール」でライブがスタート。

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曲はどれも勢いがよく、またKen-ichiは大きなアクションで歌うのだが、なぜか派手な印象は受けず、ゆっくりと、けれども大きなうねりを伴いながら静かに盛り上がっていく。それはおそらくヴォーカルの優しく観客に語りかけるような歌や、Junのポーカーフェイスで黙々とプレイをするスタイルからくるものなのかもしれない。4曲目「Yell Yeah!」では、激しいドラムに合わせて体を揺さぶるオーディエンス。そして計算されていたようなタイミングでKen-ichiがサビで上に向かって指をかざすと、何かの扉が開いたように、会場のテンションはワンランクアップ。ファンの熱気が一気に上昇し、Valentine D.C.色に輝いている。

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5曲目「You’re right」が終わると、少し空気を落ち着かせるように、音が止まって沈黙が辺りを包み込む。そしてそれまでクールだったKen-ichi が「今日もたっぷりしゃべっていこうと思います」というと、続けて「アシストギターのEiji君ですが、骨折してやっと骨がつながったけど、今日のライブでまた離れると思います」「今年一番のヒットは渋谷のモヤイ像が盗まれたことかな、あれってルパンが盗んだらしいよ、知ってる?」と話が続き、そのたびに会場は笑いに。MCが終わると、またValentine D.C.の世界に引き戻される。今度はとても風を感じる曲になった。都会のきれいなビルが立ち並ぶ、ドラマに出てくるようなきれいな街角。そこに吹くような風を思い浮かぶ「紙飛行機」というその曲は、高いところから街に向かってとばされた紙飛行機を追っているようなイメージが浮かぶ。「追い風」も風の曲なのだけれども、その時は高くて深い空が見えた。オーディエンスのハンズアップとともに持ち上げられて、空高くまで飛べそうな感じがする。新曲の「Get on the water slide」ではきれいなブルーの水のスプラッシュ。「道にすわって」ではキラキラとした太陽の光が辺りを包みこむ。

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実際には歌は恋愛のことを歌ったものなども多いのだけど、その周りの景色が見えてくるような、愛しい人と一緒にいる空間にいるような、そんな印象を抱かせる曲が多いのが、Valentine D.C.の特徴。今回は特に夏の季節感を感じる曲だったが、その後のMCの中で、今回のセットリストは夏のライブでプレイすることを想定していたものが、ギターの負傷によって冬に延期になったので、そのまま冬にアツイ夏の曲をしようということで決まった様子。なるほど、とても納得できるセットリスト。Valentine D.C.は、ライブと同じくらいMCがとても面白く、会場からは常に笑いがあふれている。特に今年はValentine D.C.の20周年。これまでのバンド活動についてKen-ichiと、Junは、面白おかしく振り返る。あまりに自然に話しているので、何となく居酒屋やメンバーの部屋なんかで一緒に飲みながら話をしているような、そんなアットホームな雰囲気。ファンへの感謝も語りかけるように伝えるので、とても距離が近く感じる。

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会場が和んだところで、後半第一曲目の「パロディ」。違うバンドに変わったのかと思うくらい雰囲気が変わった。前半はどちらかというと静かで明るい印象を受ける曲が多く並び、後半は一気に一緒に駆け抜けているようなハードなロックスタイル。それまで手を振りながら歓声をあげていたオーディエンスも、「NJ」からは一斉に頭をふり、空気が一転。力強く走り続けているような曲が並び、ものすごくエネルギーを貰っているのをはっきりと意識出来る。体に力がわいてくる。「Hush Doll」ではお腹に何かを詰め込まれているような気がするくらい、エネルギーをもらう。そして最後の曲、「世界を狙い撃て」へ。後半は一気に駆け抜けて、一瞬でラストナンバーだ。

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「お客さんの中にはシャイな人もいるから、最初からいきなりがんがん行くのではなく、「ショー」が始まるような感じではじめていきたい」(Ken-ichi)という言葉通り、ライブは最初、そっと幕が開かれるように始まると、一定のリズムで進み、お客さんをリラックスさせるようななごやかなMCも混じって静かに盛り上がって行く。そして気がつけばもう完全に持って行かれて、後半にはピークがずっと続いているようなライブになった。「完全燃焼、年末にふさわしいライブ」(Jun)との事だったが、ファン大満足の良いライブだったと思う。2010年は良いところは残しつつ、変化をするところは変化するというValentine D.C.。楽しみに次のステージを待ちたい。


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【Valentine D.C. 公式サイト】
http://www.valentine-dc.net/

【インフォメーション】

2010年2月14日 新宿Marble

【セットリスト】
1.つぎはぎアンティックドール
2.ダストシュート
3.JET BOY
4.Yell Yeah!
5.You’re right
6.オアシス
7.紙飛行機
8.道に座って
9.Get on the water slide
10.追い風
11.パロディ
12.NJ
13.Have a good dream
14.36℃の塊
15.Therapy
16.DANCEマテリアル
17.My generation
18.Hush doll
19.世界を狙い撃て