演奏

TEXT:鈴木亮介 PHOTO:矢沢隆則

マジックアワー:日没直後に一瞬だけ現れる、黄昏時。燃え尽きた太陽が残す薄明は、一切の影を奪い、この世界を金色で包み込む。
 
一瞬の儚い美しさ。「ガールズ」という括り自体もはや時代遅れかもしれないが、敢えて「ボーイズ」にはない「ガールズ」の魅力を一つ挙げるならば、この”美しき儚さ”だと思う。
 
2015年6月28日、日曜日。自身2度目のワンマンにして、脱退が決まったサユキの最後のステージ。ガールズバンドCaramelの『Caramel結成日ライブ☆ 生キャラメル祭りVol.2  閉嘴!接受吧!~今宵、伝説の謝罪会見?!~』のステージには、どのような景色が映し出されるのか。
 
Caramel メンバー:
ルミ(Vocal)、サユキ(Bass)、モモ(Drums)、ユウミ(Guitar)

Caramel(キャラメル)は2013年に結成。ルミ(Vocal)、サユキ(Bass)、モモ(Drums)、ユウミ(Guitar)という平均身長149cmの4人のビジュアルは、「絶対!妹宣言」というキャッチコピーとともに目にしたことがあるという人も多いのではないか。しかしTwitterアカウント以外に公式サイトやYouTubeなどがなく、これまでに音源のリリースも1枚もないため、その全貌はベールに包まれていた。
 
しかし、そうした一見ハンディキャップに思える「情報の少なさ」は、彼女たちにとって大いにプラスとなった。神出鬼没な路上ライブや、対バンイベントなど連日連夜舞台に立ち続け、その圧倒的なパフォーマンスと応援せずにはいられない健気さで見る見る間にファンを増やしていった。「妹力」なんて言葉があるのかわからないが、仮にあるとすれば妹力ナンバー1バンドは間違いなくCaramelだ。
 
ライブ動画や写真などを駆使し、バーチャルの世界で「在宅」のファンを増やすことは簡単だ。しかしCaramelはそこに頼ることなく、リアルな世界でライブステージに立ち続けるという手法だけでファンを増やしてきた。だからこそ彼女たちはホンモノだとの評価も高いし、隠されると覗きたくなるのが人の性。「情報の少なさ」ゆえ、動画で知った気になって満足せず、実際にライブ会場に足を運ぼうという気を起こさせているのだろう。
 
さて前置きが長くなったが、こう書いている自分自身、Caramelのロングステージを観るのはこの日が初めてだ。フロアで取材の準備をしていると、ファンの一人からサイリウムを手渡された。自発的な勝手団が結成され、開演前からどうやってライブを楽しもうかと熱心に語り合っている様は、さすが「妹力」の高いバンドの為せる業だと感心する。
 
開場から開演までは30分でなく60分のスパン。少々長いのでは?と思えたが、開演に向けてのファンの士気を高めるには十分な長さだったようだ。午後6時、ついに開演の時刻を迎えた。スクリーンに、何やら映像が浮かび上がる…

スクリーンに映し出されたのは、スーツ姿のサユキ。場内のあちこちから笑いがこぼれる。ライブのサブタイトルに「今宵、伝説の謝罪会見?!」とあったが、その通りの謝罪会見が始まる…。
 
「音楽シーンを変えたい、その一心で!」脱退を表明したサユキ議員に対して、他のメンバーが記者として質問するという、某号泣県議のパロディが展開されていく。全体的には何を言っているかよく分からない謝罪会見は、随所に笑いを散りばめながら約15分にわたって続く。これから始まる熱い演奏を前に、無用な湿気を取り除いておこうということか。粋なワルノリだ。
 
暗転の中、ステージに4人が現れてスタンバイ。沈黙の中、第一声は…ルミが一人、アカペラで歌い出した。「人はそれぞれ『正義』があって…」ここにいる誰もが予想しなかったSEKAI NO OWARIの「Dragon Night」を熱唱!初っ端からとてつもなく透明感あふれる高音を響かせたルミ。「行くぞ!ドラゲナイ!」まさかのアカペラ熱唱に、楽器隊はそっぽを向けて演奏を開始せず、再び一瞬の沈黙、のち笑いがあふれる。自称「ややウケバンド」らしく、観客を和ませたところで、改めて仕切り直し!演奏再開。

待ちに待ったCaramel最初の曲は彼女たち屈指のアッパーチューン、「tkmkセンセーション」だ。4人の奏でるtkmk(=トキメキ)は大きなエネルギーとなって、客席に伝播。タオルが乱舞し、サークルピットも出現。モモがバスドラを力強く踏み、サユキがベースをうならすと、会場が一つになる。
 
アクティブに、アクロバティックに4人の音で仕留める「スナイパーガールズZ」に、路上ライブで歌い続けてきたというメンバーの思い入れが特に強い「君の知らない物語(カバー)」と、Caramelは加速し出したら止まらない。シーケンス音を巧妙に使い、隙間のないようにしっかりと埋めつつも、ここぞという箇所では生音をとどろかせ、メリハリのあるライブを展開する。「生音か、同期か」みたいな二択ではなく、両者のいいとこ取りをしたという印象。全ては、熱狂のために…
 
「Tailwind」、「Lovers Moment」、「月下のナミダ」と、ここまで6曲連続ノンストップでライブは進行。「イナズマロック フェス 2014」や「TOKYO IDOL FESTIVAL 2014」、「もしもしにっぽんFESTIVAL 2014」など数々のビッグステージに立ってきたCaramelの一つ一つのパフォーマンスはダイナミックで、爽快感あふれるサウンドと相まって、完全に客席を制御する。
 
「Tailwind」では間奏のユウミのギターが強烈。「Lovers Moment」では4人のストップモーションがクール。エモーショナルな「月下のナミダ」ではモモが力強く鼓動に心臓が震わせられる。サユキもベースを抱きかかえて切なさを表現する。

(ドラゲナイを含めて)7曲を終えて、ここでようやくMC。「何から話したらいいのやら…」とルミ。マイクをサユキに譲ると、「きょうは私のために来てくれてありがとう!」とサユキはいつも通りの調子。「実は脱退というのはエイプリルフールでした!」と今にも言わんばかりのテンションに、観客も悲喜交々といった様子(笑顔の方が多い?)。冒頭の謝罪会見映像について「ふざけてしまってすみませんでした」と謝罪し、「ややウケバンド」を全面に押し出した方が自分たちらしいかな、と振り返ると、ライブ後半戦へ。あれ、結局サユキ脱退の真相は?まあ何はともあれいつも通りに、いやいつも以上にライブを楽しもう!Caramelもファンも、瞬時に気持ちを切り替える。
 
そして後半戦は「キミに恋愛Chu-☆」からスタート。真夏のビーチのような怒涛の熱さに、サユキのベースソロも見せ場を作る。「ラブストーリー」からはルミもエレキギターを持ち、いっそう音圧を増していく。「君が好きだよ 伝えたいのに」…等身大の恋する乙女の心を綴った歌詞を綺麗なコーラスで届ける。アウトロが余韻を残さずパッと終わるのも潔さがあって良い。さらにヘドバン必至の「恋愛少女」、間奏の重低音にサビのユニゾンにとさらに会場の温度を上げてくれる「恋愛少女2」と、Caramelのライブには欠かせない2曲が続き、ライブは終盤へと向かう。
 
「早くも最後の曲です…」ルミに言われて、本当に驚いた。MCをほとんどはさまずに来たとは言え、時間の経過を全く感じさせない迫力と楽しさが連続していたのだ。自分たちは”かっこいい私たちについてこい”というバンドではないけど自称ライブバンドだと思っている、とルミ。「一つ一つの変化、活動の内容、スタイル…日々のライブを通してみんなと、4人と作り上げてこれた。ここにいるみんなで、チームキャラメルだと思ってます」と謝辞を並べると、ここまで11曲疾走してきて上がる息を整えるように、落ち着いたトーンでこう話した。「サユキ演奏する最後の曲。感謝の気持ちを込めて…」でも、しんみりした空気は似合わないと思ったのか、咄嗟にこう付け足す。「サユキが泣きじゃくって、鼻水垂らしまくった顔をみんなの心に焼き付けて(笑)。そうして、みんなで笑いあえたら」
 
そうして始まった本編最後の曲は、「Miss you & Love you」。ユウミの陽の気あふれるギターに、モモの力強いビート、そしてルミのみんなを笑顔にするボーカル。そこに観客の温かい手拍子が加わる。
 
ステージ最前に乗り出て煽り、前のめりに歌い上げるスタイルのルミ。そうして客席を、また楽器隊を牽引しているルミだが、この最後の曲では一瞬だけサユキの方を振り返り、また前を向き直した。サユキは最後まで笑顔を貫いたまま。そして最後は4人全員笑顔で、ステージを下りた。

ライブハウスのアンコールが予定調和になって久しいが、この日のアンコールはちょっと違った。「このまま本当に終わってしまうのではないか」「風のように走り抜けたサユキはもうステージに戻ってこないのではないか」…そんな不安が頭の片隅によぎったのは、筆者だけではあるまい。心の底からの再登場を求める声が徐々に大きくなっていく。さらには、フロアに無数のペンライトが点灯。そのカラーは、サユキのイメージカラーの、黄色だ。
 
そしてメンバーが再登場!本編では一度も灯ることのなかったペンライトがフロアのいたるところで煌々とサユキへの思いを込めて照らされている。まさかの光景に唖然とするメンバー。サユキは遠慮がちに「ありがとうございます」とつぶやき、メンバーから「もっと大きい声で!」と促される。4人らしい、飾らないやり取りを、ペンライトを持ったファンたちは温かく見守る。
 
「お気づきの方もいると思いますが、私たちはもう曲がありません!」とルミ。「怒られるのを覚悟で…」と切り出すと、なんと最後に新曲を演奏することを明かす。「4人でやると思ってた。後悔したくないので、歌詞は仮だしタイトルも決めてないけど、今できる精一杯をやりたい」と前置きし、最後の挨拶をするようサユキに振る。
 
黄色一色に染まったフロアに圧倒されて、頭が真っ白になってしまったというサユキは、「ただただ感謝の気持ちを伝えたい。2年間ありがとう」とコメント。さらに…「きょうは私は悪い大人だ!悪い大人から重大発表だ」と続ける。
 
悪い大人からという名目でこれまで数々のサプライズ発表という名の試練を受けて続けてきたメンバーだったが、この日はまさかのサユキが悪い大人!他のメンバー3人をキョトンとさせ、「夏フェスの出演が決定しました!」とまさかのサユキからのサプライズ発表。
 
ちなみにこの日のライブタイトルにある「閉嘴!接受吧!」とは「黙って受け止めろ」という意味だそうだが、脱退するサユキからのサプライズプレゼントを黙って受け止めろ!ということなのか…ルミモモは号泣、ユウミは半分本気のトーンで「なんなの!」と怒る。そんな中依然として笑顔であり続けるサユキ、本当に辞めちゃうの?
 
…と名残惜しくも、終演の時は刻一刻と迫る。4人でやる、最初で最後の新曲。ハードなロックナンバーを全力で披露し、ペンライトが乱舞!それはほんの一瞬しか見ることのできない、燃え上がるマジックアワー。無数の「サユキ!」コールの中、Caramelにとって特別な夜は幕を閉じた。

◆セットリスト
M01. Dragon Night(※カバー アカペラ)
M02. tkmkセンセーション
M03. スナイパーガールZ
M04. 君の知らない物語(※カバー)
M05. Tailwind
M06. Lovers Moment
M07. 月下のナミダ
M08. キミに恋愛Chu-☆
M09. ラブストーリー
M10. 恋愛少女
M11. 恋愛少女2
M12. Miss you & Love you
-encore-
E01. (新曲)
◆Calamel Twitterアカウント
https://twitter.com/caramel_149cm
 
◆インフォメーション
・2015年07月14日(火)【六本木】morph Tokyo
・2015年07月18日(土)【岐 阜】桃配運動公園
 ※関ケ原 LIVE WARS 2015への出演
・2015年07月19日(日)【熊 谷】Heaven’s Rock
・2015年07月20日(月)【厚 木】Thunder Snake
・2015年07月24日(金)【渋 谷】eggman
・2015年07月25日(土)【渋 谷】乙
・2015年07月26日(日)【渋 谷】CHELSEA HOTEL
・2015年07月28日(火)【下北沢】Reg
・2015年08月01日(土)【台 場】お台場・青海特設会場
 ※Tokyo Idol Festival2015への出演
・2015年08月02日(日)【六本木】morph Tokyo
・2015年08月08日(土)【台 場】Zepp Tokyo
・2015年08月17日(月)【渋 谷】Deseo
・2015年08月21日(金)【六本木】morph Tokyo
・2015年08月29日(土)【阿倍野】ROCK TOWN
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