演奏

lead_mariko

TEXT:鈴木亮介

後藤まりこのワンマンライブが5月27日(火)、SHIBUYA-AXにて開催された。都内有数のキャパを誇るAXは5月末で閉館されたが、この日の公演が女性ソロアーティストとしては最後のライブとなった。AXの舞台に立った最後の女性ソロミュージシャン、後藤まりこによる全身全霊のステージをレポートする。
 
今春、所属事務所およびレコード会社からの独立を発表した後藤まりこ。この日のライブについては、開催1週間前の時点でチケットが会場収容人数に対して3分の2以上売れ残っていることが明かされ、ライブでのチケット手売りや都内各所での軽トラ移動のゲリラライブ、Ustream・ニコニコ生放送の連日配信など、前代未聞の”草の根”的なPR活動が実施された。本誌でも「リリースした曲&新曲をAXで全曲やりつくす」という本人からのメッセージをニュース掲載したが、こうした後藤まりこの連日連夜にわたる奮闘は、確実にファンに伝わった。
 
◆メンバー:
後藤まりこ(Vocal & Guitar)、AxSxE(Guitar)、仲俣“りぼんちゃん“和宏(Bass)、マシータ(Drums)、坂井キヨヲシ(Keyboard)、中村圭作(Keyboard)

 

確かAX本番の一週間ほど前だったかUstream中継を視聴する機会があったが、そこに映し出されていたのは、予定調和のショウでもプライベートの切り売りでもなく、アーティスト・後藤まりこによるリアルなコミュニケーションとエンターテインメントであった。準備されつくした…というわけではなく、ファンとのやりとりや弾き語りといった内容は特段変わったものではなかったが、それでも「エンタメ」をそこに感じたのは、後藤まりこ自身の生き様がアートでありエンタメであり、ロックだからなのだろう。ある音楽ライターが「後藤まりこの音楽は作業用BGMにはできない。きちんと向き合わずにはいられなくなる」と評していたが、まさにそういうことなのだと思う。
 
ピンチはチャンスという言葉の通り、こうしてアーティスト・後藤まりこの温度を間近で感じられたことで、雑誌広告やテレビCMだけでは到達できなかったであろう、想像以上の胸の高鳴りを、ファンも、共演ミュージシャンやスタッフも、そしておそらくは後藤まりこ本人も、持つことができたのではないか。実際に動員という点でも、フタを空けてみたら1000人以上のファンがAXに参集。”奇跡”は起きた。そして午後7時、真剣勝負の宴が開幕する。
 
  

 

  

SEに合わせて、自然と起こるクラップ。そして、今宵の主役が一人ステージに登場すると、一段と大きな歓声が。「後藤まりこです、よろしくお願いします!」挨拶は最小限にとどめ、手にした真紅のギターをジャラーンと爪弾く。「もうだめだ 改札をぬける 人ごみに埋もれ」…ゆっくりと、確実に、1曲目に演奏するのは「世田谷区桜新町2丁目」。ここから、最後のAXが始まる。
 
続いて「好き、殺したい、愛してる」、「シンデレラタイム」、「触媒」と、胸が締め付けられるほどの切ない歌声を、シンプルなエレキの音に乗せて届ける。時に強く、時に優しく、後藤まりこは歌を紡ぐ。観客も「瞬きすまい」「一音たりとも聴き逃すまい」といった様相。そうして全身で後藤まりこの音楽を吸収し、貯めたパワーは曲が終わる瞬間、大歓声と手が痛くなるほどの拍手に変わり、放散される…そんな、言葉を介さない、それでいて熱いコミュニケーションが序盤は1曲毎に展開されていく。
 
 

  

 

5曲目「299792458_TOKYO-U」はルーパーエフェクターを駆使した、不思議なこだまが起こる。6曲目「ラブロマンス」は打ち込みシンセなどの音飾がきらめき、たった一人、大きなAXの舞台に立ち続ける後藤まりこをドレスアップしていく。そして7曲目「大人の夏休み」からはバンドメンバー5名、AxSxE仲俣“りぼんちゃん“和宏マシータ坂井キヨヲシ中村圭作が続々登場。いよいよ”一人”じゃなくなった後藤まりこのステージ、音の厚みとともに会場の熱気も上昇する。
 
「行こうか。よろしくお願いします!SHIBUYA-AX!」…後藤まりこが宣戦布告し、マシータがシンバルをカウント、鍵盤にギター、ベースも加勢すると、8曲目はアップテンポな「ままく」。流麗なピアノに乗せて、後藤まりこは客席にダイブ!観客も俄然体を揺らし、そこは一瞬にして大海原と化す。
 
 

  

 

さらにMCを挟むことなく「M@HΦU☆少女。。」、「Hey musicさん!」、「すばらしい世界。」と続ける。「情熱を焦がすように ビートを打ち鳴らす」…そんな歌詞の通りの情熱的な歌声に、生きたピアノ。”生命”を強烈に感じるステージ、要所要所で鍵盤が決めてくるが、AxSxEのギターと仲俣“りぼんちゃん“和宏のベースによる表現も胎動のようで、安心して身を委ねられる。
 
そしてMC。「来てくれてありがとう!最初はどうなるかと思ったけど、チケットが全然売れてなくて…」「でも、みんないっぱい来てくれた。ありがとう!支えてくれてありがとう」心からの感謝の言葉を述べると、ギターをエモーショナルに鳴らす。2ndアルバム『m@u』の1曲目、「4がつ6日」だ。ギターフレーズが核になりながら、2台の鍵盤が個性を発揮し、極上の音をこの広いAXに響かす。感極まった後藤まりこは再び客席に飛び込む。
 
観客一人ひとりが両の手で支え、少しずつ海原を歩む後藤まりこ。「なかよしごっこはおしまいだ!」最後の歌詞をひときわ力強く歌い上げると、1000を超える観客たち一人ひとりに問いかける。「みんな!みんな…みんな。行こうか?向こう側に行こう!」ドラムスティックが4カウント、ピアノと歌声が完璧にシンクロ。「sound of me!sound of me!sound of me!行くよ!sound of me~!」4回目の「me」でスイッチオン!一気にピークに達するサウンド、後藤まりこは観客の上に立ち上がり、シャウト!AXの広いステージを、大草原を駆け抜ける少女のように、後藤まりこはどこまでもどこまでも可憐に疾走。そして、1000人の観客と一つになる。「あたし、しあわせだ!」
 
 

 



「ふれーみんぐりっぷす」、「浮かれちゃって、困っちゃって、やんややんややん」を演奏し終えると、再びMC。「来てくれてとてもありがとう。あの…なんやろ、みんな手伝ってくれてありがとう」全国のたくさんの人たちに感謝の気持ちを伝える後藤まりこ。その中には「DefSTAR(=所属していたレーベル)、お世話になりました」という言葉も。
 
そして、「後藤まりこ…みんな、勝手に決めてごめん。秋頃にCD出します」と、集まった観客にとって何よりうれしい報告も行い、大歓声の中16曲目は新曲を披露。Ust/ニコ生でも弾き語り披露していた、ジャジーなピアノに、軽快なドラムのビートが印象的なダンサブルナンバーだ。ステージのど真ん中で、バンドメンバー5人にぐるりと囲まれて、後藤まりこは軽快に踊り跳ねる。
 
 

  

 

早くもステージは終盤。三たび客席にダイブした後藤まりこは、アップテンポな「ユートピア」を歌いきると、再び赤いギターを手にして「m@u」を披露。観客もここ一番のクラップで応える。後藤まりこは己の感情全てをギターにぶつけるように、衝動的に、切なくも美しくギターを弾き、歌い上げる。
 
最高潮の盛り上がりを見せるや否や、バンドメンバー5人は退場。ステージに一人残った後藤まりこは、「す☆ぴか」を一人歌い、何度も何度も「ありがとう」と観客に向けて感謝の気持ちを伝える。

 

  

 

ここでいったん退場し、アンコール…という予定だったようだが、アンプに腰かけた後藤まりこは「アンコール行かずにこのままやる」と宣言。「ゆうびんやさん」を一人弾き語り始める。バンドメンバーも再登場し、キーボード、ドラム、ベース、ギター…と少しずつ音が加わり大きくなっていくと、入れ替わりに後藤まりこが退場。しばしの後、衣装チェンジした後藤まりこがドライヤーを手に再登場!その場で髪をセットすると、ありったけの思いを指先にこめて、ギターをかき鳴らす。
 
「あとちょっとだけやります」と宣言すると、高音でジャジーな鍵盤に乗せて、鳥のさえずりのようにハミング。そして、語る。「これからもよろしくお願いいたします!一人ぼっちやけど、もう一人ぼっちじゃない気がします。ずっと一緒にいてください!」
 
大歓声で応える観客は、一斉に右手をステージの方、後藤まりこの方に向けて差し出す。全ての右腕が、同じ一点に向かっている。それはもう、圧巻の様だ。さらにそれに応えて、サウンドも一段とスパーク。最後までステージとオーディエンスとの高級な対話が続く今宵のステージ、その心地良いまま演奏されたのは「ドローン」、「うーちゃん」、「あたしの衝動」。1stアルバム『299792458』収録曲を続けて演奏する。
 
 

  

 

「最後の曲を聴いてください」と宣言し始まったのは「あたしの衝動」。やはり観客の期待通り、後藤まりこはパンパンに観客で詰まったフロアに飛び込み、SHIBUYA-AXという大海原を実に気持ち良さそうにすいすいと泳いでいく。
 
演奏が終了。2階席からは確認できない位置に消えた後藤まりこは、ついにはフロア最後方のPA卓に到達。大歓声に包まれ、PA卓にのぼった後藤まりこは笑顔を見せたや否や「お前ら全員死ね!」と絶叫!続け様に「僕と一緒に、一回死んで生き返ろう。共に歩んでください」と伝え、最後に「HARDCORE LIFE」を楽器なしのアカペラで披露。風のように去っていった。
 
 

   

 



びっしりあふれる1000人以上観客たちの手がステージの一点に向かい、波打つ様には鳥肌が立った。予定調和を打ち破るロックとは、これだ。たとえSHIBUYA-AXが閉館し解体されても、この日後藤まりこによって心に刻まれたミュージックは、いつまでも消えることはない。
 

◆セットリスト
M01. 世田谷区桜新町2丁目
M02. 好き、殺したい、愛してる
M03. シンデレラタイム
M04. 触媒
M05. 299792458_TOKYO-U
M06. ラブロマンス
M07. 大人の夏休み
M08. ままく
M09. M@HΦU☆少女。。
M10. Hey musicさん!
M11. すばらしい世界。
M12. 4がつ6日
M13. sound of me
M14. ふれーみんぐりっぷす
M15. 浮かれちゃって、困っちゃって、やんややんややん
M16. (新曲)
M17. ユートピア
M18. m@u
M19. す☆ぴか
-encore-
E01. ゆうびんやさん
E02. ドローン
E03. うーちゃん
E04. あたしの衝動
E05. HARDCORE LIFE
 
◆後藤まりこ 公式サイト
http://510mariko.com/
 
◆インフォメーション
・2014年07月19日(土)【仙 台】CLUB JUNK BOX
・2014年07月20日(日)【関ヶ原】桃配運動公園
・2014年07月21日(月)【青 森】平内町夜丁山スキー場
・2014年07月23日(水)【富 山】SOUL POWER
 

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