特集

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TEXT:ヨコマキミヨ PHOTO:ヨコマキミヨ、桂伸也

ひょっとするとMyspaceを使ったことがある人なら、Alex Fosterというカナダ人から一度はメッセージを受け取ったことがあるかもしれない。私もそのうちの一人だ。私はMyspaceにプライベートで撮りためたライブやミュージシャンの写真を載せているのだが、ある日突然「君の写真は素晴らしい!」と、いかにもカタコトの日本語でメッセージをくれたのがAlex Fosterだった。彼はカナダのバンドYour Favorite Enemies(以下YFE)のボーカリストでありリーダー。そんな彼がせっかくメッセージをくれたのだからと、こちらも必死に翻訳ツールを駆使して英語で返事を返す。そんなやり取りが続いてかれこれ4年程になるだろうか。YFEを知る人と話をすると、同じように「そんなふうに知り合った」という話を聞くことが多い。
 
YFEは、単なるバンド活動に留まらず、世界中のファンと交流を持ち、日頃のメッセージ交換やカナダでの彼らの生活ぶりを動画で配信したり、現在は2カ月に一度ほどのペースで生中継のトーク番組をネット上で配信したりと、ユニークで活発な活動を続けている。そしてYFEファンの多くの人が彼らの音楽や言葉、心の交流によって励まされ、生きる希望や人生を変えるきっかけを得ていると言っても決して過言ではない。
 
また彼らは、日本をホーム(家)と呼ぶほど大変な親日家で、2008年の初来日以来、幾度となく日本をおとずれている。東日本大震災があった2011年3月、震災からわずか3日後、カナディアンミュージックウィークに参加中だった彼らは急遽日本へ向けて動画サイトよりライブを配信。薄暗い部屋の中でのアコースティックのライブだった。それは、混乱の最中の日本を想ってのことだったのだろう。その直後「HOPEプロジェクト」を立ち上げ、世界中から日本への励ましのメッセージをつのり、2カ月後の5月には来日。宮城県南三陸町を訪問。さらには渋谷でライブも行い日本のファンを励ました。
 
そんなYFEが満を持して2013年3月、世界に先駆け日本のKING RECORDSよりメジャーデビューを果たした。そしていよいよ2年ぶりの来日となったツアー。今回はこのツアーに対して、10月5日に行われた東京公演を中心にBEEASTが密着取材を敢行。知る人ぞ知るYFEの魅力を、彼らと交流を持った私、ヨコマの視点から存分にお伝えしよう。
 

 
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Your Favorite Enemies
◆メンバーリスト:
Sef(Guitar)、Miss Isabel(Keyboards &Vocal)、Alex Foster(以下、Alex :Vocal)、Ben Lemelin(以下、Ben :Bass)、Charles (Moose) Allicy(以下、Moose :Drums)
Jeff(Guitar)

 
カナダ モントリオール出身の6人組で、2006年に結成されたオルタナティブ・ロックバンド。
 
2007年4月、自主レーベルHopeful Tragedy Recordsを設立。同年6月1日、ファーストEP 「And If I Was To Die In the Morning…Would I still Be Sleeping With You」(セルフプロデュース曲5曲+EPのみ収録のボーナストラック1曲)をリリース。 2008年6月17日、2ndアルバム「Love Is A Promise Whispering Goodbye」をリリース。同年、ゲームコンポーザー石元丈晴作曲の『ディシディア ファイナルファンタジー(DISSIDIA FINAL FANTASY)』のサウンドトラックにも参加。またバンドはアムネスティ・インターナショナルの熱心なスポークスマンとして活動し、人権保護組織「Rock And Rights」を設立した。 
カナダで最も大きい音楽ビジネスイベントCanadian Music Weekにも数度参加、アメリカのBillboard Magazineが選ぶ2008年要注目バンド・トップ5の一つとして紹介されている。

 

1.来日から東京公演前日まで

 
1.1 来日 @成田空港(2013年9月24日)
 
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先立って約10日間のオーストラリアでのツアーを終え、熱い勢いそのままに来日したYFE。空港に着いた彼らは旅の疲れなど微塵も感じさせず、相変わらずの笑顔で姿を見せた。スタッフを含め総勢12名の大所帯。自らがよく例えるのだが、「愉快なサーカス団」といった雰囲気がピッタリな光景がそこにあった。空港には到着を聞きつけ出迎えに来たファンも多くおとずれ、彼らとハグで再会を喜びあった。
 
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1.2 大阪、京都公演(2013年9月27日、29日)
 
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ツアー最初のライブは9月27日に大阪千日前TRIBE、翌々日29日は京都愛宕念仏寺でライブを行った。2011年に次いで今回2度目となった京都愛宕念仏寺でのライブはYFE来日ツアーの中で恒例となりつつある。お寺でのライブという一見ユニークなコーディネートも、彼らならではといえよう。
写真提供:(C)Stephanie Bujold(YFEスタッフ)
 
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1.3 PV撮影 @台場 ダイバーシティ(2013年10月3日)
 
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大阪、京都でのライブやファンミーティングを満喫し、東京に戻ってきたYFE。この日、幸いにして前日までの雨も上がり、お台場、ダイバーシティ内のH.L.N.A SKYGARDEN(SKATEPARK )を借りきって、PV撮影が行われた。YFEスタッフのカメラに加え、日本の映像制作会社も入り、クレーンを用いて、かなり大掛かりな撮影となった。通訳を交え、真剣な表情でリハーサルから何度もテイクを重ねていった。そこには、彼らの作品に対する深いこだわりも垣間見られた。
 
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メンバーたちに合間を見て話しかけると、撮影中の真剣な雰囲気とは違った表情を見せた。彼らは皆一様に、東京タワーやレインボーブリッジが一望できる景色が素晴らしいと笑顔で語っていた。スケートパーク真下の等身大ガンダムに気が付くと「Wow!Great!」と歓声を上げる場面も。東京湾のパノラマを背景に演奏するメンバーの間を、スケードボーダーが巧みにすり抜けていくといった、スリリングなイメージ。後日出来上がったPVも上々の仕上がりだ。
 
※記事上部「I Just Want You to Know」のPVをぜひご覧ください。
 
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2.東京公演

 
2.1 会場入り、搬入 @渋谷THE GAME(2013年10月5日)
 

 
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いよいよ渋谷THE GAMEでのライブ当日、来日中レンタルしているという2台のバンで現地入りしたYFE一行。到着したのは、午後一時ごろ。あいにくの雨で少し肌寒い中、国際免許を持つ2人のスタッフがそれぞれ運転し、現地にたどり着いた。車での長い移動で少し疲れたのか、表情は少し硬かったようにも見えたが、それでも私と顔をあわせると笑顔で声をかけてくれた。あいさつもそこそこに、メンバー総出でたくさんの機材を次々と搬入し、セッティングが行われた。
 
準備のできたメンバーが順にステージに立ち、音出しを始める。YFE専属のエンジニアもミキサーブースに入り、THE GAMEのスタッフと通訳を交えながら一つ一つラインの確認をしていく。海外でのツアーとなると、一番気がかりなポイントとなるのは、会場の音響設備とのやり取り。それだけに彼らは真剣な表情を見せていた。
 
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2.2 リハーサル
 

 
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ギターアンプやベースアンプについては自前のものを持ち込んでおり、サウンドチェック後のリハーサルはスムーズそのものといった感じで進んだ。約2時間にわたるサウンドチェックとリハーサル。時間があまりないツアーのライブでも、非常に丁寧な作業を進めていた彼ら。そこには「自国だろうが異国であろうが関係ない」といわんばかりの、一貫した音に対する強いこだわりを感じさせた。
 
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2.3 TOWER RECORDSへのあいさつまわり
 

 
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リハーサルの後、YFEはKING RECORDS担当者と一緒にTOWER RECORDSへあいさつまわり。そのために渋谷の街へ出た。スタッフを含め、ぞろぞろと大所帯で移動する様に、街中ではさすがに注目を浴びていたようだ。それでも気にせず歩き続ける彼ら。彼らの気持ちの中では、日本もカナダも「自分の国」。自分の国を歩くのに気がねはいらない、といった様子だった。
 
そしてTOWER RECORDSへ到着。フロアに上がると彼らはKING RECORDSの担当者に「俺たちのCDはどこだ?ちゃんと置いているのか?」とたずねながら、棚を探し始めた。無事、アルバムを発見、ここでも飛びきりの笑顔を見せた彼ら。そして売場責任者にあいさつをすると、メンバーはポスターへサインし、Tシャツをプレゼント、売場スタッフと記念撮影をいった。誰に対しても、出会った人との交流を大切にする彼らは、売場スタッフにアピールと共にこの日出会えたことへの感謝を、彼との握手に込めていた。
 
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2.4 開場
 
外ではまた雨が少し強くなってきた中、会場に次々と人が入ってきた。YFEファンは、それぞれ顔見知り同士である人も多く、ライブ開場で顔をあわせたときにはまるで同窓会のように再会を喜びあうことも少なくない。そんな場面から、ライブ開場は開始前から既に温かい盛り上がりを見せていた。この日は、北海道、沖縄、さらにはフィリピンからも駆け付けたファンも。そして、開演前には多くのファンがフロアを埋めた。
 
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2.5 ライブ
 

 
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この日のオープニングアクトは、「路上で歌っていたらAlexに声をかけられ、この日出演することになった」というはしぐちかずひろ。そしてエネルギッシュな女性ボーカルバンドSPLASH LOVERに続いて、いよいよYFEの登場。まずは、YFE日本人スタッフのMomokaが登場し「メンバーたちは今日この日をとっても楽しみにしてきました!」とあいさつ、そしてメンバーたちをステージへ呼び込んだ。大きな拍手に迎えられ、Alex、Jeff、Sef、Ben、Moose、Miss Isabelがステージに次々と登場。
 
そしてSefのギターのフィードバックが、始まりの合図を打ち鳴らすかのように響き、「A View From Withi」からステージはスタートした。彼のギターに厚みのあるベース、ドラムのリズムがヘヴィに折り重なり、一気に観衆を興奮の渦へと引き込んでいった。
 
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「How are you tonight!? (今夜はどうだい?)」Alexが客席に叫ぶように問いかけると、大きな歓声が返ってきた。「Yeah!!」バンドも観衆も、まさしく待ちに待ったこの夜。そんな気持ちが彼らの叫びの中に見られた。激しさからドラマティックなアウトロへと展開する「Where Did We Lose Each Other」、ハードでありながらキャッチーな 「Midnight’s Crashing」はMiss Isabelのボーカルも加わり、さらに会場はヒートアップ。そしてさらに重厚な切れのあるリフが冴える「Empire of Sorrows」へと、興奮のステージを続けた。
 
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中盤、ステージでBenがアコースティックギター、Jeffがベースに持ち替え、Miss Isabelのキーボードソロから始まる「City on Fire」から「Old Noisy Friend」と、せつなく胸に沁み入るようなスローな曲をじっくり聴かせた。このようなしっかりとしたバラードが聴けるのもYFEならでは。単なる騒ぐだけのパーティーバンドではない、「歌を聴かせたいんだ」という彼らの、胸の奥にある思いが伝わってくるようだ。
 
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ステージはクライマックスに向けて、再びドライブナンバーを投入し続けた。ジワジワとハードさが加速していく「1-2-3 (One Step Away)」から、観衆も同調するように、その波に飲まれ再びボルテージを高めていった。Alexもエキサイトし、ついには観衆の荒波の上にダイブ。彼を支える手がフロアから何本も上がる。支え、支えられて存在する彼ら、そんな一面を象徴するかのようだ。
 
そして刹那さとスリルが交差する「Would You Believe」、ある意味YFEの象徴ともいえる曲「Little Sister」、そして「Open Your Eyes」と初期の代表作が続き、客席もステージも留まることを忘れて、さらに激しさの渦は拡大した。
 
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いよいよステージも大詰め。「From the City to the Ocean」でその勢いを増したまま、代表曲の一つでもある「I Just Want You To Know」へと突入し、ラストは「Voice Inside」。ここで曲が終わりきらないうちに、なんと一つ一つドラムセットが解体され、ステージの下で待ち構えたスタッフによってフロアの上に組み直された。シンバル、タム、バスドラ、最後はスネアだけになり、それも取り上げられたMooseは、客席フロアへ移ったドラムセットへと移動。いつの間にかメンバー全員も演奏を続けたままフロアに降りていた。
 
Alexがドラムの上に立ち、観客の中から一人の女性を抱え上げて、オーディエンスの中央で拳を上げると、盛り上がりは最高潮に達した。「ステージ、フロアなんて関係ない、みんなと盛り上がりたいんだ!」そんなYFEのメンバーたちの思いが伝わってくるような光景。普通のバンドであれば相当に異様にも思えるかもしれないが、YFEのステージではまさに儀式のような光景。これがなければYFEのステージではない。
 
そして演奏が終わりかけようとしたとき、オーディエンスの中から「That’s rock’n’roll!!」と声が上がった。Alexもそれに応えると、再びアドリブでセッションが始まる。ステージと客席の垣根は完全に取り払われ、会場全体が一つとなって、「That’s rock’n’ roll!!」のコールの嵐と共に、最もクレイジーな宴(うたげ)の時間が幕を閉じた。
 
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◆セットリスト:
M01. A View From Within
M02. Where Did We Lose Each Other
M03. Midnight’s Crashing
M04. Empire of Sorrows
M05. City on Fire
M06. Old Noisy Friend
M07. 1-2-3 (One Step Away)
M08. Would You Believe
M09. Little Sister
M10. Open Your Eyes
M11. From the City to the Ocean
M12. I Just Want You To Know
M13. Voice Inside
 
◆公式サイト
http://www.yourfavoriteenemies.com/

2.6 ライブ後
 
ライブが終わると、すぐにフロアの観衆と親交を深めあったメンバーたち。一昔前の海外アーティストのように、ステージとフロアを隔てる敷居の高さは、YFEにはない。「ステージ最高だったよ!」「ありがとう!会えてうれしいよ!」ただ笑顔で抱き合う、彼らの間にはそんな光景があるだけだ。
 
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3.東京公演後~帰国

 
3.1 ファンミーティング @新宿(2013年10月6日)
 
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ライブの興奮冷めやらぬ翌日の夜には、過密なスケジュールを割いて新宿でファンミーティングの時間が設けられた。前日ライブ会場で、ゆっくり話や一緒に写真を撮ることができなかった人、ライブに来ることができなかったファンたちと、ささやかながら楽しげに交流のひとときを味わうメンバーとスタッフたち。最後にAlexは、その場にいたみんなを集め、感謝と喜びの気持ちを伝えた。そして、「ファンのみんながそれぞれに交流を持ち仲良くなって、こうして輪が広がっていくことが何よりもうれしい」と、目を輝かせながら語った。
 
最前列に横たわっているのは、YFEスタッフのYBだ。YFEのメンバーは、バンドメンバーとスタッフという垣根もない。彼も重要なメンバーの一人であり、バンドメンバーと同じくらいにその存在感の大きさを見せていた。
 
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3.2 帰国 @成田空港(2013年10月9日)
 
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2週間の滞在が終わり、とうとう帰国する日を迎えた。到着時よりも多い人々が見送りに駆け付け、たくさんのお土産を渡しながら彼らとの別れを惜しんだ。
 
飛行機の搭乗手続きを終え、Alexは、おもむろにメンバーと見送りに来たファンを出発口の前に集めた。すると手にした袋から缶チューハイを何本か取り出して開け、一人一人に紙コップを手渡しチューハイを注いでいく。なんと、その場で輪になって乾杯。そして「またすぐに戻ってくるよ!」と叫び、皆に手を振りながら、一行は出発ゲートの中へと消えていった。本当になんとも最後までクレイジーな、そして愛すべき面々だった。
 
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情熱的なパフォーマンスを披露しながら、時にはフロアへダイブ、そして最後にはフロアで演奏してしまうようなハチャメチャさを持つ彼ら。一見すればとんでもなくおかしなステージだ、と人は思うかもしれない。しかし彼らが人と対面する際に見せてくれる嬉しそうな笑顔、そしてその気持ちそのままに「一緒になにかをやろうよ!」と手を引き、彼らの世界へいざなおうとする姿勢。それこそはこの日に改めて感じた彼らの魅力だった。
 
私は彼らが去った後はいつも寂しさと同時に、ふと心が軽くなっているのを実感することがある。それは、彼らと過ごす間は絶えず笑い、ライブでは思いきり声を張り上げ、叫び、あらゆる感情を洗い出しているからなのかもしれない。もしかするとそれが「ロック」そのものだからではないだろうか?いつだってお騒がせでクレイジーで、誰よりも心温かいYFE。彼らには、まだまだ伝えきれない秘められた魅力がたくさんある。
 
遠くカナダ東側のケベックから約14時間かけて、きっとまた彼らは愛すべきホーム(日本)に戻ってくるだろう。そのときはまたハチャメチャなその様子をお届けしようと思う。空港の展望デッキで、空の中へ飛び立つ彼らを乗せた飛行機を眺めながら「また会える日まで私も頑張ろう!」素直にそう思える私がいた。
(Special Thanks:Momoka Tobari(YFE日本語スタッフ))
 

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Your Favorite Enemies『Between Illness And Migration』(Single, CD+DVD)
KICP-1636/2,200円(税込)
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