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TEXT:鈴木亮介

今波に乗るガールズロックバンドにスポットを当てる特集「rock girly parfait」。前回の清原梨央きみとバンド)に引き続き、今回もきみとバンド森田理紗子(Vocal &Guitar)のインタビューをお届けします。
 
きみとバンドは2020年に結成された3人組ガールズバンド。日向坂46への楽曲提供などで知られる古城康行を音楽プロデューサーに招き、2020年から2021年にかけて47都道府県ツアーを敢行。着実にファンを増やし、2022年8月にはZepp Hanedaでのワンマンライブをソールドアウトさせるなど、注目を集めています。
 
そんなきみとバンドに2022年に正式加入し、メインボーカルを務める森田理紗子は、福井県出身。シンガーソングライターとして10年以上の活動実績を持ち、きみとバンド初期メンバーの卒業に際し、サポートメンバーとしてアルバムレコ発ツアーに参加。その後、2022年1月のツアーファイナルにて正式メンバーとしての加入を発表しました。
 
音楽歴は長いものの、バンドメンバーとしての活動はきみとバンドが初めて。さらに、シンガーソングライターとしての活動も現在進行形で続けています。そんな森田理紗子のバンドとソロ、”二刀流”の背景を伺いました。
 

森田理紗子(きみとバンド) プロフィール
福井県出身の本格派シンガーソングライター。きみとバンド初期メンバーの卒業に際し、サポートメンバーとしてアルバムレコ発ツアーに参加していたが、
2022年1月のツアーファイナルにて正式メンバーとしての加入を電撃発表。その高い歌唱力できみとバンドの音楽面を支えている。一方、自身で作詞・作曲も行い弾き語りなどのライブやCDリリースもしている。二刀流の活躍で音楽界の頂点を目指す!
 
◆森田理紗子 YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/@user-lp4jo9wg3e
◆森田理紗子 Twitterアカウント
https://twitter.com/morimori_rin_

 

 

きっかけは「好きな人が好きな」いきものがかり



 

— 森田さんが音楽を始めたきっかけを教えてください。

 
森田:中学の頃、いきものがかりの曲を聴いたのがきっかけです。それまであまり音楽に関心がなかったのですが、いきものがかりの「花は桜君は美し」に衝撃を受けて、音楽ってすごいな!って思って、そこから歌を口ずさむようになって…友達に何気なく「意外と歌上手なんだね」と言われたことで勘違いするようになって(笑)。それから歌手になりたいと思って歌を始めました。
 

— そうだったんですね。いきものがかりはどういうきっかけで出会ったのですか?

 
森田:当時好きだった男の子がいきものがかりを好きだと聞いて、家に帰ってYouTubeでミュージックビデオを調べたのがきっかけです。褒めてもらいたい一心でカラオケに行っては歌ってましたね。その後高校2年生の頃から月に2回東京のスタジオに歌のレッスンに行くようになり、ライブハウスに出るようにもなりました。
 

— 森田さんは福井県ご出身ということで、当時はまだ福井在住ですよね。東京との往復は結構大変だったのではないですか?

 
森田:歌のレッスンは、ネットで調べて受けたオーディションに関するものでした。書類が通って東京に行くときに初めて母親に明かしたら、勝手に応募したこと自体は怒られたのですが、そこからはオーディションにもついてきてくれて、レッスンを受けることも反対せず「やりたいことをやりなさい」と言ってくれました。ただ、父と祖母はたぶん言わなかったけど「何言ってるの」と思っていたと思います。頑張ってねって言ってくれるようになったのは最近です。
 

— ギターを始めたのはいつ頃ですか?

 
森田:高校を卒業するときにお父さんにギターを買ってもらって弾き語りも始めました。
 

— なるほど。そうすると、中学の頃に音楽に興味を持ち、高校に入って本格的に人前での歌唱も始めて、プロのシンガーを志すようになったのはいつ頃なんですか?

 
森田:それはもう中学のときに友達に歌を褒められた時点です!小さい頃からそれほど主張が激しい方ではないんですけど、歌手になりたいと思う前から、アナウンサーやテレビに出ている人への憧れはあって、人前に立って委員会の委員長をやったりもしていました。前に立って表現する人への憧れは漠然とあったのだと思います。
 

— 元々表現者としての欲求があったところに歌がハマったのかもしれませんね。初めはどのような歌手を目指したのですか?

 
森田:ギター弾き語りではなくいわゆる「歌姫」というような、周りが演奏してくれて私は歌を歌うだけの人になりたいと思っていました。
 

バンドのボーカルを経験して得た「視野の広さ」と「心細さ」
— YouTubeの弾き語り動画なども事前に聴かせていただきましたが、繊細で温かさもある優しい歌声がとても素敵です。

 
森田:ありがとうございます。
 

— ソロとは別に、バンドの一員として歌唱やギターの演奏というのはこれまでにも経験があったのですか?

 
森田:ソロライブのときにバックバンドをつけて出演することはありましたが、バンドとしての活動はきみとバンドが初めてです。
 

— バンドのボーカルとしての歌唱とソロの歌唱とで、発声など歌い方は変わってくるのでしょうか。

 
森田:具体的に言葉にするのが難しいですが、楽曲の感じも違いますし、全然違うものだと思います。ソロは自分が弾いて歌っているので、自分の空間。ここはゆっくりペースを落としたい、静かに歌いたい、など自分でステージを作り上げていきますが、バンドだとドラムやギターなどメンバーの音も聴きながら歌うので、自分だけじゃなくて全部を合わせて、そこに歌を乗せてみんなに届いたらいいなという、視野を広げた歌い方になります。発声も強めだと思います。
 

— 確かにバンドの演奏は生き物というか、その空気に合わせていくところがありますよね。

 
森田:そうですね。自分だけではなく周りと合わせることが大事だと思います。
 

— バンドの活動を経験したことが、その後ソロの活動にも影響はありましたか?

 
森田:以前は一人が当たり前だったんですけど、メンバーがいるという安心感を経験してしまったので、ソロでやるときに気持ちの面で心細くなりましたね(笑)。他のソロ弾き語りのミュージシャンの方が以前「ソロ弾き語りは試練だと思ってやっている」と話されていて、確かになって思うところもあります。
 

— なるほど。バンドを経験したことで逆にソロのつらさを自覚するようになったという。

 
森田:ソロは良い意味でも悪い意味でも自由で、自分で作り上げるものだなという気持ちも強くなりました。でも「つらさ」ばかりではないですよ。始めた頃はいかに間違えないように、上手に歌えるように、と思っていたのが、最近は自分でステージを作り上げる楽しさをより強く感じられるようになりました。
 

— ソロだからこそできることにも改めて気づけたわけですね。

 
森田:そうですね。
 

「人生で一番過酷な3カ月」からの、2023年第一章スタート
— ここまでのバンドの活動を振り返って印象的なことを教えてください。

 
森田:やはりきみとバンドにとって2022年は「Zeppの年」だったと思います。8月のZepp Hanedaという大きな会場でのライブは印象的でした。
 

— Zeppのワンマンライブ開催が決まってから当日まではどのような日々でしたか。

 
森田:これまでと同じではだめだよねということで、プロデューサーはお酒を辞めるなどそれぞれが願掛けをしました。清原梨央はアニメ大好きなんですけどアニメ断ちして、ドラムの大野真依も大好きなネイルを我慢して…
 

— 過酷ですね(笑)。森田さんも何かやめたんですか?

 
森田:私は何かやめるほど好きなことがなかったので(笑)、やめる代わりに何かやろうと思って、体力づくりのために毎朝5キロ走り始めました。コロナ禍で個人個人の時間の方が多く、ライブの発表から本番まで3カ月もなかったので、会わない間はメンバー個々で努力をすると決めました。みんな当たり前に一生懸命やるバンドなので、疑う余地もなくみんな頑張っているから自分も頑張ろう、とそれぞれ準備して、メンバーがそろうタイミングでは合宿も行って、動きを詰めていきました。
 

— 本当に強い思いを持って臨んだのですね。

 
森田:私にとっては初めての大きなステージだったので…ある程度今日ここまでやろうと思ったことはできたけど、果たしてZeppに立つほどの努力はできていたのだろうか、と思うと眠れなくなって、起きて何かやったり。メンバーみんなそれぞれ頑張ったと思います。基本的にきみとバンドはみんなストイックなので、私も入ったからには追いていかれないようにと…人生で一番頑張った3カ月だと思います。
 

— そんな「人生で一番頑張った3カ月」を経ての当日のステージはいかがでしたか?

 
森田:早く本番を迎えて楽になりたいと思うくらいつらいときもたくさんあったんですけど、バーン!って紗幕が下りて、満席の会場を見たときに「あぁまた明日もやりたい!」と思いました。仮にもう1回この過酷な3カ月を経たとしても。全部報われたなと思いました。
 


 

— 当日のライブは終始見どころだらけだと思うのですが、敢えて一つ挙げるとしたらどこがポイントになりますか?

 
森田:ライブはもちろんですが、3人それぞれがMCで自分の思いを語るという時間があって、そこも見どころです。普段のライブでは3人それぞれのMCをやることがなく、当日までメンバーそれぞれが何を喋るか互いにわからなかったので、「そんな風に考えていたんだ」と知って私も本番中涙が出てしまうほどでした。その「思い」の部分をぜひ聞いてもらいたいです。
 

— きみとバンドは日本武道館でのライブ実現を目標に掲げていますが、バンドのボーカル森田さんとして今年成し遂げたいことを教えてください。

 
森田:3月18日(土)に浅草公会堂でのワンマンライブが決まりましたが、これが「第1章」です。「章」が続きすぎないようにとも思いますし、逆に1章だけで私たちにはまだ早すぎたとなってしまうことも怖いと思っていて、日本武道館公演という、現実的にまだ難しいかもしれないけど着実に一歩ずつ進んでいけるように、第1章で終わってしまわないようにと思います。
 

— 「第1章で終わらせない」ためには、どのようなことが必要になるのでしょうか。

 
森田:うーん…必要なことが多すぎて(笑)。ずっと今まで通りの同じ活動をしていて、いつか武道館に行けるよね、ではなくて、きみとバンドは無理をしていく必要があるのかなと思います。Zepp Hanedaも最初は「そんな大きな会場を満席にできるわけがない」とも思われていました。どれだけ周りに批判されても笑われても、どんどん仕掛けていくこと。浅草公会堂も、今も自分たちのキャパでは大きすぎるけど、自分たちの実力や集客に見合ったところで1年間やっていくのではなく、背伸びをすることが必要かなと思います。
 

— バンドの中での森田さんの役割というか、「ここが自分の武器だ」というところを教えてください。

 
森田:同じ楽曲がセットリストに入っていても、「またこの曲か」と思われないように、前回とは違う歌い方で、表現の仕方を変えています。その変化に気づいてくださるファンの方もいて、「今日のこの曲のここはこうだったね」と言っていただけると嬉しくなります。
 

— メンバー3人とも個性的ですが、音楽経験者である森田さんの加入はバンドにとって大きな進化ですよね。

 
森田:大野はモデルをやってますし、清原も女優さんとして演技の仕事もやっていて、私はシンガーソングライターのソロ活動を続けていて、メンバー3人ともバンドと別の顔もありますが、全てはきみとバンドのために、と思っています。メンバー個々の活動をきっかけにきみとバンドを知っていただく方も多いですが、きみとバンドは楽曲もとても良いので、それをしっかりわかってもらえるように、音楽経験者として加入した私がいわば”音楽担当”として、曲を聴いていいねと思っていただけるように、音楽が好きな方にもきみとバンドを好きになってもらえるよう頑張っていきたいです。
 

— 確かに「バンドを組んでから楽器を始めた」という清原さんや大野さんを応援するプロセスもファンにとっては楽しいと思いますが、ミュージシャンとしての活動歴が既にある森田さんの加入で、バンドの演奏力など音楽面のクオリティはさらに上がっていくように思います。

 
森田:私の加入ということだけでなく、大野清原も初心者から始めて3年目となり、演奏スキルがどんどん上がっています。私が加入してから作られた曲もあり、3人での表現の幅はどんどん広がっているので、成長を見守っていくという楽しみもありつつ、バンドの楽曲自体を純粋に楽しめる段階になっていると思います。
 

森田理紗子が音楽を続ける理由

 

— 一方、ソロ活動も今後継続していくと思いますが、ソロシンガーとしての2023年の抱負を教えてください。

 
森田:今まではワンマンライブを年1回程度やっていたのですが、去年(2022年)からレギュラーワンマンということで毎月に近いくらいの頻度で定期的に開催しています。今年もそのレギュラーワンマンはやっていきたいですが、ありがたいことにチケットが早めに完売するようになったので、今年はもう少し大きい会場でワンマンをやりたいと思います。きみとバンドが無理するように私も自分の実力・集客力に見合ったところと限定せず、ちょっと無理できるようにやっていきたいです。
 

— バンドと同様にキャパを広げていくということですね。曲作りに関してはいかがですか?

 
森田:これまで自分の好きなように曲を作ってきたので、自分の好きなミドルテンポの曲が多いように思います。同じように続けるのではなく、今年はギターだけでなくピアノも使っててみるとか、アレンジャーに相談しながら作ったりとか、曲調も幅広く作っていきたいです。
 

— バンド活動による影響もありますか?

 
森田:大きいですね。正直ギターの演奏力に自信がなかったので、今までは自分が弾けるような曲ばかり作っていました。バンドに入ったことで自分の知らないコード進行や、「こういう風に曲って作られるんだな」って学んだこともあったので、自分のできることの幅が広がったと思います。個人では自分の出来る範囲で留まっていたのが、バンドではやらなきゃいけないと思って練習して、技術を高めることができました。だからこそ、学んだことをソロの方でも活かせたらいいなと思います。
 

— 音楽を生業としていくということは勇気ある決断だと思いますし、特にこのコロナ禍でライブ活動も思うようにできなかったりと、ミュージシャンにとっては苦境が続きます。森田さんご自身、音楽を続けることに不安を覚えたことはこれまでありましたか?

 
森田:音楽をやめたいと思ったことは何回もあります。歌を歌うことを職業にしたいと思う人のほとんどは自分の歌に自信があって始めたと思いますが、いざその世界に飛び込んでみると自分よりもっとうまい人がたくさんいて、そのたびに自信は打ち砕かれていきます。私もその一人で、当初一緒にレッスンをしていた子たちの中でメジャーデビューした子もいるし、自信がなくなってしまって、やめようと思いました。コロナ禍でライブが全部できなくなったときも、みんなが今できることをということで配信ライブをやる中、私はなんか一生懸命動くことができなくて…3カ月くらい何もしない時期がありました。
 

— その3カ月間はどんなことを考えていたのでしょうか。

 
森田:何も考える暇もないくらいずっとライブ活動を続けていたので、その3カ月間休んだときは、すごく色んなことを考えました。活動を振り返る余裕がないというのは、歌に向き合いきれていなかったのだと思います。3カ月休んで、ずっと「どうぶつの森」をしながら(笑)、考えないということはできなくて、頭に浮かぶのはやはり応援してくれる人たちでした。音楽は麻薬と言われるように、「やめたいけど、やめられない」「どうせやめないんだろうな」という考えが浮かんできて…
 

— 「やめようかな」というよりは、「やめたいけどやめられない」という思いだったんですね。

 
森田:逆に「やめる」という決断ができたら潔いなと思います。プライドがあるのもあって、ずっとやりたいって言ってたのに今さらやめれないな、っていう思いです。やっぱりやめられないからどうしようかなと思い、YouTubeを始めることにしました。最初は100日毎日投稿しようと決めて…聴いてくれた人の反応が直で返って来ないので結構つらかったですね。何にもならなかったらどうしようって思いながら続けていました。めちゃめちゃ再生されたかというとそうでもないし。少し経ってから、それがきみとバンドのプロデューサーの目に留まって、「100日間毎日続ける根性があるなら」とサポートメンバーとして声をかけていただくことになりました。
 

— YouTubeの活動は、どの辺で手ごたえを感じたのでしょうか。ある日きっかけがあったのか、自然となのか…

 
森田:この瞬間というのはありませんが、きみとバンドに加入できることが決まったときには、報われたなと思いましたね。ただ、100日続けられたことは「やりきった」という自信になりました。やりきったことで性格が変わったくらい。それからは、しっかり決めたことをできるようになりました。自分との約束をしっかり守れるようになったことで、Zeppワンマン前の毎日5キロ走るという目標も達成できたのだと思います。
 

— 続けていくことで、自信は少しずつ、自然と付いてくるのでしょうね。

 
森田:YouTubeを続けているとき、30日目から40日目くらいが一番つらかったのですが、何のために頑張ってるのかなって思うこともあって…音楽の世界は特に、努力したらした分だけ結果につながるということはないし。でも頑張らなかったら、頑張っていないと何にもならないと思います。
 

asakusa

◆ライブ情報
きみとバンド初のホール公演「浅草公会堂」
~Road to Budokan 第一章~ 開催決定!

・2023年03月18日(土)【東京】浅草公会堂
https://tiget.net/events/224549


 
◆きみとバンド 各種リンク先
https://linktr.ee/kimitoband


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