特集

東日本大震災

TEXT & PHOTO:鈴木亮介

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2011年3月11日午後2時46分―――私たち日本人は、この瞬間を一生忘れることはないだろう。国内最大規模の大地震に、未曾有の大津波、1万という単位の行方不明者、そして未だ解決の糸口を見ない原発事故と電力供給の問題…

本誌BEEASTでは、”ロックと生きる…ライフスタイル応援マガジン”という観点から、ともすると不安を煽るだけだったりバッシングに終始している一般のメディアとは一線を画し、ロックの現場で何が起きているか、を冷静にお伝えしたい。また、今後の展望についても読者の皆さんとともに考えていきたいと思う。

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◆アーティスト達は

音楽は、自身の思いを伝え、誰かの心を温めることができる自己表現の手段だ。まずは、国内のトップアーティスト達によって震災後発信されたメッセージをまとめた。

国内のトップアーティストの中でも真っ先に行動を起こし、メッセージを発信したのが、大御所・内田裕也だ。3月19日午後、渋谷ハチ公前にて被災地への義援金を募るゲリライベントを敢行した。同志の近田春夫ジョー山中白竜らとともに、拡声器を使ってJohn Lennonの名曲「Power to the People」を熱唱。その後、スクランブル交差点を渡って公園通りを上り、渋谷C.C.Lemonホールまで募金を呼び掛けながら練り歩いた。

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内田裕也自身、当分の間は毎日6900円ずつ募金をすると宣言。また、27日には大阪でも募金を呼び掛けるミニライブを行ったほか、今後は現地での炊き出しも行いたいと話している。

義援金も続々と送られている。芸能事務所約100社が加盟する。日本音楽事業者協会は、過去最大となる義援金1億円の寄付をいち早く決めた。またアーティスト個人としても、宇多田ヒカルが8000万円、浜崎あゆみが3000万円を寄付した。ユニコーンPUFFYなどが所属するソニー・ミュージックアーティスツは、所属アーティストのステージ衣装や私物などを出品するチャリティーオークションを長期にわたって実施。落札価格は全額が義援金として寄付されるという。さらに、仙台出身のMONKEY MAJIKは、「地元の早期復興のため自分達にしかできないことを」と、いち早く現地入り。瓦礫の撤去などボランティア活動に尽力した。

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中でも芸能界全体を巻き込んで大きな動きを見せたのが、GACKTによる義援金基金「SHOW YOUR HEART」だ。震災発生から2日後の3月13日に立ち上げ、僅か3日後には1万件・1億円を超える寄付が集まった。また、サイト上にはミュージシャンをはじめ俳優、タレント、アスリートなど300人以上を超える著名人からの賛同メッセージも掲載されている。GACKTは自身のブログで「とにかく、一人でも多くの仲間を助けるとき。
他人事じゃない。僕らは今、一つになって進んでいかなければいけない」とコメント。自ら強いリーダーシップを発揮し被災地を全力で支援しようという姿勢が多くの共感を集めた。

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◆現場に携わる人たちは…

一つの音楽が生まれるまでには、様々な立場の様々な人の努力があり、一つでも欠けてしまったらいい音楽は成立しない。続いては、アーティストに対しては裏方という立場で音楽に携わる人達を取材し、今現場がどうなっているのか、「アーティストと同様、音楽で飯を食う人達の本音」に迫った。

まずは楽器店だ。首都圏の大手楽器店については、震災発生直後は他業種と同様に営業できない店舗が多数を占めていたが、震災3日後の14日(月)頃からはおおむね営業を再開。ただし、物流全般に大きな支障が出たことから、入荷の遅れが多数生じたほか、レコード各社の発売延期もあり、3月いっぱいは各ジャンルとも在庫の少ない状況が続いている模様だ。また、音楽教室については生徒の安全を考慮し、18日(金)までレッスンを休止とした所が大半であった。

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続いて、カラオケ店。震災後、節電を呼び掛ける報道がなされると、カラオケ店はパチンコ店などと並び「電力を消費する娯楽施設」として、営業自粛すべきと叩かれた。そうした世論もあってか、企業も運営のあり方について慎重な姿勢を見せており、残念ながら取材NG、掲載不可を立て続けに食らってしまった。

これは都心の繁華街にある某店従業員より聞いた話だが、震災当日は夜を徹して帰宅困難者の受け入れを行い、以後も携帯電話充電のためのコンセントを貸してほしいという要望に積極的に対応したという。そして震災後1週間は、通常の半分以下の売り上げで、普段は活気のある通りにも殆んど人がいない状態だったという。

そして、練習スタジオ。こちらは震災後も通常通り営業している店舗が大半だが、節電が求められることから夜間の営業は自粛している店舗が多い。そして、利用者数はやはり減っているようだ。サウンドスタジオノア渋谷2号店の大内隆範さんによると、震災発生当初は8割もキャンセルが出てしまい、スタッフ数を最小限にし営業時間も短縮したという。また、懐中電灯等に使うためか乾電池を買い求める人もいたようだ。尚、震災から一週間(取材時)が経過し、徐々に予約も増え始めているという。

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ただし、東京23区外の施設にとっては今後も大きく頭を悩ませ続ける問題がある。それが、「計画停電」だ。楽器店、カラオケ、練習スタジオ…いずれも電力消費なしには営業が不可能な業態だ。多摩地区の練習スタジオの中には、安定した経営が見込めないとして、閉店に追い込まれている店舗も出ている。

スタジオをよく利用する学生バンドマン達の実情にも迫った。八王子高校新3年で、Sexual Driveボーカルの藤川僚馬君も、「計画停電」に翻弄されるバンドマンの一人だ。Sexual Driveは30日に吉祥寺ROCKJOINT GBでレコ発ライブを行ったのだが、震災発生当初はスタジオ練習が計画停電のため中止になり、学校が19日まで登校禁止となったという。また、他校では3月いっぱい休校にしたり、校外活動禁止を決めた学校も多く、それによりライブに出られなくなったバンドも多いようだ。

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◆音楽が生まれる最前線、ライブハウスは…

確かに、「計画停電」も然り、また余震の可能性も含めて今後の経営に暗い影を落としているのが、ライブハウスだ。東京・府中市のとあるライブハウスでは、昼公演と計画停電の時間帯が重複したが、春休みということもあり「停電実施が決定した段階で公演開始を夜間に変更する」という対応で乗り切った。しかし今後平日の公演については、そうした融通を効かすのが難しくなるだろう。そして、23区内のライブハウスとて例外ではない。本紙連載「ロック社会科見学」初回にご登場いただいた、高円寺Showboat(杉並区高円寺北)の台信店長に話をうかがった。

高円寺Showboat 台信正典 店長

地震発生当日の状況を教えてください。

台信店長:地震発生時、私は2階の事務所でデスクワークをしながら当日の出演バンドを待っていました。揺れが収まった後、まずは地下のライブハウスに被害状況の確認に行きました。グラスが何個か割れていました。ネットはつながったので調べてみると、どうやら電車も動いていないみたいだし、他の所はもっと大変な状況だったようで、当日のライブは中止にすることに決めました。

翌日以降の営業はどのようにされましたか?

台信店長:翌12日は、当初は開催するつもりでいたのですが、来られない人もいたので中止にし、13日も延期になりました。その後1週間はほとんど中止ですね。通常営業に戻ったのは20日頃からです。唯一、14日は参加できる1バンドだけで営業しました。照明の使う数を減らしたり、装飾や看板などをオフにし、ボリュームを下げるなど節電モードで行いました。お客さんの数はいつもに比べて少なかったですが、この状況で、まして本来複数バンドが対バンする日だったことを考えると、逆に悪くはなかったのかなと思います。

正直、経営に大きな支障が出ているのではないでしょうか?

台信店長:従来、台風や大雪など何かトラブルがあったとしても公演中止は1~2日でした。ライブハウスは今回のような長期にわたる公演中止を想定していない経営なので、結構大変ですね。自粛ムードは仕方ないかもしれませんが、ライブハウスを経営する側としては1日の収益が0になってしまうので、正直に言うと困っています。苦渋の選択ですが…出演バンドからノルマはもらえないですね。

正震災から2週間(インタビュー時点)が経過しましたが、世論は自粛ムードが支配的です。音楽業界に限らず大きなイベントも続々と中止、延期を決めていますが、こうした世論についてどう考えますか?

台信店長:音楽業界はメーカーが自粛をかけているのもあって、大きなコンサートは軒並み中止になっていますね。また、学生のホールレンタルは学校側からNGが出ている状況です。確かに現実的に考えると中止する理由も分かります。もし満杯のホールでライブ中に、地震があったら…自粛ムードは困るけど安全の確保については難しいので、たくさんお客さんが入るようなイベントは中止せざるを得ないのかなと思います。

この状況だからこそ、ライブハウスにできることもあるように思います。

台信店長:そうですね。うちは高円寺で18年営業していて、近隣のお店と今回の震災について話すことも多いのですが、皆さん苦労しているようです。ただ、震災から2週間経って、高円寺は元の街の姿に戻りつつあります。照明は暗いですが。また、現在プロアマを問わずShowboatに出演してもらっているアーティストから震災についてのメッセージをいただき、ホームページ上で公開しています。少しでも早く復興し、純粋にライブを楽しめる日が来ることを願い、出来る限りのことをしていきたいと思います。

「悲しみに打ちのめされるたびに、乗り越えてきたのが僕たち人間の歴史のはずだ。とても明るく生きていける状況じゃない。でも、何か明るい材料がなければ生きていけない」

これは、3月30日に行われたサッカーチャリティマッチで目覚ましいゴールを決め、日本人を心を一つにしたキングカズこと三浦知良の言葉だ。「必要なものから優先順位を付けていけば、スポーツは一番に要らなくなりそうだ。でも、僕はサッカーが娯楽を超えた存在だと信じる。人間が成長する過程で、勉強と同じくらい大事なものが学べる、『あった方がいいもの』のはずだ」とも述べている。これは、音楽も同じだ。

イソップ寓話のアリとキリギリスでは、コツコツ真面目に働くアリと、歌ばかり歌っている怠け者のキリギリスという対比がされていた。しかし厳密には違うと思う。アリはおそらく、夏場仕事が辛い中、キリギリスの歌声に癒され、元気を与えられたに違いない。アリがコツコツ真面目に働くためには、キリギリスの歌が必要だったのだ。

確かに、冬場は食料なしに乗り越えることはできない。けれども、日本は四季の国。必ず、春が来る。次に暖かい季節を迎えた時、また元気に明るく暮らしたい。そのために、例え極寒の時であっても、我々は音楽を手放してはならないのではないか。

≪取材協力≫
内田裕也 公式サイト
http://www.uchidayuya.com/

◆SHOW YOUR HEART(GACKT
http://static.hangame.co.jp/hangame/extra/showyourheart/

◆サウンドスタジオノア 渋谷2号店
http://shibuya2.studionoah.jp/

◆Sexual Drive
http://78.xmbs.jp/sexualdrive/

◆高円寺Showboat
http://www.showboat.co.jp/