純粋で正統なハードロックをプレイするバンドは、日本に数少ない。特に90年代以降は、ルーツにブリティッシュ系ハードロックを持ちつつも、別の音楽性を表現しているアーティストが多いように思う。
ブリティッシュハードロックは70年代にそのピークを向えた。Led ZeppelinやDeep Purple、Black Sabbathなどの全盛期、言うまでもないだろう。70年代は大音量の演奏がシステム的に可能になったことも影響していると思うが、英国のロックシンボルが多く生まれた。80年代近くなると、N.W.O.B.H.M.(ニュー ウェーヴ オブ ブリティッシュ へヴィ メタル)の波がやってきて、IRON MAIDENやSAXONの時代が到来。
しかしN.W.O.B.H.M.のニューウェーヴとは別に、従来のキャリア組も活躍しているのが洋楽ロックの面白いところ。例えば永遠の中堅バンドなどと言われた波乱万丈なUFOも素晴らしい音源を残している。またDeep Purple解散後に、David CoverdaleはDavid Coverdale’s Whitesnakeを結成して、ブルージーな極上のハードロックをMicky MoodyやBernie Marsden、そして08年に亡くなったMel Galleyなどと作り上げた。純粋で正統なハードロックを聴くと、今でもLPレコードを必死に買い漁っていたガキの時代を思い出す。
さて今回のインタビューは、BLINDMANの高谷学。純粋で正統なハードロックをプレイしてくれる日本のBLINDMANの看板ヴォーカリストだ。私が最初にBLINDMANを観たのは、かなり前のこと。友人のバンドが出演した目黒のTHE LIVE STATIONだったと思う。歌の存在感が飛びぬけていたことを覚えている。それからしばらくして、ロック雑誌でBLINDMANがメジャーデビューすることを知った。強烈だった印象を思い出した私は、デビュー作品を買った。私とBLINDMANの出会いはそのような形だった。時は流れ、今、7thアルバム『Re-rise』が発売される。BLINDMANの現在のメンバーは、高谷学(Vocal)・中村達也(Guitar)・松井博樹(Keyboard)・村上克敏(Drums)・山本征史(Support Bass)の5人だ。
高谷:ありがとうございます。BLINDMANは今年で結成から15年経ってるんですが、その間、一度解散してるんですよ。再結成後、今のレーベルのお世話になって今度の作品で3枚目のアルバムなんですね。再結成とはいえ、レーベルも変わって心機一転だったので、再デビューみたいなつもりでしたし、その上で3枚目となると、勝負どころですから・・・「もう一度、這い上がろう!」っていう意気込みから思いついたんです。
高谷:今回は準備もかなり早い段階から始めていたので、楽曲・演奏ともかなり熟したものになってるはずです。余裕がある分、それぞれに凄みが増していると思うし、ライブ感も得られたかと。加えて、サポートである山本君のベースが既存の曲に、物凄い躍動感を加えてくれたんです。今までのBLINDMANと違って、曲が整然と並んでる印象がなくなったと思います。楽曲のどれもがライブで映えるものになってるので、そういう部分を楽しんでもらえたらと思います。
ベーシストということですが、作品を作る過程でメンバー間のコミュニケーションはどうされましたか?
高谷:基本的に、メインコンポーザーの中村がメンバーのプレイスタイルや力量を踏まえて楽曲の叩き台を作ってくるんで、他のメンバーが戸惑うことはほとんど無いんです。プリプロの段階で、各々が好き勝手やることがもう出来上がってるんですよ(笑)。だから、楽曲仕上げのリハーサルは、より自分らしいアプローチを盛り込む作業になります。ただ今回の作品においては、ベーシストがレコーディング寸前で抜けちゃって(苦笑)。サポートをお願いした山本君は、ほぼゼロからだから大変だろうと思ってたんです。ところが山本君はレコーディングスタートと同時にスタジオにほとんど居て、バンドの雰囲気や志向、レコーディングのムードなどを把握する努力をしてくれて、彼なりのアプローチを見事に作品に封じ込めてくれました。彼がそこまでしてくれなかったら、あの躍動感は得られなかったと思いますね。
いますが、今回の『Re-rise』のプリプロの段階で、高谷さんからリクエストしたことなどありますか?
高谷:前作からですが、意図して「~風だからNG」っていう発想はやめようとは言ってました。自分達の音楽性って、もうすでにオーセンティックなものとして認知されてるし、そういうバックボーンがあるからできること。それなら自分達の影響を表に出したっていいじゃないかって。今となっては、たとえ「~風」であっても、料理してるのはBLINDMANであって、それ以外のものにはなりえないんですよね。だから、今回の作品に関してもそういう部分を踏まえつつ、「スケールのでかい曲」とか「ブルースっぽいの」とか抽象的なリクエストしかしなかったです(笑)
高谷:彼に惚れ込んだ理由は、この類稀(たぐいまれ)な作曲能力ですね。典型的なハードロックに頼らない柔軟なアプローチが素晴らしい。人としても、根が真面目だし、とにかく探究心が凄い。結成当時は、ギタリストとしての側面が強くて、テクニカルになりがちだったんですけどそれも今では円熟して、プレイにも物凄く幅が出たし、テクニックに頼らない情感溢れるソロを弾いてます。今、彼はコンポーザーとしてもギタリストとしても、完成されてきてると思います。それでもまだ上を見てるみたいですけどね(笑)。これだけ長い付き合いやってると、ソングライティングチームの大御所らと同様で、人間的に軋轢(あつれき)が生まれた時期もありますよ(苦笑)。でもそれでもこうして一緒にやってるっていうのは、それ以上に自分たちにしか出来ないことが明確にあるからだし、唯一無二となりましたから。国内で、現役でBLINDMANのような音楽性のバンドは居ませんから。もう腐れ縁というか、古女房というか(笑)、パートナーとして当然のようにいる存在です。
高谷:音の事は、俺より中村のほうが卓越してるんで彼のほうが分かってるでしょう(笑)。でも聞く限り、全ての音がぶつからないよう、ミックスの段階からエンジニアと協力して、音の定位やバランスに気を配ったようですね。サポートベースで参加してくれた山本君も耳が良いんで、あれこれアイデア出してくれたし。エンジニアと彼ら二人が頑張って調整した結果でしょうね。ホントに今回の作品は今までにも増して良い音で仕上がったと思います。
高谷:ありがとうございます。誉めていただいて恐縮です。元来、自分がホントに上手いなって思ったことないもんで(苦笑)。ただただ一所懸命で(笑)、曲のムードやテンポ、歌詞の意味などを踏まえて、緩急をつけようとはしてるんですが・・・いまだ、自身の歌には不満が多いので、課題ばかりですね。
高谷:BLINDMANは結成以後、一貫して英詩でやってきました。当初はメンバーにネイティブな奴もいたので俺が自分で書いたものを添削してもらう作業が主でしたが、日本語を訳していく作業は時として意味が曲解されることもあるんですよ。いわゆる意訳って意味で。当然、歌のリズムとかノリに違和感が残ってしまうものもありました。単語が難しい発音だったりすると、もう致命的で(苦笑)、あまり使われない小難しい単語を並べてもROCKじゃないんです。まるで牧師のお説教みたいになっちゃったこともありましたし(笑)。再結成以降、基本的に日本語を訳す手法を止めました。やっぱり歌にのった時に違和感があるんですよ。で、長年歌詞を書いたり、読んだりした経験から、基本的に口について出たフレーズを並べて最終的に一貫したストーリーとなるような詩に直していくんです。最終的にはネイティブな方にチェックしてもらいますけどこうすることで、自分がよく口にする英文のニュアンスを崩さないで歌にできるから、歌ってても違和感を覚えないし、その分発声にも集中できるようになりました。ちゃんと韻も踏めるようになったしね(笑)
高谷:アドバイスというか、お互いこういう悩みはあるよね?ってことですけども。ネイティブではない以上、最低限の発音が出来ていないとリスナーはNGを出しますよね(苦笑)。でもおかしいのが、英語圏に行くとそんなこと気にされない。曲だったり、歌詞の内容に反応してくれるんですよね。レコーディングにしろ、ライブにしろ、自分達がやってる音楽は誰に聞いてもらいたいのか。誰に気に入ってもらいたいのか。それを明確にすることで、英語で歌う必要性の有無がわかるんじゃないでしょうか。何の言語で歌うかってほうが、歌い手にとっては重要な問題だと思いますから。俺は英詩に拘りがあるんじゃなくて、それしか自分が歌ってカッコいいと思えなかっただけなんです(笑)。無理して英語で歌うより、英語で歌ったらカッコいいかも?と思えたらやったらいいと思います。最初から完璧にはこなせませんから、英詩でやるなら根気よく続けることですね。レコーディングのほうが後に残る分、シビアにやらないといけないから大変ですよ(笑)
高谷:基本的に、BLINDMANでは出来ないハードロック・ヘヴィメタルをやるってことですね。いわゆるLAメタルだったり、昨今のモダンなバンドのようなサウンドは、BLINDMANには求められてませんから。個人的な音楽嗜好は、どちらかというとアメリカに代表されるカラッと明るいロックなんです。IRON MAIDENとDef Leppardなら、断然Def Leppard!ってタイプなんですよ。だから、そういうサウンドをやってみたいと。自分でも曲を書いたり、何でもありなとこですね。ギター兼ボーカルってのもやるつもりでいます。
高谷:別バンドでの話でもそうですが、全く抵抗ありませんね。Bass & VocalならNight RangerのJack Bladesが大好きだったし、セッションとかでやることもありましたよ。Guitar & Vocalもチャレンジしたし、それで作品出したりもしてます。別バンドでは、BLINDMANとの差別化を狙ってその辺がメインになる可能性があります。
高谷:ミュージシャン仲間から紹介されたんですけど、クライアントさんがこの声を物凄く気に入ってくださって。個性的だから、洋楽カヴァーだと無理が無いか?って聞いたんですけど、「すげーCOOLっす!」って(笑)。自分のスタイルに無いものまで歌わされるので、最初は物凄く抵抗があったんですが、やってみたら発見も多くて。自分の新たなスタイル発見にもなってて、今は楽しんでやらせてもらってます。
高谷:アウトドアですね。ツールを片っ端から買い込んでます。バーベキューやったり、キャンプやりたいんです。「やりたいんです」っていうのは、まだツールを使ったことがほとんど無くて(笑)。丘サーファーならぬ、似非キャンパーですよ(笑)。でもいずれ、手に入れたツールをフルに活用して自然を満喫したいです。ツアーで地方へ赴いても、そういう楽しみにはなかなか巡り会えないですからね。
高谷:もともと、本格的な活動のスタートが遅かったんですよ。大学まで行かせてもらって、立派な会社にも就職できたのに音楽を諦め切れなかったもんで(苦笑)。とんでもない親不孝ものですが(笑)、中村と出会って以降、15年の音楽のキャリアは恵まれたものであったと思います。一度解散するまでは、ホントに順風満帆でしたし。念願であったメジャーデビューもできたし、それなりの規模の会場でワンマンライブも出来る。全国ツアーで各地を周っても、先々でファンが待っていてくれるのはこの上ない幸せです。メディアの発達で、不特定多数から非難を浴びることもありましたから、一時は本気で歌をやめようと思ったこともあったんですけど。15年もの間、ずっと支持し続けてくれた多くのファンの方のおかげで今も作品を出せる。そういうキャリアに恵まれたことを、今は心から感謝しています。自分の歌は、好き嫌いの分かれる個性だと思いますから、万人に受け入れられるわけではないです。それでも「その声にやられました」って言われると物凄く嬉しく思いますね。
ン!そして弊誌ビーストの読者へ一言お願いします!
高谷:まず、絶対ライブを見てください。今までの経験から、お客さんのほとんどがライブを見てからファンになってくれています。そのくらい、音源には無いBLINDMANの魅力が120%詰まってるライブをやっています。BLINDMANはライブバンドですから。来てもらって、損はさせません。可能な限り全国津々浦々を周りたいと思っていますので、ぜひ遊びに来てください!
BLINDMANの7thアルバム『Re-rise』は、完成度がとても高い。高谷学が語った通り、メンバー自身も勝負作と考えていることはアルバムを聴けば良く理解できる。オープニングの「Running wild」ではオーディエンスの熱いシンガロング(※サビなどを一緒に歌う行為)が目に浮かぶし、最後の「Healer says…」まで一気に引き込まれるように聴けるアルバムだ。実はインタビューを終えてからも『Re-rise』を何度も聴いている。その理由は“聴けば聴くほど新しい発見”があるのだ。どうしても最初は歌メロが耳に入ってくるが、聴きこむと各パートの楽器が実に素晴らしいハーモニーを奏でていることに気がつく。
楽器専門誌ではないので細かいことは書かないが、メンバーのスキルの高さを思い知らされる。ルーツとしてではなく、バンドとしてブレのない純粋で正統なハードロックを、これほど高次元で演奏しているバンドは、確かに今の日本ではBLINDMANだけかもしれない。先日40歳バースディライヴを本誌ビーストでもレポートした山本征史のプレイは、高谷学の言葉にあった「躍動感」という一言に尽きる。村上克敏、通称コージー村上とのリズム隊はBLINDMANの土台をワンランクアップさせたようだ。その土台にメロディ楽器の中村達也と松井博樹のプレイが重なり、強烈な高谷学の歌が乗る。
『Re-rise』このアルバムを何十回も聴いているうちに、私はすっかりLPレコードを買い漁っていたガキの頃へ戻ってしまった。各種要素がミックスされた現代のハード&ヘヴィ系のサウンドも良いが、BLINDMANのようなスタンダードなハードロックを見事に昇華させたバンドを、一人でも多くの人に感じてほしい。そして若い頃ハードロックが大好きだったオジサンにも、『Re-rise』は安心してお薦めできるアルバムだ。私と一緒に“聴けば聴くほど新しい発見”をしてみてはどうだろうか。そんな楽しみもロックのあり方だと思う。
http://www.blindman.jp/
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◆Re-rise Tour 2010
2010年08月07日(土)【新横浜】sunphonix hall
2010年08月28日(土)【滋 賀】ココザ
2010年08月29日(日)【大 阪】ブランニュー
2010年09月17日(金)【目 黒】ライブステーション
2010年10月01日(金)【大 阪】OSAKA MUSE
2010年10月02日(土)【愛 知】Heart Land STUDIO
2010年10月09日(土)【福 岡】CB
2010年10月10日(日)【広 島】並木ジャンクション
2010年10月11日(月)【高 知】BAY5 SQUARE
2010年11月05日(金)【郡 山】CLUB #9
2010年11月07日(日)【新 潟】クラブ リバースト
2010.7.28 Release
01.Running wild
02.In the pain of love
03.Never coming again
04.A foolish clown on the mess
05.High-handed mask
06.Alone with sorrow
07.I need you too bad
08.Holding your heart
09.Leave me alone
10.Healer says…
XQHK-1005 / 税込¥2,940
発売元: TRIUMPH RECORDS