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スタッフヴォイス

鈴木亮介 Vol.14

2010年05月08日

「じゃんけんを説明せよ。」

こう唐突に言われると、何からどう説明して良いか迷ってしまう…という人が結構多いのではないでしょうか。実はこれ、歴とした入試問題です(高知県立高知南中学校・08年適性検査より)。

今ここを御高覧頂いている皆さんも、是非挑戦してみてください。どうでしょう、楽勝ですか?この問題、そんなに単純ではありませんよ。

案の定、中3の教え子達にこのテーマで作文を書かせてみても、半数の生徒が「じゃんけんはグーとチョキと…」なんて書き出しています。

例えば、こういうシチュエーションだったら。
「インドから留学生のタパチャイ君が君のクラスに来た。じゃんけんで班決めをすることになったのだが、タパチャイ君が戸惑っている。さて、どう説明するか。」

まず、「じゃんけん」のルール以前に、「じゃんけん」という概念さえ知らないと仮定しなければなりません。「じゃんけん?ソレ、ナンデスカ?タベラレマスカ?」っていう次元です。三丁目の夕日に出てきた「デリカシー?アメリカのお菓子かな?」というセリフと同じです。

こう改めて考えると難しいですよね。じゃんけんとは?ゲーム?物事をジャッジする時に使う?

さらには、「チョキ」という言葉の解説。「人差し指と中指を伸ばして」…うーん、メンドクサイ。そして、掛け声とか出すタイミングとか、あとはどういうときに使うかも大事ですね。「物事を決める時」と言ったって、総理大臣を決めるのにじゃんけんは使いません。決める物事のレベルがあるわけです。

「百聞は一見にしかず。実際やってみせればいいじゃん」と言えばそれまでですが、この課題は「説明する」ことが条件。自分の中の自明性をいかに問い直し、いかに万人に理解される表現に努めるか。案外難しいのです。

実は、これがすべてのコミュニケーションの基本ではないかと思います。相手と状況を読解し、自己相対化・客観化に努める。これを、ともすると我々は忘れてしまいます。プレゼンスキルとか国際交流とかユニバーサルデザインとか様々喧伝されますが、ここが原点ではないかな、と。

そして何より、コミュニケーションは相手があってのもの。いくら正確に説明しようとも、辞書的な御託が延々並べられては、タパチャイ君の興味関心は薄れてしまい、理解しようという気がなくなってしまいます。一方的に「伝えましたよ」ではダメ。相手に「伝わる」表現を。…最後は自戒を込めて。

2010.05 鈴木亮介拝
http://www.geocities.jp/ryosuke_bellwood/