演奏

GODSPELL

TEXT:西川敦子

1971年にオフ・ブロードウェイで初演を迎えた『GODSPELL』。使用楽曲を収録したアルバムもビルボードチャートの上位にランクインするなど大成功を収めた作品です。その後、ロンドンやトロントでの上演、映画化、ブロードウェイ進出と展開し、日本でも1978年に初めて上演。近年では同公演でユダ役を務めた青井陽治が演出を担当して2001年、2002年、2005年と上演されました。その2001年版でジーザス役を演じたのが山本耕史

今回の公演で再びジーザスに扮する山本は、演出にも初挑戦しています。「BEEAST」でもレポートをお届けした『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』やロックミュージカルの代表的作品『RENT』(1998年および1999年の日本版プロダクション)をはじめ、多くのミュージカルで主演を務めてきた山本の演出手腕に注目が集まる『GODSPELL ゴッドスペル』。初日前日に行われたゲネプロにオジャマして、その様子をうかがってきました。

『GODSPELL』は、新約聖書に収録された4つの福音書のひとつ・マタイによる福音書のエピソードをベースに構成されています。「聖書なんてなじみがないし、難しそう」などと思うなかれ。

マタイによる福音書のエピソードとは、例えば、ある父親と兄弟の話。父から平等に財産を与えられた兄と弟。弟は家を出て、あっというまに手にした財産を使い果たし、食べるものにも困ってしまう。そこで、再び家に戻り、下働きをさせてくれと頼む弟。しかし、父は弟が戻ってきたことを喜び、宴を開いて迎えます。いっぽう、もらった財産に頼ることなく父のもとでこつこつと働き続けていた兄は、戻ってきた弟の待遇に憤慨。父に抗議するのですが…といったエピソードを、出演者がそれぞれ父や兄弟などに扮して演じるのです。

出演者は『GODSPELL』の登場人物を演じながら、さらに各エピソードに出て来る人や動物、あるいは植物などを演じるという、いわば劇中劇が舞台上では次から次へと繰り広げられます。そのエピソードの多くを語り、神の教えを説くのがジーザス(山本耕史)。お互いを許しあうこと、学ぶこと、素直で純粋な心が人間を成長させること、いつでも自分がして欲しいと思うことをほかの人にすること…。セリフと歌とで示されるこれらの教え。決して難解なことではありませんよね?

さて、舞台の始まりは、静かにステージ上に現れたひとりの女性によるアカペラから。まだ客電も落ちていない状態です。そこから徐々に出演者が歌に加わり、客電が落ち…。さらに、ピアノに合わせた『Tower of Babble』では、10人のキャストがソロで同性同士の、または異性とのコンビで、信念を歌い、神を敬う心を歌い上げます。そして、ラストは全員での歌の掛け合い。これぞブロードウェイミュージカル! といった圧巻の掛け合いを早くも聴かせてくれたのでした。

パイプオルガンの音色から始まる『Prepare Ye(The Way Of the Lord)』では、ユダ(内田朝陽)が姿を見せ、悔い改める若者たち(=10人の出演者)を水で洗礼。ここで、やがてもっと偉大な人物が現れると言うユダ。その人物こそがジーザスで、『Save The People』へ。アコギが奏でるメロディにやがてピアノが加わり、ドラムが加わり、ストーリーが導入から本編へと移り行くことを感じさせます。

そして、寓話を語るジーザスのもとにひとり、またひとりと集まる若者たち。ここで注目すべきは、『Day By Day』とピタッとハマッた役者陣の動きです。ミュージカルにはダンスがつきものですが、ここでの動きはそれとはまた別のもの。歩く、手を差し伸べる、背中に手を添えるといった芝居上の動きが音と合致していて、それがまた気持ちともリンクし、場を盛り上げていくのです。

客電が落ちる前から始まるステージ、動きの音へのはめ込み方。それに加えて、これはほかとは違うぞと思わせたのは、一幕と二幕の間の休憩時間。常時3〜8人の出演者が舞台上にとどまり、自由に過ごしています。出演者がちょっとしたお遊びをしたり、オーディエンスに話しかけたりと、これまで見たことのないスタイルの休憩時間がそこにありました。

エピソードはおカタイものばかりではないし、途中途中にマジック的な要素が組み込まれて驚きを与えてくれたり、セリフのやりとりで笑わせてくれたり。でも、楽しいばかりでもないのがこの舞台。仲間であったはずのユダはジーザスを密告する機会をうかがい、やがて若者たちとの別れが訪れます。

一連のストーリーとエピソードが次から次へとさまざまなタイプの楽曲とともに綴られて、休憩時間を含む2時間の上演時間はあっという間。ムーディな雰囲気から一気にダンサブルに盛り上がる曲あり、手足を使ったボディパーカッション・Hands&Feetあり…。その楽曲の配置もまた妙。特に、ジーザスが十字架にはりつけられるシーンでハードなロックというのは、非常に巧み。そして、ここでは歌声の調子の変化も必聴。若者たちが混乱するさまがとてもよく伝わるだけでなく、そのなかでひとり凛と立っている女性(原田夏希)を際立たせます。ここから次曲への流れは秀逸です。

2時間とコンパクトながら、舞台作品を楽しむための要素があらゆるところに盛り込まれ、自然と生き方までも考えさせられる『GODSPELL』。二度三度観ても、間違いなく濃密な時間を過ごせる作品です。


■セットリスト


ACT.1
M00. Day By Day
M01. Tower of Babble
M02. Prepare Ye(The Way Of the Lord)
M03. Save The People
M04. Day By Day
M05. Learn Your Lessons Well
M06. Oh Bless The Lord
M07. All for the Best
M08. All Good Gifts
M09. Light of the World


ACT.2
M10. Turn Back, O Man
M11. Alas For You
M12. By My Side
M13. We Beseech Thee
M14. Day By Day(Instrumental)
M15. On The Willows
M16. Finale
M17. Curtain Call; Beautiful City


~公演情報~
Team YAMAMOTO presents ロックミュージカル
『GODSPELL ゴッドスペル』

キャスト:山本耕史内田朝陽原田夏希福田転球明星真由美中山眞美上口耕平桜井美紀MY A FLOWSong Riders)、松之木天辺飛鳥井みや長谷川富也
ミュージシャン:前嶋康明(keyboard)、鎌田裕美子(keyboard)、中村康彦(guitars)、渡辺大(bass)、加藤直史(drums)
スタッフ:山本耕史(演出)、前嶋康明(音楽監督)、Team YAMAMOTO(翻訳・上演台本・訳詞) ほか

公演日程
・2010年12月5日(日)〜26日(日)@シアタートラム/7,000円(全席指定・税込)
※7日(火)、14日(火)、21日(火)は休演

問い合わせ:
世田谷パブリックシアターチケットセンター
TEL03−5432−1515(10時〜19時)
http://setagaya-pt.jp/

オフィシャルサイト:http://www.sunrisetokyo.com/schedule/details.php?id=521