演奏

ロック・ミュージカル ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ

TEXT:西川敦子
オーディエンスを待ち受けるZepp Tokyoのステージ上には、スタンドマイクにアンプに楽器…。単なるミュージカルを期待して足を運んだ人には一種異様に映るかも。でも、これからここで始まるのは、ロック・ミュージカルという名のライヴ!

『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』といえば、1990年代にオフ・ブロードウェイで2年以上に渡って公演され、さらに2001年には映画化もされた作品。日本でも2002年に公開され、話題に。2004年には三上博史を主演に迎え、日本版舞台も上演されました。

今回ヘドウィグを演じるのは、山本耕史。2007年、2008年に続き、これが3度目のヘドウィグとなる彼は昨年、アメリカでの舞台や映画の主演・監督・脚本を手がけたジョン・キャメロン・ミッチェルとのジョイントライブでさまざまな刺激を受けたのだとか。それだけに、よりいっそう魅力的にヘドウィグを演じてくれるだろうことが期待されます。

イツァーク(ソムン・タク)に呼び込まれ、客席から登場したヘドウィグ。金髪にファーのコートを身につけたヘドウィグがステージに立つとオーディエンスはいきなりの総立ち! そう。ここは、ヘドウィグ率いるバンド・アングリーインチのライヴ会場なのだ。コートを脱ぎ捨て、スパンコールのミニにガーターストッキングという妖艶な出で立ちで奏でる「TEAR ME DOWN」、イツァークとのボーカル対決。圧倒的な声量と迫力で一気にオーディエンスをステージに釘付けにしてしまうのでした。

1曲歌い終えたヘドウィグはオーディエンスに語りかける。「立ったままで大丈夫なの? アナタたち。まだまだしゃべるわよ、アタシ」と。それを聞き、座り始めると「立ってりゃいいじゃないの」と天の邪鬼な言葉を浴びせ、笑わせたりも。そうして始まる幼い頃の思い出話。東ドイツに生まれた少年・ハンセルがベッドの中で母から聞いたのは、「THE ORIGIN OF LOVE」。ここから、ヘドウィグのカタワレを探す旅は始まっていたのです。

ハンセルが母の名であるヘドウィグを名乗るようになったきっかけとともに歌われるのが「SUGAR DADDY」。アメリカ国旗をまとって、アメリカ兵・ルーサーに「祖国に連れてって」と歌いあげます。さらに、そのために自身の一部を取り去るための手術を受けるものの…。その手術の結果をハードなメロディにのせた「THE ANGRY INCH」で歌うのでした。

ピアノ演奏から始まり、ポップ、ロックンロールへと曲調が変わる「WIG IN A BOX」を歌いながら自身も帽子をかぶり、毛皮のコートを着て…と変わっていくヘドウィグの話は、トミーとの出会いに移っていきます。

さて、『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』には、セットチェンジや場面転換はありません。だって、ここはライヴ会場で、オーディエンスはヘドウィグのライヴとトークを楽しんでいるのだから。だから、ステージの上にいるのも常にヘドウィグとイツァーク、アングリーインチのメンバーだけ。でも、時々聞こえてくる声が。それは、隣の会場で同じくライヴをしているトミーの声。ヘドウィグの心と曲を盗んでいったトミーの。

声だけだったトミーが姿を現すのは、「WICKED LITTLE TOWN」。この曲はヘドウィグが初めて書いたものとして途中で一度歌われます。終盤で再び奏でられるとき、そこに立っているのはトミー(山本耕史)。ヘドウィグが昔描いてくれたのと同じように、額にはシルバーの十字架が。トミーがライヴ中に自分のことを語ってくれるのでは、と何度も思い、その度に肩すかしをくってきたヘドウィグ。そんなヘドウィグのことが初めてトミーの口から出たのが、この「WICKED LITTLE TOWN」を歌う前。トミーのライヴで歌われる最後の曲でした。

ヘドウィグが探し続けてきたカタワレ。カタワレ、それは愛。ストーカーのようにトミーのライヴ会場の隣で自らもライヴを続けてきたヘドウィグにトミーの言葉と「WICKED LITTLE TOWN」は届いたのでしょうか。そして、イツァークは…? ヘドウィグの見つけたかったカタワレは…?

ヘドウィグを演じた山本耕史といえば、大河ドラマ『新選組!』の土方歳三役が印象深く、ドラマ・映画俳優と認識されている方が多いのでは? でも、じつは『RENT』などミュージカル作品への出演も数多くあるほか、山本耕史として、またはKOJI
YAMAMOTO & K.D earth
としてCDもリリース。その歌唱力には定評があるうえに、ジョン・キャメロン・ミッチェルから受けたという刺激。それが彼をヘドウィグそのものに仕上げていました。そんな山本耕史と相性抜群だったソムン・タクのパワフルな歌声。さすが韓国を代表する女性ロックシンガー! と思わずうならずにいられません。歌い上げられた数々の楽曲はいずれも体の芯に響くものでした。

カーテンコールならぬアンコールでは、「みんなで遊べる曲を最後に」と再び「SUGAR DADDY」を。もちろんオーディエンスは立ち上がって、音に合わせて思い思いに体を揺らします。最後の最後に「全部出切っちゃいました」と笑った山本耕史。『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』というタイトルのヘドウィグ・アンド・アングリーインチライヴが繰り広げられた1時間30分なのでした。

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[NUMBERS]

M1 TEAR ME DOWN
M2 THE ORIGIN OF LOVE
M3 SUGAR DADDY
M4 THE ANGRY INCH
M5 WIG IN A BOX
M5’ RANDOM NUMBER GENERATION(Yizak)
M6 WICKED LITTLE TOWN(HEDWIG VERSION)
M7 THE LONG GRIFT
M8 HEDWIG’S LAMENT
M9 EXQUISITE CORPSE
M10 WICKED LITTLE TOWN(TOMMY GNOSIS VERSION)
M11 MIDNIGHT RADIO


[公演情報]
ロック・ミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』

キャスト山本耕史ソムン・タク

ROCKBAND ANGRY INCH前島康明(Keyboard)、中村康彦(Guitar)、朝井泰生(Guitar)、渡辺大(Bass)、加藤直史(Drums)

スタッフ村田篤史(プロデューサー)、ジョン・キャメロン・ミッチェル(作)、スティーヴン・トラスク(作詞・作曲)、鈴木勝秀(上演台本・演出)、北丸雄二(翻訳)、前嶋康明(音楽監督) ほか

公演日程
大阪公演:2009年11月27日(金)@大阪厚生年金会館 芸術ホール
東京公演:2009年12月02日(水)〜06日(日)@Zepp Tokyo

オフィシャルサイトhttp://www.lovehed.jp/