演奏

Rock 'N' 切り絵

TEXT:桜坂秋太郎 PHOTO:曲香-mageshang-

切り絵の世界をご存じだろうか。誰もが必ず目にしているものの、深くその世界を知る者は少ないと思う。幼少の頃に経験がある方がいるかもしれないが、私は一度も経験したことが無い。古くからある伝統的な工芸技術で、ロックを表現しているアーティストがいると知り、その個展へ足を運ぶ。作品自体はネットでも閲覧できるが、その細かい繊細さに驚くばかりである。アーティストの名前は大塚翔子。彼女はまだ学生というから驚きだ。
 
20歳前後のバンドマンと接する機会も多いのだが、若き次世代を担う層は、ロックを良い解釈で吸収していると感じる。彼ら親の世代が体験した文化、つまりロックは不良で悪い音楽という解釈は、もはや完全に時代遅れだ。しかし一般的なロックのイメージは、まだその当時のままだったりする。イメージと時代がこれほどズレた音楽はロックが一番顕著だろう。かつての反骨精神を説く人もいるが、表面から内面にその精神は受け継がれている。さて、インタビューをスタートしよう。
 

Photo切り絵アーティスト 大塚翔子
 
広島県出身。親の影響で幼稚園の頃からヘヴィメタル・ハードロックに傾倒。2006年に切り絵と出会い、2007年から本格的な制作開始。現在、吉備国際大学 文化財学部 文化財修復国際協力学科(国内唯一の文化財修復学部)に在学中。第57回福山市美術展覧会デザイン部門入選。P.A.D.&天人合同特別企画展『ぱっどあまんとてん』出展。今回大阪にて初の個展【Rock N’ 切り絵】開催。

— ハードロックやヘヴィメタルが好きになったのは、親御さんの影響ということですが、何かエピソードはありますか?
 
大塚:ライヴデビューはThe Venturesで2才らしいですが、記憶はありません。野外ということくらいしか覚えてませんが…。3才でAerosmith、これは覚えています。ショッキングピンクのスパッツのおじさんが気持ち悪かった…これが私の中のSteven Tylerです。この時の会場は広島のグリーンアリーナーという「体育館」でした。そのためステージまでは真っ平ら。まったく見えません。仕方なく父はライヴの間中、私を肩に乗せて見せてくれました。父はちばらくの間、首が回らなくなったそうです。その後は、うちにあるCDやレコードを片っ端から聴いて過ごしました。
 
— お父さんは相当なロックマニアですか?(笑)
 
大塚:はい、相当マニアックですね。ロックに限らず、ジャズ・ポップス・60年代~80年代の歌謡曲やアニソン…どれを取っても詳しいので「知らないアーティストいるの?」と思ってしまうくらいです。私が父より詳しいのは、LAメタルくらいかな…。
 
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— 音楽はリスナー専門ですか?楽器をやってみようとか…は?
 
大塚:今はリスナーに特化してます。私が小6の時に、Paul GilbertがMI Japanの校長に就任したことを知り、ギターを購入!…しかし、Fコードが押さえられず断念してしまいました。ホントに指の関節が硬いし、開かないんですよね…。紙の代わりに車などに貼るカッティングシートを切り、オリジナルステッカーとしてギターのボディ部分に貼ったりしているので、弾かないのにギターが部屋に5本あります(笑)
 
— 切り絵と出会ったきっかけを教えてください。
 
大塚:センター試験直前の美術の授業でやったのが、きっかけです。その時は、美術室に生徒の人数分のカッターナイフがなかったので、5cmくらいのカッターの刃に直接絶縁テープを巻いただけの物で切らされました(苦笑)。ちなみに、その時に初めて切ったのは俳優のHarrison Ford。最初に切ったのが人物なので、今も人物ばかり切ってしまいます。常に顔の表情にこだわって切っているので、題材として人物を切るのが一番楽しいです。
 
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— 切り絵の作業で楽しいところは何ですか?
 
大塚:切っていくうちに「この人だ!」と特定できるところです。あとは、切り続けていくうちにテクニック的な部分で自分の成長が作品から見えるし、それがちゃんと形に残るところです。
 
— 逆に大変なことはありますか?
 
大塚:一つは、アーティストを題材にしているので、そのアーティストの写真を撮った人の著作権、そして写真に写っている人の肖像権の問題があります。欲しいと言ってくださる方は多いのですが、販売までは至らないことです。もう一つは、リアリティーを追求するあまり「写真じゃないの?」と切り絵だと思ってもらえないことです。
 
— 対象となるミュージシャンを選ぶポイントは何ですか?

 
大塚:聴くものは、グルーブ感があるものなら何でも良いですが、切り絵としては構図とコントラスト、それから「イイ男」ですね(笑)
 
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— サイズにもよると思いますが、例えばCDジャケットサイズだと、1つどのくらい時間かかりますか?
 
大塚:流石にCDジャケサイズは小さいので切ったことはありませんが、A4サイズだと一週間くらいです。複雑なものだと10日くらいかけて作っています。
 
— 今後、ミュージシャン以外を対象にすることは無いのでしょうか?
 
大塚:切り絵になるものなら何でもやってみたいです。例えば、政治家。今は、F1レーサーを切り絵で表現してみたいです。
 
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— 『Rock ‘N’ 切り絵』は初の個展ということですが、今後の「切り絵」活動はどのように考えていますか?

 
大塚:正直、今回の個展で疲れ果てました。作品創りに疲れたのではなく、準備と対応にエネルギーを全部取られた感じです。これは慣れていないからでしょうけど…。
当面は大学生に戻ります。卒論もありますしね。切り絵に関しては、次は東京で個展を開くのが目標です。
 
— 今回は大阪での個展ですが、東京の個展も楽しみに待ってます。当面は学生生活に集中ですね。

 
大塚:はい。しばらくは学生生活です。
 
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— 大学では文化財修復学というのを学ばれているそうですが、例えばどのようなことを学ばれているのですか?
 
大塚:美術館、博物館や寺社所有の文化財や絵画作品、巻物、古文書、立体物などの実物作品を通して保存修復の技術を学んでいます。夏期の長期休暇などを利用し、博物館や美術館で学芸員実習をしたり、3月には講義の一貫として、ウィーンにさまざまな美術館や修復工房を廻ってきました。
 
— 将来の夢を教えてください。
 
大塚:んー…最近になってやっと自分の切りたいものが切れるようになってきたので、今が一番楽しいです。実はまだ切り絵を始めて3年も経っていないんですよ。今回個展をして、ここはこうした方がいい…とか色々課題が出てきたので、今はその課題を着実にクリアしていこうと思っています。そうすれば今後の展開も見えてくると思うので。将来の夢というか…あまり「切り絵」というものを知っている人が少ないので、一人でも多くの人に「切り絵」というものを知ってもらえるように活動できればいいな、と思っています。
 
— 最後にビースト読者へコメントをください。

大塚:ロック好きの方に見ていただけて光栄です。今後ともよろしくお願いします。

この記事を読んだ後、ぜひ下段にあるリンクから、大塚翔子公式サイトへ飛んでほしい。ギャラリーがあるので、実際にその切り絵を目にすることができる。切り絵を語れるほど、私もその世界を知らないが、彼女の作品からは、エネルギーに似たものをキャッチできる。アーティストとして、切り絵とロックが自分の中で融合していることが、いたって自然なことなのだろうと思う。一見すると別の文化のようだが、こうした融合により、文化は成熟していくものだ。
 
本誌BEEASTでは、ロックの定義を“魂を揺さぶるような音楽”と定義している。魂を揺さぶるような音楽をどう表現するかは、アーティスト次第だ。楽器を持って演奏することはスタンダードな手法だが、彼女のように別の表現でロックすることも、実に素晴らしいと思う。今後も多彩なアーティストを紹介してみたい。自薦他薦問わず、BEEAST編集部へ一報いただければ幸いだ。
 

切り絵アーティスト 大塚翔子
公式サイトhttp://www.beeast69.com/rock_n_kirie/