演奏

Young@Heart is Alive and Well in Japan

TEXT:西川敦子

年を取っても楽しく幸せに過ごしていられるかな? そんな心配、「BEEAST」読者にはまだ少し早いでしょうか。だけど、人は誰しもいつか老いるもの。でも、心配なんていらないよ。音楽が、歌が、ロックがあれば! そう思わせてくれたとってもとっても素敵なライブでした。

2010年3月27日(土)17時。老若男女・国籍を問わない多くの人たちが席を埋めるBunkamura オーチャードホールの舞台に、はるばる日本にやってきたコーラス隊のメンバー26名が姿を現しました。彼ら、彼女らの名はヤング@ハート

マサチューセッツ州ノーサンプトンで1982年に誕生したひとつのコーラス隊。それがヤング@ハートです。それから28年。全米、ヨーロッパ、オーストラリア、カナダと世界各国で公演を重ねてきたヤング@ハートが初めてのアジア、しかも日本へ。残念ながら結成当時のメンバーはひとりも残ってはいません。それも仕方ないことなのかも。だって、ヤング@ハートを構成するメンバーの平均年齢は80歳なのだから。

静けさに包まれたホールに、静かに静かにピアノと女性のコーラスが響きます。いよいよ始まったライブの1曲目は「You Can’t Always Get What You Want」。いわずと知れたThe Rolling Stonesのナンバーです。

なぜロックマガジンである「BEEAST」でコーラス隊のライブレポートを? そう思われた方もいらっしゃったかもしれませんね。でも、もうおわかりいただけたのでは? そう、ヤング@ハートはロックナンバーを歌い上げる、世界一イカしたロックンロール・コーラス隊なのだ!

「You Can’t Always Get What You Want」のリードボーカルは、80歳のルイーズ・カナディ。彼女の厚みのある声にコーラスが重なり、この曲のひと味違った魅力を引き出してくれました。1曲目にして、オーディエンスはヤング@ハートの歌声にもう夢中です。

曲ごとに男性だったり女性だったり、ひとりだったりふたりだったり。さまざまなメンバーがメインになって、次々と曲を奏でていきます。「Dancing in the Dark」ではミラーボールも回り、思い思いのダンスも披露。さらに「Somebody to Love」では揃いの振りで踊ってみせ、ステージ上を移動してフォーメーションを変えたりも。とても平均年齢80歳とは思えません!

勇ましいかけ声から始まった「Purple Haze」は、男女の掛け合いで。魔法をかけた彼女とかけられて紫のけむりに包まれてしまった彼、ですね。続く2曲は男性がメインに。「Martha」の優しく包容力のある歌声が印象的でした。

第1部のラストは「Road to Nowhere」。アカペラから始まるものの、そこにバンドの演奏が加わり、手拍子が加わり…。「baby it’s all right」ってヤング@ハートが歌うと、ホントに何があっても大丈夫だって気がしてきます。それほどに説得力があるのは、やはり彼ら彼女らが重ねてきた時間のせいでしょう。そんなパワーを受け取っている間に曲はどんどんテンポアップ。オーディエンスもヒートアップ。ボブ・シルマンに指揮されてヤング@ハートと一緒にかけ声かけて。じつに楽しい1曲となりました。

青いシャツにジーンズというスタイルから、赤と黒の衣装に着替えたヤング@ハートが第2部のオープニングに用意した「She’s Not There」では、バンドメンバーの紹介も。続く「Please Send Me Someone to Love」は83歳のジーン・ハッチがメインをとり、パンチのきいた低音から伸びやかな高音まで、その歌声で魅了したかと思えば、間奏ではセクシーなダンスをくりだしてオーディエンスを沸かせていました。

「Baby Please Don’t Go」から「I Wanna Be Sedated」までメドレー的にテンポよく聴かせたあとは、ボブ・シルマンから「ありがとう」と日本語で挨拶が。そして、次曲「Michael Jackson Medley」を紹介。ジョン・ラインハートが歌う「I Want You Back」「Man in the Mirror」に、ホールは歓声でいっぱいになったのでした。

これまでのメンバーの歩みを振り返るように、幼い頃から現在までの写真をスクリーンに映しながら歌われた「Changes」、そして「I’m so Tired」を挟んでは、「Japanese Medley」へ。ヤング@ハートは、来日に際して日本のロックナンバーを歌いたいというリクエストを出したのだとか。そこで、公式サイトでは歌ってほしい曲を募集。その結果を送り、2月から猛練習を。もちろん歌はすべて日本語。さて、どんな曲が歌われたのか…?

ソプラノの美しい声で奏でられたのは「上を向いて歩こう」。途中コーラス隊の口笛がメロディを綴る場面も。お次は「リンダリンダ」。ボブ・シルマンの「one two three」ではなく「イチ、ニー、サン」という日本語のカウントに合わせ、全員声を揃えてのパワフルなサビに突入! かと思えば、一転アカペラで聴かせたりも。そして、最後は「雨上がりの夜空に」。この名曲の登場に、オーディエンスも立ち上がり、ヤング@ハートと声を合わせます。歌声と大歓声と。このうえなく盛り上がり、会場中が一体となったのでした。

ボブ・シルマンの「最後です」という言葉に、思わず会場からは「え〜」という声。この楽しい時間がいつまでも続けばいいのに…。そんな思いがあふれるなか、最後の曲である「Walk on the Wild Side」へ。「Everybody come on walk!」のかけ声に誘われて、ヤング@ハートもオーディエンスも思い思いに体を揺らしました。

鳴り止まない拍手に、アンコールとして2曲をプレゼントしてくれたヤング@ハート。「Yes We Can」では、ステージの上も下も関係なく、みんなで手拍子を。「やればできる」「力はあるんだ」と力強い歌声にいっぱい励まされたら、本当の最後です。「Forever Young」。この曲の歌詞を強く強く印象づけるのは抑えた歌声、そして何より歌い手たち。最後は、右手を高く掲げ「Forever young」(「いつまでも心は若いままで」)と声高らかに歌うヤング@ハートのメンバーたち。こんなにもソウルフルな「Forever Young」は誰にも歌えないんじゃないだろうか。そんな歌声だからこそ、聴いている人たちの魂にも届いてくるのです。その証拠に会場には涙する人の姿も…。

歌ってすごい。音楽ってすごい。歌う人も聴く人も元気にする。笑顔にする。でも、涙も流させる。それをヤング@ハートがたった今、目の前で証明してくれている。音楽の、歌の、ロックの素晴らしさを目で、耳で、何よりハートで感じさせてくれたのがYoung@Heart is Alive and Well in Japan!

終演後、ロビーには私服姿のメンバーが。なかには、杖をつく人や車イスに乗る人も。本当にフツーのおじいちゃんとおばあちゃんなのだ。だけど、素敵なおじいちゃんとおばあちゃん。1ステージ終えたばかりなのに疲れも見せず、揃ってお客様を見送るのだという。ヤング@ハートの歌に心満たされたオーディエンスは握手しながら気持ちを伝え、メンバーもそれに応え…。笑顔がいっぱいあふれていたオーチャードホールでした。

【セットリスト】

第一部
01. You Can’t Always Get What You Want(The Rolling Stones
02. Come as You Are(Nirvana
03. Schizophrenia(Sonic Youth
04. Dancing in the Dark(Bruce Springsteen
05. White Rabbit(Jefferson Airplane
06. Somebody to Love(Jefferson Airplane
07. Purple Haze(Jimi Hendrix
08. Martha(Tom Waits
09. Heaven(Talking Heads
10. Road To Nowhere(Talking Heads

Intermission 20 minutes

第二部
Film:Stayin’ Alive Music Video
11. She’s Not There(The Zombies
12. Please Send Me Someone to Love(Percy Mayfield
13. Baby Please Don’t Go(James BrownBig Joe Williams])
14. Do Something Different(Brave Combo
15. Cure for Pain(Morphine
16. Waiting Room(Fugazi
17. I Wanna Be Sedated(Ramones
18. Michael Jackson Medley:I Want You Back(Jackson5)〜Man in the Mirror
19. Changes(Phil Ochs
20. I’m so Tired(The Beatles
21. Japanese Medley:上を向いて歩こう(坂本九)〜リンダリンダ(THE BLUE HEARTS)〜雨上がりの夜空に(RCサクセション
22. Walk on the Wild Side(Lou Reed

アンコール
23. Yes We Can(Pointer SistersAllen Toussaint])
24. Forever Young(Bob Dylan



【MEMBERS】
Young@Heartパトリシア・ブースヘレン・ボストンパトリシア・ケイディルイーズ・カナディクレア・クーチャーディック・ドラゴンパトリシア・マクティー・アーヴィンジーン・フローリオジーン・ハッチハイ・ハベルトパトリシア・ラリーズアイリーン・リックブロック・リンチスティーヴ・マーティングラント・ミルナージョセフ・ミッチェルドーラ・モローグロリア・パーカーグレンダ・フィリップスジョン・ラインハートフラン・サエドジャック・シュネップジャニス・ローレンスシャーリー・スティーヴンスアンディ・ウォルシュ

Directorボブ・シルマン

BANDジム・アルメンティ(Bass)、ウィリアム・アーノルド・ジュニア(Drums/Percussion)、フレデリック・アレクサンダー・ジョンソン(Guitar)、ケン・マイウリ(Piano)、スティーヴ・サンダーソン(Percussion/Vocal)、デイヴ・トレンホルム(Saxophone/Flute/Clarinet)


【ヤング@ハート公式サイト】
http://eplus.jp/sys/web/s/yahj/index.html