「ロックは世界を変えられるのか?!」。
これは、舞台『ロックンロール』のキャッチコピー。「BEEAST」読者のみなさんにとって、かなり気になるコピーなのでは? もちろん、編集部としてもこの作品は要チェック! ということで、公演前日に行われたゲネプロにオジャマして参りました。
『ロックンロール』は2006年にロンドンで、翌2007年にはブロードウェイで上演された話題作。イギリスの劇作家であるトム・ストッパードが手がけた作品です。トム・ストッパードは、チェコでユダヤ系の家系に生まれ、その後シンガポールからインドへと居を移します。そして、インドで受けたのが、イギリス式の教育。『ロックンロール』が生まれた背景には、恐らくこのような彼の生い立ちがあるのではないでしょうか。
お芝居の始まりを告げたのは、舞台上のスクリーンに映し出されたモノクロ写真。そして、浮かび上がる「1968年」の文字。チェコスロヴァキアで起きた改革運動・プラハの春とソビエト連邦を中心とするワルシャワ条約機構軍の軍事介入と。そんな時代背景をモノクロの写真が物語っているのでした。このプラハとケンブリッジが物語の舞台です。
ファーストシーンは、ケンブリッジから。ケンブリッジ大学教授であり、マルクス主義を唱えるマックス・モロー(市村正親)の自宅を彼の教え子・ヤン(武田真治)が訪れます。ヤンは自らの出身地であるプラハに戻るといい、しばしの別れを告げるための訪問でした。なぜ彼は、激動の時代へと踏み出していたプラハへ戻る決意を固めたのか? それは、ロックンロールと母親を守るため。そんなヤンを快く送り出すことができないマックス。マックスの娘・エズミ(前田亜季)もまた…。エズミはヤンに密かな恋心を抱いていたのでした。
そして、舞台はプラハへ。秘密警察で取り調べを受けるヤン。彼を問い詰める取調官はこう言います。「荷物の中には、反社会的な音楽のレコードのみ」と。ヤンは「それについて論文を書こうと思っているので」とはぐらかしますが…。ヤンはロックを愛していました。
ときは変わり、1969年。変わらずプラハにいるヤンの部屋を友人・フェルディナンド(山内圭哉)が訪ねます。ヤンの部屋のウッドシェルフには、レコードがズラリ。壁には彼が好きだというチェコのバンドであるThe Plastic People of the Universeのポスターが。そんな彼の部屋でフェルディナンドが興奮気味にしゃべるのは、The Beach Boysのライブの話。フェルディナンドはチェコの改革運動に関わった人物の解放を求める署名活動をしていて。ヤンにも度々署名を頼むのですが、彼が応じたことはなく。それでも、ヤンからレコードを借りたり、ダビングしてもらったり。ヤンとフェルディナンドをつないでいたもののひとつは、ロックなのかもしれません。
いっぽう、ケンブリッジではエズミが結婚して娘をもうけ、マックスの妻・エレナ(秋山菜津子)はヤンと同じくチェコ人のレンカ(黒谷友香)に古典を教え…。そこでマックスはレンカからヤンが逮捕されたと聞きます。逮捕の理由は、The Plastic People of the Universeの権利を守ろうという嘆願書にサインをしたため。それを知ったマックス、そしてエズミは…。
やがて、戻ったヤンを部屋で待っていたのは、砕かれたレコードの数々。無事だったのは、フェルディナンドがヤンの留守中に勝手に持ち出していたものだけで。割れたレコードを手にとり、折れ曲がったジャケットをもとに戻そうとするヤンの姿、そしてその気持ち。「BEEAST」読者には痛いほど伝わり、共感できるはず。
さて、ヤンはプラハにいてもエズミからのプレゼントを受け取っていました。それを届けるのは、マックスだったり、エズミの夫・スティーブン(西川浩幸)だったり。彼らが持ってくるのは、レコード。スティーブンがプラハを訪れた1987年には、カセットテープでした。それは、そちらにはCDプレイヤーはないだろうから、とエズミがダビングしてくれたもの。そういえば音源がレコードからCDへと移り変わっていったのはその頃だったなぁと、なつかしく思い出せる1シーンでした。
それからさらに月日は流れ、1990年のケンブリッジ。1968年にヤンがその自宅を訪れたときにはすでにガンを患っていたエレナはこの世を去り、マックスは70代に。エズミ(秋山菜津子・2役)はスティーブンと別れ、16歳になった娘・アリス(前田亜季・2役)を連れてケンブリッジに戻っており…。そこにやってきたのは、ヤン。ヤンからマックスにある書類が手渡され、語られたのは1968年からこれまでのこと。
ときに同調しあい、ときに反発しあい。マックスとヤンとの間にあったのは、師弟愛? それとも友情? そして、幼い頃ヤンに恋心を抱いていたエズミとヤンは…?
1968年から1990年まで、20年以上に渡る友情と愛情の軌跡を描いた『ロックンロール』。「プラハの春」「西側」「共産主義者」などの言葉が次々とセリフとして飛び出し、当時の社会情勢や時代背景にさほど詳しくなければ、正直少し難解かもしれません。しかし、友情や愛情、そして音楽はいつの時代も変わりなくそこにあります。時代背景を知らずとも、十分に楽しめるはず。
さらに、「BEEAST」的見どころ(聴きどころ?)となるのは、やはり当時のロック。エズミの部屋から聴こえてくる曲だったり、ヤンの部屋で流される曲だったり。それに加えて、時間の経過やケンブリッジとプラハとの転換時には、スクリーンにその時代を彩ったBob DylanやThe Plastic People of the Universe、The Velvet Underground、Pink Floydといったアーティストやバンドのレコードジャケットが映し出されると同時に曲も流れます。
そして、何よりもラストシーン! The Rolling Stonesに詳しい方ならご存じの通り、彼らは1990年夏に初めてプラハでライブを行いました。そのときポスターには「Tank out, The Rolling Stones in」(戦車が去り、ストーンズが来る)というコピーが書かれていたといいます。自由を手にしたチェコの象徴ともいうべきライブ。それを臨場感たっぷりに味わえるラストですよ!
『ロックンロール』
キャスト:市村正親、秋山菜津子(武田真治)、山内圭哉、黒谷友香、前田亜季、上山竜司、西川浩幸、月船さらら、森尾舞、檀臣幸
スタッフ:トム・ストッパード(作)、栗山民也(演出)、ほか
公演日程:
・東京公演:
2010年08月03日(火)~08月29日(日)@世田谷パブリックシアター/S席8,500円、A席5,500円(全席指定・税込)
※11日(水)~17日(火)、24日(火)は休演
問い合わせ:
ホリプロチケットセンター:TEL03−3490−4949
主催:テレビ朝日、ホリプロ
企画制作:ホリプロ
オフィシャルサイト:http://www.horipro.co.jp/ticket/kouen.cgi?Detail=145