逃避行をテーマにしたこの曲が終わると、PANTAがマイクに向ってポツリと一言。
「今日は何を歌っても、××ピーに捧げる歌になっちゃうね」
菊池がギターを白いストラトキャスターに持ち替えて、ファンクリズムを刻み始めると、PANTAは、女性スパイの暗躍を想起させる詩を歌い出しました。2番目にリクエストが多かったという「クラブハウスで待つよ」この曲のジャングルビートは最高でした。
TEXT:児玉圭一 PHOTO:万年平男
2009年8月8日(土)新宿Naked Loftにて、PANTAと菊池琢己(以下、菊池)のアコースティックユニット、響のオール・リクエスト・ライヴ『饗宴 Vol.6』が開催されました。 一体何が歌われるのだろうか?……そんな期待が、こんなに強かったライヴは、最近なかったような気がします。40年の活動歴を誇るPANTAが、頭脳警察〜ソロ〜PANTA&HAL〜陽炎〜響で発表した全ての作品から、チケット購入者が聴きたい曲を事前投票した順位に準じて演奏するという、今宵のスペシャル・オールリクエスト・ライヴ。ビーチ・ボーイズが流れる会場に詰め掛けた熱烈なファンの皆さんは、我等がヒーローの登場を今か今かと固唾を飲んで待ち構えていました。 午後7時、場内が暗転すると、リンダ・ロンシェタットのドリーミーな「In my room」が流れ出し、黒い長袖シャツ、タイトなジーンズ、アーミーブーツ、薄い紫色のサングラスにヘッドバンドを身に纏ったPANTAと、赤いシャツ、無造作に被ったカンゴールハットがクールな菊池がステージに姿を現し、ステージ右側のスツールに腰掛けたPANTAは、リンダ・ロンシェタットの歌声に陶酔した表情を見せ、SEがフェイドアウトすると、ヘッドに響のロゴマークが刻まれた黒いアコースティックギターを抱え、運命を見定めるような目つきになって、オープニングナンバー「眠れる兵隊」のイントロを奏で、ショウの幕を切って落としました。 PANTAのハードストロークとの絶妙の対比を見せる、菊池のサンバースド・テレキャスターから繰り出されるブルージーなギタープレイに魅せられていると、間断無く、曲は疾走感溢れる「NO MORE BLACK RAINBOW」に繋がれました。 PANTA「こんばんは、響です。のっけからスピーディーな曲を演ってしまいました…今日はオールリクエスト・アコースティック・ライヴです、最後まで楽しんでいってください!」
1985年リリースの『反逆の奇跡』から「五月雨にスラー」が始まると、すかさずオーディエンスから熱い歓声が湧き上がりました。
逃避行をテーマにしたこの曲が終わると、PANTAがマイクに向ってポツリと一言。 「今日は何を歌っても、××ピーに捧げる歌になっちゃうね」 菊池がギターを白いストラトキャスターに持ち替えて、ファンクリズムを刻み始めると、PANTAは、女性スパイの暗躍を想起させる詩を歌い出しました。2番目にリクエストが多かったという「クラブハウスで待つよ」この曲のジャングルビートは最高でした。 曲は続いて、菊池のアルペジオが冴える「バニシング・ロード」へ。PANTAの危機感に満ちた絶唱に煽られた後で歌い出されたのは、戦時下イラクの凄絶なドキュメント「七月のムスターファ」でした。 この曲は、アメリカ空軍兵200人に対して、たった1人で戦い抜いた末に壮絶な戦死を遂げた14歳の少年兵に捧げた鎮魂歌で、サウダージ感溢れるリズムに乗って歌われる「彼も母の子、誰も母の子」という歌詞が身に染みました。 次に演奏されたSHOW-YAの寺田恵子に提供した骨髄バンクのテーマソング「スコア」を歌う前にPANTAは、この曲を捧げた不治の病を得て夭折してしまった女の子の事を話してくれました。 「今夜、歌う曲は全て鎮魂歌かもしれませんが・・・次は発売当時に色々な論争を生んだ曲です」 1982年発売の『KISS』から、賛否両論だったスイート路線の隠れた名曲「悲しみよようこそ」を歌い終えた後、PANTAは「暑いねぇ!」と言って、黒いシャツを脱ぎ捨てようとしてPAスピーカーに右手をぶつけてしまいました。 PANTA「痛てっ!」 白いノースリーヴTシャツ姿になったPANTAは、9月封切りの出演映画『カムイ外伝』の撮影エピソードを披露しました。 「『カムイ外伝』の劇場版予告編は、俺が演じた絵師の『酷いことよのぉ』というセリフで始まるんですよ…あの撮影の時、俺、まだ怪我した足首が完治していなくて。(PANTAは、2年前の名古屋でのライヴ中に、右足首を骨折してしまったのです)だけど、板の間に正座して、佐藤浩市の顔を見上げながら演技をしなければいけなくて。いやぁ、ここ1年は、本当に最悪でした(ブーツの爪先を見つめて)だけど、このブーツを履いていたおかげで、俺は助かったんだよな・・・さぁ、次の曲は皆さん、ゆったりと寛いで聴いてください。長い曲ですから」 PANTA版「Desolation Row—廃墟の街」と言うべき「マーラーズ・パーラー〜マーラーズ・パーラー2」は何と、25分を超えるロングプレイ。PANTAの歌に寄り添うように奏でられた、菊池のギターが最高でした。 そして、僕(児玉圭一)が最も聴きたかった、夏にピッタリのレゲエナンバー「つれなのふりや」ではPANTAと観客とのコール&レスポンスが、ひたすら感動的で、個人的には、この曲をずっと聴いていたかったです。 「頭脳警察のニューアルバムのレコーディングが、まだ終わっていなくて。曲もまだ全部書き上げていなくて。でも、リリース予定日の10月21日には、必ず間に合わせます!『俺たちに明日はない』に期待していてください!秋には頭脳警察のツアーも始まります!」 再結成頭脳警察のナンバー、「セフィロトの樹」の興奮が覚めやらぬ中、PANTAは「最後の曲になりました」と言い、「歓喜の歌」を歌い始めました。ゴスペルを思わせるスピリチュアルなナンバーで、オーディエンスの皆さんも「ラララ」のコーラスを歌っていました。そして、エンディングにSEが流れ、この曲の録音に参加し、先日夭折されてしまった川村カオリの朗読が始まると、PANTAは、俯いて、両手を掲げました。 「川村カオリに乾杯!」 ギターをスタンドに置いた歴戦の勇士たちが、舞台袖に去って行くと、ファンの皆さんは、響を呼び戻すべく、熱烈なカーテンコールを2人に贈りました。 アンコール1曲目、菊池のジョン・リー・フッカー張りのギターと、地獄の番犬のように叫ぶPANTAが、とてもイカしていた、とっておきのブギーナンバー「ドーベルマン」の破壊力が新宿の街のノイズを掻き消し、頭脳警察の新録音に漏れたというポップでリズミックな新曲「マインマイン」の残響の中、再び楽屋に消えた響は、盛大な拍手の波に乗って、再びステージに戻って来ました。 2回目のアンコールで演奏されたのは、「死ぬまで離さない」そして、最後の最後にPANTAが歌った曲は「これは、最初から響にピッタリの曲だと思った」というバラード「MI・DA・RA」でした。 歌い終えて、客席にピックを放ったPANTAは、立ち上がって、熱心な声援を贈っていた、最前列のオーディエンス数人にハイタッチをした後、会場全体に向けて感謝の言葉を述べて、ステージを降りました。
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