連載

ロック社会科見学 ステージ6★音楽配信・プロデューサー編

music3(ミュージックキューブ) 小竹克昌プロデューサーに突撃取材!
TEXT & PHOTO:鈴木亮介

ロックという切り口で様々な世界で働く人々に密着し、その仕事の魅力を伝える連載『ロック社会科見学』。第六弾もスズキが担当させていただきます。

今回ご紹介するのは「音楽配信の仕事」。昨今はCDが売れない時代と言われ、若い人に限らず音楽はダウンロードが主流となりつつあります。そこで気になるのは、この「配信」の世界。一体だれがどのようにして、その世界に携わっているのでしょうか。そもそもどんな仕事があるのかも含めて「何が分からないか分からない」状態のまま、「この人に聞くと分かるよ~」と紹介された人を訪ねて、吉祥寺のスタジオ・レダに向かいます。現れたのは、JYOJI-ROCK審査員としてもおなじみのこの人!

music3代表 曼荼羅株式会社企画室
小竹克昌 プロフィール

1979年富山生まれ。AB型。中学の終わり頃よりギターを始め、学生時代はバンド活動に明け暮れる。1999年にスピードスターミュージックに入社し、マネージメント業務やレーベルでの制作業務を担当。2009年に曼荼羅に入社し、music3の立ち上げに参加。アーティストの楽曲プロデュースから配信、営業まで一人で手掛ける。

— まずは小竹さんの音楽歴から教えてください。

小竹:中学の終わり頃からギターを始めて、高1でバンドを組み、それ以来音楽はずっと続けています。この業界に入ったのは20歳の頃です。当時自分は曼荼羅Ⅰでバイトしていたのですが、そこですごく気に入ったアーティストに出会い、関われるならサポートしたいと思ってそのままスピードスターミュージックというマネージメント事務所に入社しました。そこではアーティストのマネージャーのほかに、レーベルで制作もやっていました。そのアーティストのマネージャーは丸9年やっていました。

— 現職に就かれたのはいつ頃ですか? またそのきっかけは何だったのでしょうか。

小竹:曼荼羅では学生時代にバイトしていたこともあり、ちょくちょくお誘いはあったのですが、抱えている仕事が忙しく断っていました。藤崎さん(※曼荼羅企画室・JYOJI-ROCKプロデューサー)からは4、5年前からことあるごとに「うちでやらない?」と誘われてましたね。曼荼羅入りを決意したのは2009年です。その当時、曼荼羅で独自のレーベルを立ち上げることになり、その企画・構想を全て僕に任せてくれるという話をいただきました。個人経営とかではなく、別の会社において全部ゼロから自分で組み立てられる機会を与えられることなんて稀にしかないですよね。いいチャンスだなと思い、やってみようと決意しました。

— 小竹さんが現在主導するmusic3について教えてください。

小竹:曼荼羅でも独自にレーベルと音楽出版社をやっていて、その屋号がmusic3です。曼荼羅各店舗イチオシのアーティストや、インディーズの中で「これは世に出したい!」と思う優れたアーティストの楽曲をプロデュースして、配信しています。まだ本格始動してからは1年ほどで、今年初めて自社のアーティストで1からやっていこうと思っています。ですから、可能性は無限大ですね。レーベルと出版社だけでなく最終的にはマネージメントもできたらいいなと思っています。

— 具体的にはどのようなお仕事がありますか。

小竹:大きく分けて「配信業務」と「CD制作・流通業務」の2つですね。どちらも半分はアーティストのマネージメント的なこともやっています。楽曲がダウンロードされて、受け取った収益をアーティストに分配する仕事もあります。細かい雑務がとても多いです。全部一人でやっているので結構いっぱいいっぱいですね(笑)始業時間は不定期です。打ち合わせがあれば早いし、そうでない時は昼過ぎであることが多いです。何か目の前にモノがないとできないという仕事ではなく、パソコンと携帯電話さえあれば連絡もできるし…

— 「配信」というと素人目にはなかなかイメージが湧きにくいのですが…

小竹:簡単に言うと、うちでやる仕事は「製造業」だと思っています。まずレコーディングをして、音源のファイルを作って、音源に必要な原版コード(ISRCコード)などを登録したりプロフィールなど諸々をデータ化し、流通業者に送るところまでを行っています。実際にiTunesやケータイサイトにて配信しているのは流通業者です。music3の仕事は、いわば流通業者とアーティストの窓口です。一つの曲をレコーディングしてから配信するまでは、大体1ヶ月半ほどかかります。

— 営業もするのですか?

小竹:そうですね。例えばチラシを作ったり、レーベルに関してはレコード会社やFM局など色んな所にアーティストをプレゼンしたり…先日は九州までアーティストと同行して、一緒にFM局やライブハウスを回りました。今日も昼頃に外苑前にあるフジテレビ系の音楽出版社に行ってアーティストを売り込んできました。「このアーティストどうですか?タイアップもらえませんか」と。その後フリーペーパーの会社に行って、春に出るアーティストのプレゼンをしてきました。

この日はちょうど、music3イチオシのアーティスト、ゴマアブラと打ち合わせ。メンバーの大塚篤史(Drums)はステージ衣装で登場!まずは小竹プロデューサーがゴマアブラにテレビ東京のタイアップを取ってきたことを報告。その後、アーティスト写真の選定を行いました。

小竹:これ(右の写真参照)はCDを作ったら何がいくらかかり、どのくらいの収入が入る…というのを計算した表です。広告宣伝費とかを全部入れて作ってます。権利関係や「配信をやったらこのくらいアーティストに入る」など、メリットもデメリットも惜しみなくアーティストに伝えます。そこを納得してやってもらわないといけないと思うので。

大塚:小竹さんに会ってからバンドの動き方もだいぶ変わってきましたね。どれだけ曲を作ってライブをしても、それで黙って待っていてもメディアに載ることができるわけではないし、業界とのつながり方も全く知らなかったので、小竹さんには自分達に出来ないことをやってもらえているし、メンバー同士でやっていても見えない部分を第三者的にアドバイスしていただけるのも有難いです。バンドとして成長出来ている感じがします。

小竹:先日、ゴマアブラのレコーディングが終わった時に、ボーカルの林君から「すごくいい作品ができた、感謝している」とメールをくれて、それはすごく嬉しかったですね。感動して自分の中で消化しちゃって、そのメールには結局返信しなかったのですが(笑)一言で救いのある仕事って、音楽の仕事で多いんじゃないかなと思います。

— お仕事の中で、どんなことに苦労しますか?

小竹:「音楽配信」「プロデュース」というと皆さんはもっと華やかな仕事だと想像しているかもしれませんが、意外とそうでもないです。「連絡が仕事の大半」みたいなところがあります。自分は連絡不精なのでいやなんですけどね(笑)あとは、自分の好きなアーティストだけに偏っても成功するとは限りませんし、と言って、そうではない仕事に対してどうやってモチベーションを上げていくか。そう考えると、フラストレーションが溜まります。この仕事の特徴は、ゴールが見えないということだと思います。やればやるだけ仕事があるし、やらなきゃやらないだけの仕事で終われるというか…だから、恋愛的要素が多いんじゃないですかね。

— では好きになれないアーティストだった場合、どうやって乗り越えるのですか?

小竹:アーティストが好きなら頑張れるし、好きじゃなければ頑張れない。だから、必死こいて好きになれるよう努力をするようにしています。そうすると、自分の不得意な分野が分かるようになります。人間、「駄目」って判断するのは簡単だと思うんですよ。例えば音楽なら自分の好きなジャンル、嫌いなジャンルでカッティングしちゃったり。でも、「どこかこの部分は刺さるな」とか、歌詞のたった一言でも、好きになれる部分は見つかると思うんです。自分は今までそうやって仕事をしてきて、好きになれなかったアーティストはほとんどいません。あとは一緒にラジオ局を回ったりするとそのバンドの魅力を見つけることができますね。楽しめて、そのアーティストとともに頑張っていける。結局は自分の器だと思いますね。

— 仕事をするにあたって気をつけていること、小竹さんの「仕事の流儀」を教えてください。

小竹:なるべく音を作る部分はバンドに委ねたいと思っています。経験知として「こういうやり方もあるよ」という提案はしますが、「こうじゃなきゃだめだ」「こうして」という強制はしないように心がけています。アーティストが悩んでいたら、それを解決できる方法論を探し出すようにしています。でないと、自分で作ったもので自分が好きじゃないものって売れると思いますか?すごいものを作ったら絶対聴かせたいはずだし、「このレーベルのせいで売れなかった」と言うアーティストもいますが、まずは最高のものを作ってもらって、それからそういうことは言えばいいのだと思います。

— 読者の中には配信デビューを夢見る若いアーティストも多いと思います。どんなアーティストにmusic3の門を叩いてほしいですか?

小竹:個性を大事にする人たちが僕は好きですね。下手でもいいし、自分だけの世界を抽出するバンドに来てほしいと思います。僕が思うに、音楽の才能って平均してみんなにあると思うんです。あとは続けられるかが大事ではないかと思います。僕自身があれこれと切り替えが器用に出来てしまうタイプなので、「これしかできない」と一つの事を続けられる人に憧れます。あれもこれも全部を均等に用意できるコンビニ店長タイプより、この器しか作れなくて困ってます、という陶芸家タイプの方が商品価値はあると思いますね。

— 最後に、music3の今後の展望などをお聞かせください。

小竹:CDは今後、個人的な感覚のものになっていくと考えています。例えばライブを見に行ったファンがそのCDを「ライブの思い出を記憶するもの」として買ったり、「このCDを聴きながら次のライブを楽しみに待つ」になったり。今、曼荼羅はライブハウスがしっかりしているので、ライブハウスとスタジオやレーベルとの連携を強化していきたいですね。CD自体の売り上げをある程度の枚数というのを夢とか希望ではなく現実的な数字として提示して、それを継続できる、そういうレーベルにして行きたいですね。

「相手を好きになれないと仕事できない」と語る小竹プロデューサー。それゆえに、今まで扱ったアーティストは男性ばかりだとのこと。確かに、女性アーティストだと本当に恋愛関係になってしまいそうですよね。男性アーティストでも、そのアーティストに彼女ができると軽く嫉妬の感情が芽生えるそうです。論作文指導など「先生」として仕事する小生も、この点は全くもって同感です(ロリコンじゃなくて良かった!!)。

そんな小竹プロデューサーの趣味を聞いてみたところ…「計画マニア」なのだとか。気に入ったアーティスト、とりわけ女性アーティストの年間計画を立て、「ここでこうやったらこのくらい売れるな…」と妄想するそうです。とことん仕事を愛する姿勢に共感!!

【取材協力】

・music3
http://www.music3.jp/

・スタジオ・レダ
http://www.studioleda.com/

・ゴマアブラ
http://www.gomaabura.net/


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