ロックな現場、ロックな世界で働く人々の仕事を紹介する連載「ロック社会科見学」。第7回目は、大阪を拠点に日本全国へその名をとどろかせている“ROCK STAKK RECORDS”の松尾店長へインタビューしてみたいと思います。
ROCK STAKK RECORDSは、買い取りも行う中古レコード(CD・DVD等を含む)店というだけでなく、輸入レコード(CD・DVD等を含む)店という顔も持っています。膨大なアイテムを、どのような視点で取り扱っているのか、とても興味があります。
大阪梅田の大通りに面した場所にあるROCK STACK RECORDS。看板を見つけ、ビルの2Fへと階段を上ると、そこはまさにメタルパラダイス!ぎっしりとアイテムが詰まった棚。見渡す限り棚だらけ!な店内に圧倒されながら、さっそく取材をスタート。
松尾 幹稔 プロフィール
大阪府出身。生まれも育ちも大阪市内のコテコテなにわメタルマン。長年、中古レコード業界に身を置き、激動の音楽メディアを肌で体感。自身の店舗だけでなく、個人でスラッシュメタルフェスも主催し、海外アーティストの招聘まで手掛けている。ヘヴィメタルマニアからの大きな信頼を得て、日夜メタル道をまい進中。
— お店を始められたのはいつ頃ですか?
松尾:2006年に独立して始めました。それまでは「ミュージックイン」という大阪では古くからある大きな中古レコード屋で仕事をしていました。「ミュージックイン」は、本店のほかに、別の名前で支店がいくつかありまして、そのうちの一つを担当していました。
— 同業での独立ですね。
松尾:正確に言うと、任されていた支店が2002年くらいにこの場所(現在のROCK STAKK RECORDS)に移転しました。その後、のれん分けというわけでもないのですが、2006年から独立したような感じです。
— ずっと中古レコード業界ですか?
松尾:そうですね。就職活動もろくにしたことが無いです(笑)。学生の時から、中古レコード屋にバイトで入っていたので。学生の頃は「ミュージックイン」とは違う店だったのですが。そう考えると、この道一筋です。
— キャリアとしては相当長いですよね。
松尾:この仕事で20年くらい経ちますから、長い方ですね。もう、これしかできません(笑)
— 店内を見渡すとアナログ盤が多いようですが、こだわりですか?
松尾:私自身がアナログ好きというのもあります(笑)。あと日本の音楽マーケットは、お客さんが選ぶ選択肢がとても少なくなったと感じています。今の日本はダウンロードが流行っていますが、海外、特にヨーロッパは盛んにアナログレコードもプレスされています。そういう意味では、お客さんが好きな物を選ぶ楽しさがありますね。
— ロックに魅せられたのはいつ頃からですか?
松尾:最初のロック。きっかけは小学5年生の頃だったと思いますが、KISSでした。当時、ちょっとやんちゃしている友達の家に遊びに行きましたら、彼の兄弟の一番上に高校生がいまして、「どや!こんなバンド!」って聴かされたのが最初ですね(笑)
— なるほど。KISSからこの世界へ。
松尾:ロックを聴く前からも、音楽にはずっと興味がありまして、普通のチャート物をよく聴いていました。The NolansとかDuran Duranとか。いわゆるニューロマンティックスみたいな物とか。ある日こっち(ロック)にきて、それからどっぷりですね。
— バンド活動みたいな物には興味無かったのですか?
松尾:楽器類はやりたいと思っていましたが、当時やはり高かったので。小遣いの身分としては、厳しかったですね。でも高校の入学時に親父にギターを買ってももらいまして、しばらくは弾いていました。
— この業界に入られた20年前と今では、変化が大きいですか?
松尾:この仕事を始めた当時は、ちょうどアナログレコードが廃れて行く時期でした。CDに取って代わるような時代。そしてCD全盛時代になって、今はCDが廃れて行く時期ですね。主流はダウンロードに移行していますから。大きな業界の流れは、仕事の中ですごく体験はしています。でも、何が良いのかは本当に難しいですね。
— 専門店ということもあり、お客さんはリピーター中心ですか?
松尾:そうですね。扱っている音楽が、やはり特殊なんで(笑)。完全にリピーターさん中心でやっています。この仕事の場合、お客さんに頼ってもらえる情報量や知識みたいなのが肝になってくるのですが、今は同じメタルの中でも、ジャンルが細分化され過ぎていていまして(笑)。私でも追いつけないことが時々あります。えっとこれは何になるんだっけ?みたいな(笑)
— メタルのエキスパートでもそうなのですね(笑)。売れ筋はデジタル盤とアナログ盤どちらですか?
松尾:どうしても割合で言うとデジタルを買う人が多いですね。でもアナログは根強い人気があります。
— パッと見ると、すごくきれいなレコードが多いですね。
松尾:壁に貼って飾っている物は、すべて輸入の新品です(笑)。現時点で制作されたヨーロッパ版の新品。中古レコードは棚の方に入っています。このようにヨーロッパでは、今でも新譜のリリースが、アナログレコードで盛んにおこなわれています。
— 輸入盤の買い付けは海外から直輸入ですか?
松尾:海外から輸入することもありますが、海外へ年に一回か二回行って、買い付けてきます。最近はドイツが多いですね。ドイツは本当にメタルが盛んで、春か夏にメタルの大きなフェスティバルがあるので、それを目指して行きます。そのフェス会場には、ヨーロッパ中の業者が集まっているので、逆に一ヶ所で仕事が全部できます。あちこち周るより効率的です。
— 現地での買い付けがメインなのですね。ところでライバル店などはありますか?
松尾:実はここ2年くらいで状況がガラっと変わってきました。それまでは大阪にも結構中古レコード屋がありまして、休日になると色々なお店の袋を持って、店舗巡りをしている人がいました。最近は店舗も少なくなったし、店舗巡りの人も見かけなくなってしまいました。ライバルがどうと言うよりも、店舗をやっている者として正直寂しいです。
— 通販にシフトしたということですか?
松尾:ネットの威力は大きいですね。椅子に座ってクリック一つで買えますから。音楽自体が簡単に手に入ることは、悪いことでは無いのかもしれません。でも“対面”の楽しさ、お店で買えばクリックとは違う楽しみが絶対あると思っています。なので手を変え品を変え、来店促進の発信を続けています。
— イベントも主催されているそうですね。
松尾:毎年2月に、スラッシュメタルに特化したイベントをやっています。『TRUE THRASH FEST』という名前で、海外からバンドを呼んで2DAYSのフェスです。海外のヘッドライナーバンドとゲストバンドがいる他に、日本のバンドにも出てもらっています。
— 招聘もされているのですか?イベンターを通さずに?
松尾:私がバンドと直接コンタクトしています。どのバンドも直接交渉して出てもらっています。あえてプロの仕切り屋さんを通さないでやっています。DIY感覚ですね(笑)
— 日本のイベントでも大変なのに、海外バンドを中心にしたスラッシュフェスを二日間というのは、恐ろしく大変そうです…。
松尾:フェスを手伝ってくれるスタッフや関係者の協力があって成り立っていますが、お客さんだけでなく、関わった全員が楽しめるイベントを目指しています。
— 招聘するアーティストは、どのような基準で選択されているのですか?
松尾:自分が好きなバンドで、自分が観たいと思うフェスにしています。究極の贅沢ですね(笑)お客さんが誰も来なかったとしても、私一人でもいいかな?って(笑)。お金の面で言うと、もちろん厳しいのですが、若い頃に聴いていた大好きなバンドが、私主催のイベントに出てくれるというのは、本当にうれしいです。
— DIY感覚というのが、何となく伝わってきます。
松尾:やはりプロだとイベントの採算を考えてしまうと思うのです。それでメシを食わないといけませんし。なので、そうじゃないところを狙っています(笑)。あえて大阪開催にもこだわっています。海外のバンドは、このフェスのためだけに来日してもらっています。ライヴって基本的に首都圏集中なので、観たかったら高い交通費や宿代を出して行かないとなりませんが、このフェスは違うぞ!観たいならこっち(大阪)来いよ!って感じです(笑)
店頭のアイテムだけで1万点を超える品ぞろえを誇るROCK STAKK RECORDS。レコードやCD以外にも、ロックに関係する物なら何でも買い取るということで、Tシャツや小物まで本当に多彩です。
ふと目をやると、チェコスロバキアのメタルバンドの音源がありました。松尾店長いわく「第三国系も結構ありますよ。メタルが存在しない国ってほぼ無いと思います」とのこと。カセットテープの量にも驚くと、「カセットは東南アジアの中心的な音源です。現時点で新譜がカセットだけってリリースも結構あります(笑)。カセットは気合い入れて仕入れていますね。一晩で30本オーダーが入るような物もありますから」
「東南アジアは特に盛んですね。買い付けの一環でタイに寄った時も熱かったです。ロン毛でパッチだらけのGジャン着てたり、37,8度もある国で、皮ジャン着ていました(笑)」第三国系に東南アジア。そこにもメタルシーンが形成されていて、それなりの音楽が流通している事実は驚きです。
取材が終わり、帰りがけにレジ横を通ると、日本のメタルバンドの棚を発見。「いわゆるジャパメタも置いてます。ジャパメタに関しては、棚二つ分をがっつり置いている店は、他に無いと思います(笑)。新品を扱う店行っても、メタルは小さいコーナーになってしまっているので」
お店を出た帰り道。私は壊れて倉庫に置きっぱなしのカセットデッキを、真剣に修理することを考えながら歩いています。それにしても松尾店長の話はとても面白く、色々な話を教えてもらいました。自分の知らないことを知る喜び、それがいかに楽しいことなのかを実感できた取材。そう、これが松尾店長の言う“対面”の楽しさなのでしょう!ネットでクリックでは味わえないリアルな楽しさを味わいに、ぜひ足を運んでみてください!
そして究極の贅沢イベント?!『TRUE THRASH FEST』の4回目の開催が、2012年2月にあります!こちらも以下のリンクから詳細を確認して、2DAYSのスラッシュフルコースを味わいに、会場へゴー!!
ROCK STAKK RECORDS
http://www.rockstakk.com/
▼ TRUE THRASH FEST 2012 ▼
★TICKET予約受付中!怒涛のスラッシュ盛り合わせ!
http://www.rockstakk.com/truethrashfestticket2012.html
★BEEASTで2days取材決定!お楽しみに!
所在地:
〒530-0027
大阪市北区堂山町4-4
阪急東ビル2F
TEL : 06-6311-5569
公式サイト:http://www.rockstakk.com
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