連載

BIG JACK オーナー&ブッキングマネージャーに突撃取材!
TEXT & PHOTO:桜坂秋太郎

ライヴハウス。本誌読者なら何度も足を運んでいる場所だと思います。連載「ロック社会科見学」第11回は、そのライヴハウスにスポットを当てたいと思います。今回登場してくれるBIG JACKは、新しいライヴハウスです。そして女性二人で作り上げたとなれば、お話を聞きたくなってしまうのがBEEAST魂。さっそく取材のアポを取り、乗り込みたいと思います!

振りかえってみると、私自身は昔の新宿ロフトが最初に行ったライヴハウスでした。今とは違う場所にあった頃です。そして最初に出演したライヴハウスは、目黒ライヴステーション。当時は目黒キャットシティという名前でした。80年代初頭の話です。そんな淡い青春時代の想い出を振り返りながら、大阪の阿波座へ向かいます。

阿波座という場所は、オフィス街。東京で言えば、虎ノ門や溜池山王っぽい雰囲気です。そしてBIG JACKはとてもわかりやすい場所にあります。ビルの1Fには、オレンジ色に輝くバンドマンの食堂、牛丼の吉野家があります。これは間違うわけもありません。その吉野家の地下に、BIG JACKはあります。初めて行く人でも、これは安心。ビルの裏側にある入口からさっそく地下へ行ってみましょう!

BIG JACK
 
左:トレイシー(Traci)オーナー
右:ローズ(Rose)ブッキングマネージャー

 
まったくの未経験から、大好きな「音楽」への恩返しのため、夢のライヴハウスを作り上げた。
ライヴハウスで出会った二人が、独自の目線で経営をスタート。
二人三脚、二人で力を合わせて日々奮闘中。

— まだオープンしたばかりですか?

トレイシー:はい。昨年の8月オープンしまして、この夏で1年経ちます。

— ライヴハウスをやろうと考えたのは、いつ頃ですか?

トレイシー:思い立ったのは、オープンの1年半前くらいです。元々私は小さい頃から音楽が好きで、ライヴを観に行ったのは小学校の時です。一家でメタルが好きな家系だったので、子供の頃から当たり前のように音楽がありました。ちょうど小学校6年くらいの時に、いわゆる“ジャパメタ”ブームが来て。それにドップリ浸かって、すごく楽しかったです。

— 音楽的なベースは幼少の頃から培われていたのですね。

トレイシー:私達は40歳になるのですが、今までたくさん音楽に楽しませてもらってきたと思っています。だから今度は音楽に何か恩返しができたらいいなと思って。それがライヴハウスをやろうと考えたキッカケです。

— トントン拍子に進んだ感じですか?

トレイシー:いえ。最初はこの場所ではなく、違う物件で考えていたのですが、色々とありまして。本当はミナミに探していたのですが、二人で見た瞬間に、ココだ!と今の場所に決めました。でも、やっと見つけたのですが、今度は3.11の震災でスタートが遅れてしまいました。当初は4月オープンで進めていたので…。

— それは大変ですね。

トレイシー:業者の方も現場を仕切れない状況だったので、私達自ら「ここをこうして!ああして!」と、ヘルメットを被って二人で現場に入りました。あと私の友達にバンドマンが多かったので、手伝ってもらいました。導入する機材とかも一緒に考えてもらったり、ライヴハウスの中の導線とか考えてもらったり。やはり使う側の意見を多く取り入れたいと思っていたので、納得できる形で作りました。

— オープンした後はどうですか?

トレイシー:ブッキングマネージャーのローズが、最初はインターネットで出演者を探しました。でも最初だけですね。もうすぐオープンから1年になりますが、出演したバンドの友達とか、バンドを観に来たお客さんとかが、帰る時に「僕らも次出たいです」と言ってくれるので。

— BIG JACKという店名の、由来を教えてください。

トレイシー:AC/DCの曲名から付けました。AC/DCの曲から付けるなら、どれがいい?って友達にアンケートして(笑)。

— どうしてAC/DCから付けようと思ったのですか?

トレイシー:AC/DCのバンドのスタイルがすごく好きで付けました。ライヴで、お客さんが少ないからテンション上がらないって言うバンドが結構いますよね。でもAC/DCは、逆にお客さんが少ないからこそテンション上げていこうぜ!というようなバンドなので。ココもそういうバンドがたくさん育ってほしいと願っています。

— バーカウンターがしっかりしていて、座って普通に飲めますね。

トレイシー:はい。金曜はバー営業をメインにしています。カウンターで飲むのはもちろん、テーブルとイスもありますので。金曜のバータイムは、お客さん同士で突然セッション始まったりして、かなり盛り上がりますね。

ローズ:お客さん同士の輪が、どんどん広がっていくのを見るのが本当に楽しいですね。

— 見たところメニューはドリンクだけですが、フードは?

トレイシー:厨房が無いので、フードができないのです。その代わり、フードの持ち込みを可にしています。フードは持ち寄ってもらって、ドリンクだけオーダーしてもらっています。

— 営業のサイクルを教えてください。

トレイシー:はい。土日はライヴイベント主体です。金曜はバーですが、平日は1時間3000円でスタジオ貸しが多いですね。借りてくれる方は、無茶な使い方をしないし、片づけもちゃんとしてくれます。

ローズ:本当、お客さんに恵まれていますね。

— それは素晴らしいですね。

トレイシー:店の外で煙草を吸ったらダメ、騒いだらダメ、と言えば、お客さんはちゃんと守ってくれるのがうれしいです。

— やはりそれはトレイシーオーナー、ローズブッキングマネージャーの人徳でしょうか。

トレイシー:でも、私達は女なので、正直バカにされることが多いのです。男女平等なんて言われていますが、実際かなり違いますね。

ローズ:女のくせに!って言われます。特にライヴハウスは、男の世界って感じで。

— 辛い思いも多々されているのは想像できます。

トレイシー:もちろん逆に助けてもらうこともあります。周りにいてくれる方達が、私達が届かない場所に棚を付けてくれたり、歪んできた場所があれば直してくれたり。

— ところで、トレイシー・ローズと言えば、私の世代には耳慣れたフレーズですが、なぜそのネームなのでしょう?

トレイシー:勢いです(笑)。バンドの人って、ジャックとかフィーバーとかカッコイイ名前を付けていますよね。私達も「お名前は?」って聞かれた時に、横文字の方がカッコイイかなって。とっさに浮かんだのがその名前でした。

— お二人は元々知り合いですか?

トレイシー:いえ。縁もゆかりも無いです(笑)。ライヴハウスで出会いました。当時彼女は千葉に住んでいて、大阪にライヴの遠征に来ていました。泊めてあげるよって言ったら、8泊くらいしていきましたね(笑)。

ローズ:そうなんです。大阪へ遠征する時に泊めてもらいまして。私は元々大阪ですが、その頃は千葉に住んでいました。千葉に居る頃は、東京のライヴハウスにもよく行っていました。その頃は、まさか今のようになるとは思っていませんでした(笑)。

— 何か面白いエピソードはありますか?

トレイシー:「実はライヴハウスをやろうと思っていて。一緒にしない?」と聞いたら、彼女は次の日に仕事を辞めたんです(笑)。

— はや!それはまだ相談の段階じゃないでしょうか(笑)

トレイシー:それからずっと二人で全部やってきました。開業の融資の申し込みから何から何まで、自分たちでやりました。一人で考えていると不安なことばかりですが、一緒に居てくれることで、本当に心強いです。

ローズ:仕事を辞めたのは、彼女の強い思いに感動して。もう絶対に付いて行く!って感じでした(笑)。

— ちなみに前職はどのようなことを?

トレイシー:ミュージシャンのマネジメントみたいなことをやっていました。

ローズ:私は観に行くだけで、こういう世界に一切携わることがありませんでした。逆に、ライヴハウスはこうあるべき!っていう概念が無いので、私流にやっています。

— 例えばどのようなことですか?

ローズ:出演するバンド、来てくれるお客さん、両方と本当によく話します。挨拶しないで楽屋へ行くバンドマンには、怒ったりもしています(笑)。

— 考えてみると、ライヴハウスの人と話す機会は、受付とドリンク交換だけですね。

ローズ:そうなんですよ。私自身がずっと観に行く側だったからよくわかります。ライヴは一人で行く物って思っていましたし、お目当てのバンド以外は、一人でいると居心地が悪くて、結局帰ってしまう。だから私はお客さんにも、声をかけています。自分の経験から、居心地の良いライヴハウスにしたいなって。

トレイシー:バンドの転換中にも、携帯電話を触らせないとか(笑)。あと私達は、お客さんの名前を覚えることをやっています。あ!何々チャン!って声を、たくさんかけたいのです。

— その発想は素晴らしいですね。とても大切なことだと思います。

トレイシー:私は家から梅田やミナミに自転車で行けるところに住んでいたので、多い時には年間100本くらい、色々なライヴハウスへ行っていました。でもライヴハウスの人と話した記憶はほとんどありません。ライヴハウスにとってのお客さんは、バンドなの?来場者なの?という部分がありますけど、私達は両方がお客さんと思っています。だから、ともかく目が合ったら話しかけるようにしています。

インタビューと撮影を進める中で強く感じたこと、それはこのお二人は本物のロッカーだということ。熱き心の叫びを形にする…それがどれほどのことか、夢を追った事のある人間なら、誰もが理解できるはず。口で言うは簡単、でも行動に移すのは大変。言わずもがなの話ですが、それをやってのけた功績は本当に大きいと思います。お二人とも楽器はできないとのことですが、そんなの全然関係ない!ロック魂そのものです。

さらにローズブッキングマネージャーは、オープンの前日に丸坊主にしたそうです。女性が頭を丸めたことが話題になり、かつ「坊主のローズです」と関係者へ開業の挨拶をしに行ったとか。そこまで気合いを入れたオープン話に、関係者も度肝を抜かれたことでしょう。そして彼女達は、出演するバンドの音には一切口を出さないそうです。「自分達でお客さんの反応を見て、どうすればいいか納得できるまで考えなさい」と。

納得といえば、もう一つすごい逸話を紹介しましょう。本番のステージが終わって、納得いかないと落ち込んでいる出演バンドがいたそうです。その日のライヴが全部終わった後で、「もう一回やってみなさい」と演奏させて、納得して帰したこともあるとか。そんなライヴハウス、今まで聞いたことありません。今回の取材を通して、読者へ伝えたいことは、こんなスタンスの箱があるんだよ!という一言につきます。素晴らしきBIG JACKに、BEEASTは大きな拍手を送りたいと思います!

BIG JACK 2nd Rock’n’Roll Show

BIC JACK一周年記念イベント4daysです。
トレイシーオーナーとローズブッキングマネージャーがバンド結成!
イベント初日のオープニングアクトFuck the Violenceとして出演します。

【BADBOYS編】2012年08月04日(土)
■OPEN 17:00 / START 17:30 ■ADV 1,500yen/ DOOR 2,000yen
Fuck the ViolenceSPUNKY DOG(From 岐阜)、Just Like Youthドレインズ
The Rosebud Mouth(from 東京)…continuous
GIZZYCasino drive


【Blues and Rock編】2012年08月05日(日)
■OPEN 18:00 / START 18:30 ■ADV 1,500yen/ DOOR 2,000yen
Bed&Blue Bar等身大爛漫The Soul JunkiesいくおVS昭和町ブルースバンド
KokopelliCaimdown


【New Generation編】2012年8月11日(土)
■OPEN 17:30 / START 18:00 ■ADV 1,500yen/ DOOR 2,000yen
肉望ビリーBaccha’sErnstEgg StripperREVERSTREAK、and more…


【大人のROCK編】2012年8月12日(日)
■OPEN 17:30 / START 18:00 ■ADV 1,500yen/ DOOR 2,000yen
OiOi’sRock’sソウルサッカーズ、and more…

BIG JACK
所在地:
〒550-011 大阪市西区阿波座1-13-11 建協ビルB1
TEL & FAX:06-6535-9269
 
公式サイト:
http://www.bigjack.jp/
 
大阪府大阪市西区阿波座1丁目13−11




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