連載

ロック社会科見学 ステージ9★レーベル直営ショップ店長編

残響SHOP 田畑店長に突撃取材!
TEXT & PHOTO:鈴木亮介

ロックな現場、ロックな世界で働く人々の仕事を紹介する連載「ロック社会科見学」。第9回目は、2011年5月に東京・渋谷にオープンした残響レコードの直営店「残響SHOP」に注目!田畑猛店長へお話を聞きました。

公園通りの賑やかな坂を上り、老舗ライブハウス「eggman」の少し手前で路地裏に入ると、「zankyo shop」の黒旗が見えました。個人的な話で恐縮ですが、スズキは高校時代陸上部に所属しており、毎週水曜日は今はなきHMV渋谷店で奥田民生の新譜を買って、NHK裏の織田フィールドに走りに行ってました。そんな10年前の青い思い出にひたりつつ…入店!白い壁に外からの日差しも差し込む、とても明るい雰囲気の店内に、ホッとします。そして、出迎えてくれた田畑店長も笑顔が爽やか!

残響SHOP店長
田畑 猛 プロフィール

1982年7月17日生まれ。大阪出身。音楽専門学校卒業後、レンタルショップの店員など様々な仕事を経験したのち、現職に。ライブハウスでイベントを企画したり、音楽ライターとして雑誌のディスクレビューや海外アーティストのライナーノーツの執筆なども精力的に取り組んでいる。最近ハマっているのは「FOXのアメリカン・アイドルのシーズン11に夢中です!!」とのこと。

— まずは出店の経緯を教えてください。

田畑:昨年2月頃に残響レコードの河野代表から「ライブ来ない?」というメールが突然来まして。当時自分は音楽業界にそれほど精通していない立場でしたが、行ってみたら「お店をやりたいと思う。店長やらないか?」という話をもらいました。河野代表の頭の中ではお店の構想は何年も前からあったようで、物件も準備しているということだったので僕も二つ返事で承諾し、4月に大阪から上京し、5月3日に店をオープンしました。

— 元々河野代表とはお知り合いだったのですか?

田畑:5年くらい前でしょうか、残響レコードが海外アーティストをよく招致していた頃、自分が一般のお客さんとしてよくライブに通っていたのですが、そこで物販のお兄さんとして立っていたのが河野代表でした。よく会話をしていたのですが、僕もmixiで音楽系のコミュニティを趣味で開いていて、残響の音楽とマッチングしたものをちょうど管理していたもので、それをきっかけにマイミクになり、そこからコンタクトを取るようになりました。

— 田畑店長自身、元々洋楽好きだったのですね。

田畑:人と同じ音楽を聴くのが好きではなく、「自分だけが知っている何か」を求めていたところ、当時Billboard TOP40という番組を見たのがきっかけで洋楽にハマるようになりました。外国語の歌詞は分からなかったのですが、クラシックのピアノを元々やっていて、メロディが琴線に触れるものが好きなので、そちらに目が向くようになりました。幅広く聴いていた、ということはなく、一度好きなものができるとずっとのめり込んでいくから、他のものは聴かなくなります。何でも聴くようになったのは割と最近ですね。

— 4月に上京して5月には開店。オープンまでの準備は大変だったのではないでしょうか?

田畑:そうですね。結構バタバタして、当初は段ボール箱を重ねてその上にCDを平置きしてレイアウトをしていました。展示会みたいな雰囲気ですね。テーマがゼロベースからだったので、どういうお店にしていくかをみんなで考えながら作り上げていきました。何もないという所がスタートだったので、「こういうものを作り上げるんだ!」という理想がない状態が理想。大変というよりはワクワクの方が大きかったですね。

— スタッフは今何名いますか?

田畑:僕が店長で、あとここは「残響塾」を開いているのでその塾長と、アルバイトスタッフが2名です。会議には河野代表らも参加しますが、日々の業務はこの4名で意見を出し合って進めています。

— 「塾」もあるのですね!

田畑:お店と並行して「残響塾」というのをやっています。様々な分野で活躍する方をゲストとして呼び、話を聞くセミナーや公演を開催していて、毎週月曜にはビジネス系の「トークライブ」を開き、毎週50人ほど集まっています。会のシメにはミニライブを開催します。

— ではお店について伺いますが、結構色々な種類のものを扱っていますよね。

田畑:そうですね。まずはTシャツ。これはバンドTではなくデザイン重視の誰でも着られるようなものを置いています。そして、エフェクターですね。これは河野代表が熱望しておくことになりました。岩手にある「ナインボルト」というエフェクター専門店と提携し、あまり実店舗に置かないような珍しいエフェクターを多数取り揃えています。これらは全て、店内で実際に試奏できるようになっています。

— 購入前に実際音を出して試せるというのは実店舗ならではの魅力ですね。他にはどのようなものがありますか?

田畑:今人気が高いのはキャンドルですね。これはミュージシャンの方が作っているのですが、乾電池式の火を使わないキャンドルで、ご自宅用のほか、ステージ上でも安全ということで購入される方が増えています。それから、本もあります。最初はビジネス本を置いていたのですが、反応が悪く(笑)、現在ではデザイン本や音楽に関係する本を置いています。

— 実に幅広いラインナップですが、どのようにして見つけてきたのですか?

田畑:キャンドルはたまたまお店に遊びに来てくれたことがきっかけでお店に置くことになりました。このお店が面白いと思ってくれたお客さんやレーベルから独自の商品を持ってきていただいています。このヘッドホンもそうですね。カラーがカスタマイズできて音質も良いので、徐々に人気が出てきています。

— そして、CD。こちらもこだわりがありそうですね。

田畑:はい。CDは残響レコードの所属アーティストのものと、つながりのあるもの、そして、それらアーティストのルーツとなっている音楽が揃っています。その他、お付き合いのある方や、海外のアーティストを中心に独自にセレクトしたものなどがラインナップとして並んでいます。

— 「こんなのを置いてほしい」といった要望や、売り込みに来るミュージシャンも多いのでは?

田畑:最近増えてきましたが、「なぜ残響ショップに置いてほしいのか」という理由がはっきりしない場合はお断りしています。「良質な音楽を提案する」ということに変わりはないのですが、その中でもレーベルがつながりがある、というよりは、インディペンデントで活躍するアーティストを中心に国内外取り揃えてみようかと。何せ、近くに超大手のレコード店がありますので(笑)うちは独自のストーリーを持ったアイテムを提供できればなと思っています。

— では、田畑店長の一日のお仕事について教えてください。

田畑:朝11時頃出社して、開店準備ののち、昼12時よりお店を開きます。最近はアルバイトスタッフに接客を任せるようにしていて、その間はこうして取材を受けたり、お店のPRのために外に向けて発信していくことが多いです。その他、お店の仕入れに関する仕事や、ブログの更新、通信販売の方の管理、さらには現在も音楽ライターの仕事を続けているので、ライナーノーツの執筆なども行っています。20時に閉店して、仕事が終わるのは22時~23時です。実は自転車通勤なので、終電を気にせず仕事できるのですが、あまりここにいても電気代がもったいないので(笑)

— こういったお店の仕事をしていく上で注意すべきこと、必要なスキルは何だと思いますか?

田畑:お客さん一人ひとりに興味を持つことですね。例えば「オススメは何ですか?」と聞かれることがありますが、当店に並べているものは全てオススメなので、「どういう音楽が好きですか?」とインタビューのように質問を投げかけて、お客さんから「こういう人間ですよ」というのを少しでも聞くようにしています。一方通行ではだめなので。

— 仕事に関してどんなことに苦労していますか?

田畑:最近はCD離れする人達が増えている…という中で、それはもう分かっているのですが、その中でどうしていったらいいのかなということは常に試行錯誤しています。残響SHOPは体験型のお店なので、各々自由に視聴する方もいらっしゃるのですが、「オススメがあるよ」と長い時は2~3時間かけてコミュニケーションを取った末に、「じゃあ家帰ってYouTubeで見てみます」と言ってそのまま帰ってしまう方も…

— それは辛いですね…。

田畑:その時はやっぱり「あぁこれじゃだめなのか」とショックを受けましたね。「体験」をして、その後の選択肢が「購入」までに至らない点をどうしていけばいいのかな、と。CDを買わなきゃ音楽が聴けなかった時代から、家に帰ってワンクリックで音楽が聴けて、そこにお金を払わないという選択肢が生まれた以上、そっちに進む人が増えるのは必然なので、自分達は次の手を打たなければいけないのかな、と。要は、CDを売ることが目的になってしまってはだめなので、CDにはこういう聴き方があってこうするとすごく楽しいんだよという、音楽の聴き方をうちとしては販売につなげられればなと思っています。「買ってください!」という押し売りになってはいけないので、その辺りを日々試行錯誤しています。

— お店の雰囲気に関して、こだわりを教えてください。

田畑:くつろいでもらうということをコンセプトにしています。見たり触ったり、「体験型」で、尚且つくつろげる、ということを推しています。音楽も気になったらすぐ聴けるように、全て視聴できるようにしています。大手レコード店は品ぞろえこそ豊富ですが、その音楽を知っていないと、ジャケットを見ただけではどんな音楽か分からないですよね。うちはその点、全てのCDを聴いていただけるような環境を作って、そこで感動したらお持ち帰りいただく、という流れを提案しています。

— ネット販売店でない、実店舗だからこそできる強みですよね。

田畑:ヘッドホンも体感できますしキャンドルも点灯できます。場所代が賄えないということでリアルな店舗が減っていますが、その中で残響SHOPでは本来のお店の原点である「体感」や「人とのコミュニケーション」を大事にしています。ここはコミュニティのようなスペースなので、人との会話の中で相手が何を求めているのかが分かるのが強みですね。パソコン上でやり取りするのと顔を見て話すのはやはり違うので。

— お客さんはどのような世代が多いですか?

田畑:若い人、特に20代前半の方が多いですね。ただし残響塾の方は30代から50代、企業の部長クラスの方や自営業の代表の方が多いです。

※インタビュー中も、20代女性が一人「たまたま通りかかったら、好きなミュージシャンのCDジャケットが見えたから」と入店。CDを2点購入していました。

— 残響塾の参加者とお店に買い物に来る人とは世代も違えば音楽的な趣味も全く異なりそうですね。

田畑:そうなんです。ですので今後の店の展望としては、塾とのクロスオーバーを考えています。興味を持ってもらってお買い物をしてもらえるような仕掛けを作って行きたいと思います。逆に言えば、お店に足を運んでくれる若い世代に、残響塾の魅力的なセミナーに参加してもらえたらと思います。例えば普段聞けないようなビジネスチックな話を聞いた後で、残響レコードファンが喜びそうなアーティストを招いてライブを開く。セミナーを体感してライブに辿りつき、何かを感じてもらえればと思います。また、セミナーに参加する40、50代に、若い子が聴くような残響SHOPオススメの音楽に関心を持ってもらえたら嬉しいです。

— 残響SHOPならではの方法で、とても意義深いですね。

田畑:今は音楽好きにしか音楽を届けていないという世の中になっていると思うので、そうではない、もっと広い層にどうやってアプローチしていくか。塾という場で、なかなか答えが出せないものをお客さんと一緒に模索出来たらと思います。それが今後の理想ですね。交わる筈のないものが交わることで、いい方向に行けば、社会貢献につながればと思います。

— 最後に、BEEAST読者へ向けたメッセージをお願いします。

田畑:3000円以上お買い上げの方に、4月25日に渋谷club乙-kinoto-で開催される残響SHOP主催ライブのチケットをお渡ししています。出演者は当日までのシークレットです。

— それはユニークですね!詳しく教えてください。

田畑:今はメンツによってライブ観に行く/行かないになっていますよね。「誰が出るから行こう」と。確かにそれが悪いとは思わないのですが、「バンドのファン」と「音楽のファン」を分けて考えてみた時に、「バンドのファン」がほとんどですよね。「音楽がそこにあるからふらっと寄ってみました」というノリでバーやライブハウスに入る人ってほとんどいないと思うんです。その流れを変えてみたいのです。新しいものに触れるきっかけ、チャンスはインディペンデントのアーティストにとっても必要だと思うので、うちが先陣を切ってやってみようと思い、今回新たに企画してみました。自分の知らないものをフラットな目で見て、最大限楽しんでもらえればと思います。

— 最後に、もう一言!

田畑:音楽に触れるということを通じて、体験、発見をどんどんしてほしいですね。音楽ファンを増やしたいです!そして、残響SHOPがそのきっかけになる場所となれば嬉しいです。

インタビュー後、新たな音楽に出会いたいという気持ちが強まり、実際に買い物させていただいたのですが、「高校生の頃は奥田民生ばかり聴いていた」「ピアノロックが好き」といったやり取りののち、次々とインディペンデントシーンで活躍するミュージシャンを紹介していただきました。
中でもClimb The Mind田中茉裕テスラは泣かない。に琴線を揺らされたので、その場で購入!田畑店長との軽快なやり取りもあり、「いい買い物が出来たなぁ」と楽しい気分になれました。
何から聴いたら良いか分からない、新たな音楽に出会いたい、という読者の皆さんは是非残響SHOPへ!

残響SHOP
所在地:
東京都渋谷区神南1-14-1コーポナポリ1F
営業時間:12:00~20:00(不定休)
電話:03-6427-0604
公式サイト:
http://www.zankyoshop.com/
東京都渋谷区神南1丁目14−1


■ 取材協力 ■
残響レコード
http://zankyo.jp/

◆インフォメーション
4月25日(水)に渋谷club乙-kinoto-にて
残響SHOP主催のライブイベントを開催!

★出演者は当日までのシークレット。
残響SHOPで税込3,000円以上購入者に
チケットを配布中(~4/24まで)


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