連載

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安藤裕子『グッド・バイ』
TEXT:河南太郎

安藤裕子。1977年生まれのシンガーソングライターで、今年でデビュー10年目を迎えた。独特なセンスから出てくる言葉を時に優しく、時に激しく歌いあげる。彼女の歌は人々の心の柔らかいところを強く揺さぶる。
 
デビューから10年の中には、妊娠・出産という大きな出来事もあった。そんな、シンガーソングライター安藤裕子の節目の年となる今年、10月2日に7枚目のアルバムとなる『グッド・バイ』が発売された。彼女の今の音楽、言葉について紹介していこう。
 
まず1曲目「ようこそここへ」は、このアルバムの入り口にピッタリである。過去の代表曲である「ドラマチックレコード」や「さみしがり屋の言葉達」と同様に作詞:安藤裕子、作曲:宮川弾、編曲:山本隆二のトリオで制作されたこの曲。ドラムのスネアとハイハットの音がピアノの音と共鳴して、音の厚み、温かさを感じる。それはシルクでふわっと包まれたように…。心の中の微妙な動き、変化が独り語りのような歌詞でしっかり情景描写されている曲である。
 
2曲目「完全無欠の空と嘘」は曲のタイトルからは想像出来ないくらいアップテンポでありながら大人の恋を描いたビタースイートな曲になっている。「また恋をして面影を似せてハッとして想い出の中泣いて」というかつての恋人への未練を書いた歌詞も印象的だ。”完全無欠”とはほど遠い歌詞の世界観でありながら、そこに向かって行こうとしていく力強さをアコギの気持ちいいストロークから感じる。
 
6曲目「いらいらいらい」は、静かにエレキギターが鳴り、そこにドラムの音が参加し始め、黒い塊を感じる。静寂なスタートから、ぐいぐいと聴いている人との距離を縮めていく。活動10年を経たからこそフィットする曲と言えよう。曲の途中に挿入されたセリフは、彼女が以前書いた小説から引用されている。
 
8曲目「愛の季節」は、ピアノの音が優しく語りかけてくる。シンプルな音編成だからこそ、まっすぐに届く彼女の歌唱力をたっぷりと感じることが出来る。恋愛の真っ只中に考えたり感じたりする「あるある」が歌詞に盛り込まれており、とても共感しやすい。季節の変わり目というのは恋愛が終わったり、始まったりと一つの区切りのようにも感じる。
 
9曲目は、映画『四十九日のレシピ』の主題歌になっている「Aloha ‘Oe アロハオエ」。タナダユキ監督からの熱烈なオファーを受けて、ハワイの鎮魂歌「アロハオエ」に日本語の歌詞を書き下ろした。この曲は大切な人を送り出す時の別れの曲である。優しい楽器の音が去っていく人の背中を押している。送る人の涙をそっと音が拭ってくれる。音とともに一緒に流れるハワイの風を感じてほしい。
 
そして、ラストを飾る曲でありながら、このアルバムの核となるのが、「グッド・バイ」だ。東日本大震災後、生まれたばかりの娘を抱いて散歩していた時にこの曲を完成させたのだという。震災で沢山の人々が亡くなった。今でも被災直後と”何も変わらない”生活を強いられている人々もいる。命とは、暮らしとは、何だろうかということを震災から2年と半年経った今でも考えさせる曲になっている。ピアノと歌は一発録音であり、それが故に熱く力強く歌い上げられたこの曲は素晴らしい。ピアノと歌、そしてドラムのスネアの音のアンサンブルは、生きることを後押しするような力を与えてくれる。
 
『グッド・バイ』に収録されている曲すべてが様々な感情を呼び起こしてくれる。あなたにとっての、とっておきのアルバムになることは間違いないであろう。
 
そして今作を引っ提げて1年半ぶりとなるバンドツアーも開催される。10月27日(日)の名古屋を皮切りに、大阪、福岡、広島、そしてファイナルは東京の渋谷公会堂。
全身を使って安藤裕子の音楽を体験してほしい。
 


◆リリース情報
7thアルバム『グッド・バイ』
2013年10月02日発売 ¥3,150
<収録曲>
M01. ようこそここへ
M02. 完全無欠の空と嘘
M03. ローリー
M04. ここに臨む丘
M05. サイハテ
M06. いらいらいらい
M07. 貘砂漠
M08. 愛の季節
M09. Aloha ‘Oe アロハオエ
M10. グッド・バイ

 

◆ライブ情報
安藤裕子 Live 2013 HELLO & goodbye

10/27(日) 名古屋 ZEPP NAGOYA
11/3(日) 大阪 オリックス劇場
11/9(土) 福岡 ZEPP FUKUOKA
11/10(日) 広島 クラブクアトロ
11/24(日) 東京 渋谷公会堂
*詳しくはこちら http://ando-yuko.com/live/

◆安藤裕子 オフィシャルサイト
http://ando-yuko.com/