連載

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山﨑彩音「Yer」
TEXT:鈴木亮介

「余計なものはいらない。」――16歳にして、その境地に至れるのはいったいなぜだろう。南青山のロックバーで山﨑彩音というアーティストと出会ったとき、最初に抱いた感想だ。オフステージの佇まいは無邪気でどこにでもいる小柄な女子高生。しかしそれは、”世を忍ぶ仮の姿”とでも言おうか、日常を生き抜くお面の一つなのだろう。ステージに立ち、アコギを手にした瞬間、小柄だったはずの印象は一変する。
 
憂いを含む歌声。過剰な装飾のないギター。10代どころか20代でもなかなか表現しきれないブルースを、彼女は歌い上げる。忌野清志郎のパブリシスト、”キヨシローにスポットライトを当てた男”こと高橋 Rock Me Baby氏によれば、”16歳のロック魔女”だという彼女、確かに黒いドレスに持つ手のアコギをホウキに換えたら、魔女の宅急便のキキそのものだ。1月にはGLIM SPANKYTHE BOHEMIANSザ50回転ズと新宿LOFTで共演することが決まっているというが、彼女の存在感はその大きなステージにも決して呑まれることはないだろう。
 
「全部全部 神様には全部丸見えさ。」6曲とも全てアコギと歌のみ、ライブと同じ条件に、一発録りで挑んだという本作。2015年の商業ロックのセオリーには悉く引っかからない。むしろ、そこへのアンチテーゼとして、敢えて対極を示しているようにも思える。それはさながらTHE BEATLESが「Yer Blues」を歌ったように、である。
 
ただ異なるのは、THE BEATLESが「Yer Blues」を歌ったのは1968年。既に地位も名声も得て、来日武道館公演を1966年に経た後の楽曲である。山﨑彩音という”誰も知らない”16歳の湘南の少女がギター1本、その境地に分け入っていくのは、無謀にさえも思える。
 
しかし、だからこそその先を見てみたい、とも思う。彼女の楽曲には、そうしたオールディーズの影響を一端に感じつつも、懐古主義とは一線を画す”平成27年、日本”が多分に含まれている。と言って、「こういう世界観です」という明確な軸があるわけでもなさそうだ。そこが、面白い。例えば2曲目「朝の唄」。
 
お前の好き嫌いには興味ない もっと楽しい話を聞かせて」
と言った直後、
「うざったいくらい自分が面倒」
といったん自分に戻り、その後は
「いつものあの人がふざけんじゃねえって言ってくる」
だけがわかってくれればいいと勝手に思ってる、それが楽しい」
と、三人称を挟んで先ほどとは異なる二人称が続く。
 
登場人物に一貫性がなく、色んな話がめくるめく展開されるのは”イマドキの女子高生”らしい(と言ったら本人に怒られるだろうか)が、「お前」と「君」は同一人物なのかどうかなんて追及するのは無粋だ。忙しい日常、悩ましい脳内…それを、まとめてしまえば分かりやすい表現になるかもしれない。が、その臨場感と温度、まさしくライブ感は、それでは伝えきれない。
 
今回、4曲目「叫び」と6曲目「誰も知らない」は、カセットテープ録音が試みられている。雨音にも似た静寂。スーっとテープが摺れる音に、アコギの弦をキュッとする。6曲目「誰も知らない」のギターのリフは、普遍的な子守唄。
 
さて、このアルバムはここからどのように羽ばたくのか。現在、YouTubeに公式動画は1本も上がっていない。まさに「誰も知らない」状態からのデビュー。後ろ盾は何もない。あるのはただ、このモノクロのジャケットに包まれたアルバム1枚だけ。どう向き合い、評価するか。聴く側が、試されている。
 


 
◆リリース情報
山﨑彩音 「Yer」
mabmrar-000001 ¥1,000(税込)
<収録曲>
M01. 風の夢
M02. 朝の唄
M03. アオイカノジョ
M04. 叫び
M05. 15
M06. 誰も知らない

 


 
◆ライブ情報
・2015年12月21日(月)【東 京】渋谷guest
・2015年12月22日(火)【神奈川】横浜O-SITE
・2015年12月26日(土)【神奈川】藤沢Bar Cane’s
・2015年12月28日(月)【東 京】池袋RUIDO K3
・2015年12月28日(月)【東 京】渋谷 喫茶Smile
・2016年01月04日(月)【兵 庫】神戸VARIT
・2016年01月05日(火)【大 阪】南堀江knave
・2016年01月06日(水)【東 京】新宿LOFT
 ※GLIM SPANKY / THE BOHEMIANS / ザ50回転ズとの共演
・2016年01月07日(木)【東 京】渋谷7th Floor
・2016年01月10日(日)【東 京】渋谷Waltz
・2016年01月13日(水)【東 京】渋谷eggman
・2016年02月06日(日)【神奈川】藤沢GIGS
・2016年02月16日(火)【東 京】下北沢BAR CCO
 


 

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