連載

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きのこ帝国 「桜が咲く前に」
TEXT:まりな

桜の花はどこか人生を投影させるところがある。花が咲いて散ってしまう様は儚くも美しい。
 
桜の苗を植えてから花が咲くまでは10年かかるが、一度咲いてしまえば散ってまた咲くを繰り返す。その間に私たちの生活は変わって行き、来年目にする桜は今年見たそれと同じようには見えないかもしれない。
 
 
深い残響のきいた轟音の渦の中で音を鳴らし続けてきたバンド、きのこ帝国は2014年9月に数量限定シングルとして発売した「東京」、そして同年10月に2ndフルアルバム『フェイクワールドワンダーランド』を世の中に出したことによって、その花のつぼみを見せた。きのこ帝国としての楽曲の軸はそのままに、クリアなサウンド、外界に向けた共鳴しやすい歌詞でより多くのリスナーの耳に届く内容となったこの作品は第7回CDショップ大賞2015にて入賞作品に選出されたことにより、その注目はさらに高まっていった。
 
そしてついに今年の4月、ユニバーサル ミュージックEMI Recordsからメジャーデビューが決まり、その1stシングルとしてリリースされる「桜が咲く前に」で大きな花を咲かせた。「東京」の10年前を歌ったという今作は、まだこの街に来る前、新しい場所に旅立つ事を心に決めた主人公の心情が書かれている。この曲もまた感情が入り込めるストレートな歌詞とサウンドだ。
 
 
「どうしてもかなえたい夢があってさ」
「ここじゃたぶんかなわない気がするんだ」
 
どこか切なげではあるが固く決心をし、ぶれない意思の強さを感じさせる佐藤千亜妃のボーカルと、耳に残るギターのリフレイン、アコースティックギターの音色のマッチングが美しい。きのこ帝国の持ち味の一つでもある複雑なコーラスワークも炸裂していて、サビで音が広がっていく感じが聴いていて心地が良い。
 
二曲目、キャッチーで頭に残りやすいサビのフレーズが印象的な「Donut」は、轟音ギターとフィードバック奏法を多用した曲となっていて、最後まで聴いたリスナーは思わず二ヤリとしてしまうことだろう。
 
三曲目「スピカ」は一曲目にも繋がる歌詞で、今はここにいない”君”に対しての気持ちを想う、いわば「桜が咲く前に」のもう一人の主人公の曲だ。曲を通して後ろでリズミカルに鳴るギターとシンセサイザーの音はその曲のタイトルのとおり、星が瞬いているようである。
 
 
シューゲイザーというジャンルに括られてきたきのこ帝国だが、今はそのカテゴライズからはとうに外れている。シューゲイザーサウンドといえば囁くようなボーカルが特徴であり、以前はそんな曲が多かったが本来、佐藤は感情的なボーカルだと思う。そのあまりに声を震わせ、このまま倒れるのではないかというほど思いっきりギターをかき鳴らす姿は華奢な体から発散させられる底知れないパワーとほんのりとした狂気さえ感じられる。
 
5月4日に「VIVA LA ROCK 2015」に出演することも決まっているきのこ帝国のその良質なバンドサウンドが、今後さらに多くのリスナーの耳を刺激していくかと思うと嬉しくもあり、また、日本のバンドはまだまだこれからだという気持ちにもなってくる。
 
この街で見事に花を咲かせたきのこ帝国が今後また何度も大きな花を咲かせてくれるのを期待せずにはいられない。
 


 
◆リリース情報
きのこ帝国 1stシングル「桜が咲く前に」
・2015年04月29日(水)発売
1,200円+税 品番:UPCH-80400
<収録曲>
M01.桜が咲く前に
M02.Donut
M03.スピカ

◆ライブインフォメーション
「VIVA LA ROCK 2015」
・2015年05月04日(祝)【埼玉】さいたまスーパーアリーナ
「SPRING BREEZE」
・2015年05月24日(日)【東京】日比谷野外大音楽堂
きのこ帝国presents「echoes 2」
・2015年06月20日(土)【東京】恵比寿LIQUIDROOM

 


 
◆きのこ帝国 公式サイト
http://www.kinokoteikoku.com/
◆きのこ帝国 レーベル公式サイト
http://www.universal-music.co.jp/kinokoteikoku/