連載

TEXT:鈴木亮介
第28回 Stand Up And Shout ~脱★無関心~

東日本大震災の発生から9年。新型コロナウイルスの影響で政府は2020年3月、全国の公立小・中・高校などに対して臨時休校を要請。また、多くの人が密集するライブイベントなどもその影響を受けて相次ぐ延期・中止が発表されている。真っ先に「自粛」の波を受けるエンタメ界隈に流れる空気感、冷ややかな眼差しは3.11東日本大震災発生当初を想起させる。
 
東日本大震災の追悼行事も軒並み中止となる中で、どうしても報じなければならないことがある。それは、JR常磐線の全線復旧だ。東京から水戸、いわきを経て太平洋岸を走り仙台まで結ぶ常磐線は、震災および福島第一原子力発電所の事故の影響で広範囲にわたり被災。除染や復旧工事により少しずつ運転再開区間が拡大。最後まで運転を見合わせていた福島県内の富岡~浪江間が、富岡町、大熊町、双葉町の帰還困難区域の一部避難指示解除が決まり、2020年3月14日(土)に遂に運転再開が決定。(記事公開時点で)東京-いわき間の運行となっていた特急「ひたち」が仙台まで走り、全線復旧となる。
 
そもそも「避難指示」が現在も出ているということ自体が忘れられつつあるが、今回本誌では、一足早く2015年に避難指示が解除された双葉郡楢葉町に焦点を当てる。4年半の全町避難で、住民が一人もいなくなった町の再興。そこに大きな役割を担っているのが、2018年に開館した文化交流施設「みんなの交流館 ならはCANvas」だ。特に今回本誌が注目するきっかけとなったのは、サウンドルームやバンドルームがあり、「音楽や映画を通じた新しい世界との出会いがある」という点だ。町の復興に向けて、音楽ができることは。施設を管理する、一般社団法人ならはみらい・施設管理部係長の木村英一氏に話を伺った。
 

◆みんなの交流館 ならはCANvas
みんなの交流館「ならはCANvas」は、全9回のお茶飲みワークショップの中で語られた町民の想いをもとに設計されました。
施設のオープンは、ゴールではなく“はじまり”。楢葉町の方はもちろん、地域を超え、世代を超えて愛されることを願い、何度も来たくなるようなたくさんの魅力とこだわりが詰まった施設です。
 
 
◆ならはCANvas アクセス
〒979-0604 福島県双葉郡楢葉町大字北田字中満260番地
(常磐自動車道広野インターチェンジから車で約10分/JR常磐線竜田駅から徒歩20分)
https://naraha-canvas.com/

一般社団法人ならはみらい 木村英一氏
 
1978年楢葉町生まれ。まちづくりの役に立ちたいと、ならはみらいへ就職。前職の設備保全の経験を活かし施設管理者として着任。
 
中2でギターに出会い夢中になった。楽器を通じて出会ったバンド仲間は生涯の友となっている。
 
ならはCANvasでは、夢中になれる出会いが生まれるような企画を提供していきたい。

— 「ならはCANvas」開設までの経緯を教えてください。
 
Photo木村:「ならはCANvas」は2016年(平成28年)5月頃に構想が始まり、同年10月から9回のワークショップを経て2018年7月に開館しました。一般的な公民館にあるような機能を持つ交流館を作る構想が元々あったのですが、工期が遅れたこともあり、「みんなで意見を出し合う」ということを一から始めて作りました。被災地域の施設は行政主導でどんどん作ることが多いのですが、阪神・淡路大震災の被災地域ではみんなで意見を出し合って施設を作るという事例が多々あります。われわれ運営に携わるメンバーの中にそうした関西の事例に詳しいメンバーがおり、意見を出し合って作ることを提案しました。
 
— この場所には元々何があったのですか?
 
木村:元々ここは一帯田園でした。向かいの商業施設や、道を挟んで反対側の診療所も、震災後に建てられました。
 
— 周辺の住宅も新しいですね。
 
木村:そうですね。震災で住宅をなくされた方が住む災害公営住宅です。お年寄りが歩いて買い物や病院などに行けるコンパクトタウン構想としてこのエリアの開発が進みました。
 
— 9回の意見交換はどういうメンバーで行われたのですか?
 
木村:全戸に届く広報誌で参加者を募集しました。主に町民の方で、子どもを連れて参加する方から80代のお年寄りまで世代は様々です。ワークショップ最後の2回は県外からボランティアとして来ていた学生たちにも意見を聞きました。
 
Photo— その中で特に印象的な提案はどのようなものでしたか?
 
木村:交流施設を作るというところを起点に話し合いを始めたので、楢葉における人とのつながりができる場面はどういう瞬間だったのかなとみんなで結構考えました。施設を作るときにはどういう機能、部屋がほしいかという話になりがちですが、このワークショップでは楢葉での思い出を語ってもらう中で一つのキーワードとして「家」というものが挙がりました。
 
— 「家」ですか?
 
木村:町の中心に「大きなみんなのおうち」を建てるというイメージで進んでいきました。
 
— ありきたりの「公民館」ではなく、アットホームな空間を作るということですね。
 
木村:楢葉は元々お店も少なく、お互いの家を行き来するというスタイルの交流が多かったように思います。そして楢葉町は全町民が4年半避難していたので、中には戻ってくることができない方もいます。でもお墓参りやイベントでふるさとに戻ってくる方はたくさんいるので、「自分の家はもうないけど、(ならはCANvasで)ゆっくりできたり、誰かと会える場所にしたい」という思いも、多くの人が語っていました。
 
— 改めて、「ならはCANvas」で掲げている4つのコンセプトについて詳しく教えてください。
 
Photo木村:まず1番目「町内外、世代を超えて人が集い、出会い、交流する場」。町内外というのは町に戻ることのできない人や、震災ボランティアの方も含めて集える場所を目指しています。2番目「まちの目印、復興の象徴となる場」。大きな屋根の家というコンセプトを視覚的にも取り入れており、外観はもちろん、館内も「元気に交流する姿」が見える仕掛けがあり、それが「復興の象徴」になっているようにも思います。3番目「楢葉らしさ、情報、震災の記憶を発信する場」というコンセプトは、楢葉に住む人のハンドメイド作品を飾っていたり、津波で被災した家の梁や柱を使っている場所もあります。そして4番目「一人でもだれとでもゆっくりと過ごせる場」ということもコンセプトに挙げています。
 
— 施設の特長を教えてください。
 
木村:仕切りがなく吹き抜けになっているので、1階で会議をしている様子や入口の様子も2階から見えるので、楽しそうな空気が伝わって仲間が増えたり、大きい一軒の家という顔が見える感じ、一体感があります。ガラス張りなので昼は日光がたくさん入り、夜は外から見たときに光が漏れるので、温かい感じ、安心感があります。

施設内観:
1階は全体的に広々としたスペースになっている
 

子どもが遊ぶスペースと高齢者が寛げるスペースが一体化
 

2階にあるワークスペースとサウンドルーム
 

サウンドルームの奥に、防音のバンドルーム
 

ドラムは竹原ピストルの寄付で購入したもの
 

 
— 施設の利用者はどのような世代が多いですか?
 
木村:曜日や時間帯によって全く異なり…あと季節によっても全く異なりますね。冬になるとお年寄りは家から出なくなります(笑)。イベントのない日だと、平日の昼間は未就学児を連れてお母さんたちが集まったり、おばあちゃんたちがお散歩ついでに集まったり。平日の夕方は小学生が集まってゲームをしたりその辺を走り回ったり。仕事を終えてから来る人もいたり、バンドルームの利用もあります。土日は朝から夕方まで親子連れが多いですね。買い物のついでに立ち寄るという方が多いです。イベントがある日はこれに限らず何百人もの人がどっと集まります。
 
Photo— 「ならはCANvas」が開館したのは避難指示解除から3年後ですよね。
 
木村:そうですね。2015年(平成27年)9月に避難指示区域の解除が行われ、その3年後の2018年(平成30年)7月に開館を迎えました。
 
— 楢葉町はどのような町なのでしょうか。他の町と比べた特徴などがあれば教えてください。
 
木村:岩手、宮城と大きく違うのは全町避難をしたことでしょうか。岩手、宮城の場合は同じ市内に仮設住宅があった町が多いと思いますが、楢葉は仮設住宅も役場も学校も丸ごと町外に避難をしたので、町民がいない場所で復興が進んできて、ある程度整った段階で避難解除となりました。4年半の間、いつ避難指示が解除になるかはわからなかったので、その間に見切りをつけて別の場所に家を購入した方もいますし、見通しが立たなかったゆえに町を離れる選択をした方もいました。
 
— 子どもの数もそれなりに多いのでしょうか?
 
木村:そうですね。どこと比較するのかが難しいですが、5歳以下の未就学児も多くいます。だからこそ「音楽や映画を通じた新たな出会い」を「ならはCANvas」では大事にしています。元々映画館もライブハウスも博物館も…文化的な娯楽施設が楢葉町には全くありませんでした。町外避難の際に色んな人やものとの出会いがあって、それによって視野も広がるし価値観も変わってきたりするし…それはとても大事な要素だね、という声が先ほどお話ししたワークショップの中で挙がりました。そこで、この施設をつくるときに映画上映ができるサウンドルームと、ギターやドラムの練習ができるバンドルームを作ることにしたのです。さらに、ジャンルを問わず音楽を楽しめるイベントも意識的に行うようにして、音楽を入口にした交流ができるように心がけています。
 
Photo— なるほど。バンドルームがあることで、音楽を聴くだけでなく実際に演奏することもできますよね。
 
木村:構想段階で関わった方の中にも音楽を好きな人がいたため、バンドルームが実現できたと思います。音楽イベントを聴きに訪れた方が、バンドルームの存在を知ってもう一度楽器を手に取って、やり始めるといった広がり方があるように思います。私も昔バンドをやっていましたが、イベントを通してかつてのバンドメンバーと再会したこともありました。
 
— それはいいですね!
 
木村:バンドルームの利用は残念ながらまだ多くなく、月平均10名程度です。僕らが学生の頃にこういう施設があったら本当に良かったと思います。今の中高生でバンドをやっている人は本当に少ないので、もっと利用してほしいですね。
 
— 確かに、バンドルームをきっかけにギターやドラムに触れる中高生が増えてほしいですね。
 
木村:ワークショップの中でも「楽器を背負って自転車で走る、青春真っただ中の学生の姿を見たい!」という声が挙がって、それがバンドルームを作った理由の一つでもあるんです(笑)
 
Photo— 音楽系のイベントを行うにあたって気を付けていることはありますか?
 
木村:全体が共用のスペースで、館内ほとんどの場所に音が行き渡るので、事前周知をした上で開催すること…くらいですかね。基本的に「あれがだめ、これがだめ」と厳しくしないように運営しています。
 
— 音楽系のイベントで特に反響が大きかったのはどのようなものですか?
 
木村:キャンドル・ジュンさんが毎月11日に東北に来てくださるのですが、2019年1月にここ「ならはCANvas」でやってくださった際は、ELLEGARDEN細美武士さんを始め、東北に想いを持つアーティストの方々がいらっしゃったこともあり、かなりたくさんのお客さんが集まりました。
 
— なるほど。
 
木村:楢葉に住んでる若い人は割と音楽好きが多いんですよ。あとは反響が大きかったのはインド楽器のシタールとタブラのプロ演奏者を呼んでコンサートをやったときですね。普段はなかなか選んで観に行かないと思うようなジャンルの音楽でも「とりあえず行ってみよう」と集まる人が多いので、出会いの場になっていることを実感します。ほかにも、商業施設では、冬にこたつを屋外に並べて音楽を聴くというライブイベントが行われたこともあります!
 
Photo— それは面白い!まさに音楽を通じた交流が広がっていますね。
 
木村:そんなことをやっていたら、いわきのライブハウス「club SONIC iwaki」さんからお話を頂いて、2020年1月に「ふくしま浜通り音楽祭」をここで行いました。いわきの地元アイドルグループも出演したんですが、アイドルファンの皆さんが楢葉に集まったのは面白かったです。
 
— 観光的な役割も果たせたわけですね。それが町の活性化にもつながっていく?
 
木村:そうですね。まだそこまで大きな勢いにはなっていませんが。
 
— 「ならはCANvas」開設から1年半が経過しましたが、現在課題に感じていることはありますか?
 
木村:「課題」と言えるかわかりませんが、普通の公共施設からは逸脱している部分があるかもしれません。何よりルールがないということですね。
 
Photo— 「ルールがない」とはどういうことですか?
 
木村:飲食ができるようになっていますし、お酒もダメとは明記されていないんですね。禁止の貼り紙も一切していないのですが基本的に皆さん綺麗に使ってくださっています。ただ、子どもたちも遊びに来るのですが、たまに子どもたちが大人に怒られる場面も(笑)。ルールを決めた方がいいんじゃないかと思い、悩むところです。一般的には「静かにしましょう」と貼り紙で解決すると思います。貼り紙で注意を促すのは簡単だけど、納得して守ってほしいという思いがありますし、貼り紙1枚でコミュニケーションを終えてしまうのは交流施設としてどうなのかなという思いもあり、みんなでルールを作れれば…というワークショップを開催する方針です。本当は3月から始める予定だったのですがコロナウイルスの影響で3月はいったん見送りになりました。ルール作りが悩みどころです。
 
— そこは課題でもありつつこの施設の良さですよね。一方的に決めてしまわないことが、交流施設では大切なのかなと。
 
木村:普通、公民館では部屋を貸すときにルールのチェック表があって、「これを守ってください」という項目がたくさんあると思います。そうして決めてしまうことは簡単なのですが、そうじゃないよね、と思っています。
 
— その方針で1年半運営してきて、実際に大きなトラブルや事故もないわけですよね。
 
Photo木村:そうですね。
 
— 逆に、開設後に施設の利用者から「こうしたい」という提案はありますか?
 
木村:もちろんあります。今要望として挙がっているのは、利用者からコピー機がほしいという要望が出ています。2階のワークスペースは電源とWi-Fiがあるので、フリーランスでお仕事されている方もよく来られていて、コワーキングスペース的になっています。あとはおじいちゃんおばあちゃんからも歌の歌詞をコピーしたいという声もあり。
 
— なるほど。案外幅広い世代から需要がありますね。
 
木村:あと「ならはCANvas」は元々、開館する前には土足にする予定でしたが、投票の結果土足禁止にしました。そんな経緯もあり開館当初は下駄箱がなかったのですが、利用者が増えたときに靴がぐちゃぐちゃになってしまうので、後から下駄箱を導入しました。あとは…なんだろう…
 
— お話を伺っていて、「意見を聞いて導入したのはこれ」と思いつかないくらいに、開設前からみんなの声を出し合って作り上げていった施設なのだ、という印象を持ちました。
 
Photo木村:私たちも利用者の顔と名前はある程度把握するようにしています。施設内の棚に町民の方の作品を飾っていますが、元々は何も置いてなかったんです。開館する前にきっちり準備し揃えたのではなく、敢えて空白の状態で開館して、「ここに飾ってみませんか」と利用者に声をかけていきました。最初は「飾ってもいいけど名前を出すのは恥ずかしい」と遠慮がちでしたが、「作品を見た人が習いたいと言ってましたよー」と私たちの方で声をかけて、最終的にはイベントで販売したり教室を開いたりと広がりを見せています。
 
— 町内でアートに携わる人の活躍の場が広がることにもなりますね。
 
木村:一人ひとりに合った形でサポートすることで、一市民が地域や社会とつながるきっかけに「ならはCANvas」がなれたらと思います。
 
— 震災発生から9年が経ち「心の復興」という話題が上ることも多いかと思います。実際に木村さんが「ならはCANvas」で働かれていて施設の意義を感じる場面はどのようなときですか?
 
木村:「心の復興」というのは大きいですよね。全町避難した町の中でも楢葉町は最初に避難指示が解除された町で、復興が一番進んでないといけないと言われています。施設や道路など目に見えるものの復興はほぼ完了していて、今考えないといけないは心の面。と言っても「孤立している人が……」ということに話題が行きがちです。もちろんそれも大切なのですが、「ならはCANvas」の役割としては、「意思を育てる」ことだと考えています。
 
Photo— 「意思を育てる」ですか?
 
木村:ふるさとの暮らしが、楢葉に戻ってきてよかったと思ってもらえるためには、誰かが主導してそこに依存するのではなく、一人ひとりがやりたいと思ったこと、好きなことを形にして、仲間を見つけて、発見・気づきがあるということ。震災があったからこそ、そうした思いを育てていきたいと思います。趣味を通じた交流ができたり、新しい文化が入ってきたり…そういう場でありたいですね。
 
— 子育て世代が、子どもを連れて集える場というのはとても意義深いように思います。
 
木村:ここに集まるお母さんたちの話を聞くと、別の町から嫁いできて周りに知り合いが誰もいないという人も多いです。子どもを通じて同世代のママと出会うということで、ここが出会いの場になっているようです。元々楢葉では子ども向けのイベントが少なかったので、どんなイベントをどこに向けて発信するのか…お母さんたちに相談したり、むしろお母さんたちに主催してもらったりしてここまでやってきました。町内では、お年寄りの方が多いこともあって、サービスの内容がどうしてもお年寄り対象のものばかりになりがちです。「ならはCANvas」でもやはり、高齢者を対象にした平日昼間のイベントがたくさん行われているので、その他の世代へ向けたイベントを私たちの方で意識的に行いたいと考えています。スタッフに子育て世代が多いこともあり、高齢者だけでなく全員を元気にしたいという思いがあります。
 
— 「ならはCANvas」で今後やっていきたいこと、こういう施設にしていきたい、という展望を教えてください。
 
Photo木村:急激に変わるものではないと思うので、少しずつ、まずはまだここに足を運んだことがない人にも来ていただけるように、「ならはCANvas」の良さ、こんなことができるんだと感じてもらえるイベントを続けていきたいです。これから色んな課題も見えてくると思いますが、利用する人と一緒に考えを決めていくということを忘れないようにしていきたいです。
 
— 音楽のイベントがこれまで数多く行われてきていますが、音楽だからこそできる、と感じることはありますか?
 
木村:立場や世代を越えて人が集まるので、他にはない時間が共有できると思います。音楽のイベントはおばあちゃんから子どもまで同じ空間を楽しめるし、解放されている気がします。一緒になって踊ったり歌ったりする姿ってこれまであまり見たことがなかったので、それは音楽の意義かなと思います。


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