連載

レーベル資料館 ~Rock Will Never Die~

第5回 Case Of “Black-listed Productions”
TEXT:桂伸也

久々の更新となる連載5回目は、独自の観点で気鋭の国内ヘヴィ・メタル・アーティストを続々とファンに紹介し、メタルファンに注目を浴びているBlack-listed Productionsをご紹介します。エクストリーム/メタルコアの影響で、極端な音象化が進むヘヴィ・メタル・シーンの中において、メロディックな作品を数多く輩出しているそのカタログのポリシーには、玄人肌のファンからも多く支持を得ております。その独自の魅力の秘密に迫っていきたいと思います。
 
NWOBHMで、世界に向けて大きく産声を上げたヘヴィ・メタル。現在では先述のエクストリーム/メタルコアやスラッシュ・メタル、一方ではシンフォニック/ゴス、スリージー、メロスピ等様々なスタイルに枝分かれし、一概に“これがヘヴィ・メタル”という一つのイメージを定義することは難しいほどに大きな広がりを見せています。逆に一つのジャンルに関しての密度は薄くなり、音楽的な興味や新たな広がりを維持することは難しくなってしまったため、新たにヘヴィ・メタルに関心を持つ音楽ファンにとっては深い興味を持つにあたって障壁となっているのではないかと思われます。その為、ロックのルーツを探り、その中で個々の興味を引くものを掘り下げていくのは、ヘヴィ・メタルという音楽を知り、興味を深めていく上で重要なポイントであり、かつ音楽を楽しむ一つの方向性を探る、最適な方法ではないでしょうか?さすがにロックという大きな括りで音楽を探って行くのは非常に難しいですが、その中に存在するヘヴィ・メタルという一ジャンルに対してであれば、もっと手軽にその探究を楽しめるのではないでしょうか?
 

【Black-listed Productions】のスポークスマン大西 祐之さんにお話を聞いてみました。

まず始めに【Black-listed Productions】の設立から現在までのプロフィールを教えてください。

大西:音楽業界に入ったのは、大卒で某レコード会社に入社したのが切っ掛けなのですが、会社の中でメタル好きがばれていて、96年にメタルを扱っていた洋楽部に欠員が出来た際にそこに飛ばされまして(笑)、A&Rや宣伝などをやっていました。今考えると、そこで実務をやっていたことがレーベル設立の下地になりましたね。洋楽部だったんですけど、あるとき「洋楽だけでなく邦楽もやれ!」っていう指示が会社より出て、邦楽のメタル・アーティストとしてMASTERMINDを発掘、担当することになりました。ちょうど2000年くらいのことだったでしょうか。そこから邦楽のメタルに関わることになったのですが、今度は会社の方から逆に「邦楽をやるな!」というお達しが出まして(笑)。まあ、会社としてはよくある話ではありますが、引っ張ってきたアーティストを「ウチのレーベルは手を引く」というと言うだけで放棄するのは無責任だと思ったので「会社とは別で、何かやろうよ」とバンドに声を掛けました。なので、MASTERMINDをバックアップしていく組織として作ったのが、Black-listed Productionsの発端です。

MASTERMINDのファーストは自主制作でしたが、その頃には売り切ってしまっていたものの、ライブではまだプレイしていたので、改めてリリースしようか?ということで、マスタリングし直して発表しようという話に。この時正式にBlack-listed Recordsがレーベルとして発足しました。だから、カタログの一番目はMASTERMINDのファーストの再発盤です。ちょうど2004年に発売したので、2004年がレーベルとしての出発点ですね。そこからはひたすら気に入ったバンドを探してはリリースし、っていうのを繰り返していくうちに8年が過ぎてしまったという(笑)。リリース数は、この9月でCDが60枚、DVDが1枚ですね。

レーベルのカラーとして打ち出している特徴やセールスポイントを教えてください。

大西:レーベルを作った時点では、やはりMASTERMINDのアルバムを出すのが目的だったわけで、カラーというものは…将来的なことは何もなかったです(笑)。でも、レーベルとして動き出すのであれば、新人もリリースした方がいいんじゃないか?とは考えていましたね。ちょうど2枚目にNOVA-ERAっていうバンドのシングルを出しましたが、彼らのライブを見て凄く気に入りまして、「レーベルとして新人を出すならこれしかない!」と思いました。実はここでベースを弾いていたのはLIGHT BRINGERHIBIKIくんなんですが(笑)。当時の彼は16歳でしたが、当時から上手いベーシストでした。ツインギターで女の子ヴォーカルの編成、メロディックでプログレッシブな要素もあって。今思えばLIGHT BRINGERにつながるところがあったのかもしれません。

新人を出していくうちに、「今後どうしていこうか?」っていうのが芽生えてきました。だから、レーベルカラーみたいなものは結構後付けなんです(笑)。個人的にはメロディックなもの、分かり易く言うとサビが一緒に歌えるようなものが好きです。だから、レーベルとして色々出していこうとしてから今に到るまで、新人を探していく基準はそれ程変わらないです。大枠のハードロック/ヘヴィ・メタル/プログレっていうくくりはありますが、その中で細かいジャンルの志向はないですね。まあ、あくまでも私のレーベルなので、私が好きじゃなきゃリリースしないレーベルではありますけど(笑)。バンドさんの音源を預かってCDを出すわけじゃないですか?そこに愛情がないとプロモーションにも力は入らないし。それは凄く重要なポイントだと思います。ただ、ハードロック/メタルのインディー、特にウチのレーベルみたいにメロディックなものが中心というのは、他には意外とないみたいなんですよね。もっとコアなスラッシュ、メロデス、ブラックメタルみたいなものは、本当にそういうのが好きな方が熱心に運営されている所が結構ありますが。ウチのように間口が広くメロディックなもの中心、というようなレーベルというのは意外とないような気がしますね。

だからこそアーティストの獲得なんかで他のレーベルと競合するケースも殆どないです。それは良い面でも悪い面でもあって、個人的には同じようなレーベルの数が多い方がいいとは思っているのですが…あくまで選択する基準は、私が気に入ったバンドであることが前提で(笑)、併せて私の中でマーケティングが想定できるバンドですね。売り方が分からないってのはバンドにとってもレーベルにとっても不幸ですから。ただ、時にはこのBlack-listed Productionsの既存イメージを裏切りたいと、ふと考えることはあります(笑)。

また、リリース等とは直接関係ありませんが、メタルっていうジャンルは、なかなかシンパシーを感じてくれるメディアがないこともあって、「ならば自分で作ってしまえ!」っていう感じで、以前は『Noir』というファンジンを発行していたり、最近では『Radio T.N.T.』というポッドキャスト・ステーションを始めたりしています。必ずしも私が中心になって制作しているということではなく、協力してくれるスタッフやバンドの方、バンドの事務所の方とか、やはり同じようなことを考えられている方がいることで行えています。ファンジンという文化はもともとメタルにはありましたし、一昔前では印刷なんかでも金額的になかなか手が届かなかったけど、今は「この金額でここまで出来るの!?」っていうクォリティで出来るし。変な話「実績でなきゃ辞めちゃえばいいや」くらいの勢いで始めたり(笑)。それよりも通常のプロモーションと並行して、レーベルやアーティストが発信できるステージを作るという意味で、メディア活動を行うことは必要と、数年前から考えていました。ポッドキャストを行なってみて分かったのですが、アクセス推移からはインディーのメタルを聴きたい、新しいアーティストをチェックしたいという需要はそこそこあると思っています。だからメタルの枠を広げる意味でも、ウチのレーベルのアーティストでなくても取り上げて流す方針です。

旬なお薦めをピックアップして紹介してください。

大西:こちらのニューリリース2点になります。

Black-listed Productionsのお薦めはこちら!

HIGHBALL ROLLER

【アーティスト】BALFLARE(バルフレア)
【タイトル】DOWNPOUR(ダウンポアー)
【発売日】2012年9月28日(金)発売
【定価】¥2,500(税込価格)

シーンを初期から牽引してきた「国産メロディック・スピード・メタルの雄」による4thアルバム。疾走ツーバスのリズムとドラマティックなメロディを、ツインGとKey、多重コーラスによる重厚かつシンフォニックなアレンジで織り成す、珠玉の楽曲群…BALFLAREのメロディック・スピード・メタルは、更なる進化を遂げ、新たな地平へ!

 

REVOLT 'N' ROLL

【アーティスト】ACTROID(アクトロイド)
【タイトル】CRYSTALLIZED ACT(クリスタライズド・アクト)
【発売日】2012年9月28日(金)発売
【定価】¥2,000(税込価格)

「過去」と「未来」を繋ぐ、新・王道メロディアス・ハード! takeshiによるエモーショナルでテクニカルなGと、annaの力強くと繊細さを併せ持ったVoによるメロディックなサウンドが、一筋縄ではいかない歌詞や曲構成と高次元で絡み合い、懐かしくも新しいハード・ロックの形を提示する、珠玉の1stミニ・アルバム。



今後のリリース作品や、アーティスト情報、また公募などあれば教えてください。

大西:公募という部分に関してですが…アーティストとの契約に関しては、ライブなどを見て気になったバンドに直接話しかけるケースもありますが、割とアーティスト側から売り込んできてくれるケースも多いですね。まあ今は配信も盛んになって、必ずしもCDっていう時代ではないですが、それでもあえて「CDという媒体で作品を作って聴いてもらいたい」というアーティストがあれば、うちは基本的にオープンなので、必ずしも全部が実現できるというわけではありませんが、御連絡いただければ検討させていただきたいと思います。

大西さんが思う、レーベルを通じた「ロックシーン」への熱いコメントをお願いします!

大西:レーベルの立場から言うと、メタルってやっぱりニッチなフィールドだと思うんですよ。どう考えても1アーティストの1作品が100万枚も売れるようなヒットなんて考えられない。POPSだったらたまにあるかもしれませんが、メタルは絶対にそうではない。でも、そのジャンルが好きな、熱心なファンは多い分野なので、マーケットとしては確立されていると思っています。100万枚にはならないけど、100枚にもならない。他のレーベルさんがどう考えられているかは分からないですが。このジャンルのファンの数やCD売上数を分子分母で表現すると、メタル好きの人たちに気に入ってもらえる作品を作る=分子を増やす作業がCD販売という意味では肝なのですが、PRという観点では、新しいメタル好きをどれだけ作れるか。シンパシーを持ってくれる人をどれだけ増やせるか、という、分母を増やす作業を重点的に考えています。分母が増えれば、おのずと分子も増えていきますから。

あと、厳しいことを言っちゃうと、「CDを作って売る」っていうことはビジネスじゃないですか。だから、シビアにビジネスとしてCDを作って売るということを考えていく必要がありますが、そういうことを考えていないバンドさんも結構いて、そこは考えを改めてもらいたいと思っています。CD作りが昔よりイージーな時代だからこそ、逆に真剣に考えてもらいたい。でないと、たくさんあるバンドの中から抜け出せないと思うんです。よく、「アーティストはアーティストなんだから、ビジネスのことは知らなくてもいいんだ」っていう人がいらっしゃいますが、私は逆にアーティストだからこそ、自分の作品を売りたいという意欲を持って、ビジネスにもっとシビアになるべきだと思います。それは結果的に自分に返って来る話ですから。また、ビジネス自体が分からないという人もいるのですが、それを逃げにしてほしくない。例えば本当に分からないことがあっても、ちゃんと誰かに教わって、最終的にどうするかを責任を持って判断するのがアーティストのはず。その選択こそがアーティスティックな面であり、知らないことは全然アーティスティックではないと思っています。

ロゴ
◆レーベル インフォメーション
Black-listed Productions
http://www.black-listed.jp/

◆アーティスト インフォメーション
BALFLARE
http://www.balflare.net/
ACTROID
http://actroid.syncl.jp/

◆ビースト推薦文
大西氏の言われた「分母を広げる」という課題は、ヘヴィ・メタルに限らず全ての音楽に対し課題となっているポイントだ。インターネット技術の普及等で必要な情報が簡単に手に入るようになった昨今、個々の人々が興味を持つものに対して情報を能動的に探そうとする意識は薄れてしまい、どの分野でも新たなファンを獲得する為の方策を搾り出すことに悪戦苦闘している。その意味で、Black-listed Productionsの向かっている方向性は、現状を打破しようとする意志が強く見られる。アーティスト達のアーティスティックな面を尊重し、ヘヴィ・メタルのスタンダードな姿を持ちながらも、前向きに作りたいものを作るアーティストを次々と輩出しているそのレーベルのスタイルは、強く支持していくべきだろう。