連載

&GLAM

※この記事は取材した2010年のアーカイブです。最新情報ではありません。

TEXT & PHOTO:桜坂秋太郎

「ロック酒場探訪記」第5回目は、福岡の「&GLAM」をご紹介します。今年の夏は記録的な暑さとなりましたが、そんな蒸し暑い夜を吹き飛ばすかのようなロックバー「&GRAM」へお邪魔したいと思います。昔から福岡という土地は音楽の文化が盛んで、素晴らしいアーティストを世に送り出した街です。しかし音楽だけでなく、食事の文化も素晴らしい街です。例えば、東京はいわゆるハズレ店がけっこうあります。もう二度と行くもんか!というお店(マズイ・対応が悪いなど)のリストを、多くの人が心に持っているのではないかと思います。

もう10年一昔前の話になりますが、私は福岡に一時期暮らしていたことがあります。その時に驚いたのは、ハズレ店が無いこと。これはすごいことでしょう。約2年間、相当な数の店へ足を運びましたが、「もう二度と行くもんか!」というお店がありませんでした。そんなわけで、食道楽であり飲み屋が大好きな私は、今でも福岡は大好きな街です。唯一残念だったのは、当時はロックな店が少なかったことでしょうか。

今でも年に数回は福岡へ行くので、今回は福岡のロックなお店をご紹介したいと考えました。繁華街はある程度勝手知ったるエリアですし、ローカルな飲み仲間も居ます。そんなネットワークを駆使しながら、2店舗を選びました。今回はまず「&GRAM」を、そして次回は…次回のお楽しみということで、先に進めましょう。まず、この「&GLAM」ですが、すごく便利な場所にあります。福岡に行ったことが無い人でも、“天神”という地名は聞いたことがあるはず。その天神エリアのすぐ裏手に存在しています。いったいどのようなマスターが経営されているのか、さっそく訪ねてみましょう!

Photoマスター 藤田浩市

長崎県出身。アパレルメーカーでの長いサラリーマン生活を経て48歳で独立。福岡に70年代ロックをコンセプトにしたロックバー「&GLAM」を開店。70年代のロックをこよなく愛し、膨大な知識とアイテムでお客様をもてなす。学生時代からギターが趣味で、数多くのエレキギターを所有。日々多くの新聞などに目を通す情報通で、たいていの職種の話はトークできる。

— ロックバーを始めるきっかけを教えてください。

Photo藤田:僕はアパレルのメーカーにずっと勤めていたのですが、47歳で辞めまして(笑)1年間遊んでました。特に何をやるかは決めて無かったのですが、もともとお酒が好きなんでバーをやろうと思いまして。70年代のロックを流してくれるところが無いから、それをやろうと。48歳からのスタートです。

— 思い立ってから、実際に始めるまではどのくらいかかりました?

藤田:開店資金は、サラリーマン時代の貯金がありましたので、すぐ物件を探し始めました。もともとは沖縄にお店出したかったんです。良い物件があったので、見に行って決めかけたのですが、家族の反対があって(笑)。僕は長崎の佐世保出身なのですが、大学から福岡で過ごしました。サラリーマン時代は、転勤で東京や大阪などにも住みましたが、会社辞める10年くらい前からまた福岡に戻ってましたんで、そういうこともあって結局福岡でオープンしました。考えてみると、思い立ってからは8ヶ月くらいですね。

— 福岡の人気エリアは物件数も少ないですよね。

Photo藤田:僕らが大学生の頃は、天神三丁目の界隈が良かったんですけど(笑)、大人の方に来てもらいたいと思っていたので、大名・今泉・春吉の界隈を探していました。でもなかなか物件が無くて(笑)。本当は、この店の倍くらいの大きさを探してたんです。坪単価というか、家賃との兼ね合いもあるので、ここに決めました。

— お店の「&GLAM」というネーミングについて教えてください。

藤田:まず70年代のロックというコンセプトがあって。名前の由来としては、グラムロックは70年代に登場したロックで、セブンティーズのイメージがあるなと。あと音では読まないのですが、頭に&マークもつけてます。これはそのセブンティーズにプラスして、他もあるよ!という意味でつけました。

— お客さんの層は、70年代をリアルタイムだった方が中心ですか?

藤田:リアルタイムだった方はもちろんですが、70年代のロックが好きな若い方もいます。若い方だと、周りに70年代のロック話をする人がいないみたいですね。そもそも今は、洋楽というジャンルがあまり若い方の間では流行ってないようです。具体的な年齢は、下は20歳くらいから上は70歳代までいますね。一番多いのは、30~40歳代です。男女比率は7対3くらいで男性が多いのですが、男女問わず一人で来店される方が多いです。

— 完全に異業種からのバー開店ですが、何か勉強はされたのですか?
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藤田:店を始める前に、一応バイトでバーに行ったんですが、一ヶ月で潰れてしまったんです(笑)。もともと僕は学生の時に飲み屋でバイトした経験があったので、アパレルからバーという畑違いではありましたけど、昔の経験をもとに独自に考えました。メニューも、ミュージシャンが当時飲んでた物を用意するとか。「&GLAM」にお客様が求めるもとは何だろう?という風に考えました。例えば、本当に美味しいカクテルを飲もうと思ったら、ホテルのバーなど修行をちゃんとしてるバーテンダーがいる店へ行きます。だから、「&GLAM」ではカクテルとかは普通の味で良くて、むしろ優先順位が違うというか、音楽のこれを教えて!とか、音楽談義ができるというのが最大のポイントですね。

— ではそんな「&GLAM」のお薦めのメニューを教えてください(笑)

藤田:店のポップを見て、ミュージシャンに関係している物で選ばれることが多いですね(笑)。「これって美味しい?」というよりも、「これはどういうお酒?」と聞かれることが多いです。例えば、サザンカンフォートってお酒があるんですが、これはJanis Joplinが好んでいたお酒です。当時よりも度数は下がってますが。そういうのを飲みながら、音楽トークをするのが「&GLAM」の楽しみ方だと思います。あとストーンズというお酒があるんですが、これはイギリスのジンジャーワインでよく出ますね。The Rolling Stonesとは何も関係ないんですが(笑)。

— さすがに70年代のレコードやCDが充実していますね。マスター自身の音楽話を聞かせてください。

藤田:これでも600枚くらい売ってしまったんです(笑)。そもそも小学生の頃に、家にThe Beatlesのレコードがあったことから洋楽を好きになったのですが、中学生の頃には音楽映画をよく観に行ってました。当時はビデオがなかったので(笑)。高校生ではバンド活動をしてました。当時は雑誌も音楽系はすごく少なかったし、テレビ番組もないし、音楽の情報が絶対的に少なかったですね。一般的には音楽といえばフォークか演歌という感じで(笑)。当時は洋楽にドップリはまりましたから、その頃からのレコードをずっと持ってます。ただし80年代は特に仕事が忙しくて、音楽に時間を割く余裕がまったく無かったんです。なので80年代はライヴも行けませんでしたし、ほとんど音楽は聴いてなかったと思います。

— バンドもやられていたということですが、パートはギターですか?
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藤田:そうです。僕はギターが好きで、14.5本持ってるんですけど、基本は家に置いてます。店にあるのはお客様に弾いて楽しんでもらうためです。全部いつでも弾ける状態にしてます。本当はこの店の倍くらいの大きさでをイメージしていて、ようするに演奏スペースを作りたかったんですけどね(笑)。でも割と大きな音をかけられるので、大きい音でロックを楽しんでもらってます。今ってヘッドフォンが主流だから、ここでは大きい音を感じてもらおうと。

— リクエストなどには応えてもらえるのですか?

藤田:一応お聞きします(笑)。特に無い場合は、僕がチョイスしています。基本はお客様に楽しんでもらいたいので、お客さんの好みを優先してますが、何となくこんな感じが好きなのかな?という空気を察してかけています。70年代の中でも、ハードロックやパンク系は好きな人が多いですね。

— お酒を飲まない人もいますが、そういうお客様はどうされます?
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藤田:ソフトドリンクやノンアルコールビールがあるので、飲み物はそれをお出ししています。「&GLAM」のウリは、やはりロックなトークなので、お酒が無くてもお客様には十分に楽しんで帰ってもらってます。

— マスターは勤め人の時代も長いので、仕事面のアドバイスもできそうですね。

藤田:はい。サラリーマンの社会経験が長いので、会社勤めの気持ちはよくわかっています。いろいろなお話ができると思います。

— 生活サイクルを教えてください。

藤田:だいたいお昼くらいに起きて開店の準備をしています。夜はお店が終わってから、お客様と飲みに出かけることもありますし、まっすぐ帰る日もあります。

— 地元福岡以外の方も来店されますか?Photo

藤田:けっこういらっしゃいますね。特にお仕事の出張で福岡に来ている方。そういう意味では、かなり遠くからも来てくれます。ネットで「&GLAM」のサイト見たというのが一番多い理由です。福岡・ロックバーで検索すると一番最初に表示されるので(笑)。それから海外の方も。海外の方の場合は、旅行で福岡に来て寄ってくれる感じです。「&GLAM」のサイトは日本語だけなんですけど(笑)。さすがにメニューは英語メニューも用意しています。

— それでは最後に、読者へ向けたコメントをください。

藤田:「&GLAM」は60年代後半から70年代のロックが中心ですが、逆にお客様から80年代のロックを教えてもらったりしています。例えばBON JOVIとか聞いたことなかったんです(笑)。お店を始めてから知りました。僕が思うに、今の世の中ってピリピリしている気がするんです。僕もサラリーマン生活の時は毎日すごく疲れていてたし。なので好きな音楽とお酒で、ストレスを一時忘れて、明日へのハッピーと元気をお持ち帰りいただきたいですね。“楽しんでいただく”という一言につきます。

70年代といえば数々のロック名盤が生まれた時代です。けしてマニアではない私のCDラックにも、ざっと見渡してThe WhoThe Doobie BrothersThe DoorsJeff BeckLynyrd SkynyrdUriah HeepLed ZeppelinKing CrimsonRory GallagherQueenNeil YoungBad CompanyT.REXDavid Bowie など、とても多くのアルバムがあります。音楽的にはすごく充実した時代なので、70年代を知らない世代でも、70年代の音楽が嫌い!という人は少ないのではないでしょうか。

これが80年代になってくると、サウンドの多様化が加速し、細分化への一歩が始まります。まさに“古き良き”というロック分類にできるのは、50年代から70年代までだろうと感じます。しかしこの“古き良き”時代に影響を受けたアーティストが、その後活躍しているわけです。若い世代のバンドマンと飲むと、世代は2回変わっていると実感します。例えば70年代のバンドに影響を受けた90年代のバンド、その90年代バンドに影響を受けた2010年代のバンド、というような。

さらに今後は、2010年のバンドに影響を受けた2030年代のバンド…と続いていくことは間違いないでしょう。そんな歴史の中で、自分の好きなロックのルーツを探ることは、かなり楽しい作業だと思います。影響がまったくわからないケースもありますが、多くの場合は何となく匂いを感じることができます。音楽は一生楽しめる趣味です。好きなアーティストのルーツをさかのぼるだけで、何度も旨い酒が飲めることでしょう。そして70年代ロックを中心にしたトークをするときは、ぜひ「&GLAM」へ足を運んでください!

&GLAMグラム

営業時間(月~木、祝日):20~2時
営業時間(金土、休前日):19~3時 [定休日:日曜]
〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-23-4
新天神ビル1F
TEL:092-771-0911

公式サイト:http://www.rockbar-glam.com/

Photo

福岡県福岡市中央区今泉1丁目23−4




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